24

 セネアが少し体を起こし、自分の胸元を滑らせるように手をかざすと、途端に服が霧にように消えて、その見事な肢体が惜しげもなくさらけ出される。
 だがその白い肌に令が見惚れる間もなく、彼女は令に固定するようにのしかかったかと思うと、その手をつうっと令の体にそって撫でるように下に降ろしてゆく。
 ただそれだけの事なのに、令は体をぞくぞくした感覚に襲われ、息が荒くして耐えねばならなかった。
 その手は胸から腹、そのまま横にずれて腰のあたりで止まる。
 セネアがやりたい事はすぐにわかった。令は逆らう事なく尻を浮かせると、すぐにセネアの手がパジャマのズボンを脱がせてゆく。
 最後に足を軽く持ち上げられ、それがあっさりと抜き取られた。
 すると今度はその足を下からなぞるように、セネアの手がなで上げてゆく。
「ふあっ……やぁ……くふうぅぅッ……」
 いくら息を殺しても、そのぞくりとした感覚に声を押える事ができない。
 令はまるで足全体が性感帯になってしまったような錯覚すら覚えていると、セネアの手がその付け根あたりまでやってくる。だがそのまま令の神聖な場所に触れる事はなく、ふとももの内側や上を巧みな手つきで撫でまわし始めた。
「ふふっ、令ったら足を触ってるだけなのに、どうしたのかしら?」
 息を荒くする令にセネアがからかうような口調で問いかける。その間も手は内股、付け根、そしてへそのあたりと、肝心な場所を避けるようになで続ける。
 ある意味これは直接的な刺激よりも遥かに耐えがたく、そして効果的だった。
 セネアの手が体をなで上げるたびに、令は体をくねらせ刺激から逃れようとするが、巧みに与え続けられる微弱な快楽は直接的な刺激と異なり、多少リズムを崩そうとも簡単には収まらない。
 もどかしいほど緩やかに、しかし確実に体に蓄積されてゆく快楽の波に、令の汗ばんだ肢体がびくびくと震え悲鳴を上げる。
「やあっ、こんなのって……ふあああぁっ! ひゃああん!」
 体はどんどん高まっていくのに、その勢いが微弱すぎて、決して絶頂まで達する事ができない。
 そんな苦しみとも悦びともつかない責めに令は翻弄され、弄ばされる。
 そしていよいよ心が屈服しかけた時……ようやくその手がショーツの端あたりで止まった。
「令ったらずいぶんもの欲しそうな目をしちゃって……どうしたのかしら?」
 セネアが令を悪戯じみた笑みで見下ろす。だが巧みに高められた快楽がしっかりと体に染み込まされており、蹂躙が終わってなお令の体の熱はなかなか収まろうとしない。
「何をして欲しいのか、言ってごらんなさい」
 人を巧みに責めたて、それ以外の答えを発する選択肢を無くしておいてなお、セネアはそれを聞いてくる。つまりそれを令の方から言わせようという腹なのだ。
 それがわかっていてなお、セネアの望む言葉以外のものを発する事ができそうにないのが令には少々悔しかった。
「……いじわる」
 火照る体をいさめながら、令はそれでもちょっとひねくれた答えを口にする。
 そういう答えが返ってくると思っていなかったのか、セネアは一瞬固まったあと、くすりと笑った。
「それは、これをこのまま続けていいという事? それとも……」
 セネアの指がのの字を書くように令のおなかを撫でる。それすら微妙な力加減で、再び令の体に微弱な快楽が流し込まれてゆく。ほんの僅かな言葉の反抗は、結局すぐに音を上げるという結果にしかならなかった。
「……を……て」
「あら? よく聞えなくてよ」
 明らかに楽しんでいる視線で、セネアは令の言葉に文句を言う。当然その間も責めの手は緩めない。
 恥かしさと快楽の二重の圧迫に顔を真っ赤にして悶える令だったが、それも無駄な抵抗だった。
「……せて! お願いだから僕をイかせて! もっと……もっとめちゃくちゃにしてえぇぇ!!」
 ついに令は声を振り絞ってセネアに懇願してしまう。いや、懇願させられてしまった。
 この快楽を形容するならば、それは痒いところに手が届かないのを何百倍も苦しくしたような、そんな感覚。
 それほどまでにこの快楽は狂おしく、そして耐えがたいものだった。
 ようやくその言葉を引出せたセネアは、艶っぽく、そして満足そうに笑う。
「ふふふ、いいわよ。令の望み通りにしてあげる。貴方がそれを望むのだから仕方がないわね」
「そん、な……セネア……さんが……ひゃっふううぅッ!!」
 令が言葉を最後まで言い終える前に、セネアの手がショーツの中に差し込まれる。
 途端に令は体をびくんと跳ねさせ悲鳴を上げた。
 強引にこれまでにないほど高まった体、蓄積された快楽……そこに一番敏感な場所への刺激が追加された途端、令の中の悦びが信じられない勢いで昇ってゆく。
 暴れる令の腰をセネアは強引に左手で抱え込んで押えつけ、さらに右手をショーツの中で執拗に動かし続ける。先程とはうってかわり、直接的で激しい責めを令に加えていた。
 今度はすさまじい勢いで令の中に快楽を注ぎ込みながらも、令がそれから逃れようとするのを強引に押え付け、快楽の波に縛り付ける。全てはセネアの目論見通りだった。
「ひああああぁぁ――ッ!! ダメっ、どうしてえぇぇ!! こんな……こんなあふッ!! 熱くて……んあぁっ! はああぁ!! やああぁ……あああああぁ―――ッ!!」
 令はこれまでにないぐらい、狂ったように声を張り上げ、汗のにじんだ腰や足をばたつかせていた。
 だがそれでも決してセネアの腕の中から逃れる事はできない。
 狂おしいばかりにセネアの腕の中で跳ね回る白い肢体……今、令は体の中を、これまで決して達しえなかった領域の快楽に蹂躙されていた。
 令の体は、先程までの微弱でゆっくりと加えられる快楽によって高められている。
 そのため体は絶頂までの距離が果てしなく遠いものだと覚えこまされた。
 そこへこの急激な変化である。体は一度覚え込んだ絶頂への記憶をなかなか捨てる事ができず、本来の快楽の頂点を越えてなお、体はイく事を許さない。
 男の時とは比較にならない女の体の快楽、その女の快楽を本来達し得ない領域まで高められてしまっては元々男だった令に抗う術はない。いや、たとえ元から女であってもこの快楽には逆らえなかっただろう。
「ダメえぇ! ダメえええぇぇぇぇ!! 僕もう……セネアさん僕もう!! んあああぁ!!!」
「がんばったわね令……いいわよ、イきなさい! 思いっきりイっていいわ!」
 令の限界を知った途端、秘部に指し込まれたセネアの指の動きがさらに激しくなり、愛液が尻を伝ってショーツの間からぼたぼたとベットこぼれ落ちる。
 さらに激しい指責めを数度加えられた瞬間、ついに令は限界に達した。
「ダメぇ、イッ……くあああっ、あああああああぁぁぁぁぁ――――ッ!!!!」
 白い肢体をびくんと反らして、令はあまりに早い2度目の絶頂の叫びを上げる。
 まるで全身が溶けてしまうような快楽が令を支配し、やがて静かに引いてゆく。
 それから一瞬の間をおいて、弓なりになった腰がどさりとベットに落ちると同時に令は荒い息をはいた。
 まだ頭がぼーっとしている。令は体を脱力させながら、信じられない快楽の余韻に酔っていた。
「どう、令? いままで味わった事のない領域の絶頂は?」
「こんなの……すごすぎる……よ……」
 令は女になってから、何度も絶頂を経験している。そして最近は女の快楽にも少しは免疫ができたと思っていた。だがまだまだそれは本当の頂点ではなかったのだと改めて思い知らされる。
「男では絶対に辿り付けない悦楽の領域……貴方は元々男であった以上、これを一度味わってしまうと、肉体は二度とこの快楽を忘れられないはず。なにしろ本当は絶対に味わう事のかなわない快楽だもの……」
 荒い息が収まらない状態で、令はなんとかセネアの言葉の意味を考える。
 二度と忘れられない快楽−つまりこれが”肉体に快楽を刻み込む”という事なのだろう。
 最初にイってしまった時のように、一度これをされてしまうと快楽を与えてくれた対象を肉体が忘れられなくなるとセネアは言っていた。つまり今、令の体は抱かれるごとに、快楽の主導権をセネアに奪われているのである。
 後悔してももう遅い。少なくとも令の体はすでに2回目の絶頂の領域まで確実に調教されてしまったのだ。
 それに……今の令には後悔する必要がない。
「こうやってセネアさんは……僕が逃れられないようにしていくんだね。
 いままで覚えた”女”を、全てセネアさんの色が塗り潰していくんだ……」
「そうね、でも……令はそれが嫌?」
 誰かに自分の何かを奪われて行くという感覚に限って言えば、それが好ましいわけはない。
 だが令は、今感じている気持ちが嫌悪ではない事をわかっている。
「イヤじゃ……ないよ」
 言葉を途中で切って、令は無言で体を起こした。セネアが少し不思議そうな顔をする。
 −こっちからするのは……初めてかな?−
 そのまま令は唇をセネアと重ねる。もう何度もキスを交わした相手のはずなのに、緊張で顔が真っ赤に火照っているのが自分でもわかった。
「セネアさんだから……いいよ」
 令は自分でもちょっとくさくて恥かしいかなという言葉を口にしてみる。
 だがそれは思った以上に衝撃を与えてしまったのか、その言葉を聞いた途端セネアは令をぽかんと見つたまま絶句し、頬を真っ赤にして固まってしまった。
 が……しばらく間をおいたあと、令は唐突に押し倒されセネアに唇を奪われてしまう。
 簡抜入れずに舌が挿し込まれ、そのまま激しい動きで令の口内を蹂躙する。
 あまりに衝動的なキス……だが令は必死にそれに答え、逆に求めるようにセネアと舌をからめてゆく。
 貪り合うような熱い絡まりを何度も繰り返した後、セネアはようやく唇を離した。
 興奮冷めやらぬという顔で熱い息をはきながら、セネアは口を開く。
「令、貴方は私に魅了の魔法でもかけているの? 貴方の言葉一つ、仕草の全てが私を狂わせるわ。やっぱり貴方は最高よ……もう絶対に離さない。決して逃れられないように、あらゆる悦びを貴方の体に刻み込んであげる……」
 妖艶な笑みが令に向けられる。その言葉は令を奪い尽くすという意味に等しい。
 だが令は、それに恐怖など感じない。
 いや、恐怖どころか正反対の感情すら浮かんでいるのを否定する事ができなかった。
 そう、令の体はすでにセネアが自分に与えてくれる快楽をどうしようもないほど望んでいるのだ。
 そしてセネアは体を上げ、令をまたぐように膝立ちする。
「それじゃあ令、もう……いいわね?」
 問いかけるような言葉とともに、セネアは自身の股を隠すように両手を当てる。
 令はそれを見てセネアの言葉の意味を悟った。一瞬戸惑うようにそして自分を見つめるセネアを見上げた後、覚悟をきめたようにこくんと頷く。
 令の同意を確認したセネアは、静かに流れるような”力ある言葉”を口にした。
 そう、これは予想通り魔の秘術。令の意識が初めてセネアに抱かれた時の記憶と重なる。
 股に掲げた腕の中に紫色の光が集まり、風もないのにセネアの髪が静かに揺れ始める。
 令には理解できない言葉を発するたびにセネアは額から汗を流し、その汗が白い肌を伝って流れ落ちる。その姿があまりに淫靡で、そして美しい。
「……!」
 最後の言葉を吐いた瞬間、セネアの体がびくんと震えた。同時に手の中で輝いていた光が静かに収束していく。
 そして荒い呼吸が整うのを待ってから、セネアはゆっくりと手を離した。
「うぁ……」
 その手のがどけられると想像通りのものが中から現れ、令は感嘆の言葉を漏らす。
 ”それ”は言うまでもなく男の性器。セネアの秘部からぬらぬらとした液体で濡れたペニスが、始めから張り詰めるような勃起をともなって生えていた。
 ただ前と違うのは、それがクリトリスを擬態化させたあの肉の棒ではなく、袋が無い事を除いて完全な男性器の姿をしていた事だ。その先から微かに分泌物が顔を出している事が、”それ”が生殖器として一番重要な機能までを完全に備えているのを意味していた。
「どう、令? これを見るのは随分と久しぶりなのではなくて?」
「あ……う、うん、まぁ……」
 セネアがそれを見せつけるように手で軽く持ち上げるが、令は曖昧な返事をするしかなかった。
 和真のを見たとも言えないし、それにあの男たちにレイプされたのはセネアも知っているはずだから。
 セネア思わず顔を傾ける。令の態度が想像以上には期待外れなものだったからだ。
 だが、その困ったような顔を見て、セネアはようやく”令が”別な事”を考えているのを悟った。
「そういう意味じゃないわ。男のモノならあの工場跡で犯された時にも見たでしょうに」
「……え?」
「私が言いたいのは、これが”令にとって”懐かしいものじゃなくて? といってるのよ」
 セネアの曖昧な言葉の遊びを、令は必死に汲み取ろうと思案する。
 あえて答えを言わないという事は、セネアは令の側から気が付いて欲しいという事なのだろうから。
 −僕にとって? それが僕にとってという事って……僕……僕以外の人には……僕にだけ…………!?!−
 思考があっさりと恐ろしい仮定を導きだす。一瞬何を馬鹿なという否定も浮かぶが、そうであったと仮定した場合、実に見事にセネアの言葉との整合が取れる。
 令は目を見開きセネアを見上げた。
「……ま、まさかそれって!!」
 そんな令をを見てセネアがようやく気が付いた? とばかりにくすりと笑った瞬間、令はその事を確信した。そう、こんな角度で見た事は一度もなかったが、これは間違いなく……
「そう、元々は貴方のだったものよ。まごう事なき”男の令”のペニス……」
 それは思いがけもしない、あまりに唐突な自分自身との再開。
 令は言葉を失ったまま、セネアの秘部から生えたそれを呆然と見ていた。

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