8

「……で、朝起きたら女になっていた、という事?」
 結局令は、夢であった事とその朝までの経緯を包み隠さず静奈に話した。
 とはいえ当然ながらその後に行われたセネアとの情事については触れなかったが……。
「まぁ……そう言う事なんだけど……その……やっぱり信じられない?」
 令は恐る恐る静奈の顔を見上げるように質問する。話をしている間、静奈はずっと令を睨み続けていたので令は気が気でなかったのだ。
 話が終わってもこんな調子なので、やはり真面目な姉には嘘しか聞えなかったのではと思う。
「当然ね。そんな三流映画の出来そこないのような話、まともな頭なら取り合わないわ。」
 やはりかと令は落胆しかけたが……そこで静奈がさらに目を細めたのに気が付いた。
「ただし……その物証がある場合は別だわ。」
 静奈は椅子から立ち上がり、ベットに座っていた令の肩に手をかけた。
「その話は本当か、確かめる必要があるわ。」
「……姉さん?」
 物証というのは令の体の事だというのはわかるが、それなら静奈は風呂場で令の体を見たはずである。
 これ以上何があるのかと考える令に、静奈は突然令の着ているシャツに下から手を入れブラ越しに令の胸に触れた。
「うわぁあ! ちょ、ね、姉さん!!」
「動かないで。邪魔もしちゃ駄目よ。」
 思わず手で払いのけようとした令に静奈がピシャリと言い放つ。
 昔からこのようにすごまれると、令は静奈に対して逆らう事は出来なかった。
 そういう不文律のようなものは幾つになっても変わらないのだろう。今回も例外ではなかった。
 そして令が抵抗しないのを見て、静奈はそれを再開した。
「あふっ……ねぇさん…やめ、そ、そんな……」
「ふぅん…少なくとも作り物ではないか。それじゃあ……」
「ひゃうっ!や、あああっ!」
 撫でるような動作だった手が突然揉む動作に変わった。思わず声を上げてから、令は強烈な羞恥に捕らわれる。
「シリコン入ってる手応えは無いわね。それどころか……抜群の弾力。」
 まるで医者が触診をするように、静奈は令の胸をまさぐる。
 確かに静奈は今医大生、医者のたまごなのでそういう感情で令を見ているとも取れる。
 だが令には、それでも姉の行動が何か自分の知らないものであるように感じた。
 そしてその手が今度は秘部に伸びた……が、令はその恐怖に耐えられなかった。
「う、うわああぁぁぁ!!」
 思わず立ち上がって逃げ出そうとする……が、静奈に腕を掴まれたかと思うと、無理矢理ベットに倒された。暴れる令に対し静奈はベット脇から何かを手際よく取り出すと、がしゃり、という音とともに令の両手は手首のところでベットの端に固定されてしまった。
「な……手錠!? 姉さん、ちょっとこれは……」
「令、動いちゃ駄目だと言ったでしょう? 言う事を聞かない子には容赦はしないわ。」
 静奈が威圧するように令を見下ろす。その迫力に令は結局萎縮して抵抗を止めてしまう。
 だが令には妙な疑問も生まれた。静奈はこういう事態も予測して手錠なんてものまで用意していたのか?
 さらに言えばやけに手際がよかった。慣れているとしか思えなかった。
 令が身動きを取れなくなったのを確認すると、静奈はゆっくりと自分の服、そして下着を脱ぎ捨てた。
 小学校以来に見る姉の裸……が、今の令にはそれを見続けるほどの余裕が無かった。
 静奈の手がゆっくりとスパッツの中に侵入してきたからだ。
「あ、ああっ!姉さん、そこは……そこは止めてえぇ!!」
「何を言ってるの。胸以上にここが大事でしょう?とりあえずは……」
「ひうっ!!ひゃあっ!……や、やああああぁぁッ!」
 ショーツの上から押したり撫でたり、静奈の指が縦横無尽に令の秘部を刺激する。
 それは明らかに手馴れた動きだった。令は抵抗することすら適わず嬲られ続ける。
「こっちも……この感度は偽物じゃあ有り得ないか。後は……」
 突然静奈の指がショーツの中に侵入してきた。あっと思う間もなく、刺激が秘部に直接加えられる。
「ひああああッ! そん……そんなの…あふっ!あ、ああああっー!」
「令ったらもうこんなに濡れてる……本当に、女の子……。」
 喘ぎ悶える令を見ながら、静奈もさすがに事を納得せざる得なかった。
 今目の前で喘いでいる者は、紛れもなく女だった。手術による性転換などでは説明出来ない、純然たる少女。が、その真実は静奈にとってもう一つ別な意味を有していた。
 静奈は令の着ているシャツをたくし上げ、嬲るようにゆっくりスパッツを下ろして脱がせる。
 その顔は恍惚、そして歓喜に満ちていた。
「ここでこういうのは、久しぶりだわ。まして相手は……まさに夢ね。」
「ねえ……さん?」
 荒れる息をなんとか押さえ令は静奈を見る。そしてその目を見て、令は全てを理解した。
 令は半日前にそれと同じ目を見た……そう、それは令を見たセネアと同じ目。
 かつて姉の部屋にはよく女の後輩が泊まりに来る事があった。
 当時はそんな事をあまり気にもしなかったし、真面目な姉を怪訝に思うなどありえなかった。
 だがそれは全て令の予想通りだとしたら? そしてそれはその目が真実を語っていた。
 あまりに衝撃的な真実、真面目な事が取り柄だと思っていた姉の信じられない現実だ。
 どうりで男の浮いた話が存在しないはずである。そう、静奈は……
「昔はね……ここで何人もの子と肌を重ねたわ。その手錠もそういう時の準備ね。
 男なんて大嫌だったし、私になら例え女同士でも進んで体を預ける子も多かったわ。でも……」
 ゆっくりと静奈は令の方に体を倒してくる。
「同じ男でも、令は可愛かったから嫌いじゃなかったわ。でも逆に、すごくもったいないって思ってた。
 もしも令が……ってね。でも今朝、奇跡が起きたわ。」
 ぷちっとブラのホックが外れる音がした。ゆっくりとその手が胸に添えられる。
 そして静奈の目は……令は確信した。それはセネアと同じ狩猟者の目。
 ”相手を抱こうとする”意思を持つ者の目だ。
「令……可愛がって上げるわ!声を上げて鳴きなさい!!」
「ね、姉さ……やっ!ひゃあああああぁッ!」
 宣言と同時に静奈は令の胸に激しい愛撫を加え始めた。
 それは明らかに慣れた手つき……自慰などではなく女同士での情事を知っている動きだった。
 令は堪らず体を起こして逃れようとするが、手錠で固定された体ではそれは適わない。
「こんなの……姉さんお願いやめ…ひううッ!やっ、あ、んんんんんッ!!」
 静奈の巧みな責めに、令の体にまた電流のような快楽が流れ、蹂躙を始める。
 それは体の奥底から自分の”女”を引き出される感覚、体を自分以外のものに支配される感覚だ。
 令は心で自分の男としての部分が次々と塗り潰されるような、そんな恐怖を感じた。
 しかし静奈から責め与えられる快楽は、それに抵抗しようとする心すら塗り潰さん勢いだ。
「令ったら……何を我慢してるの? 感じているんでしょう? 声を我慢しなくてもいいんだから。」
「そ、そんなの…できるわ……け、ないだろ……僕は……」
 男だから。途切れた言葉がそう続くはずだった事は静奈にも理解できた。
 が、そんな令の態度に静奈は責めるのを中断し、目を細めて令を見下ろす。
「ふぅん……じゃあ令、見なさい。」
 静奈はそのまま令のショーツに手を掛ける。そして令をじらすようにゆっくりとそれを下げた。
「あ……そんな、そんなのって……」
 ショーツが令の秘部から微かに離れると、べとりとした愛液がショーツと秘部の間に糸を引いているのが見えた。
 静奈はそれを令の足から抜き取ると、裏側の愛液が作った染みを見せつけるようにひらひらと振る。
「こんなに濡らして、体は正直なのにね。」
 それは令が女として感じていた証明だった。だが令はそれでもなお必死にそれを心で否定する。
 そうしないと本当に全てが女になってしまいそうな恐怖があったからだ。認めるわけにはいかなかった。
「そ、そんなんじゃない!!僕は…そんな……そんな事は!!」
「そう……じゃあ、体で理解してもらうしかなさそうね。」
 だが静奈は、まるで令がそう言う事を望んでいたかのように、うっすらと笑みを浮かべた。
 そのままベット側面の令も存在を知らなかった引出しを開け、”それ”を取り出す。
「最後の診察よ。これで令の中を確かめてあげるわ。」
 静奈が”それ”を頬に当てたあと、淫靡に舌を出して舐める。
 しかし令はそれを見て絶句していた。姉の仕草にではない、その取り出したモノにだ。
 それは黒い擬似男根、ベルト付きのペニスバンドだった。
 女が男として女を責めるための道具。令はその存在を知ってはいたが、当然現物を見るのは初めてだ。
 そして当たり前だが、そんなものは自分の性行為の中では一生縁の無いものだと思っていたが……
 そんな思案をよそに静奈は、慣れた手つきでそれを自身の股に装着する。
 尻を締め上げるように食いこむベルトが妙にいやらしく、眼鏡をかけた知的な風貌に対してその股間の反り上がるグロテスクな存在のアンバランスさが淫靡なイメージをより増幅させていた。
 想像だにしなかった姉の姿に令はしばらく言葉を失ってた……が、当然の事に気が付き戦慄する。
 そして令の顔が青ざめるのを見て静奈は、自身の中に打ち震える加虐心が歓喜するのを感じた。
「ね、姉さん!ダメだ、僕たち姉弟なんだよ!! そんな……そんなこと止めてよ!!」
「何を言っているの令? 今は”姉妹”でしょう? 咎められる事なんか何も無いわ。
 子を孕むわけでもないんだから、安心して体を委ねてかまわないの。」
「違う!それでも……ダメ!お願いだから止めてよ!こんなの絶対に変だ!!」
「問題ないわ。これは診察なんだから……令の体が中まで女の子なのかを確かめるの。
 それなら世間の倫理でも大丈夫でしょう?」
 聞く耳持たずという感じで静奈は強引に令の足の間に体を割り込ませ、擬似ペニスを令の秘部にあてがう。
「さあ令……いくわよ!!」
「姉さんまっ……ああああああああぁーッ!!」
 静奈はいきなり令の深奥まで突き上げる。再び訪れた体を貫く感覚に令は声を押さえられなかった。
 びくびくと体が震え、その感覚に心が焼き切れそうになる。
 が、その先がなかなか訪れなかった。何故か静奈は令の深奥に侵入したまま動きを止めている。
 微かな意識で令は姉を見上げると、静奈は怒りとも失望とも取れない奇妙な顔で令を見下ろしていた。
「令……あなた……!?」
「ね、姉さ…ん……?」
 静奈は何故だと言わんばかりの顔で令を見下ろし続けた。だが令にはその意図が理解できない。
 それに秘部からのじりじりとくる感覚に今にも意識が弾けそうだった。それを深く考える余裕もない。
 そのまましばらく時間が流れたが、静奈は唐突に吹っ切れたように笑うといきなり抽挿を開始した。
「やあああああぁっ! ひゃううううぅ! そんな、激し……あううぅッ!!」
「いいわ、とりあえず女の子の令ですものね! 存分に味見させてもらうわ!!」
 診察という建前はどこへやら、静奈は激しく腰を使って令を責め立てる。
 しかも女でありながら明らかにそれは慣れた動き、セネアにも負けず劣らない技巧を有していた。
 女を責める事に卓越した者と、女に生(な)りたての自分自身すら理解していない者。
 その勝敗は火を見るより明らかだった。いや、始まる前に勝敗は決していたのだ。
 ましてこれは男女の性交ではない。静奈は自身の快楽にはほとんど重きを置いていなかった。
 とにかく令を責め、鳴かせ、感じさせる事に集中した。いや、それこそが静奈にとっての快楽だった。
「ひゃうん! はあああっ! 姉さんダメ……僕こんな…ひうっ!ひゃうッ!」
「ああ令ったら可愛い……こんな可愛い声で鳴かれるとゾクソクしちゃうわ。」
「やぁっ…そん、そんなこと……んんっ、ん……ひゃあ!ああああああぁぁーッ!」
「あら、声を押さえようなんて無駄よ。私の責めを甘く見ないで。」
 静奈の言う通り、令の体は暴走を始めたように声が押さえられなくなっていた。
 体が勝手に動いて、無意識に静奈の腰の動きに自身の腰が連動する。体が勝手に静奈を受け入れる。
 そしてそのまま責めつづけられ、いよいよ令の頭の中にに白い光が射し始めた。
「だ、ダメえぇぇー!! 姉さん、それ以上は……それ以上はああッ! やあああッ!」
「イきそうなのね? いいわ、令のイく顔をしっかりと見せてもらうわ! 
 絶頂の鳴き声をしっかりと聞かせなさい!! 女の喜びに打ち震えなさい!!!」
 −ダメだ……それだけは、それだけは嫌だぁ!!−
 令の最後の”男”が力をふりしぼってそれに抵抗する。だがそんなものは象に蚊が刺すようなものだ。
 その感情も肉体からの感覚にあっさりと陥落する。光がまた、令の頭の中で爆発した。
「ふぁっ……ああああああああああああぁぁぁ―――――ッ!!!!」
 全身を貫く快楽に令は絶叫する。それはその瞬間、肉体も精神も全てか快楽に支配された事を意味した。
 きゅうと収縮する膣や子宮の感覚が、令にはまるで体が心に自身の”女”を訴えているように思えた。
 口から一筋の涎を流し、ベットの上に脱力する令。もう三度目の女の絶頂だった。
 このあまりに強烈な快楽には、多分一生慣れる事は無いのではないか?
 令は漠然とそんな事を考える。
 そしてゆっくりと意識が戻ってくると、そんな令を静奈が笑みを浮かべ見下ろしていた。
「令のイった顔……本当に可愛いかったわ。」
「あ……。」
 令はそこでようやく一連の全てを姉に見られていた事を思い出した。顔がみるみる赤くなる。
 だが、体を隠そうにも今だ令はベットに固定され、身動きが出来ない。
 が、そんな静奈の顔が静かに曇り令を見据える。意図がわからない令を余所に、静奈は無言で令との繋がりを抜いた。
「あふうぅぅッ!」
 イったばかりの敏感な秘部を擦られて思わず声を上げる令。だが静奈は令の方を見る事無く、抜いたばかりの擬似ペニスを見ていた。
「……やっぱりそうなのね。」
「ね、姉さん?」
 静奈が再び令を見据える。その顔は令を抱く前のあの顔……怒りとも失望とも取れる顔をしていた。
 いや、今は僅かに怒りの色の方が濃いかもしれない。
「令……あなたは……」
「な……何?」
 明らかに怒りを含んだ声。理由もわからず令はおもわず萎縮した返事を返す。
「あなた、私に隠していたわね? 誰なの?……言いなさい!」
「な、な……隠すって……何を?」
「とぼけないで!!……そうか……その女ね。それ以外は考えられないわね……」
 静奈は唐突に問いかけたかと思うと一人で納得する。だが令にはまだその意味がわからなかった。
「姉さん、何の事? 僕は別に姉さんに隠し事なんて……。」
「令、そのセネアとかいう女に抱かれたのね!? 私に抱かれる前に処女ではなくなっていたのでしょう!?」
「……!!!」
 突然の指摘に令は絶句した。隠しておこうと思っていた真実は、令の体が女であったがゆえにあっさりと伝わってしまったのである。

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