誓い 〜後編〜
翠 はるか
褥の上に、宝物でも扱うように、そっとあかねの身体が横たえられる。
目を閉じたまま、じっとしているあかねの上に、頼久は覆い被さり、再び、彼女の口唇を求めた。
何度も何度も深く重ね、細い身体を、逸る心のままにまさぐる。
すぐに、それだけでは物足りなくなり、頼久はあかねの腰紐に手を伸ばした。
しゅるりとあかねの単衣の帯をほどき、前をはだけさせる。そっと、指先であらわになった肌に触れると、すいつくような柔らかな感触がした。
その感触を口唇でも感じたくて、頼久はあかねの首筋や胸元に口唇を這わせた。すると、それまでされるままだったあかねが、急に身じろぎした。
「頼久さん、痛いです……」
「え?」
「帯が当たって……」
言われて、頼久は慌てて身を起こした。上着を留めている帯の金具が、彼女の肌に引っかかったらしい。
「あ、申し訳ありません。お怪我は……」
「いえ、ちょっと当たっただけですから」
「そうですか」
頼久はほっと息をつき、帯をはずして上着を脱いだ。それから、腰の帯もほどき、残りの着物を肩から落とす。
その時、あかねが、そっと手を伸ばして頼久の左腕に触れた。
幅広の布が、幾重にか巻かれている。
それに気付いて、頼久が小さく微笑む。
「本当にかすり傷ですから。これ以上、お心を痛められないでください」
優しく告げ、再び、あかねの上に重なった。
「……ん…」
肌が触れ合った瞬間、あかねは小さく声を上げ、頼久の首にぎゅっとしがみついた。
逞しく、熱を持った身体が、自分の上で小刻みに動く。
「あ……、頼久…さん……」
彼の体温は心地よかった。けれど、力強い手の動きには、まだついていけなかった。
だが、あかねの戸惑いに気付かず、頼久は、休みなくあかねの肌を撫で回す。
やがて、頼久の手が、あかねの胸のふくらみに触れる。とたんに、びくりと震えるあかねの胸元に、頼久は顔を伏せた。
え? ま、待って……!
あかねの内心の叫びに、もちろん気付くはずもなく、頼久は、あかねの胸の頂きに口唇を寄せた。
「あ、いや…っ!」
あかねは、思わず頼久の頭を、強い力で引き離していた。
「神子殿……?」
怪訝そうに覗き込んでくる頼久から顔を背けて、あかねは、自分で自分の身体をぎゅっと抱きしめる。
自ら妻にしてくれと頼んだものの、実際に生まれたままの姿をさらして、大きな手に包まれるように愛撫をされると、恥ずかしくてたまらなかった。
「神子殿……」
一方、頼久は突然の拒絶に、どうしたらいいのか分からず、ただあかねを見下ろしていた。
彼女は、自分を想っていると言ってくれた。ずっと、一緒にいたいと言ってくれた。それなのに……。
もしかして、今までの事は、全て自分が見た都合の良い夢だったのだろうか。
「あの……」
不安でいっぱいになり、あかねに声をかけようとした時、頼久はあかねの顔が真っ赤になっているのに気付いた。
よく見ると、彼女は両腕で自分の身体を隠すようにしており、伏せられたまつげが小刻みに震えている。
どうやら、恥じらっているらしい様子に、頼久は、不安が溢れるほどの愛しさに取って代わるのを感じた。
この方は……、まだ清らかな少女なのだ。
固くなったあかねの身体を、頼久は優しく抱きしめた。
「あ……」
「怖がらせてしまいましたか? 申し訳ありません」
優しい声音に、あかねの強張っていた心が、少し和らぐ。
そうして、落ち着いてみると、あかねは、自分の取った行動が頼久を傷つけたのではないかと、急に不安になった。
「ごめんなさい、頼久さん。……あ、あの、私、嫌だったんじゃないんです。そうじゃなくて……」
「分かっています。謝られる必要はありませんよ」
変わらず優しい頼久の声に、あかねはほっとし、だが、またすぐに不安になった。
「あの……、帰っちゃったりとか、しませんよね?」
やはり、自分にはまだ早いと、彼が帰ると言い出したら。
それは、嫌だった。
不安げに眉を寄せるあかねの表情に、頼久は安心させるように言った。
「私は、あなたを一生お守りすると決めたのです。ですから、お側を離れたり致しません」
そして、そっとあかねの耳元で囁く。
「怖く、ないですから」
「え?」
頼久が、あかねの腕をつかんで、そっと降ろさせた。
「よ、頼久さんっ」
慌てるあかねの目元に口付け、耳元にも頬にも優しい口接けを降らせる。
「お慕いしています、……あかね殿」
どくん、とあかねの心臓が高鳴った。
初めて呼ばれる名前の響きは、うっとりするほど心地よかった。
「もう一回……呼んでください」
思わず、そうねだってしまう。
「え?」
「私の名前……」
頼久は微笑み、あかねの耳元に口唇を寄せ、囁いた。
「あかね殿」
あかねは、頼久をぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫です、私。あの、だから……」
その先を続ける前に、あかねの口唇は、頼久のそれで塞がれた。
大きな手が、彼女の反応をうかがうように、ゆっくりと肌をたどっていく。
くすぐったさに、あかねの身体が、時々ぴくんと揺れる。
彼女が返す反応のひとつひとつが愛しくて、頼久は飽くことなく、愛撫を繰り返した。
やがて、おそるおそる胸のふくらみに手を伸ばすが、あかねは今度は抵抗しなかった。
押しつぶすように力を加えると、柔らかなそれは、頼久の手の中で自在に姿を変える。
「あ……」
あかねの口から、いつもより高い声が漏れた。
「あかね殿……」
更に力を加えると、声に、荒い吐息が混じる。
しばらく、その動きを繰り返した後、頼久は、そっとあかねの下腹に手を伸ばした。
内股をなぞりながら、その奥へと指を滑り込ませる。
「……っ」
たどりついた瞬間、頼久の首に回されたあかねの腕に力がこもった。
「……大丈夫ですから」
頼久は、あかねの入り口をするりと撫で上げた。丹念な愛撫のためか、すでにいくらか潤っている。
だが、彼を受け入れるには、まだ足りない。
頼久は、ゆっくりと指を挿入させてみた。
「……んん…っ!」
痛みに、あかねの顔がひきつる。
「お辛いですか?」
「……い、いえ、大丈夫……」
だが、彼の指が動くたびに、それを拒むように、彼女の身体は固くなる。
頼久は、あかねの腕をほどいて、代わりに近くに脱ぎ捨ててあった単衣を、彼女の手に握らせた。
そして、自分は身体を下にずらし、あかねの下腹に顔を伏せる。
「や……っ」
その部分に、頼久の吐息と舌の感触を感じて、あかねの顔が真っ赤にそまった。
「よ、頼久さんっ」
引きかける彼女の腰を押さえ、頼久は、舌であかねの入り口を開き、襞に隠れていた突起を舐め上げた。
「ああ…っ!」
初めての刺激に、あかねの身体がぶるっと震える。突起に頼久の舌が触れるたび、痺れるような感覚が押し寄せてくる。
その刺激に、あかねの中がだんだんと潤ってくる。頼久は一度離れ、指で突起への愛撫を続けながら、舌をあかねの中に滑り込ませた。中をほぐすように、くるくると回す。
「やっ、だ、だめえっ!」
あかねがたまらないといった声を上げる。それでもやまない頼久の愛撫に、あかねの中は、すっかり蜜で濡れそぼった。
「ん…、ふうん……」
すすり泣くような声を上げると、頼久がようやく舌戯をやめ、身体を起こす。
単衣を握りしめて震えるあかねの両脇に、そっと腕をつく。
「あかね殿……」
「あ…、頼久さん……」
あかねが自分の顔を覗き込むようにしている頼久に、ぎゅっとしがみつく。頼久は、その背中に腕を回しながら、彼女の中心に身体を据えた。
「力を抜いていてください」
囁きかけながら、ゆっくりと腰を進める。
「……あぅ…っ!」
引き裂かれるような痛みに、あかねの表情が歪む。苦しくて、更に強く頼久にしがみつくと、頼久は、なだめるような口接けを彼女のまぶたに落とした。
やがて、頼久があかねの最奥にたどりつく。彼女が少し落ち着くのを待ってから、腰を揺らし始めると、それに合わせて、あかねの髪がさらさらと揺れた。
「あかね殿……」
熱のこもった声で、何度も彼女の名を呼ぶ。それにつれて、次第に頼久の動きが速くなっていく。
「より…ひさ、さん……」
がくがくと揺すられながら、あかねは、彼の熱で自分の身体がいっぱいになるのを感じていた――――。
「頼久さん……」
情事の後のけだるさに浸りながら、あかねは小さく呟いた。
「はい」
すぐ側から、彼の声が返ってくる。それがどうしようもなく嬉しくて、あかねは一人でくすくすと笑っていた。
「あかね殿……?」
頼久の声に、怪訝そうな響きが混じる。
「ふふっ。いいえ、本当に頼久さんの妻になったんだなあと思って」
少女の可愛らしい返答に、頼久の頬もゆるむ。
「……はい。これからも、ずっとあなたの側にありたい。私の心と忠誠は、一生あなただけのものです」
「はい。ふつつか者ですが、よろしくお願いしますね」
よく聞く挨拶の言葉を、ちょっと使ってみたくてそう言うと、頼久が慌てたような表情になった。
「とんでもない、ふつつか者など。あなたのような方は、二人といない、かけがえのない方で――――」
必至に言い募る頼久の様子に、あかねは本格的に吹き出してしまった。
「いいんです。こういう時は、そう言うものなんですよ」
そして、頼久の胸に頭を寄せる。
「ちょっと、言ってみたかったんです」
悪戯っぽく告げるあかねの表情が愛しくて、頼久は彼女の頬に、そっと手を伸ばした。
「あかね殿……」
頼久の声音に熱がこもったのを感じて、あかねは静かに目を閉じた。ちいさく笑みを刻んだその口唇に、頼久は今日何度目かの、優しい口接けをした。
<了>
やー、終わった。この二人だと意識しなくても、らぶらぶになるから助かりますねー。
それが、辛く感じる時もあるんですが(^^;。ちょっと、今回のあかねちゃんはしおらしくいってみました。
それでも、押したのは彼女ですけどね。やっぱり。
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