我が愛しの女王陛下

第二章・左将軍ラウル=ヴェント

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 【2】

「ふ……、ぅん……」

 舌を絡め、夢中になって唇を貪る。
 気がつけば、リュシエンヌ様のお体を横たえて覆い被さっていた。
 彼女の夜着の裾は乱れ、魅力的な足が太腿まで露出している。

「ラウル……」

 息を微かに乱し、朱の差した顔でリュシエンヌ様が私の名を呟いた。
 一瞬でも我を忘れたことで、自己嫌悪に陥る。
 いつもこうだ。
 彼女に触れた途端、理性は吹き飛び、本能に忠実な獣が精神を支配するのだ。

「ご、ご無礼をお許しください!」

 様々な感情が交差し、たまらず寝台の上で土下座をしていた。
 身を起こしたリュシエンヌ様は、寝具に頭を擦り付けている私の背に触れた。

「ラウル、謝らないで。あなたの好きなように抱いていいのよ」
「い、いけません、リュシエンヌ様! そのようなことを言われてはなりませんっ!」
「リュシーよ。二人っきりの時は、みんなそう呼んでくれてるの」

 リュシエンヌ様は苦笑して、私の顔を上げさせた。

「ラウルはわたしの命令なら何でも聞いてくれるのね?」
「はい、どのようなご命令でも構いません。生死を賭けた戦だろうと、迷うことなく出陣いたします!」

 私は騎士だ。
 主君の名誉を守るためなら、たとえ敵がどれほど強大であろうと背を見せることはない。
 単純明快な質問に、張り切って答えた。

「ふふ、じゃあ命令よ。服を脱いで。それで何をされても動いてはだめよ」
「はい……?」

 服を脱ぐ?
 その命令にどんな意味が含まれているのか察せぬまま、指示に従った。
 夜着にと身につけていたシャツとズボンを脱ぎ、下着も外す。
 全裸となった私は、リュシエンヌ様の招きに従って寝台に戻った。
 リュシエンヌ様は私を座らせると、いきなり股間に顔を埋めてきた。

「リュシエンヌ様!? な、何を……?」

 驚いたが動くなと命じられたことを思い出して、固まってしまう。
 彼女は通常の状態の私自身に口付け、あろうことか舐めたのだ。

「ひっ、ちょ……、リュ、リュシエンヌ様……」
「リュシーよ、ラウル」

 リュシエンヌ様は私を見上げてにっこり笑った。
 そしてまた顔を伏せて、かわいらしい舌で私を翻弄し始めた。

「……んっ……、はむ……、ラウル、気持ちいい?」

 気持ち良いと喜ぶ余裕はない。
 これは天国の拷問だ。
 甘く、それでいて禁忌を犯している気になる。

「おやめくださいっ、リュシー様のお口が穢れますっ」

 声を張り上げてやめるように促したが、リュシエンヌ様はきょとんと瞳を丸くした。

「ロベールが教えてくれたの、誰でもしていることなんですって。ラウルも怖がらなくていいのよ」

 あ、あの男!
 リュシエンヌ様になんてことを教えているんだっ!

 明日になったら締め上げてやると意気込んだはいいが、リュシエンヌ様の愛撫は止まらない。
 情けないことに私の意志に反して舐められた箇所は熱を帯び、固く勃起していく。

「リュシーさ…ま……。もう、くぅ……、はぁ……、ううっ……」

 自分の一部なのに、どうしていいのかわからない。
 認めたくないが、男女の交わりについては私よりリュシエンヌ様の方が経験豊富。
 ロベールやフィリップ殿に手ほどきを受けている分、リュシエンヌ様は着実にその手の知識を吸収しておられるのだ。

「ラウルのすごく大きくなってきた。でも、頑張って入れますね」

 頑張るって何を……?
 そう思った私の目の前で、リュシエンヌ様は自ら夜着を脱ぎ、悩ましい肢体を露わにした。

「わたしの方はまだダメみたい。ね、触って」

 手を取られ、胸元へと導かれる。
 私の手の平から零れ落ちそうなほど大きい膨らみ。
 空気に触れたせいか、乳頭は固くなっていた。

「こっちも……、お願い……」

 リュシエンヌ様は瞼を閉じて俯き、足を広げた。
 隠すものが何もないその場所は無防備に曝け出され、生唾が湧いて出てきた。

「ご命令とあれば……」

 もはや言い訳に過ぎない建前を口にして、リュシエンヌ様の形のいい豊かな胸に顔を寄せ、右手で秘所に触れ、割れ目を指でまさぐった。

「あ……、あぁ……」

 リュシエンヌ様の唇から甘い息がもれ聞こえる。
 乳房の中心に咲く蕾を咥え、舌で何度も舐め上げた。
 左右交互に胸の頂をしゃぶり、時には甘く噛んでつつく。

 右手の指がじっとりと濡れてきた。
 愛液を絡ませて、入り口を撫で付ける。
 指を動かすたびに水音がして、喉が渇きを覚え、音の根源である泉に吸い付きたくなる。

  「ラウル、仰向けに寝転んでくれる?」

 リュシエンヌ様の声が理性を戻す。
 指示通りに横になると、リュシエンヌ様は私の上に跨ってきた。

「動かないでね」

 そう言って、彼女は私の昂った欲望の象徴に手を添えて、自らの秘所へと導いていく。

「んっ、ああっ……、あぁんっ……」

 喘ぎながらも、彼女はゆっくりと腰を落として私と繋がった。
 下肢に途方もない熱を感じる。
 リュシエンヌ様の中にいる私自身が一層大きくなった気がした。

「う……、くぅ……、うあっ……」
「……ぁん……、待ってて、今動くから……」

 先ほどから大胆な言動をなさっているが、リュシエンヌ様の表情は羞恥で赤い。
 瞳は潤み、恥ずかしさを必死で堪えているのがわかる。
 リュシエンヌ様は教えられたことを実行しているだけだ。
 信頼を寄せる男に、これが普通なのだと吹き込まれた彼女は、何の疑問も抱かず行為に及んでいる。

「……リュシー様、これはちが……」

 忠臣としては、見過ごすわけにはいかない。
 早く、早くお止めして、真実を言わねば……。
 だ、だが……。

「…ぅん……、はっ……、ああんっ……」

 愛しい人が、一生懸命に腰を揺らして私を高めようとしている。
 上気した顔には色気が滲み、せり上がってくる快楽に悶えているようでもあった。
 彼女が動く度に弾む双乳にも目が離せない。
 揉みしだき、嬲りまわしたい衝動に襲われる。
 心に潜む獣が、檻を破って飛び出そうとしていた。

「リュシー様、やめ……」

 その瞬間、捕らえられていた私自身が心地よい締め付けに呼応して達した。
 彼女の中にたっぷりと精を吐き出し、解放される。
 リュシエンヌ様は自ら結合を解くと、横たわる私の隣に寝転び、胸にもたれかかってきた。

「気持ちよかった?」

 その問いは、疑いようもなく無邪気だった。
 他意も含みもない。
 行為自体の感想であり、私が満足したかどうかを問うものだ。

「ええ、その……。良かったですよ」
「それなら頑張った甲斐があったわ。ラウルが気持ち良くなれるなら、何でもしますからね」

 リュシエンヌ様は私の胸にもたれたまま瞼を閉じていき、寝息を立て始めた。
 起こさないように体に腕をまわして抱きしめる。

 最愛の人が、自分の腕の中にいる。
 私が最も幸せに浸れるひと時だ。
 明日になったら、また後悔して苦悩するのだとわかっていても、一度温もりに触れてしまえば、この人の傍を離れることなどできない。
 臣下の身で、忠誠を捧げるべき人に抱いた恋慕が罪だと言うのなら、どのような試練も罰も受け入れよう。
 何を犠牲にしても良いとさえ思えるほどに、私はこの人を愛している。
 例え、彼女の愛を受け取る者が自分一人ではなかったとしてもだ。




 翌日、私はロベールの執務室を訪ねた。
 宰相である彼は、午前中は執務室にこもって書類をさばいている。
 午後は女王の補佐として謁見に立会い、重臣との会議や他国の使者との会談をこなす。
 国政はほとんど彼の采配で動いていた。
 信頼できる配下の育成にも力を注いでおり、五年計画で国の復興を完全に果たすと宣言までして、着実に成果を上げて周囲を黙らせてきたほどの男だ。

 ロベール=マルトーは、尊敬と信頼を寄せるには十分な好人物だ。
 それは認める。
 だが、リュシエンヌ様のことだけは別だ。
 昨夜のあの方との情事を思い出すにつれ、このままではいけないと決意した。
 この件に関して、他の三人は当てにならない。
 リュシエンヌ様のご奉仕を喜んで受け入れてしまうことが明白だからだ。
 いや、私もあれは気持ち良かった。
 しかし、あれ以上はだめだ。
 放っておくと、どれほど破廉恥な行為を教え込むかわかったものではない。




 苛立っていたので、少々乱暴に扉を叩く。

「ロベール、私だ」
「ああ、ラウルか。どうぞ」

 声が面白がっている。
 私の来訪理由を知っているのがまるわかりだ。
 おのれ、今日こそは丸め込まれてたまるものか。

「どうした? せっかくリュシエンヌ様と甘い一夜を過ごしたというのに、機嫌が悪そうだな」
「ロベール、貴様! リュシエンヌ様にあのような淫らな行為を教え込むとはどういうつもりだ!」

 私の詰問にも、彼は動じることなく、ニヤニヤ笑っている。

「例えばどんな行為だ。言ってくれないとわからない」

 顔から火が吹き出そうになった。
 あ、あれを言うのか?
 ロベールの言う通り、説明しないとどの行為だかわからないが……。

「う、あ……、リュシエンヌ様が私のアレを舌で……。いや、その、私の上に乗ってだな……」

 はっきり言うのは憚られ、あやふやな言葉しか出てこない。
 くうう、だめだ。
 私には言えない!
 申し訳ございません、リュシエンヌ様!

「ん? 何だ、言えないのか。それでは困ったな」

 ロベールは喋りながらも書類に目を通して判をつく。
 その口元は笑っていた。

「男女の営みとは神聖にして淫らなものだ。リュシエンヌ様も儀礼的な交わりだけでは苦痛なだけだろう。愛撫を受けるだけが快楽を得る方法ではない。せっかく五人も夫がいるんだ、様々な方法で悦ばせて差し上げたいんだよ。君も自分なりのやり方で気持ち良くして差し上げるといい」

 彼の言葉に衝撃を受けた。
 そうか、受け入れる側の女性にとっては前戯と後戯は大切なもの。
 昨夜のリュシエンヌ様は、恥ずかしそうではあったが苦痛の表情は浮かべておられなかった。
 私はなんて浅はかだったのだ。
 少しでもロベールを疑った自分を恥じる。
 彼もリュシエンヌ様を思って考えた末の行動だったのだ。

「わかった、お前の言う通りだ。私もリュシエンヌ様のためなら努力は惜しまない。お前を見習って、あの方を悦ばせてみせよう。邪魔をしたな」

 踵を返して、出入り口に向かった。
 なので、ロベールがどんな表情をしていたのかはわからない。
 ドアを閉めると、中から微かに声が聞こえた。

『単純なヤツ』

 だが、私には声が聞こえただけで、聞き取ることはできなかった。

 さて、やることが見えてきた。
 これから図書館に行こう。
 我が愛しき女王陛下のために、男女の性愛について詳しく学ばねばなるまい。

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