欲張りな彼女・番外編

22・本能

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「おーい、優! お前も見るか?」

 まだボクらが中学生だったある日、教室で秀が差し出してきたのは、いわゆるエロ本。
 水着のグラビアなんてかわいいものじゃなくて、全裸の女性が卑猥なポーズを取っている写真を始めとした、男が性欲を満たすための情報がメインのえっちな雑誌だ。
 表紙の写真からして、男を誘う淫靡な雰囲気が漂う。
 クラスメイトが持ってきた雑誌を、みんなでまわし見していたらしい。
 激しく見たい!

 しかし、がっつくようにその手の本に飛びつくには照れがあり、平静を装って秀の方を向いた。
 あくまで付き合いで見るんだという態度を取って、ドキドキしながら手を伸ばしかけたその時だ。教室の引き戸が音を立てて開いた。

「あー、秀ちゃんたら、雑誌なんか持ってきて。先生に見つかったら没収だよ」

 戸口からかけられた声に、ビクッとして手を引っ込めた。
 声をかけたのは知恵だ。

 教室に入ってきた知恵は、秀の手にある雑誌を覗き込んだ。
 途端に、彼女の顔が耳まで赤くなる。

「きゃあ! そんな雑誌見て、秀ちゃんのえっち!」

 知恵は雑誌をひったくると、それで秀の頭を叩いた。

「いてぇ! 写真ぐらいイイじゃん、男はこういう雑誌でお勉強してるの!」
「何の勉強よ、不潔!」
「優もなんとか言えよ! お前、まだ見てないだろ。このままだと知恵に取り上げられちまうぞ!」
「優ちゃんは秀ちゃんと違って、こんなやらしい雑誌は見ないの!」

 知恵の一言は、衝撃となってボクを貫いた。
 ここでボクも見ようとしていたことがバレたら、知恵に軽蔑される。
 それだけは嫌だ。
 知恵に嫌われたくない一心で、ボクは裏切り者となった。
 秀を、そして自分自身の心を裏切ったのだ。
 即座に顔に貼りつけたのは、無念さを隠す微笑み。

「うん、そういう雑誌を見るのはまだ早いよね。これは大人の読み物だよ」

 にっこり笑って、知恵の手から雑誌を取り返す。
 そして持ち主であるクラスメイトに渡した。

「先生には黙っておくから、今度からは学校の外でこっそり見なよ」

 場は一気に白けてしまい、秀はしかめっ面をボクに向けた。
 知恵だけはボクに微笑みかけてくれた。

「やっぱり優ちゃんは違うよね。秀ちゃんみたいなスケベになっちゃ嫌だよ」

 彼女の言葉はボクにとって絶大な影響力を誇っていた。
 それからボクは、人前ではますますえっちな話題を避けるようになっていった。
 知恵が望む、理性的で余裕のある男を演出するために。

 しかし、本能からくる欲求を発散させることなく我慢をしていれば、どこかで歪みが生じるものだ。
 興味のないフリを続けるうちに、ボクは頭の中でえっちな妄想をして自分を慰めることを覚えてしまったのだ。

 当然、自慰のオカズになる生け贄は、愛しい知恵だ。
 特に高校生になってからがひどかった。
 誰の手にも触れられていないのにも関わらず、すくすくと育っていくあの胸に、妄想の中でボクは何度お世話になったかわからない。
 空想の世界の彼女はボクに従順で、何をしてもかわいく反応してくれた。

 彼女の裸を思い浮かべながら、股間の息子に手を伸ばす。
 想像上の知恵の体を後ろから抱きしめて、胸に手をやり、手の平では覆い切れない膨らみを思う存分揉みしだく。
 乳房を上下にぽよんぽよんと弾ませると、知恵は悩ましげな吐息をついた。

「ん……、優ちゃん、もっとしてぇ……」

 潤んだ瞳で見上げてくる彼女を、衝動に任せて押し倒し、覆いかぶさる。
 想像でしかない股間の秘部は常にぼやけているが、淫らな蜜が溢れてボクを誘っていた。
 指で触れて撫で回す。
 それだけでは足りずに、昂るボク自身を知恵の中に突っ込んだ。

 現実のボクは手で代用して快感を味わっているわけだけど、終わるまでは妄想の中で知恵と繋がっている。

「ああん、優ちゃあん。ぁあ……、ぅ……はぁん……」

 腰を動かすたびに、反動で知恵の胸が揺れる。
 ピンクの乳首に吸い付いて、舌で弄び、嘗め回す。
 知恵の中が締まり、終わりを迎える気配を感じ取ったボクは、彼女と見つめ合った。

「はぁ……、ああ…、知恵……。好きだよ、一緒にいこう」
「優ちゃん、あたし…も、好き……、大好きぃ」

 二人で手を取り合い、高みを目指す。
 最高の気分で射精して、ボクは現実に返った。
 自室のベッド上で、精液にまみれた手を見つめて落ち込んだ。

「む、虚しい……」

 しくしくむせび泣きながら、ティッシュで後始末をする。
 両思いになるまでの我慢だと自分を励ました。




 中三の時に、先手を打って秀を遠ざけたものの、知恵との仲を進展させることができなかった。
 彼女の視線は、いつも秀を追いかけていた。
 ボクに対する視線も感じるけど、彼女の意識の半分は秀のもの。
 どんなにアプローチをしても変わらないことを思い知り、ボクは諦めて彼女の意思を尊重し、三人での関係を受け入れた。

 こうして一応、知恵と両思いになったものの、一度ついてしまったイメージを払拭するのは難しかった。
 知恵の体を求めたくても、ブレーキがかかってしまう。
 秀と三人でのセックスの時なら、どさくさ紛れに大胆になれるものの、二人っきりになるとキスの一つもできない。
 秀のいない所で裸に剥いてあれこれしたいのに、本人を目の前にすると、あの日の彼女の言葉が耳に甦ってくる。

『やっぱり優ちゃんは違うよね。秀ちゃんみたいなスケベになっちゃ嫌だよ』

 スケベな優は嫌われる。
 ボクはクールでいなくちゃ。
 求めるより、求められる男でいなくちゃならないんだ。




 ある日の日曜日。
 秀は友達と遊びに出かけてしまい、退屈を持て余していたボクは、ふと思い立って近所にある知恵の家を訪ねた。

 家の前で知恵の両親と会った。
 二人とも外出着に着替えていて、おじさんが車を出して、おばさんは戸締りをしようとしているところだった。

「あら、優くん。ちょうどいい所に来てくれたわね。知恵なら部屋で寝てるわよ。おばさん達、買い物に行ってくるから留守番よろしくって伝えてくれる? 近頃、物騒でしょう? 鍵をかけていこうかと思ってたけど、優くんが一緒にいてくれたら心強いわ」

 おじさんとおばさんには、ボクに対する警戒心はない。
 強盗や強姦目的の犯罪者を警戒するのもいいけど、寝ている娘を若い男と二人っきりにして平気なんだろうか?
 信用されているんだとは思うが、ちょっと複雑な心境だ。

 しかし、せっかくの二人っきりのチャンスを無駄にする気はない。
 勝手知ったる何とやらで家に上がらせてもらい、二階にある知恵の部屋に入ると、あちらこちらをピンクで彩られた女の子特有の可愛らしい空間が目の前に広がった。

 知恵はベッドで横になって、うたた寝をしている。
 しかも半袖のTシャツにミニスカートという薄着で。
 スカートはめくれ上がり、太腿どころか、下着に包まれたお尻まで見えている。
 ごくんと生唾を飲みこんで、そろそろっと近寄る。
 ベッド脇に膝をついて、愛しの彼女の寝姿をじっくりと拝ませてもらった。

 んわっ、肩紐がない?
 ノーブラだよっ!
 寝苦しくて嫌だったのか、Tシャツの下にあるはずの下着がなかった。
 存在感のある大きな乳房が腕の下に窮屈そうに押し込められている。
 無防備すぎる知恵のあられもない姿に興奮して、ボクの下半身は思いっきり反応していた。

 ちょっとだけだ。
 ボクは知恵の彼氏なんだ。
 セックスだってしてるんだし、お触りぐらいしてもいいはずだ。

 はぁはぁ変態みたいに息を荒げて手を伸ばす。
 お尻を撫でて、腕の隙間から胸を触る。
 Tシャツの布越しに浮き出てきた乳首の尖りを発見し、指で挟んでこね回した。
 知恵の寝息に艶が帯び始める。

「ぅん……、だめ……、秀ちゃん……」

 寝言で呟かれたのは秀の名前。
 ボクは嫉妬にかられた。
 ここにいるのはボクで、触っているのもボクなのに。
 夢の中で知恵は秀に触られているんだ。

 意地でもボクの名前も呼ばせてやる。
 そう思って愛撫を再開した。
 布地で覆われた秘所を指でなぞり、Tシャツもめくりあげて生の乳房を拝んだ。
 仰向けにしても、知恵は寝ている。
 ぶるんと震えた胸に顔を埋めて、果実を味わうようにむしゃぶりついた。

「……ぅやぁ……、秀ちゃん、やだ……。そんな……」

 幾ら耳を済ませても、聞こえてくるのは秀の名前だけ。
 どうして?
 秀はいるのに、ボクはいないの?
 怒りとも悲しみともつかない感情が胸を焦がした。

「……ん…ぅうん…?」

 知恵が目覚めた。
 目を開けて、ボクの顔を見て驚いている。
 そりゃあ、そうだろう。
 昼寝から目覚めてみれば、圧し掛かられているんだから。

「優ちゃん、いつ来たの?」

 当然のように投げかけられた知恵の問い。
 だけど、ボクはその問いに答える余裕がなかった。
 たかが夢のことだと割り切ろうとしても、一度ついた嫉妬の炎と芽生えた不信感は消えない。

「知恵はボクのこと好きなの?」

 唐突な質問に、知恵はきょとんとしていた。

「好きだよ。急にどうしたの?」

 即答して、知恵は自分の服の乱れに気づいた。
 小さく悲鳴を上げて、スカートを直し、Tシャツをおろした。

「や、もうっ、何で? あたしってこんなに寝相悪かった?」

 ボクがやったとは思っていないらしい。
 安堵するより、腹立たしさが強くなる。

「ボクがやったんだよ。秀じゃなくて残念だったね」

 子供みたいに膨れて横を向いた。
 知恵が息を呑む気配がした。
 そして、ボクの方に近寄ってきた。

「優ちゃん、怒ってるの?」
「怒りもするよ。知恵はどっちも欲しいなんて言ったくせに、秀の方が好きだったんだ。夢にみるほどにね」

 自分で言ってて悲しくなってきた。
 知恵の気持ちが半分でもボクのものだなんて、信じていたことが滑稽だった。

「何言ってるの? そんなことないよ。あたしは優ちゃんのことも好きだよ」
「ボクが自惚れてただけか。笑っちゃうよね、知恵はボクの気持ちを知ってたから、振ることができなかっただけなんだ。そういうの残酷だよ。秀が好きなら、もっと早くはっきり言ってくれれば、ボクも諦めることができたんだ。想いが通じたと思った後にこれなんて酷すぎる……」
「違うってば! ちゃんと聞いてよ!」

 声を張り上げた知恵は、ボクに抱きついてきた。
 床の上に尻餅をついて、彼女を受け止める。

「どうしたら信じてくれるの? それに夢のことだって優ちゃんが悪いんだよ。あたしと二人っきりになっても、絶対に手を出してこないじゃない。秀ちゃんはいつもあたしを欲しがるけど、優ちゃんは欲しがってくれない。ホントは秀ちゃんと張り合いたいだけで、そんなに好きじゃないんじゃないかって、あたし不安だったんだよ」

 知恵はボクを責めながらも、ぎゅうと抱きついて離れない。
 そんな風に思われていたなんて。
 ボクはずっと空回りしてたわけ?

「そんな……。だって知恵が言ったんだよ? 秀みたいなスケベになっちゃ嫌だって。だから、嫌われたくなくて今まで我慢してたのに」
「え? そんなこと言った?」
「言ったよ。何だよ、遠慮しなくて良かったんだ。ボクも知恵の裸が見たい、キスして、おっぱいも触りたいんだぁ!」

 理性という枷が外され、欲望に忠実な獣となったボクは、知恵に飛び掛った。
 床の上に押し倒して、Tシャツをめくり上げる。

「あん、きゃあっ、だめぇ」

 暴れる彼女の抵抗も、キスをすることで止んだ。

「……ん……ぅん……ふぁ……」

 ちゅっと音を立てて、長いキスを交わす。
 今はボクだけの彼女の体。
 柔らかく張りのある大きな乳房を揉みほぐし、頂の尖りを摘まんで擦り合わせた。

「んぁあん……、優ちゃん……」

 ボクの体に知恵の腕が絡みつく。
 欲しいんだよね。
 ボクもすごく君が欲しいよぉ。

 ショーツの中に手を滑り込ませると、そこは蜜でベトベトになっていた。
 寝ていた時のイタズラでも反応していたみたい。

「こんなになって、知恵だってスケベだよ。ボクらのこと言えないよね」

 免罪符を手に入れて頬が緩む。
 指に愛液を絡めて、くちゅくちゅ中をかき回し、知恵の耳に息を吹きかけた。

「やぁ、ああんっ」

 耳が弱いんだよね。
 唇に含んで、耳の裏をぺろんと舐めてあげる。
 秘裂を探る指もそのまま動かしている。

「そこ…だめ……。動かさないでぇ……。あんっ。ああっ!」

 知恵の腰が跳ねるたびに、量感のある乳房も弾む。
 興奮が高まり、ショーツも剥ぎ取った。
 膝を持ち上げて開脚させる。
 そうだ、コンドーム。
 ポケットを探って袋を取り出す。
 いつそうなってもいいように常備するのを習慣にしているんだ。

 下半身の衣服を脱いで、避妊具も着けて準備はOK。
 後は欲望を解放するだけだ。

「知恵、行くよ。いい?」
「うん。優ちゃん、来て……」

 恥らった表情で、知恵がボクへと手を伸ばす。
 正面から抱き合って、彼女の秘裂にボク自身を沈め、中へと突き進んだ。

「んぁ、あんっ。ああ……」

 知恵の中がすごく熱い。
 ボクを求めるように締めつけてくる。
 心も体も、内と外からボクらは求め合って一つになった。

「優ちゃん、好きだよ、本当だよ。信じて」
「ボクも信じられなくて、ごめんね。ボクは知恵が一番好きだよ。秀と同じでいいから、ボクのことも知恵の一番にしてね」

 これからは知恵の夢にもボクが出てくる。
 ボクはもう偽る必要はないんだ。
 君が欲しいって言ってもいいんだってわかったからには、遠慮なんかしないんだ。

 腰を振って、一緒に上り詰めていく。
 心が近くに寄り添っているみたいで、幸福感に包まれる。
 彼女と一瞬目が合った。
 微笑みを交し合い、頂点にたどりついた。

 彼女を守る壁に向かい、ボクは欲望を吐き出した。
 強く抱き合って余韻を感じる。
 愛しい知恵。
 たとえ、半身に抱かれていても君はボクのものでもある。
 決してこの手を離さない。
 君はボクらが愛して守っていくんだから。




 起き上がって情事の後始末をしていると、階下で物音が聞こえた。
 やばい、おじさんとおばさんが帰ってきたのか?

 焦ったけど、すぐに違うことがわかった。
 音の主は階段を駆け上がってくる。
 こんな元気があるのは、あいつしかいない。

「優! てめぇ、抜け駆けしやがったな!」

 バンッとドアを開けて怒鳴り込んできたのは秀だ。
 秀は床の上で裸で寝転んでいる知恵と、使用済みのコンドームを捨てようとしていたボクを見て、事後であることを悟ったようだ。

「お前、遊びに行ってたんだろ? 早かったな」

 声をかけると、秀はボクを嫉妬に燃えた目で睨んだ。

「出先で知恵の所のおじさんとおばさんに会ったんだよ! そしたら優に知恵と留守番を頼んで来たって聞いて、飛んで帰ってきたんだ!」

 秀はぐちゃぐちゃ髪を掻き毟って、知恵の方を向いた。

「畜生! オレにもやらせろ! 仲間はずれなんて許さねぇぞ!」

 秀はケダモノの本性を剥き出しにして襲い掛かった。
 逃げようと背中を向けた知恵に抱きつくと、乳房をわし掴みにしてぐにゅぐにゅと揉む。

「やぁあん! 秀ちゃん、やめてぇ。優ちゃん、秀ちゃんが無理やりするよぉ、助けてぇ」

 ボクを呼ぶ知恵に、昔を思い出す。
 秀に意地悪されたって、君はボクに泣きついてくる。
 ボクは秀を諫めて、君を慰める。

 でもね、この状況でそれはないよね。
 くすっと笑って、ボクは知恵の前にまわり、唇にキスをした。

「秀も知恵が欲しいんだよ。これはもう本能だよね。諦めてボクらを受け入れて」
「知恵、好きだ。食べちまいたいぐらい、お前が欲しい」

 秀の手が知恵の体をまさぐり、ボクは口を使って彼女の唇や胸を愛撫した。

「……あぁん……、秀ちゃん、優ちゃん……」

 知恵も観念したのか、与えられる愛撫に酔うことに耽り始めた。
 ボクと秀は思い思いの方法で、彼女の体を貪っていく。

 明日からが楽しみだ。
 ボクも秀みたいに声を上げて君を求める。
 不安を感じる暇も与えない。
 だから安心してボクらに心も体も預けてね。


 END

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