償い・番外編
25・背中
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(side 鷹雄)
雛と寄り添ってぐっすり寝ていた早朝に、秘書の羽鳥から携帯に電話がかかってきた。
身内の不幸ごとで、今日から三日ほど休ませてもらいたいとのことだ。
不幸ごとではしょうがない。
オレは了承して電話を切ると、人事の部長に連絡を入れた。
秘書の代わりを頼むためだ。
手配が済んだら折り返しかけてくれと指示を出し、起きて支度を始める。
十分ほどして、連絡がきた。
『秘書課の者に連絡したところ、明日からなら人員をまわせるそうですが、今日だけは誰も都合をつけられず、申し訳ないのですが……』
急な話だ、無理もない。
今日だけなら何とかなるか。
頭の中で素早く算段して確認する。
「一日だけなら問題ない。明日には必ず代わりを寄越してくれ」
通話を切って、手帳でスケジュールを確認する。
昼食が取引先との会食になってるな。
秘書がいないとカッコがつかねぇか?
オレは若いから、それなりにハッタリも必要だ。
その場限りでいいなら渡を連れて行くかと考えて、ふとベッドで寝ている雛を見る。
今日は大学が休みだと言ってたな。
飾り物の秘書なら十分務まりそうだ。
やり手の美人秘書……には見えねぇだろうが、見た目に華はあるし、十分だ。
オレは雛を起こして、今日は秘書として一緒に出社しろと命じた。
飛び起きた雛は、驚きでばっちり目が覚めたらしく、大きな目をぱちぱちと瞬かせた。
「ええ? 秘書なんて無理だよ。大事な商談で失敗したらどうするの?」
「お前は黙ってオレの指示通りに動いていればいいだけだ。助けると思って来てくれ」
人手がなくて困っていると大げさに説明すると、雛は不安そうな顔をしながらも頷いてくれた。
「うん、わかった。用意する」
「制服は用意させるからスーツは着なくていいぞ。だが、帰りに夕飯食って帰るから、服はホテルのレストランに合うものにしとけよ」
面倒なことを頼むので、夕メシは豪華にしてやろう。
贔屓にしているレストランにディナーの予約を入れておく。
これで準備は万端。
一日一緒にいるからには雛にいいところを見せなきゃならねぇし、今日は気合入れていくか。
(side 雛)
大変なことになった。
鷹雄に頼み込まれて一日秘書を引き受けたものの、うまくできるか不安だ。
更衣室で制服に袖を通しながら、心を落ち着かせる。
制服は茶系統のチェックのベストとタイトスカートに、白のブラウスを組み合わせたシンプルなものだ。
わたしは大学卒業後、すぐに鷹雄と結婚する予定だから、OLとして働く機会はないだろう。
今日のことは良い経験になる。
鷹雄の指示を聞いて、おとなしくしていれば失敗はしない。
自己暗示をかけて、両手で頬を叩いた。
よし、行こう。
鷹雄のいる重役室の扉をノックして、応答の声を聞いてから入る。
前に一度来たけど、どんな部屋だったのか、ほとんど覚えていない。
物珍しさで、改めて部屋を見まわした。
十二畳ほどの広さの部屋に、木製の立派な事務机が据えてある。
鷹雄が腰掛けている椅子は、革張りの大きなものでキャスター付きだ。
壁にはなぜか日本刀が飾ってある。
隼人さんの趣味なのかな?
来客に備えてか、応接用のソファとテーブルも置いてある。
他には資料を揃えた書棚が壁際に配置されていた。
オフィスって雰囲気がする。
鷹雄は机に向かい、パソコンを立ち上げて準備を始めていた。
その間に次々と社員の人がやってきて、承認の必要な書類や報告書を置いて出て行く。
瞬く間に、鷹雄の机は書類の山で埋まってしまった。
鷹雄はそれらの山を適度に整理して、わたしの方を向いた。
「ここでの仕事は見ての通り、これらの書類を処理することだ。指示を出すから資料や作成した書類を運んでくれ。電話の応対もオレに取り次ぐだけでいい。できるな?」
「はい、頑張ります」
あ、そうだ。
鷹雄のこと、何て呼べばいいのかな。
いつも通りじゃまずいよね。
「鷹雄のことは何て呼べばいいの?」
「副社長でいい、羽鳥もそう呼んでるしな。客がいる時だけは、敬語を使って話すんだぞ」
副社長。
いつもと違う、わたしと鷹雄の関係。
仮だけど、今日は上司と部下なんだよね。
兄とも恋人ととも違う彼の一面を見ることができる。
期待と不安に満ちた一日が始まった。
午前中は来客が一件あり、応接用のソファに座って相手をしている鷹雄のところにお茶を運んで、後ろに控えていた。
鷹雄と話をしているおじさんは、取り引き相手の会社の専務で、笑みを浮かべて会話をしながら、先ほどからわたしに探るような視線を送ってきている。
「今日は羽鳥くんがお休みで、こんな美人さんが代役ですか。若くて綺麗な子にお茶を入れてもらえると、仕事もはかどりますなぁ」
「そうですね。羽鳥には悪いが、こういった潤いもたまには必要だ」
大きな口を開けて笑っている専務さんに合わせて、鷹雄も愛想笑いをして相槌を打った。
「彼女は私の婚約者でもありましてね。まだ大学生なんですが、今日は手伝いで秘書のマネごとをさせているんです。いずれ連れ合いになるのだから、私の仕事がどういうものか理解してもらう良い機会ですからね」
え?
いきなり婚約者だと紹介されて固まる。
専務さんがこっちを向いて、それはそれはと挨拶して会釈してきた。
わたしもお辞儀を返して微笑む。
専務さんはそこで雑談を終わらせて、鷹雄に向き直り、商談を再開した。
彼らの意識が逸れたので、少しだけ緊張を解き、商談中の鷹雄を見つめる。
さっき、私って言ったよね?
口調もいつものくだけたものじゃなくて、礼儀正しい大人の人のものだ。
高校生になって更生した鷹雄は、隼人さんの跡継ぎになるために様々な勉強をして経験を積んでここまできた。
わたしの知らないところで、努力をたくさん重ねてきたんだ。
急に鷹雄が大きく見えた。
広い背中を後ろから見つめていると、普段の何倍も頼もしく感じる
わたしはこの人と結ばれるんだ。
誇らしい気持ちになり、自然に背筋が伸びる。
わたしも鷹雄に負けないぐらい頑張って、隣に並んでも恥ずかしくない女性にならなくちゃ。
鷹雄と結婚するってことは、同時に多くの人の期待も背負うということ。
つぐみさんだって、何の努力もしないでお金持ちの奥様になったわけじゃない。
結婚が決まった当時は、周りの人に侮られないように、知識や教養を身につけるために必死だったのだと教えてもらった。
わたしにだってできる。
鷹雄と添い遂げるために、わたしもできる限りのことをしよう。
本日の大仕事でもある大企業の重役が集まる会食が終わると、本社に戻ってまた書類をさばく。
わたしは命じられた用事をこなしながら、スケジュールを確認して、時間が来ると鷹雄に知らせる。
雑用しかさせてもらえないけど、仕事は途切れなくやってくる。
秘書の羽鳥さんは、これに加えて、スケジュールの調整や代わりに商談を受けたりと、鷹雄の補佐役をしている。
頼りなさそうな印象の人だったけど、見かけによらずすごい人なんだ。
人は見た目だけで判断するものではないと、しみじみ思う。
「これでひと段落ついたな。雛、休憩するぞ」
四時をまわった頃、鷹雄は椅子から立ち上がった。
軽く体操して体を伸ばしている。
「デスクワークは体が固まってしょうがねぇ。運動でもするか」
鷹雄はそう言って、わたしを見た。
上から下まで舐める様に視線が動いている。
「な、何?」
「雛、ちょっと来い」
手招きされて近寄ると、鷹雄はわたしの腰を抱いて体を引き寄せた。
「OLの制服も似合ってるぜ。たまにはベッド以外の場所でやるのもいいだろ」
わたしの足が、やらしい手つきで撫でられた。
手の平でタイトスカートをめくりあげ、ストッキングの上から何度も太腿を往復して擦られる。
「やだ、こんなのセクハラだよぉ、……ぅん」
抗議の声はキスで塞がれた。
唇を割って入り込んできた舌に翻弄されて、吐息が甘く変化していく。
「きゅ、休憩するんでしょう? だめだよ、動けなくなる……」
「動けなくなったら休んでていいぞ。オレを元気づけるための、最後の仕事だ」
やる気満々の鷹雄がニヤリと不敵に微笑んだ。
そ、そんなぁ。
ベストとブラウスのボタンが外されて、鷹雄の手が下着の中に潜り込み、肌を這い回る。
胸にたどり着くと、絶妙のリズムと力加減で揉まれた。
んぁ……、気持ちいい。
だめぇ、ここはオフィスなんだよ。
誰か来たらどうする気……って、前にもこんなことあったよね。
「心配するな。予告なくドアを開ける礼儀知らずはいねぇよ。一発抜かせてくれたら、終わりにしてやる」
強引な鷹雄に流されて、わたしは身を任せた。
靴を脱ぐように指示されて、ストッキングとショーツも下ろされる。
足からそれらが抜かれると、わたしの下半身は大変心もとない姿になった。
襟元が大きく開かれて、露出した肌に鷹雄の唇が這う。
乳首を舌で転がされて感じてしまい、指でいじられている秘所から蜜がとろとろ流れ始めた。
「ふ……、ぁあん…や……、鷹雄……」
甘えた声を出して、鷹雄の首にしがみつく。
蜜の湧き出る泉を指でかきまわされて、腰が動く。
「いい……、んはぁ…、ああん……」
愛撫に蕩けたわたしは誘導され、事務机に手をついて、お尻を突き出す形で鷹雄の前に立つ。
彼は後ろからわたしを抱くと、片手で胸を揉みながら、もう片方の手で割れ目に指を這わせてきた。
優しく秘所の突起を擦られ、くちゅくちゅと入り口を解される。
乳首が指先で弾かれて、軽く達して声を上げる。
声……、押さえなくちゃだめ……。
廊下を誰かが通ったら変に思われる。
「あっ、……んっ、ああっ!」
頑張ったけどだめだった。
体に触れてくる鷹雄の手は、正確にわたしの性感を刺激して体を高めていく。
「やぁ……、やめて……、鷹雄ぉ……」
懇願の声を上げて、鷹雄に訴えると手の動きが止まった。
体を起こされて反転させられ、、向かい合わせになる。
「やめろって言われても止められねぇよ。すぐすむから……、な?」
それは確認というより、決定事項を伝える宣告に等しいもので、わたしは二人掛けのソファへと連れて行かれて仰向けに転がされた。
鷹雄はわたしの膝を掴むと、ゆっくりと開いた。
下着は脱がされ、スカートは腰までずり上がって、隠すものが何もない。
恥ずかしくて顔が熱くなる。
鷹雄がベルトを外してズボンのジッパーを下げた。
取り出された彼のものは、いつでもいけそうなぐらい昂っていた。避妊具を装着し、準備を終えるなり中に入ろうと迫ってくる。
求めてくれるのは嬉しいけど、時と場所を選んでよぉ。
大きく勃起した鷹雄自身が秘口にあてがわれて押し込まれた。
十分潤ったそこは、容易く彼の欲望の象徴を呑み込んでしまう。
「あっ、ああっ!」
たまらず声を上げた。
鷹雄は前後に腰を動かしながら、わたしの首筋を舐めた。
舌での愛撫で感度を高めてくれる。
快感の波に翻弄されて、中にいる彼を締め付け、互いに快楽を与え合う。
「鷹雄……、ぅん……、ふぅ……あ……」
彼の名を呼ぶと、下りてきた唇が声を奪い、舌を絡め合わせて深いキスをした。
鷹雄の瞳が興奮で熱っぽく潤んでる。
わたしの頬を愛でるように撫でて、耳に囁きが落とされる。
「雛、かわいい……。くそ……、もう我慢できねぇ…っ!」
鷹雄から余裕が消えて、出し入れするリズムが早くなる。
「ぁああっ……やぁ……、ぁん……あぁっ!」
彼の昂りに突き上げられて絶頂を迎えた。
わたしの中で鷹雄が果てる。
終わったと思うと体の力が抜けて、わたしはソファに体を沈めた。
「雛、平気か?」
「平気じゃないよぉ。こんなところでするなんて、鷹雄のバカぁ、節操なし」
力のこもらない手で彼の胸をぽこぽこ叩くと、苦笑が返ってきた。
「悪かったって。後は休んでていいからな。オレの仕事が終わるまで寝とけ」
鷹雄はわたしの服の乱れを直して下着も穿かせてくれた。
そして、ご機嫌取りのキスを唇にすると、自分の背広を上掛け代わりに被せて仕事に戻る。
寝てろって言われても、そういうわけにもいかないよね。
動こうと思ったけど、事後の体はだるくてつらい。
ちょっとだけ仮眠しよう。
少し休めば回復するはず。
ちょっとだけ、ちょっとだけと言い訳を繰り返して、わたしは深い眠りの中に落ちていった。
(side 鷹雄)
OLの制服を着た雛を見て、我慢ができなくなったオレは、休憩時間に襲い掛かってしまった。
おかげで雛は疲れきって仕事どころではなくなってしまい、室内に置いてあった来客用のソファに寝かせて、残りの仕事を片付けることになった。
オレの背広を被って寝ている雛は愛らしくて目の保養になる。
元々、一人で過ごすはずだった仕事場に潤いを与えてくれたのだから、まるで役に立たなかったわけではない。
そうは言っても、毎日これじゃ、仕事に支障をきたしそうだけどな。
集中して残りの書類を処理し終わると、外はすでに暗く、時計を見れば七時になろうとしている。
今日のノルマは終わらせたし、帰るとするか。
椅子から腰を上げて雛に歩み寄り、肩を揺り動かした。
「雛、起きろ。帰るぞ」
声をかけると、雛は目を覚ますなり慌てだした。
「ごめん、鷹雄! ちょっとだけ休むつもりで寝ちゃった!」
申し訳なさそうに上目遣いで謝ってくる。
気にするなって言っても、責任を感じてしまうところが雛らしい。
「謝らなくていい。今日はオレの都合につき合わせて悪かったな、雛が来てくれて助かった」
心のからの感謝の言葉を添えて、雛の頭を撫でた。
雛の表情が笑顔に変わる。
「役に立てた? それなら嬉しい」
いちいち抱きしめたくなるリアクションを返されて、オレの理性はまた飛びそうになってきた。
だめだ、頑張れ。
オレは理性を総動員して、着替えに出て行く雛を見送った。
さて、その間に……。
携帯を取り出して、食事に向かうホテルに部屋の手配も頼んでおく。
通話を切って携帯をしまうと、オレも帰り支度を始めた。
今日は二度おいしく雛をいただこう。
オレは先ほどの雛との交わりを思い出してニヤけながら、優雅なディナー後にやってくるであろう官能的な一夜を想像した。
END
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