束縛

バレンタイン&ホワイトデー番外編

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(side 秋斗)

 正月が過ぎれば、次に待っているのはバレンタイン。
 世間がチョコレートとハートで浮かれる二月最初の休日、オレは自宅の自室で嵐の勉強を見ていた。
 和泉との結婚話も着々とは進んでいるが、資金や準備の都合であと一年ぐらい先だ。
 お互いまだ二十代半ばということもあり、それほど焦ってはいない。
 恋人時代の思い出もたくさん欲しいので、二人であちこち出かけていたりする。
 今日は和泉が大学時代の女友達と会うというので、仕方なく……なんて言うと嵐が拗ねるだろうが、家庭教師をやっていた。

 真面目に机に向かって問題を解いていた嵐がふいに顔を上げ、戸口の方に目を向けた。

「秋斗さん、誰か来たみたい」

 嵐の言う通り、階下で人の声がして階段を誰かが上ってくる。
 和泉が帰ってくるには早いし、母さんか?

 足音はオレの部屋の前で止まり、戸を開けた。

「おーい、穂高! 遊びに来たぞ!」

 足音の主はオレの親友である雪城冬樹だった。
 雪城は手土産と思われる菓子の入った袋をぶら下げて、オレ達に笑顔を向けた。




「今日はおはぎを買ってきたぞ。穂高、和菓子好きだろ」
「おう。それじゃ、茶でも入れてくる」

 雪城と嵐を部屋に残して台所に行く。
 湯を沸かし、客用の玉露を入れた。
 お、いい香り。
 おはぎなら皿と箸がいるな、全部お盆に乗せて……っと。

 オレは和食派だ。当然、飲み物も菓子も和を好む。
 だが、和泉が用意してくれるものは何でも好きだ。
 そんなわけでチョコレートもOKと先月からことあるごとに口にして催促している。そうしないと和泉のことだ、オレはチョコレートが好きじゃないからと、気を遣ってくれないかもしれない。
 自慢じゃないが、和泉がくれるチョコが人生初の本命チョコなのだ。
 高校の時は春香ちゃんや海藤もくれたけど、二人のは義理チョコだしな。
 オレは例の噂で怖がられていたから、それ以外でチョコをくれたのは母さんだけだ。
 ……寂しい話はやめよう。
 部屋の戸を開けて、中に呼びかけた。

「嵐、休憩するぞ。雪城、そこのテーブル広げてくれ」

 折りたたみの小さいテーブルを出して盆を置く。
 オレ達はテーブルを囲んで座り、おはぎを食い始めた。

「もうじきバレンタインだよな。オレさ、正月から春香と新居で同棲始めたじゃんか。だから、今年のバレンタインは今までやれなかったことをしたいって言ったんだ」

 雪城達は結婚を機にマンションを借りて、しばらく二人で過ごすつもりらしい。
 二人は互いに一人っ子。実家は隣同士ということもあり、いずれは両親達と暮らすつもりということだが、若い内は二人だけでの生活を満喫するのだと雪城が希望を主張して実現したのだそうだ。

「今までやれなかったことって何?」

 嵐の問いに、雪城はニヤリと笑った。
 黙っていれば文句なしの二枚目なのに、春香ちゃん絡みの話題を語る時のこいつの顔は危険だ。
 雪城はだらしなく口元を緩めた変質者一歩手前の表情で答えた。

「ほら、よくあるだろう? プレゼントは私ってやつ。それのバレンタインバージョンだ!」

 嵐はよくわからなかったのか首を傾げている。
 オレは何となくわかってしまった。
 付き合いも長いからな。
 こいつのコスプレ好きの変態臭い性癖はよーく理解している。

「つまり、チョコを春香ちゃんにやってもらう気なんだな」
「その通りだ! よくわかったな!」

 嵐はまだわからないようで考え込んでいる。
 わからなくていいぞ。
 お前はこんな世界は知らずに普通に育ってくれ。

「包装紙とリボンもオレが選んだんだ。春香は最初嫌がってたけど、お願いしたら聞いてくれた。バレンタインが楽しみだな」

 うんと言うまで粘ったんだな。
 こいつが大型犬がじゃれつくかのごとくおねだり攻撃をかける様が目に浮かぶようだ。
 春香ちゃんも可哀想に。
 惚れた弱みで変態プレイにつき合わされているんだ。
 同情心から目に涙が滲んだ。

「冬樹さん、よくわかんないけどすごいチョコもらえるんだ。オレも欲しいな」

 現在は中学三年生、春から高一になるが、当時のオレ達より純粋な少年は、羨ましそうに雪城を見つめた。
 こいつは子供らしく甘いものが大好きだ。
 雪城は嵐の肩を叩いて爽やかに言った。

「春香のチョコはあげられないけど、嵐もお嫁さんもらったらやってもらうといいよ。用意するものは体が包める包装紙と赤い布で作ったリボンと、肌に塗るチョコクリームと……」
「雪城ーっ!」

 健全な青少年が怪しい道に誘われようとしている。
 オレは嵐からヤツを引き剥がし、その口を押さえて封じた。




 その後、いつものごとく春香ちゃんの惚気話をして雪城は帰っていった。
 今回はオレも和泉のことで惚気返したので、側で聞いていた嵐は居たたまれない空気を感じてか、いつの間にかいなくなっていた。
 それにしても彼女をチョコにとはね。
 包装紙とリボンか、和泉も似合いそうだな……。

 オ、オレは違うぞ!
 コスプレなんて興味はないぞ!
 羨ましいなんて思ってないぞ!

 ちらちらと浮かぶ妄想を、頭を抱えて必死で否定しているところに和泉が帰ってきた。

「秋斗くん、ただいま」

 友人との外出は楽しいものだったらしく、和泉は笑顔だった。
 邪まな妄想が申し訳なくなるぐらい純粋な天使のような微笑み。
 恐らくノーマルな彼女に、チョコになってなんて、普通じゃないお願いなんぞできるわけがない。
 いや、頼んだらやってくれるかもしれないけど、初めて二人で過ごすバレンタインがそんなのなんてあんまりだろう。

「お帰り、和泉」

 オレは笑顔を繕い、彼女に出迎えの言葉を返した。

「バレンタイン用のチョコレート選んできたの。当日に渡すから安心してね」

 あまりにも何度もチョコレートが欲しいと言い続けていたので、気にしてくれていたみたいだ。
 ちょっと恥ずかしくなったけど嬉しい。

「ありがとう。オレの方も準備はばっちりだ。バレンタインの夜も楽しい思い出にしよう」
「うん」

 今年の計画は完璧だ。
 落ち着いた雰囲気の店で食事をした後、夜景を見ながらのデートを予定している。
 でも、来年は……、ちょっと考えてみよう。




(side 春香)

 わたしと冬樹くんは年明けと同時に実家を出て、賃貸マンションに引っ越してきた。2DKの部屋は日当たりも良く、スーパーも近くにあって便利のいい場所に建っていた。
 籍はもう入れてある。
 だから、表札は雪城だけ。
 式はまだだけど、新婚気分を味わって毎日楽しく過ごしていた。

 ……ただね、親の目がなくなったせいか、冬樹くんの変態度がさらに増してきた気がする。
 コスプレえっちはいつものことだけど、裸にエプロン一枚つけただけの姿をおねだりされた時にはさすがに抵抗した。
 でも、結局根負けしてやってしまったけど。
 おまけにバレンタインにはチョコレートになってなんて、変なお願いまで聞いてしまった。
 はあ……。
 もうわたし達、普通には戻れないのね、今さらだけど。

 もう今日はバレンタイン当日。
 夕ご飯を済ませた冬樹くんは、さっきから期待で輝く瞳をこっちに向けている。
 はいはい、わかりましたよ。
 犬にお預けさせているような気分になりつつ、わたしはシャワーを浴びに浴室に向かった。

 体は綺麗に洗っておかないとね。
 全身を隅々まで丁寧に洗い、のんびりお湯に浸かる。
 この後に続く憂鬱な時間を想像すると、無意識に長湯になっていた。




 濡れた体を拭き、脱衣カゴに目を向ける。
 銀色の包装紙と赤いリボン。
 こんな大きな包装紙どこで買ってきたのかな。

 カサカサ音を立てる紙をバスタオルみたいに体に巻いて、リボンを腰に巻いて結んだ。
 うーん、これでいいのかな?
 違っていたら冬樹くんに直してもらおう。

「おまたせ」

 部屋の方に出て行くと、待ち構えていた冬樹くんが飛んできた。
 わたしの前で立ち止まり、上から下まで舐めるように見つめてくる。
 気のせいか息も荒い。

「えっとね、これで良かった?」
「うん!」

 こくこく何度も首を縦に振って、冬樹くんが抱きついてくる。

「おいしそうなチョコありがとう! 味わっていただくよ!」
「きゃあ!」

 あっという間に床の上に転がされて、リボンが解かれる。
 包装の意味がないじゃない。
 ……と、思っていたら、冬樹くんも察したのか苦笑を浮かべて囁いた。

「写真も撮っておきたいけど、春香が嫌かと思って」
「当たり前よ」

 百歩譲って変態プレイには付き合っても、形に残すことだけは禁止。
 改めて自分のそんな姿を見るなんて冗談じゃない。

 銀の包装紙が左右にめくられて床に敷かれる。
 わたしは裸でその上に横たわっているという、何とも言えない状況になった。

「じゃあ、まずはチョコのホイップクリームからね」

 冬樹君は市販のホイップクリームを取り出して、わたしの上にクリームを乗せ出した。
 絞るだけでいいそれを胸の上で動かして、膨らみをデコレーションしていく。

「いただきます」

 あんっ。
 クリームごと胸を舐められた。
 ちろちろと怪しく舌を動かして、冬樹くんは膨らみの裾野から味わっている。

「あ……ああっ……やあぁん!」

 ついに頂点にたどり着いた唇は、クリームを頂の蕾ごと口に含み、吸ったり舌先で突いたりして弄ぶ。
 もう片方の胸も同じようにされて、丹念に舐められた。
 まだ胸だけなのに、感じてきたかも……。

「んー、おいしい」
「あう……、くすぐったいよぉ……」

 冬樹くんは全て嘗め尽くす勢いでチョコとわたしを食べていった。
 胸の次はお腹に手足ときて、最後は足を広げられた。
 うう、やっぱりそこも?
 濡れている秘所を指で触り、冬樹くんが呟いた。

「チョコはもういいや。ここからは春香を味わおう」

 きゃあああっ。
 足の間に冬樹くんの頭があり、両の太腿で挟む格好になる。
 舌が、舌が……。
 たまらず彼の頭を押さえたけど、秘裂をおいしそうに舐められて腰が動く。

「あっあっ、あーっ!」

 一際高い声を上げて達してしまう。
 わたしを絶頂に導いた冬樹くんは満足げな顔で起き上がり、服を脱ぎだした。

「春香はチョコレートよりもおいしいね。オレへの贈り物はお前だけで十分だ」

 裸で覆い被さってきて、彼は口づけと共に囁いてくる。

「それならオプションはいらないでしょう? 次からは普通に抱いてよ」
「え、やだ」

 不満漲る声を上げて、冬樹くんは眉を寄せた。

「普通の春香もいいけど、色んな服着た春香も好きだ。オレのささやかな幸せを奪わないでくれっ!」

 彼はむぎゅっと抱きついてきて、唇や頬にキスを散らす。

「まだまだ着てもらいたい服があるんだ! それに試したいシチュエーションもたくさんあるぞ。新婚さん定番の「ご飯とお風呂どっちを先にする? それとも私?」ってやつもしたいし、○○屋と人妻の不倫シチュとかも萌え!」
「わーんっ、冬樹くんの変態!」

 どこがささやかな幸せよ。
 大体、人妻の不倫シチュって何?
 夫だけでなく間男の立場もやりたいなんて、幾ら想像だからって理解できない。
 奥さんとか言って、人妻に迫るシチュエーションがいいのかな?

 わたしの旦那様はどんどん怪しくなっていってます。
 はあ、どうしたものかしら。
 むにゅむにゅ胸を揉まれて気持ちよくなりながら、ため息をつく。

「春香、愛してる」

 甘く蕩けそうな声音で囁く人は、姿形は最高の男性。
 整った顔と、真っ直ぐな瞳で見つめられたら、ついついぼうっと見惚れてしまう。

 顔だけで好きになったんじゃないけどね。
 その証拠に、どれだけ変な性癖を打ち明けられても、そのせいで恥ずかしい目に合っても、最後には許せてしまうんだ。

「わたしも愛してるよ」

 くすくす笑って彼の体を抱きしめ返す。
 キスをして、彼の欲望を受け止めた。
 熱いそれは冬樹くんそのものだ。
 彼の心と同じように、激しくわたしを求めてくる。

「いいよ……、ああ……、ああんっ」
「う……、くっ……、ううっ」

 一緒に動きながら足を絡めてしがみつく。
 わたしも欲しいの。
 あなたの全てが欲しい。

 いつの間にか抱き起こされていて、わたしは座っている冬樹くんの上に跨っていた。
 もちろん体は繋がったまま。
 床で押し倒されている姿勢より、抱きしめられているこちらの方が好き。
 情欲に流されていても、冬樹くんはわたしを見ていてくれる。
 決して自分本位に動いて果てたりしない。
 二人で気持ちよくなろうって、態度で示してくれる。

 体が熱く上り詰めていく感覚と一緒に、心も高まっていく。
 冬樹くんが大好きだから、彼に望まれて傍にいることができて、とても幸せ。




 一ヶ月って早い。
 今日は三月十四日、ホワイトデーだ。
 冬樹くんはどんなお返しをくれるんだろう?
 クッキーとかマシュマロかな、ホワイトチョコでもいいけど。

 期待して待っていたのに、帰宅した冬樹くんはホワイトデーのことは何も言わなかった。
 忘れているのかな?
 自分がもらう時はあんなに催促したくせに、ちょっと酷い。

 少しだけ腹を立てながら入浴を済ませる。
 部屋に戻ってみると、冬樹くんはいなくて、代わりに人が入れるサイズの大きな袋が置いてあった。
 シールで張るタイプのプレゼント用のリボンがついている。
 もしかしなくても、ホワイトデーのプレゼントだろう。

 ごそごそと中で何かが動いていた。
 なるほど、確かに相応のお返しね。
 でも、あまり嬉しくない。

「冬樹くん、出ておいで」

 呼びかけると、袋から彼が顔を出した。
 頭だけ出ている姿はなんかマヌケだ。

「ホワイトデーのプレゼントはオレだ。デコレーション用に生クリームやホワイトチョコを用意したぞ。さあ、存分に塗って食べてくれ!」

 袋から出てきた冬樹くんは全裸だった。
 脱力してその場に崩れ落ちた。
 こんなお返し、いらない。

 ようやく迎えた新婚生活はこんな感じで、幸せながら少し変。
 だけど、ちょっぴりとだけど楽しくも思えてしまうのだから、わたしもとうとう引き返せないところまで来てしまったのかもしれない。


 END

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