償い
鷹雄サイド・11
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「副社長、昼食の手配はいかがいたしますか?」
羽鳥に声をかけられて、壁の時計に目をやると、昼はとっくに過ぎていた。
食欲はない。
気を抜けば、雛の泣き顔や声が甦り、オレを悩ます。
「オレはいい。一時間やるから、昼食と休憩を済ませてこい」
羽鳥を追い出して、書面に目を落とす。
現在、オレが手がけている仕事は、鷲見グループ関連の商業施設を地方都市に出店する計画だ。
すでに店長を始めとしたスタッフは揃えて教育中ではあるが、肝心の中身の準備が終わっていない。
現地で収集された情報を分析して、今後の指針をまとめている。
予想される客層から、売れると目星をつけた企業とコンタクトを取り、業務提携のために交渉中だ。
電話で商談をしながらパソコンを操作して、ひたすら目の前に積み上げられた仕事を片付けていった。
羽鳥が戻ってきて、一時間が過ぎたことを知る。
時間の感覚がない。
この調子であっという間に人生が終わればいいのにな。
「羽鳥、資料室に行ってきてくれ。必要な資料をこれに書いておいた。間違えるなよ」
メモを渡して資料を持ってくるように命じると、羽鳥は急いで出て行った。
オレがイラついているのがわかっているんだろう。
この部屋で補佐をさせれば八つ当たりしかねないだろうし、ヤツには外に出る仕事を指示した方が良さそうだ。
電話が鳴る。
商談を任せた部下からだった。
報告を聞いて、任せても問題ないと判断した。
「その件はそちらの采配に任せた。一両日中に契約をまとめて、報告は遅くとも明後日には寄越せ」
指示を出して受話器を置いた。
電話中にノックの音がして扉が開いた気配がしていたが、羽鳥が戻ってきたんだろう。
「早かったな。言いつけた資料は持って……」
顔を上げて、信じられないものを見た。
部屋に入ってきたのは雛だった。
「雛? お前、どうしてここに……」
幻覚を見るほど頭がいかれるには早いだろ?
目を擦って瞬きしたが、雛は消えない。
幻じゃない、本物の雛だ。
「何をしにきた!? 二度とオレの前に現れるなと言ったはずだ!」
立ち上がって怒鳴りつける。
忘れようとしているのに、なぜお前は現れる。
オレが求める愛をくれないくせに、まとわりついて惑わせるな。
消えてくれ。
互いに望むものが違うオレ達は、一緒にいても傷つけ合うだけだ。
どうしてそれがわからない。
だが、雛は逃げなかった。
凛とした目でオレを見つめ、逆に怒鳴り返してきた。
「もう、あなたの言うことは聞かない、聞く必要もない! お父さん達への援助は隼人さんがしてくれる! わたしにはもう弱みなんてないんだから、追い出せるものならやってみなさい!」
予想もつかない雛の反撃に、オレは呆然と立ち尽くした。
そして自惚れていた自分に苦笑する。
そうだよな、雛はオレに愛想を尽かしたんだ。
頑張って償おうとしてきたお前にオレがした仕打ちを思えば文句の一つも言いたくなるよな。
張り詰めた気が一気に緩み、椅子に腰を下ろして、雛の視線を避けるように体ごと横を向く。
「オレを罵りにきたのかよ。いいぞ、好きなだけ言え。隼人さんが味方についてんなら怖くねぇだろ。覚悟はできてる、気が済むまで殴っても構わない」
こちらに近づいてきた雛は、机の脇を通って、オレの前に立った。
腰に手を当てて、椅子に座ったオレを見下ろしてくる。
オレに対して怒っている雛の顔なんて、久しぶりに見た。
ふくれっ面でもかわいいって思えるんだから、オレは相当まいってる。
「じゃあ、遠慮なく言わせてもらう。鷹雄はバカだよ、人の気持ちまで勝手に決め付けて、一人でいじけて何やってるの? 言ってくれなくちゃわからないじゃない! わたしのことが好きなら好きって言えばいい! わたしだってずっと好きだったんだから!」
雛の口から「鷹雄」と初めてオレの名前が紡がれた。
そしてずっと好きだったとも。
頭の中が混乱する。
整理が追いつかない。
「雛、お前、何を言った? オレのこと名前で呼んだ? それに好きって……」
慌てるオレに構わず、雛はさらに近づいてきた。
「もう妹じゃないから、お兄ちゃんて呼ばない。わたしは憎まれてるんだと思ってつらかったんだよ。どう責任とってくれるの? あなたしか愛せないように捕まえていたくせに、いきなり放り出すなんてひどいじゃない! 自分だけが苦しんでいたなんて思わないで!」
雛が語った内容は、オレには衝撃が強すぎて一言も返せない。
詰め寄ってくる雛の勢いに押されて、無意識に椅子ごと後ろに下がっていた。
がしゃっと椅子と壁がぶつかる音がして、動けなくなる。
オレを壁際まで追い詰めた雛は、膝の上に乗ってきて叫んだ。
「今までわたしの何を見てたのよ。いくら償いだからって、愛してもいない人に身を任せると思ったの? あなたと血がつながってると思ったから、わたしは妹として距離をとっていただけよ。知らなかったんだもの、しょうがないじゃない! わたしの初めてを無理やり奪って、脅して何度も抱いたくせに、今さら後悔して逃げるなんて許さない! この償いは一生をかけてしてもらうからね!」
ぎりぎりまで顔を近づけて、目を閉じて抱きついてくる。
ふわっと雛の匂いがした。
甘くて優しい気持ちになれる香りだ。
「二度と離れたくない。両親のこととか、兄妹とか関係なく、わたしは鷹雄が好き。一緒にいたい、鷹雄の隣にいたいの」
雛の告白を聞いて、オレの胸に二つの感情が同時に芽生えた。
愛してくれていたという喜びと、そのことに気づかず雛を傷つけてきた後悔。
しがみついている雛の背に、恐る恐る手を伸ばす。
「オレはお前を失うことが怖かった。繋ぎとめようとして思いつく限りのことをした。だけど、オレのために泣いている雛を見て、自分に嫌気がさした。兄としてしか見てもらえないなら、離れようと決めた。駒枝と婚約したのもそのためだ。お前しか愛せないオレには、伴侶に愛を求めないあいつは最適な相手に思えた。表面だけは普通の人生を送れば母さん達は安心するからな。お前の言う通り、オレはバカだ。勝手にいじけて自棄になって人生を棒に振ろうとする、意気地なしで弱い、こんな卑怯な男は見捨てられて当然だったんだ」
オレの告白を聞いて、雛は離れるどころか強く抱きついてきた。
「わたしは見捨てない。ううん、誰も見捨ててなんかいない。鷹雄は愛されているんだよ。お父さんもお母さんも、つぐみさんも隼人さんも、鳶坂さんだって、みんなあなたが好きなんだ。怖がらないで、わたしはどこにも行かない、誰の物にもならない。鷹雄の傍にずっといる」
こんなオレでも雛は許してくれるのか?
傍にいると言ってくれた。
見捨てないって、そのたった一言だけでも、オレは幸せになれる。
瞳を見交わして、唇を重ねた。
オレは誓う。
何があっても雛を幸せにする。
それがオレを支えて愛してくれたお前に報いる唯一の方法だから。
「一生をかけて償う。幸せにするから、オレについてきてくれ」
「うん、どこまでも一緒に行くよ」
にっこり微笑んで、雛はオレの胸に顔を寄せた。
オレは雛のうなじに顔を寄せて、肌にキスを落とす。
「あ、鷹雄。だめだよ」
雛が抗議する。
それもそのはず、オレの手は雛のブラウスのボタンを外し、スカートの中に手を入れていたのだ。
「償いの手始めに、ここで気持ちよくしてやるよ。たっぷり愛してやるからいいだろ?」
「やぁん、もう、自分がしたいだけなんでしょう?」
ぽかぽか胸を叩かれたが痛くも痒くもない。
キスで声を遮り、指をショーツの中に潜り込ませて中を探った。
「……ん…ぁあ……、鷹雄ぉ……」
とろんと目を潤ませて、雛が抵抗をやめた。
「かわいいぞ、雛。お前はオレの最高の女だ」
「嬉しいよ、わたしはずっと鷹雄に愛されたかったの。だから、今はすごく幸せ」
二人で幸福を分かち合い、笑い合う。
ドアの外には渡がいるようだし、少しの間なら邪魔は入らないだろう。
気持ちの通い合った今だからこそ、雛を感じていたい。
わがままにつき合わせて、オレは雛と愛を交し合った。
雛と両思いになったオレは、親父とちどりさんに雛との間に起きた事を全て告白し、謝罪した。
親父には一発殴られたけど、当然の報いとして避けずに受けた。
ちどりさんはオレを許してくれた。
そして親父と一緒に過去のことをオレに謝ってくれた。
本音を打ち明けあえることができて良かったと思う。
これでオレ達はようやく親子としてやり直すことができる。
これからは隼人さんとちどりさんのことも、父さん、母さんって呼ぶことができそうだ。
雛が大学を卒業するのを待って、籍を入れることにした。
今は婚約だけしている。
婚約指輪を買おうとしたが、雛は一日兄妹の日にやったあの指輪でいいと言い張った。
一度抜いてはめ直すことで、嫌な思い出はなかったことにした。
元々、両思いの記念にしようと買ったものだから、本来の使い方ができて、無駄にならなくて良かったのかもな。
「毎日、幸せそうだな。円満なカップルを見てるのは退屈で、オレとしちゃ、ちょっとつまらないんだけどさ」
雛の警備に関する報告書を持ってやってきた渡が、そんなことを言った。
つまらないって。
こいつ、人の前途多難な恋路を楽しんでやがったな。
今回はかなり世話になったが、それとこれとは別だ。
借りがあっても、興味本位でつつかれるのは面白くない。
「人のことより、自分はどうなんだよ。例の鳩音ちゃんとはうまくやってんのか?」
先日、雛に頼まれて二人を接近させるべく、遊園地でダブルデートをやったのだ。
二人っきりにしてやろうと、園内に入るなり、オレと雛は別行動でデートを楽しんだ。
楽しすぎて、途中でこいつらの存在を忘れ去っていたのは黙っておこう。
「いい感じで付き合ってるよ。まだ彼氏彼女ってわけじゃないけどね」
自分のことになると、渡は口を濁した。
そういや、こいつから彼女の惚気話とか聞いたことないよな。
ただ一人を除いては。
まだ、あのことが引っかかってるんだろうか?
「お前、まだあの女のこと引きずってるのか?」
渡の肩が微かに揺れた。
垣間見えた動揺に、苦い失恋の記憶が消えないままであることを確信した。
「鳩音ちゃんは雛ちゃんの親友だ。簡単に手を出せるような子じゃない。大事にしたいから、ゆっくりやってるだけだ」
渡は話を逸らして終わらせた。
それ以上追求する気も起きなくて、そうかと引き下がった。
嫌な過去に触れられて渋い顔をしていた渡だが、いきなりニヤリと口の端を持ち上げて表情を変えた。
「鷹雄に心配されるなんて、明日は雨か雪が降るな。雛ちゃんに傘の用意をするように言っておかないといけないな」
ケラケラ笑って、渡はドアに向かった。
「何だと、この! 何が起ころうとも、金輪際てめぇの心配なんざしてやるもんか! とっとと幻滅されて、振られちまえ!」
「残念でした。鳩音ちゃんとオレはすでにラブラブなんだよ。近いうちに、お付き合い宣言するかもね」
閉まったドアを睨みつけて、どかっと椅子に腰を下ろす。
悔しさで歯噛みしたものの、この腹立たしさが持続しないこともわかっている。
だからこそ、付き合いが続いてるんだよな。
あんなことを言ったが、渡にも本物の春がくればいいと思う。
オレと雛のように、彼女があいつの支えになってくれるといいんだがな。
土曜日の仕事帰りに、居酒屋で親父と待ち合わせをした。
親父は相変わらず忙しい人だったが、オレが誘うと時間を空けてくれた。
店内のカウンター席で、親父はつまみとビールで時間を潰しながらオレを待っていた。
「おう、やっと来たな。悪いが、先に飲んでるぞ」
「ああ、構わない。オレもビールを頼む。それと……」
メニューを見て、単品で料理を幾つか注文し、席に落ち着く。
運ばれてきたビールで、特に理由はないが乾杯した。
「そうか、鷹雄も大人になったんだよな。こうして肩を並べて一緒に飲める日が来るなんて、お前が生まれた日には想像もしなかった」
感慨深げに親父が独り言を呟いた。
オレは何となくバツが悪くなった。
オレが意地を張らなければ、和解はもっと早くできていたんだ。
親父にもつらい思いをさせた。
オレは周りの人間を傷つけてばかりだ。
落ち込んだオレの背中を親父が叩いた。
顔を向けたら、歯を見せた親父の笑顔がそこにあった。
「そんな顔をするな。お前は孝行息子だよ。オレを許してくれて、援助の手も差し伸べてくれた。でかい男になったな、隼人さんには感謝してもしたりない。オレは父親らしいことを何一つしてやれなかったから、正直言って、こうしてお前の隣にいることが許されていいんだろうかって思っているぐらいだ」
親父は自嘲気味に呟いて、手元のビールを眺めていた。
「そんなことねぇよ。親父はオレの自慢の父親だった。仕事に一生懸命で、家族思いでさ。母さんを捨てたことだけは許せなかったけど、オレもいつまでもガキじゃねぇ。あの時、離婚する以外にどうしようもなかったことだけはわかってる。ちどりさんは雛の母親だけあってイイ女だ。守ってやりたかったんだろ? あの人もいらん苦労を背負い込んで、自分を痛めつける人だからな」
オレがそう言うと、親父はジョッキを傾け、息を吐いた。
「本音を言うと、つぐみとも別れたくはなかった。あいつは初めてオレが本気で惚れた女だからな。すれ違っていてもいつかはわかってくれるだろうと思っていた。それでも苦しい時に支えてくれるちどりにも惹かれていった。彼女が幸せな生活を送っていたのなら諦めることもできたが、幼い子供を抱えて頼る者のいない孤独を知った時、見捨てることができなかった。オレは勝手なヤツだ。二人の女に惚れて、結局どちらもつらい目に遭わせた。子供達も苦しめた。なあ、鷹雄。オレはどうすれば良かった? 何をすればお前たちを幸せにできたんだろう」
親父の独白は、自分を責めるものだった。
この人は十八年もの長い間、一人で罪と向かい合って、答えを出せずに苦しんでいた。
親父を解放してやれるのは、オレ達だけだ。
償いの連鎖が、これでまた一つ消える。
「母さんは親父と結婚できて幸せだったって言ってたぜ。ちどりさんも親父と出会って幸せになれた、血が繋がってなくても雛は父親だと慕っている。オレもあんたの息子に生まれて良かったって思ってる。ガキの頃に愛された記憶は、今でもオレの中に強く残ってるんだ。確かにつらい目にも遭ったけど、親父がオレ達にくれたものはそれだけじゃない。オレ達はあんたに出会えたからこそ、今幸せなんだよ」
親父は黙ってビールを飲む。
目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
オレは親父が泣くところなんて見たことがなかった。
大きくて頼もしかった背中が一回り小さく見えた。
「辛気臭せぇな、泣くなよ。全部終わったことだ。親父はちどりさんを幸せにすることだけ考えてりゃいいんだよ。母さんには隼人さんがいるし、雛はオレが守ってやるんだからな」
「ああ、そうだな。鷹雄、ありがとう」
ありがとう、の言葉に込められた様々な思い。
オレに向けられた親父の愛情を感じとり、胸が温かくなった。
「今度、一緒に旅行にでも行こうぜ。家族旅行なんてしたことなかっただろ。雛も喜ぶ」
写真もたくさん撮ろう。
今ならオレは笑える。
家族の一員として、一緒に笑える日がやっと来たんだ。
マンションに帰ると、雛が出迎えてくれる。
オレを兄だと慕っていた頃の、屈託のない笑顔が戻っていた。
「お帰りなさい、夕飯は食べてきたんだよね。お父さんとお話しできた?」
「幾ら話してもしたりないぐらいだった。今度、四人で家族旅行しようって言ってるんだ。雛も行きたいところがあるなら考えとけ」
「うわあっ、家族旅行なんて初めてだよね。近くでもいいよ。ゆっくり休めるように温泉とかがいいかな?」
自分の行きたい場所より、親父達がのんびりできるようなプランを真っ先に考える辺りが雛だ。
オレ達はガイドブックを広げて、行き先の候補を選び始めた。
ホテルや観光地の記事を眺めながら、ちらっと雛に目をやる。
家の中だからか、ブラウスに膝丈のスカート姿だ。
座っているので膝が出ている。
ブラウスは薄く、ブラの肩紐が透けて見えていた。
無防備な姿。
こいつ、他の男の前でもこんな格好してやしないだろうな?
「雛、ちょっとこい」
「ん? 何?」
這いながら移動してきた雛を、膝の上まで引き寄せた。
前を向かせて座らせ、後ろから抱きかかえる形で体に腕をまわした。
「やっ、ちょっと待って!?」
腹の辺りまでボタンを外して、ブラウスの前を開いた。
ブラをずり下ろして、二つの膨らみを露出させる。
両手をそれぞれにあてがって、肌の弾力を楽しみながら揉み解した。
中指で乳首を探ると、そこは硬くなっていて、弾くと雛の体が大きく震えた。
「やめて…やだ……、あっ……んあっ……」
腰をくねらせて雛は逃れようとする。
耳朶を口に含み、甘噛みしてやると、抵抗は見る間に小さくなっていった。
「やだじゃねぇだろ、して欲しかったんだろうが。こんなやらしい格好でオレを誘ってたくせに」
雛の足は膝を折る形で大きく開かれて、スカートはめくれて下着が丸見えになっていた。
水色のショーツの中心には染みができていた。
「誘ってない、鷹雄がこんなことするから……」
「オレのせいにするのかよ。じゃあ、もうしてやらねぇ。風呂入って寝る」
高めた状態で雛を膝から下ろす。
ぺたんと床に座り込んだ雛は、赤い顔をして物言いたげにオレを見上げた。
「鷹雄ぉ……」
恨めしそうにオレを睨む。
恥ずかしくて、自分からはおねだりができないんだな。
頬が緩むのを押さえて、オレは意地悪を続ける。
「何だよ、お願いがあるなら言えよ。優しいオレ様は、かわいい雛のためなら何でもしてやるぞ?」
雛はさらに顔を赤くした。
もじもじ体を動かして、俯く。
「……して……」
「んー? 聞こえないぞ?」
ニヤニヤ笑うオレを、顔を上げた雛は涙目でキッと睨んだ。
「鷹雄の意地悪! もういい、自分でするっ!」
立ち上がって部屋を出て行こうとする雛の腕を掴んだ。
「離してよ! 鷹雄なんか嫌い!」
ばたばた暴れる雛を引きずって寝室に向かった。
ベッドに押し倒して、唇をキスで塞ぐ。
おとなしくなった雛を見下ろして、ニッと笑った。
「悪かった、意地悪しすぎたな」
むき出しのままの胸に口付けて、頂を舐めた。
新たに加えられた刺激に、雛の体に熱が戻って来た。
「あん、あ……」
乳房を愛でながら、スカートを抜き取る。
ショーツはびしょ濡れで使い物にならない。
こちらも脱がせて、足を開かせた。
「もう十分みたいだな。指とオレとどっちがいい? 選ばせてやるよ」
雛はオレの背中に腕をまわしてきた。
「……はぁ……あぁ……、た、鷹雄がいい…の……。嫌いなんて嘘だからね。大好きだよ、わたしは鷹雄じゃないとダメなのぉ……」
かわいいことを言いながら甘えてくる。
あんなの信じてねぇよ。
お前がオレを嫌いになることなんてあり得ない。
「雛、自覚なしでやってるだろ。お前のそういうところがすごくかわいい。素直になったご褒美に、満足するまでかわいがってやるからな」
どちらが満足するまでなのかは、あえて言わない。
開いた花の中心に、避妊具をつけたオレ自身を入れていく。
「ああっ、んっ、……ぁあんっ……」
溢れ出た蜜が肉棒に絡みつき、ずぶりと迎え入れられる。
中ではぐいぐい締め付けられ、昇天寸前の快感を味わった。
「……ん、く……、雛、どうだ?」
「お兄ちゃん、イキそうだよぉ。抱きしめてキスして、愛してるって言って欲しいの」
雛の望み通りに、体を抱きしめ、唇を重ねた。
「愛してる。オレはお前のことだけを愛してきたんだ」
「わたしもあなたしか欲しくない。愛してる」
愛を囁きあう合間に、唇に何度も触れてキスをする。
雛の中にいるオレの分身が興奮で高まり、腰の動きも早まる。
「…ぁ……うっ……」
「あっ、ああっ、わ…たし……、あぁ……っ!」
オレが精を放ってすぐに雛も達して大きな喘ぎをもらした。
呼吸を整えながら、雛の額に手をやる。
汗の浮かんだ額を拭って、唇を寄せた。
こいつはオレの女だ。
交わるたびに安堵して、強く抱きしめる。
オレを癒してくれる唯一の存在を、もう二度と離さない。
休日に一緒に街へと出かけた。
兄妹のお出かけでも、オレの独りよがりでもない、正真正銘の恋人同士のデートだ。
「鷹雄、これ買って」
雛がオレの腕にしがみついて引っ張った。
腕を絡めて、イチャイチャとくっつくオレ達は、どこから見ても立派なカップルだ。
他人からみれば、うっとうしくて消し去りたくなる熱々ぶりだろうが、当事者のオレ達は幸せに酔って気にしていない。
雛が欲しがったのは、露店のアイスクリーム。
オレは欲しくなかったので、ダブルのヤツを一つ買い、雛が食べるのを見ていた。
かわいい舌でぺろぺろアイスを舐めている。
唇と舌の動きで、オレのアレを舐めている時を思い出して、邪まな気持ちがむくむくと膨れ上がってくる。
まずい、やりたくなってきた。
この辺にホテルねぇかな?
盛りのついたオレは、周囲を見回してホテルを探す。
雛はそんなオレの思惑に気づいていないようで、無邪気にアイスを差し出してきた。
「あーん、して。食べさせてあげる」
理性もぶっ飛びそうな甘いお誘いに、逆らうことなく体を屈めてアイスを一口頂戴する。
「おいしいでしょう?」
「ああ、うまい」
これもいいが、もっとおいしいものが目の前にあるんだがな。
物足りなくて、視線は自然に雛の唇へと動いていく。
うまそう……。
食べ終わって満足している雛を抱き寄せて、アイスでべとついている口元をぺろりと舐めた。
ん?
雛が固まっている。
「た、鷹雄! 何やってるの!?」
顔を真っ赤にして、雛が怒り出した。
「アイスが欲しいなら、鷹雄も買えばいいじゃない。恥ずかしいことしないで!」
どうやらアイスの味を求めて舐めたのだと思われている。
オレが味わいたいのは、アイスじゃなくて雛だってのに。
雛の耳に口を寄せて、小声で囁く。
「アイスより、雛が食べたい」
雛の顔は赤いまま。
だが、その赤さの種類は変わっている。
「照れてんのか? 嘘じゃねぇぞ、オレはいつでもお前が欲しい」
できることなら、一瞬でも離したくない。
これでも抑えている方なんだ。
雛の朱色に染まった頬に口付けて、オレは手に入れた幸福を味わった。
END
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