償い
雛祭り
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バレンタインが終わるなり、スーパーの特設菓子コーナーはひな祭りとホワイトデー関連商品に早変わりした。
オレも今年は鳩音ちゃんにチョコをもらったので、ホワイトデーにはお返しをするつもりだ。
菓子だけってのも物足りないので、ちょっと奮発して豪勢なデートプランを立てて誘ってみよう。
鷹雄はどうするんだろう?
参考までに聞いてみるかと、就業後にたまには二人で飲みに行こうと鷹雄を誘って居酒屋に行った。
四人掛けの席に向かい合って座り、適当に酒と料理を注文して飲み始める。
オレがホワイトデーの計画を聞く前に、鷹雄がぼそりと呟いた。
「もうじき、ひな祭りだな」
「え? ああ、そうだな」
ひな祭りは女の子のイベントだ。
あれを人形を飾って、菓子を食うだけの行事だと思っているオレは、正直言って興味がなかった。
「ついでに言うなら、雛の誕生日なんだ。だからできるだけ派手な一日にしてやりたい。祭りの名に相応しい賑やかなものを考えている」
派手ねぇ。
例えば……。
思わず縁日風に飾り立てた鷲見の本宅を想像した。
あのでかい庭なら、露店もたくさん置ける。
さらに雛祭りと書いた看板があちこちに置かれ、雛ちゃんの人形を乗せた神輿が、奥のひな壇の前まで担がれていく。
ひな壇は八段飾りの超特大のもので座っているのは全て仮装した人間で、女雛は雛ちゃん、男雛は鷹雄だ。
なんだこりゃ?
自分の想像を頭から追い払い、酒を飲んだ。
その間にも、鷹雄はひな祭りの話題を続けている。
「義父(とう)さんが乗り気でな、屋敷の庭園を祭りの会場に貸してくれるそうだ。少し趣向を変えたガーデンパーティーだと招待客には伝えてある」
「え? まさか本気でやるのかよ、雛ちゃん祭り」
オレの想像が現実のものになったのかと焦ったが、鷹雄は何を言っているのかと眉を顰めた。
あ、ついでに補足しておくと、鷹雄が言う義父さんというのは鷲見社長のことだ。
「ひな祭りだ。庭に人形を置いて、誕生日用の三段ケーキを用意する。ちらし寿司に白酒や菱餅、ひなあられなどの定番の食い物も手配済みだ。お前も招待するから、必ず来い」
あ、そういうこと。
そうだよな、幾ら鷹雄でもそこまでおかしな祭りはしないよな。
雛ちゃんも引くだろうし。
「十二単も用意させた。もちろん内裏はオレと雛だ。渡には五人囃子をやらせてやる。他の招待客にも全員もれなく雛人形の格好をしてもらう」
前言撤回。
神輿や露店はないものの、奇妙な祭りには違いない。
しかし、雛ちゃんを喜ばせようと準備に張り切っている鷹雄を前にして、やめろとはとても言えないオレだった。
でもさ、どうせ役を割り当てられるなら五人囃子より大臣がいいな。
三月三日。
雛祭り当日は土曜日ということもあり、雛ちゃんの友人だけではなく、鷲見家の友人知人も合わせて十分な人数が集まった。
主役の雛ちゃんは十二単のお姫様姿でにこにこ笑っている。
オレは結局、五人囃子の衣装を着せられた。
レンタルにしても、こんなものまで用意するなんて、どれだけの金が動いたのかと思うと目まいがしてきた。
「渡さん、雛にプレゼントを渡しにいきましょう」
「うん」
三人官女姿の鳩音ちゃんに促されて、雛ちゃんのところに行く。
「雛ちゃん、誕生日おめでとう」
「おめでとう、雛」
オレと鳩音ちゃんが祝いの言葉を言ってプレゼントを渡すと雛ちゃんは喜んでくれた。
「ありがとう、今日は本当に嬉しいことばっかり。このパーティーも鷹雄が準備してくれたんだよ」
彼女は心からの笑顔をオレ達に見せた。
鷹雄のとんでもない計画は意外にも成功したようだ。
今日の出来事も、雛ちゃんの良い思い出になるといいな。
END
■あとがき。
スーパーで買い物をしている時に雛祭り関連の商品を見て、漢字が同じことから雛ちゃん祭り(作中の渡の想像と同様のもの)を想像してしまい、頭から離れなくなりました。
何考えてんだ私と、自分にツッコミを入れつつ書いてみました。
ちなみに雛の誕生日は後付け設定です。
こんなのでも笑ってくれる方がおられると嬉しいです。
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