憧れの騎士様
エピソード5・ルーサー編
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近頃のオレは早起きだ。
なぜかって?
それはリンの寝顔が見られるから。
恋人同士になってからは、オレは堂々とリンの隣で眠っている。
当然、やることもやっている。
昨夜も熱く愛し合った。
そのせいで疲れ切っているのか、リンが目覚める気配はまだない。
彼女より早く起きて、じっくりと寝姿を見つめる。
可愛らしい唇が時々小さく動く。
呼吸だったり、言葉にならない寝言だったり、微笑みだったりと、いくら眺めていても飽きがこない。
その内、魔が差す。
引き寄せられるように、顔を寄せる。
彼女のパジャマの上着のボタンを外して前をはだけ、形のいい二つの大きな膨らみを露わにする。
昨夜、あれほど堪能したのに、また触りたくなってきた。
そっと手を添えて撫でる。
柔らかい。
「……ぅん……」
眠っているはずのリンの唇から、悩ましげな吐息がこぼれた。
我慢できない。
両手で胸をまさぐりながら、さらに接近。
リンの目がぱちっと開いたが、構わず唇を重ねた。
「う、むむっ、ん~」
リンはもがいていたが、オレは夢中で口内に舌を入れた。
もう、このままいただいてしまおう。
今のオレは本能のままに行動する一匹の獣だった。
「な……に、するのよっ!」
どかんと腹に衝撃が走る。
「んぎゃあっ」
リンの蹴りが決まり、オレはマヌケな声を上げながらベッド下に転げ落ちた。
「朝ぐらいゆっくり寝かせなさい。昨夜、あんなにさせてあげたのに足りないの?」
不機嫌にリンはオレを睨んだ。
こういう顔もかわいい。
ベッドから蹴り落とされようとも、リンのすることなら何でも許せてしまう。
蹴りを入れられたというのに、うへへとニヤつくオレはかなり変な男だろう。
こんな会話ができるのも、オレ達が恋人同士だからなんだ。
ベッドに肘をついて体を起こしてリンを見上げる。
「うん、足りない。オレはいつでもどこでもリンと繋がっていたい」
「わたしは嫌よ。そのせいでアパート追い出されたんだから、少しは反省して慎みなさい」
オレ達は一ヶ月ほど前に、アパートを追い出された。
壁が薄いから、えっちの時の物音や声が筒抜けで、苦情が多数出たらしい。
うーん、回数が半端じゃなかったからか。
みんなも遠慮せずに、もっと愛し合えばいいのに。
「こういうことは自然の摂理で、お互い様なんだから、もっと大らかに受け止められないものなのかな」
「お互いさまって言っても、時間を問わずされたら、誰でも苦情を言いたくなるわよ」
リンからも、抑えろとは言われている。
これでも我慢してるんだけど。
朝食を食べて、何をするでもなくソファに並んで座る。
オレの方が身長も座高も高いので、少し目線を下に向けると、リンのシャツの隙間から覗いている胸の谷間がはっきり拝めた。
この無防備な姿が、オレを挑発してるってわからないのかな。
辛抱できなくなって、胸にそろそろっと手を伸ばす。
この感触がたまらない。
「いたっ」
ぎゅっと手の甲をつままれた。
ああっ、赤くなってる。
恋人なのに、この仕打ちはあんまりだ。
「いたいよぉ、リン」
赤くなった甲に息を吹きかけて文句を言う。
リンはふんと冷たくそっぽを向いた。
「万年発情期の男には、これぐらいしないと効かないでしょう?」
そう言われると身も蓋もないな。
だって、しょうがないじゃないか、今まですっごく我慢してたんだよ。
「新しい部屋は音の心配はしなくてよくなったけど、その分家賃が上がったんだから、仕事してお金稼がなくちゃ。ギルドに行って依頼を探そう」
リンはさっさと予定を決めて、出かける支度を始めた。
オレの前で服を脱ぎだす。
肌を重ねてからは、リンは躊躇することなく、オレの目の前で着替えてくれる。
ズボンが下ろされ、小さな布で覆われた肉感的な尻がオレを誘う。
まるで食べてと言わんばかりにゆらゆらと……。
オレはリンの背後から抱きついた。
シャツのボタンは外されたばかりだ。
ぽろんと飛び出た生乳を手の平で掴むように掬い上げた。
「あ、こら!」
リンが怒ったけど、オレの理性は崩壊した後だった。
こんなおいしそうな身体を目の前にして、何もしないわけにはいくまい。
「行く前に一回させて」
「やだ! 一回で終わったことないじゃない!」
リンの抵抗が徐々に弱くなってくる。
もう少しだ。
彼女が感じる揉み方は心得ている。
「やだぁ……、いやだよぉ」
リンは壁に手をついて、はぁはぁ乱れた呼吸を繰り返した。
腰がぴくぴく動いている。
下半身の最後の砦である下着を取り払い、指を足の間に這わせた。
よしよし、濡れてる。
わざとゆっくり割れ目をなぞり、愛液を指に絡めて糸を引かせる。
「やだって、して欲しいんでしょ? ほら、もうこんなに濡れてる」
リンに見せ付けてやると、頬が真っ赤になった。
涙目になってる。
かわいいよぉ、鼻血吹きそう。
「ばか、やめなさいってばっ」
この期に及んでも、リンは気丈な態度で、オレを牽制しようとする。
ふーんだ。
聞かないもんね。
これだけ欲しがってるくせに拒絶できるものならしてみろ。
彼女の中に中指をゆっくりと沈めていく。
「ああっ」
リンが切なく声を上げた。
指を巧みに動かして、リンの性感を刺激する。
イキそうでイケない中途半端な愛撫に、リンは腰をくねらせて無意識におねだりしている。
「我慢しないで言えば? 欲しいんでしょう?」
耳元に口を寄せて囁いた。
オレの顔は優越感でニヤついている。
「い、言わないからね。わたしは……欲しくなんか……」
「もう強情だなぁ。いいよ、出かけるから一回で我慢する」
腰を抱えて後ろから突き入れた。
リンの身体が大きくのけぞる。
中が締まって気持ちいい。
腰を動かし、彼女の体を前後に揺すぶった。
「ルーサー、だめぇ。変になるよぉ」
壁を伝って床に崩れ落ちたリンは、ついに陥落した。
オレの動きに逆らうことはせず、自分から合わせてくる。
「気持ちいいよぉ、もっとしてぇ」
甘えた声でねだってくるリン。
彼女がオレを求めるたびに心が満たされる。
リンの愛情はオレにとって水みたいなものだ、枯れてしまっては生きていけない。
この行為は、オアシスに水を満たしていくようなもの。
もっともっと君が欲しい。
オレが飢えてしまわないように、もっと愛をちょうだい。
行為に没頭していて、気がつけば昼を過ぎていた。
リンにお小言を言われながら、ギルドに向かい依頼を探す。
もう夕方だし、明日は準備で、出発は明後日になるな。
帰りはいつもの酒場で夕ご飯。
お、盛況だな。
カウンターも、どのテーブルも埋まっている。
どこかに二人分の席は空いてないかな?
「おーい、こっちこっち!」
ガッドが呼んでいる。
呼ばれて足を向けると、大きなテーブル席に冒険者仲間が集まっていた。
端っこの席が二つ空いていたので、リンを端に座らせてその隣に座る。
オレのこの行動に、みんな――特に男共は不服そうだ。
「ルーサーのガードは固いなぁ。みんな姐さんの隣に座りたいんだから、もう一方の席に座らせてくれてもいいじゃないか」
「だめ。お前ら、隙あらば触ろうとするだろ」
仲間との軽いスキンシップなら、リンは簡単に許してしまう。
こいつらの下心なんて見え見えなのに。
リンの柔らかな身体に触っていいのはオレだけだ。
目を光らせて、変な男が近寄ってこないように見張ってないと。
酒場にいる間は気が抜けない。
「へえ、あんたが噂の姐さんか。どんなゴツイ大女かと思えば、なかなか可愛い子じゃないか」
さっそくお出ましだ。
剣士風の若い男がリンに声をかけてきた。
体格はいい方だし、剣の方もなかなかの腕前かもしれない。
あくまで立ち居振る舞いからの推測だけど。
「あんた誰? いきなり失礼じゃないの?」
リンは男を胡散臭そうに見やり、問いかけた。
男は肩をすくめて、愉快そうに口元をゆがめている。
しばらく様子を見てみるか。
変な素振りを見せたら、速攻で追い払おう。
「オレを知らないのか? 剣士バジルっていえば、この界隈じゃ、そこそこ顔も名前も売れてるつもりだったんだがな」
「初めて聞いたわ」
「つれないね。この街の冒険者の男共を虜にしているリンの姐さんに会いたくて、毎日酒場に通っていたのに」
バジルと名乗った男は、すっとリンの顎に指を這わせた。
あっ、オレのリンに気安く触るなっ!
この瞬間、排除を決定する。
「気に入った。今夜の寝床はあんたと共にしよう」
「もっとイイ男と寝るから、お断りよ」
リンはバジルの腕を払いのけると、オレの腕に抱きついた。
そうだ、そうだ。
お前なんかお呼びじゃないぞ。
オレとリンはラブラブなんだ。
わかったら、さっさと消えろ。
だが、バジルはオレを見て嫌な笑みを浮かべた。
バカにしたような嫌味な笑い方だ。
「これがイイ男? 確かに顔は綺麗だけど軟弱そうな坊ちゃんじゃないか。あんたこういうのが好みなのか?」
オレが反論する前に、反応したのはリンだった。
「バカにしないで、ルーサーは強いのよ。あんたなんかに負けやしない!」
オレを庇ってくれるのは嬉しいけど、どうもバジルは何か企んでいるようだ。
リンを挑発するように、ヤツは話を進めていく。
「それは聞き捨てならないな。だったら、こうしよう。オレがこの坊ちゃんと勝負する。それで勝ったらあんたを一晩好きにさせてもらう。万が一オレが負けたら、裸で街を一周走ってやるよ」
「その勝負、受けて立つ!」
あ、まずいよ、リン。
完全に頭に血が上っている。
気がついたみたいけど、遅かった。
どうにも面倒くさいことになったなぁ。
「さて、勝負の方法だが、オレは魔法が使えないし、そっちは剣を使えない。だから男らしく拳で決めるってのはどうだ? 体術のみで戦うんだよ。それならフェアだろう」
「待ちなさい、戦うのはわたしよ。同じ剣士なんだから、こっちの方がフェアでしょう?」
「何だ、女を戦わせて自分は逃げるのか? その綺麗な顔に傷をつけたくないのか、そりゃまた大事にされてるな。どっちが男か女かわからないぜ」
うまいやり口だな。
そう言われて断れば、オレは決闘から逃げた男として笑い者になる。
絶対にオレに勝てると思っているのか。
このオレに体術で勝負を挑むとは、身の程知らずな。
オレを挑発するバジルに、リンが憤って殴りかかろうとしている。
彼女の肩に手を置いて、少し真面目に表情を引き締めた。
「いいよ、リン。オレが戦う」
思った通り、リンはぼうっとオレに見とれた。
ふふん、こういうギャップを見せるのも作戦の内だ。
情けない弟分が、一転して自分を守る頼もしい男に変わるのだ。
これでさらにリンはオレに惚れる。
面倒くさい事態に巻き込まれた以上は、この状況をせいぜい利用させてもらおう。
「ようやくやる気になったようだな。これで盛り上がるぞ。あっさり勝ってもつまらないから、特訓する時間をやるよ。一週間後に街の広場で決着をつけよう」
何も知らずにバジルは上機嫌で猶予をくれた。
一週間も必要ないけど、演出には最適だな。
オレの自信には根拠がある。
体術に関しては、リンの父さんからお墨付きをもらっているんだ。
リンにくっついて村を出ようと決めた時、おじさんが「オレを倒せなければ娘は任せられん」とか言うもんだから、死ぬ気で特訓して勝負を挑み、激闘の末に同棲の許可を勝ち取った。
もちろんリンは知らないし、知らせる気もない。
オレがリンの父さんを倒したなんて言っても、信じてもらえなさそうだしね。
「ルーサー、いつまで寝てるの? ほら起きて!」
翌朝、リンに起こされて目を覚ました。
まだ、夜が明けたばかりじゃないか。
「どうしたの? もっと寝てようよ」
ごしごし眼を擦りながら起き上がる。
「今日から一週間、朝から晩まで特訓するの! 絶対に負けられないんだからね!」
リンは燃えていた。
オレをベッドから引きずり下ろして、着替えを投げつけてくる。
嫌だなんて言ったら殴られそうだ。
仕方なく着替えて外に出る。
「街外れの丘まで走るから、頑張ってついてきなさい!」
そう言って、彼女は軽快な足取りで走り出す。
オレも後ろをついていく。
昔と違って追いつけないなんてことはない。
十分、余裕を持って、リンのペースに合わせて走った。
丘の上は気持ちよかった。
街を見下ろす小高い丘は眺めも最高だ。
辺りには人や獣の姿は見えず、気配すら感じない。
まるで世界にはリンとオレの二人しかいないみたいだ。
邪魔されたくないから結界張っとこう。
オレは密かに魔法を使い、辺りに透明の結界を張った。
これは結界の領域に外部から触れた者を弾く魔法だ。
触れた者はそれが何であるかもわからずに、無意識に避けていく。
術者のオレには外の様子がわかるから、変わったことがあればすぐに気がつく。
結界を破れるのは、オレと同等かそれ以上の力を持つ魔法使いだけだ。
「始めるわよ、用意はいい?」
「うん、よろしくお願いします」
リンは構えから攻撃、防御へと移る基本の型を教えてくれた。
初心者のフリをしているから、言われる通りに動いていった。
「ルーサーは飲み込みが早いね。それじゃ、攻撃するから防御して」
リンの早い踏み込みに、反射的に距離をとって下がった。
やばい。
ぼうっとしてたら、遅れを取ってしまう。
集中しないとな。
リンは真剣なんだし、オレもきちんと付き合わなきゃ。
リンの拳を手の平で受け流し、蹴りも腕で払う。
相手の動きに合わせて受け流すのが防御の基本。
手合わせなんて、この三年まったくしてなかったけど、勘はすぐ戻って来た。
普段、魔物と戦っているからだろう。
バジルとの決闘も負ける気がしなかった。
「次はわたしを倒すつもりで、遠慮なく打ち込んできなさい!」
リンが防御の構えをとった。
リンを攻撃?
かわいい愛しの君に、拳を向けるなんてできるわけないじゃないか。
「やだ」
構えを解いて拒否すると、リンがオレの胸倉を掴んだ。
「やだじゃないの! 特訓しなきゃ、あいつに勝てないでしょう!? ほら、構えて!」
胸倉を揺すぶる手を掴み、代わりにぎゅうっと抱きしめた。
ふにゃあ、いい匂い。
彼女の胸の膨らみが体に当たって、下半身が節操なく反応してくる。
「リンと殴り合いなんてやだ。組み手より、こうしたい」
リンの感触をうっとりしながら堪能して、甘く囁く。
腕の中のリンはじたばたもがいていたけど、オレの囁きを聞いて困ったように眉をしかめた。
「そんなに心配? オレは勝つよ。リンのためだもん」
肌に口付け、首筋やら耳朶などを舐めまわす。
「や、こらぁ、ダメよ。こんなところで……」
ダメって言ってるくせに、リンは本気で引き剥がそうとはしなかった。
絶対に嫌だったら、容赦なく蹴り倒されてるはずだ。
オレのキスで腰が落ちそうになっている体を抱えて、草の上に寝かせる。
肌がほんのり赤くなっているのは、オレに触れられたせいだ。
上に覆いかぶさって、じっと彼女の瞳を覗き込んだ。
「信じてよ。あんなヤツにリンを渡さない。死ぬ気で頑張るから、安心して見守っていて」
リンの腕がオレの背中にまわった。
「絶対に勝って。ルーサー以外の男に抱かれるなんて、わたし、嫌だからね」
「うん、オレもだよ。必ず君を守る」
目を瞑ったリンの唇を奪った。
頬に手を添えて、舌を丁寧な動きで絡ませていく。
「……うぅん……、ルーサーぁ……」
潤んだ瞳で見上げられて、欲望が高まる。
朝日を浴びながら、青空の下でのえっちなんて新鮮だ。
興奮したオレは、リンの上着の裾に手をかけた。
「やめなさいっ!」
リンの怒声と共に、視界がまわる。
気がつくと、草の上に仰向けに倒れていたのはオレの方だった。
起き上がったリンが、腰に手を当てて見下ろしてくる。
「ルーサーはすぐえっちに持ち込もうとするんだから! 決闘が終わるまでさせてあげない! 今日からは特訓だけに専念するの!」
オレは飛び起きて、リンの腰にすがりついた。
「そ、そんな、えっちなしって、一週間も? ダメだよ、リンに飢えて、オレ死んじゃうよぉ」
「おかしなこと言わないの! 今までだってなしで生きてきたじゃない! そうね、キスも禁止よ。完全な禁欲生活にしないと流されかねないもんね」
うんうんと満足そうに頷くリン。
目の前に置かれたご馳走を取り上げられた気分だ。
キスもダメなんて、ダメなんてぇ……。
ちきしょうめ、バジルの野郎!
ヤツがあんな勝負を挑んでこなければ、こんなことにはならなかったんだ!
一週間もリンに触れないなんて、気がおかしくなるかも。うわああん。
リンはベッドも別にしようと言い出して、リビングのソファで眠っていた。
三人掛けのソファはゆったりしているから、リンの身長なら余裕で眠れる。
だから気兼ねはいらないんだけど、オレは寝室のベッドで毛布にくるまり、独り寝の寂しさにむせび泣いていた。
寂しいよぉ。
扉一枚隔てた部屋で、ぐうぐう眠っているリンが恨めしい。
彼女の愛を、ちょっぴり疑ってしまった。
やっと、この日が来た。
一週間の禁欲生活にピリオドを打つ日がやってきたのだ。
オレの頭の中は、裸に剥いたリンにあれこれしている妄想でいっぱいだった。
対戦相手の男のことは、欠片も気にしていない。
先に来て待っていたバジルは、オレと一緒に現れたリンを好色そうな目で眺め回した。
「わかってると思うが、オレが勝ったら今夜あんたはオレのものになるんだぜ」
「あんたが負けたら、裸で街を一周してもらうわよ」
バジルを睨みつけるリンに、オレは微笑みかけた。
「大丈夫だよ。リンにちょっかい出したことを、すぐに後悔させてやるから」
リンはオレの方を向くと、顔を寄せてキスしてくれた。
野次馬から冷やかしのヤジが飛んだが、オレは嬉しくて頬を緩めた。
「お守りのキスだよ。勝たないと許さない」
「わかってるよ」
身体を解して、バジルと向き合う。
それじゃ、お手並み拝見といきますか。
あっさり勝つと、勝利のありがたみがないもんな。
しばらくは防御に徹して、出方をみてやろう。
「始め!」
バジルが選んだ野次馬の一人が合図を出した。
それと同時に、息もつかせぬ連続攻撃が襲ってきた。
ヤツが繰り出す拳や蹴りを、同じく足と腕を使って受け流す。
動きは洗練されて隙がなく、スピードもある。
本物だな。
それでも、オレの目はヤツの動きをはっきりと捉えている。
かわすのは容易いが、気は抜かずに受身を続けた。
「ほらほら、どうした! 避けてばかりじゃ、オレには勝てねぇぞ!」
拳を交えても、バジルにはオレの実力がわからないらしい。
それだけ、オレの演技力がすごいってことかな。
ちらっとリンの様子を窺うと、こちらも不安そうに声を張り上げていた。
「頑張って!」
リンが応援してくれてる。
外野の声援の合間を抜けて届いた声は、オレを痺れさせた。
一瞬だけガードが甘くなる。
バジルはその隙を逃さなかった。
腹に打ち込まれた拳の一発。
あ、今のは効いた。
少し身体が前に動く。
「ルーサー! 負けないで!」
悲痛に響くリンの声。
うん、わかってる。
オレは負けない。
遊びは終わりだ。
最初から、一発でケリが着く勝負だったんだ。
前のめりになった上体を静止して、右の拳を握りしめた。
懐に完全に入っている。
腕を振り上げれば、軌道にはバジルの顔がある。
オレの拳は正確に相手の顎を捉えていた。
バジルの体が吹っ飛んでいく。
広場の地面の上に倒れこんだヤツは、白目を剥いて気を失っていた。
「ルーサー、すごい! よくやったわ!」
駆け寄ってきたリンに抱きつかれた。
当然の結果だけど、そ知らぬ顔で微笑んでおく。
「だから言ったでしょう? オレは負けないって」
リンはよほど嬉しかったのか、頬に祝福のキスまでしてくれた。
オレも彼女を抱きしめる。
一週間ぶりのリンだ。
渇ききった心のオアシスが、リンで満たされていく。
「うう……、こ、このオレがたった一発食らっただけで気を失うなんて……」
バジルが目を覚ました。
リンは上半身を起こしたヤツに歩み寄り、勝利の笑みを浮かべて見下ろした。
「ルーサーの勝ちよ。自分の言ったことはきちんと実行してね」
「ち、仕方ねぇ。男に二言はない。やってやろうじゃねぇかっ!」
言うが早いか、バジルはズボンも下着も思い切りよく脱いだ。
広場にいた女性からは甲高い悲鳴があがり、男達からは囃し立てる歓声が沸き起こった。
それからは大騒動だ。
大通りに出て行ったヤツを追いかけて、群衆が移動していく。
オレとリンは平穏を取り戻した広場にしばらく立っていたが、全てが終わったらしいことを悟ると歩き始めた。
「まさか、本当にやるとは思わなかったなぁ」
「泣いて謝れば許してあげようかとは思ってたんだけどね。色々な意味でキツイし」
話しながら、リンはオレの腕に抱きついてきた。
甘えてくるような仕草に、オレの顔は緩みっぱなしだ。
甘えるのもいいけど、頼られるのも悪くない。
思惑通り、リンの中でオレの地位は向上したようだ。
弟分でもいたいけど、君を守る騎士でもありたい。
こんなことを願うオレはワガママなんだろうか。
まあ、何はともあれ、面倒くさい決闘も無駄にはならなかったな。
この後は、いよいよお待ちかねの時間がやってくる。
覚悟してね、リン。
今夜は離さないからね。
アパートに戻って落ち着くと、リンをベッドに押し倒した。
今のオレの心境は長時間お預けをくらわされていた犬のようだ。
残酷な飼い主には、ご褒美にたくさんご飯をもらわなくちゃ。
「ねえ、リン。オレ、頑張ったよ。褒めて、褒めて」
「あー、うん。偉い、偉い」
リンは気のない声で頭を撫でてくれた。
甘えん坊に戻ったオレに呆れているみたい。
いいよーだ。
とりあえず、目の前の膨らみに頬ずりして欲求の一部を満足させた。
「ね、ご褒美にえっちしてもいいでしょう?」
「うん、いいよ。ちゃんと勝ってくれたし、好きなだけさせてあげる」
「やった! 一週間分しようねっ」
リンは重いため息をついた。
逆にオレは浮かれきっている。
下半身の息子も期待で起き上がってきた。
渋るリンを急かして風呂に入り、一緒にベッドへと飛び込んだ。
「ああ……、ふぁ…ううんっ、……やぁ…あっ……」
ぎしぎしとベッドが軋む。
大胆にリンの足を開かせて、愛液が満たされた秘所にオレ自身を打ち込んだ。
これで何回目かな。
オレに貫かれ、彼女が感じて背中をそらすたびに、大きな乳房が弾んで目を楽しませる。
喘ぎ声を唇で封じて、揺れ動く胸を掴む。
柔らかさを楽しみ、乳首をこねたりして刺激すると、繋がっている部分がきゅっと締まってイキそうになる。
「リン、すごい……、ね、締まってるのわかる?」
「……やぁ、あん……、もぅ……許してぇ」
「だめ、オレはまだ満足してない」
リンの瞳は涙で潤みっぱなしだ。
こぼれた涙の跡をぺろっと舐めてみる。
腰を動かして、さらに追い詰めていく。
「ああんっ、くふっ、う……うあっ、ああっ」
リンが達して泣き声に似た声を上げた。
オレの体は引っ掻き傷や、キスマークであちこち赤くなっている。
全部リンがつけた印し。
彼女がオレで感じた証拠でもある。
まだ足りない。
体が真っ赤に染まるぐらい、君が欲しい。
無限に湧き出る欲望に突き動かされて、オレは一晩中リンを求め続けた。
あれから三日が過ぎ、オレは道具屋に行って作成した魔法薬を売ってきた。
わざわざオレを指名して依頼してくれる客もいるそうだ。
魔法使いとしての自信を深める。
これなら冒険者をやめても食っていけるな。
リンと幸せな結婚生活を送るためには職にありつかねばお話にならない。
この先の人生設計を頭で描きながら、オレはリンが待つ我が家へと帰った。
結局、冒険には出ていない。
リンが動けないからだ。
一晩中やりまくったものだから、彼女はずっとベッドの中で、歩いてもフラフラだ。
今も、毛布にくるまって唸っている。
「明日こそ、明日こそは冒険に~」
毎日呪文みたいに唱えている。
オレは無理はしないでと声をかけて、もらったばかりの報酬を見せた。
「魔法アイテムの作成で仕事はこなしているから、お金の心配はしなくていいよ。万全の体調で出かけないと、危険だからね」
「だって、わたしは剣で身を立てるって決めたんだから、ルーサーばっかり働かせるわけにはいかないじゃない」
「リンがしたいことを止める気はないけど、せめて調子が戻るまではおとなしくしていて。オレは君が大事なんだ」
少し真剣に諭してみたら、意外にもリンは素直に頷いた。
妙にしおらしくなった彼女に、ちょっと拍子抜けした。
どうしたのかな?
じっと顔を覗き込むと、リンは頬を染めて上目使いで見上げてきた。
うわわ。
なんだ、この反応。
めちゃくちゃかわいい。
でも、この目の輝きには微かに覚えがある。
オレに向けられるはずのない、憧れの輝き。
まさかね。
いくらなんでも、そこまで都合よくはいかないか。
今回は見直してもらえただけで大収穫だ。
弟分の立場からはまだまだ抜け出せないけど、これからも頑張ろう。
もしかすると、ゴールは案外近くまで見えてきているのかもしれない。
END
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