憧れの騎士様

番外編・古書

INDEX

(side ルーサー)

 冒険者ギルドの隣には、大きな図書館があった。
 置いてある書物は教養に娯楽などの一般書籍に加え、魔法や武芸に関する専門書まで幅広い。
 かなり古い時代の本まで大切に保管されており、貴重な歴史と知識の宝庫ともいえる。
 オレはたまに図書館に立ち寄り、本を借りていく。
 読んでいるのは魔法書だ。
 今回は古書と呼ばれる年季の入った古い本ばかりを選んでみた。
 昔に使われていた魔法には変り種が多い。
 姿を消す魔法だとか、体を小さくする魔法なんてのもある。
 何かの役に立つかもしれないから覚えておこうかな。
 ん?
 これ、何だ?
 薬の作り方みたいだけど……。

 表紙には『秘密の薬』と書いてある。
 中身をよく読んでみると、どうやら媚薬の作り方らしい。
 どんなに理性的な人でも欲望に支配され、えっちに対して積極的になってしまうほど強力な薬だということだ。
 材料は道具屋で売っているものばかりなので、すぐ揃えられそうだな。
 作ってみようかな……。

 リンと恋人同士になったのはいいけど、いつもえっちはオレから仕掛けて始まる。
 たまにはリンから誘って欲しいと思っていたのだ。
 恥ずかしがって抵抗する姿もそれはそれでそそるが、大胆に飛び込んできて欲しい時もある。

 オレは秘密の薬の本を借りた。
 帰路の途中で道具屋に寄り、材料を購入して、スキップしながらアパートに帰る。

 アパートは先日引っ越したばかりの防音効果もばっちりな新婚さん向き物件だ。
 リビングとキッチンに浴室とトイレが標準装備の上、多目的の部屋が二つ別にあり、二人暮らしには部屋数も十分。寝室は二人で使っているから、空いた一部屋はオレの仕事部屋にもらった。
 部屋には魔法薬作成のための道具がたくさん置いてある。
 リンは気を使って仕事部屋には立ち入らないから、何の薬を作ろうともバレることはない。
 よーし、張り切って作業開始だ。




 (side リン)

 図書館から帰ってくるなり、ルーサーは仕事部屋に閉じこもった。
 魔法薬を作っているみたいだから、邪魔をしちゃいけないよね。
 外で体を動かしてこようかな。
 次の冒険に備えて、体力づくりをしておかなくちゃ。
 そうと決めたら行動あるのみ。
 部屋着から運動に適した上下に着換えて、タオルを首にかける。

「ルーサー、外を走ってくるから留守番お願いね」

 扉の外から声をかけると、「うん」と返事が聞こえた。
 念のために鍵をかけて、わたしは外へと駆け出していった。




 ランニングの途中で広場に立ち寄り、柔軟体操や筋力を鍛える運動をした。
 汗もたくさん掻いたし、そろそろ帰ろう。

 帰りも走って、アパートに帰り着く。
 玄関をあけて「ただいま」と声をかけると、ルーサーが出迎えてくれた。

「お帰り、リン。ちょうど良かった。木苺のジュースを作ったんだけど飲まない? 氷で冷やしておいたから、冷たいよ」

 差し出されたのは、ガラスコップに入れられた赤いジュース。
 顔を寄せると、木苺の甘い香りがした。

「いいの? やった。走ってきたから喉が渇いてたんだ」

 喜んで一気飲み。
 ぷはー、おいしいっ!

「甘くておいしい、ありがとう!」
「おいしかった? あ、お風呂も洗っておいたから、すぐ使えるよ」
「ごめんね、ルーサーは仕事してたのに、そんなことさせて」
「いいの、いいの、仕事の方はもう終わって、後片付けしてたんだ。飲み終わったなら、それもついでに洗っておくよ」

 ルーサーは爽やかに微笑み、空のコップをわたしの手から受け取った。
 今日のルーサーは気が利くなぁ。
 お返しに、夕食はわたしが作ってあげようっと。
 メニューはルーサーの大好物のハンバーグにしよう。




 ピカピカの浴室で、機嫌よく汗を流して体を洗う。
 泡を立てたスポンジで肌を擦っているうちに、何だか変な感覚がしてきた。
 胸や下腹部に触れるたびに、体の奥が熱くなる。
 やだ、何これ。
 泡の付いた手で胸に触れると、先端が固くなっていて、指でつついた途端に激しく痺れた。

「やああんっ」

 タイルの上にへたり込み、じわじわ襲い掛かってくる熱に抗う。
 むずむず歯がゆい快感を覚え、秘所に手を伸ばすと、そこはすでに濡れ始めていた。

 ルーサーと恋人同士になってからは頻繁にえっちをしている。
 自慰をしたくなるほど、欲求不満なはずはないのに、どうしてぇ?

「ん……、ふぅ……、あんっ」

 泡と愛液で割れ目に添えた指が滑る。
 クリトリスに指が触れるたびに、えっちな声がこぼれた。
 秘所を弄りながら、胸にも手を伸ばす。
 ふにゅふにゅ揉みながら乳首を摘まんだ。
 うああぁん、気持ちいい……。

「あんっ、……ぅうんっ、はあ……、ぁあん……」

 おかしいな。
 何度も達しているのに疼きが止まらない。
 いくらしても治まらないよぉ。
 胎内へと続く入り口を撫でながら、ここに太くて熱いものを埋めたくなる。

 あれで中を満たされたい。
 堪らず代わりに指を入れてみる。
 でも、すぐに抜いた。
 だめぇ、本物じゃないと満足できない。

 お湯を被って泡を流した。
 体は拭いたものの、服を着るのももどかしくて、バスタオルを巻きつけたまま浴室を出た。
 ルーサー、どこにいるの?
 今すぐ抱いて、この疼きを止めて欲しい。




(side ルーサー)

 媚薬はすぐに完成した。
 調合を終えたその液体は、赤く禍々しい色をしている。
 見た目は悪いが味はないので、何かに混ぜてカモフラージュした方が良さそうだ。

 都合の良いことに、リンは出かけているから、今のうちに飲ませる準備をしよう。
 薬をそれとわからないように、果物を混ぜてごまかすことにする。
 昨日、木苺を摘んできていたので、それでジュースを作った。
 リンは運動してくるのだから、喉を渇かして帰ってくるに違いない。
 すぐに飲めるように木苺のジュースを冷やし、リンの帰宅をわくわくして待った。

 オレの計画通りに、リンは媚薬入りのジュースを飲んだ。
 汗を流しに浴室に入った彼女はなかなか出てこない。
 そっと浴室の様子を窺うと、艶を帯びた喘ぎ声が聞こえてくる。
 おおっ、さっそく効果が出てきたようだ。

 オレも服を脱いで浴室に入ろうと考えたが、思い直す。
 今日はリンから迫ってもらうのが目的なんだ。
 ここは我慢して待とう。
 リンがお願いって言うまで、オレからは手を出してはいけないんだ。




 リビングのソファに座り、じっと我慢の子で待つこと十数分。
 浴室のドアが開く音がした。
 ひたひたと素足の足音が近づいてくる。
 オレは何げなさを装って、そちらを向いた。
 裸にバスタオルを巻きつけただけのリンが、頬を朱に染めて立っていた。

「ルーサー……」

 リンは戸口に手を添えて立ち、物欲しげな顔でオレを見た。
 潤んだ瞳、色っぽく濡れた唇。
 熱を帯びた肌には水滴がいくつも浮かび、流線を描いて肢体を伝い落ちていく。
 と、飛びつきたい!
 脳内は興奮で弾けそうになりながらも、オレは努めて平静を装い、にっこり微笑んだ。

「どうしたの、リン。そんな格好でいたら風邪引いちゃうよ」

 立ち上がり、新たにバスタオルを取り出してリンの剥き出しの肩にかけた。
 リンは戸惑いを見せて、オレを見上げ、こちらが態度を変えないのを悟ると、途方に暮れた表情で俯いた。
 もじもじ体を揺すりながら、やがて彼女は意を決したように顔を上げた。

「あ、あのね、ルーサー……」

 唇が震えている。
 ぎゅっと目を瞑り、オレの胸に飛び込んでくる。
 まだだ。
 まだだめだ。
 頑張れ、オレ!
 リンが抱いてと言うまで耐えるんだ!

 心の中で自分にエールを送っていると、リンが唇を重ねてきた。
 触れ合うだけでは耐えられなかったのか、舌で唇を開けるように促される。
 ふふふ、もうすぐだぞ。

「ん……、うふぅ……、んん……」

 ちゅ、ちゅ、と音を立てて舌を絡める。
 リンはオレの体に触れて、服を脱がしにかかった。
 実力行使できたか。
 でも、だめだよ。
 口で言うまで、させてあげない。

「リン、夜はまだだよ。先にご飯にしよう」

 彼女の体を引き離して、オレは何食わぬ顔でキッチンへと向かう。
 リンが息を呑む気配がした。

「やだ……。ルーサー、待って。お願い、行かないで……」

 色づいた息を吐き、リンがオレを引き止めた。

「だめなの、我慢できないの。ルーサーとえっちしたい。ルーサーの言うこと何でも聞く、どんな恥ずかしいことしてもいいから抱いて」

 リンはオレに駆け寄って、抱きついてきた。

「……はぁん……、ふぇ……、あぁん……、もう、もうだめぇ……」

 彼女はオレにすがりついたまま腰を落としたかと思うと、ズボンのジッパーを下げ、おもむろにオレの下肢を露わにして股間に顔を埋めた。
 舌を使ってオレ自身を舐め上げ、口に含んで刺激を与え始める。

「ちょっ、ちょっと待って! リン、いきなりそんな……っ!」
「ルーサーだって、いつもいきなりしてくるクセに。……ぅん……どうして、今日に限ってしてくれないの、バカぁ……、んんっ……、はむぅ……、ん……」

 リンはオレに文句を言いながら、口での奉仕を続けてくる。
 元々我慢していただけに、オレの息子はあっさり陥落して元気になってきた。
 リンの表情がうっとりとしたものに変わっていき、妖艶な笑みが口元に浮かぶ。

「ルーサー、どんな体勢がいい? 後ろからでもいいよ、早くきてぇ」

 なんとリンは自分から床に這い、お尻を突き出してきた。
 広げられた足の間には魅惑の割れ目がばっちり見えていて、愛液を滴らせてオレを待っている。

「それとも前からがいい? わたしが上に乗ってもいいよ。ルーサーが欲しいの、早く入れてくれないと、わたし、おかしくなっちゃうよぉ」

 十分、おかしくなってるよ。
 まいったな、ここまで凄い効き目だったとは……。

 薬の効果は飲んだ人によって違う。
 体力が尽きると精力も同時に萎えるらしく、つまり体力があればあるほど効果は長続きするのだ。
 リンは体を鍛えているから、体力が尽きるとなると一晩かかるかも。
 オレの方は大丈夫だと思う。
 体力には自信があるから、十分付き合える。

 ずり下がって足に絡まっていたズボンを脱ぎ、上の服も脱ぐ。
 リンのバスタオルも床に落ちていて、オレ達の触れ合いを妨げるものは何もない。

「じゃあ、入れるよ」
「うん、来てぇ」

 リンの腰を掴み、後ろから秘部と秘部を重ね合わせる。
 濡れに濡れて挿入を待っていた彼女の入り口は、オレのモノをぐぐっと呑みこんでいく。
 逃がさないとばかりに締め付けられ、それでいて温かくオレは彼女の中に迎えられた。

「……あぁんっ、いいっ、これが欲しかったのぉ……、あっ、あっ、……はぁ…んぅ……」

 リンの理性は飛んでいた。
 憚ることなくえっちな刺激を欲しがり、自分からお尻を振って、オレを急かす。

「もっと、激しくしてぇ……、ああっ、ぅうんっ あはぁん……」
「…ぅんっ……、はぁ……、あっ、くっ……、ああっ」

 何かオレも余裕がなくなってきたぞ。
 リンの中は熱く蕩けそうで、快感が後から後から湧いてくる。
 腰に添えていた両手を胸へと移動させる。
 リンの体の下でゆさゆさ揺れていた大きな乳房を掴み、指先でくるくると乳首を弄った。

「ああっ、ふぁあんっ」

 新たな刺激にリンが声を上げる。
 愛液もまた溢れ出て、挿入をスムーズにしてくれる。
 オレの方も昂って、夢中で腰を動かす。
 ああう、もうイキそう……。

「リン、あっ、うああっ」

 一度目の射精。
 柔らかい乳を揉みながら、出し切って満足している分身の余韻を感じた。
 最高だ。
 えっちなリンもたまには良い。
 さあ、まだまだ夜は長いんだ。
 次はどんな体位で……。

 腰を引いてリンから離れ、これからする淫らな行為を想像してニヤついたが、違和感を覚えた。
 いつもならここでぐったりとしているはずのリンが、くるっとこちらを向いて起き上がったのだ。

「これだけじゃ物足りない。もっと、ルーサーが欲しいのぉ」
「うわっ」

 オレはリンに押し倒されて、またもや口で息子をぱっくり咥えられた。
 さらに手での愛撫も加わって扱き立てられる。

「リン、リンっ、お、落ち着いてっ!」

 オレも体力には自信があるけど、こう急かされてはえっちを楽しむどころじゃないよぉ。
 泣きを入れて、リンに呼びかけたけど、聞いちゃいない。
 彼女は恍惚とした顔で、オレ自身を嘗め回して大きくし、自分から入れようと上に乗ってくる。

 計画は半分成功で、半分失敗だ。
 積極的なのはいいけど、オレは水揚げされた魚のように寝転がり、甘い快楽に翻弄されて喘ぐことしかできなかった。




 (side リン)

 ううん、あれ?
 ここ、どこ?
 今何時?

 ぼんやり薄目を開けると、朝日に照らされた室内が視界に入る。
 体はきちんとベッドの上。
 わたしは一糸纏わぬ姿で寝ていて、体には毛布がかけられていた。

 えっと……。
 確か、浴室で体を洗っていたら、すごくえっちな気分になったんだよね。
 それでルーサーにおねだりして、セックスを始めたんだった。
 さらにその後、わたしは自分から……。

 冷静になった途端、羞恥が一気に襲ってきて頭を抱えた。

 ああん、もう、何であんなことしちゃったの。
 恥ずかしい。
 恥ずかしすぎて、火を噴きそうなほど顔が熱い。

 寝転がったまま毛布にくるまって、あうあう悶えていると、部屋のドアが開いた。

「おはよう、リン。体の調子はどう?」

 ルーサーだ。
 うわああん、顔を合わせられない。

「起きてるんでしょう? 照れなくてもいいよ、昨夜のリンは積極的でかわいかった。オレ、嬉しかったんだよ」

 ルーサーはわたしの傍に腰掛けて、毛布の上からそっと背中を撫でてきた。

「ね、顔を見せてよ。おはようのキスしよう」

 甘い声に誘われて、渋々毛布から頭を出す。
 唇にルーサーの唇が重ねられた。

 彼は唇だけではなく、額にも口付けた。
 照れくささで再び顔に熱が集まってくる。

 寝ててもしょうがない。
 起きようと身動きして、腰が抜けていることに気がついた。
 うわ、力が入らない。

「ル、ルーサー……」

 助けを求めて彼を見つめる。
 ルーサーはすぐに訴えを察知して、わたしをベッドから抱え上げた。

「して欲しいことがあったら何でも言ってね。とりあえず、ご飯を食べよう。オレも反省しているんだから、気にしないでね」

 反省って、わたしの誘いに乗って無茶したことかな。
 ルーサーは良い子だな。
 わたしは彼の首に抱きついて、褒める意味で頭を撫でてあげた。




 わたしの世話がひと段落すると、ルーサーは図書館に出かけていった。
 借りていたのは、魔法薬の作り方が載っている古い本。
 「作成には成功したの?」って聞いたら、ルーサーは苦笑して「もう作らないよ」って言った。
 失敗したみたい。
 ルーサーもまだまだだな。

 また眠くなってきた。
 もうちょっと寝よう。
 早く体力を戻して冒険に出かけなくちゃ。

 しばらくえっちはしたくない。
 昨夜だけで、一か月分ぐらいしちゃったような気がするんだもの。


 END

INDEX

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