償い
鷹雄サイド・6おまけ -渡の独り言-
BACK INDEX
突然の移動命令には驚いたが、オレの配下に配属された面子は面識のある同期か後輩ばかりだったので、特に混乱は起きなかった。
すぐに全員に連絡を取り、本社に集合させた。
メインの仕事は今日だ。
場合によっては、人手が多く必要になるので全員を呼んだのだ。
鷲見専属の警備チームのメンバーは、変装術も習得している。
影からの要人警護の訓練も受けているのだ。
今回は街の中なので、普段着姿の通行人が基本。
でもなぁ、全員ガタイがいいだけに、集団で歩いていると目立つから別れて行動しないとな。
「これがお姫様の写真だ。みんな知ってると思うが一応確認のために見てくれ」
雛ちゃんの写真をまわして見てもらう。
彼女が鷹雄と暮らしていることは周知の事実だ。
詳しい関係を知っているのはオレぐらいだけどな。
普段から美人OLを見慣れている連中も、女子大生との接点がないからか、写真を見て色めきたった。
「実物もいいけど、この写真の笑顔もいいなぁ」
「か、かわいいッスね」
「この写真、もらってもいいですか?」
雛ちゃん、かわいいもんなぁ。
妹属性がハートに来るヤツにはたまらん愛くるしさは健在だ。
「だめだめ。お姫様は我らがご主人様の大事な人なんだからな。写真でも所持していると知られたら、クビどころか血を見るぞ。長生きしたかったら、余計な感情は捨てて護衛に徹することだ」
鷹雄の嫉妬深さは異常だ。
オレは写真を回収し、枚数を確かめて懐に収めた。
鷹雄のヤツは貸し出した写真の数をきっちり覚えている。
一枚でも減っていれば、オレが真っ先に疑われて血祭りにあげられる。
そんなのはごめんだ。
残念がる男達に指示を飛ばし、オレは雛ちゃん達が行く予定のカラオケ屋に向かった。
以前から雛ちゃんの監視を担当しているメンバーは、企業秘密な裏技を使い、別の部屋からモニターで雛ちゃん達がいる部屋の様子を窺っている。
雛ちゃんは浮かない顔をしていた。
鷹雄にバレた時の心配をしているんだろう。
その雛ちゃんの隣には、見るからに遊び人タイプの男が陣取っていた。
親切そうなフリをして雛ちゃんに構っているが、鼻息の荒さといやらしい目つきはモニター越しにもわかる。
狼さん、耳と尻尾が見えてますよ。
少しはその丸出しの欲望を隠せ。
勘のいい人間なら気づくはずだが、生憎と場所は合コン会場。
ノリのいい空気に紛れてしまい、男の危ない気配に、雛ちゃんも友達も気づいていない。
予想通りだよ、鷹雄。
ボディガードつけて正解。
携帯を取り出して、待機中の部下に新たな指示を出した。
「オレだけど、ちょっと怖い感じのお兄さんに化けてくれる? お姫様にちょっかいかけてるフザけたガキが一匹いるから、後でお仕置きするかもしれないんで、よろしく」
何事もなければ、顔を出すこともないんだろうけど、あの様子じゃ無理だろうな。
……というわけで、オレ達はホテルに連れ込まれそうになっていたお姫様を無事に保護した。
雛ちゃんまで怖い目に遭わせたのはやりすぎた気もする。
ああ、雛ちゃん泣いちゃったよ。
「お、お兄ちゃん、助けて。怖いよぉ……」
ぎゅっと目を瞑って震えながら泣く彼女。
幻聴か、周囲からハートを射抜く矢の音が複数聞こえたような気がする。
いや、幻聴じゃねぇ。
ここにいるほとんどのヤツが、雛ちゃんの虜になりやがった。
大男どものサングラスで隠れた瞳にハートが飛んでいるのが見えるようだ。
「泣かないでもらえるかな。鷹雄に知られたら、オレら殺されるから」
オレはサングラスを外して、雛ちゃんを安心させた。
オレの顔は知ってたみたいで、すぐにわかってくれた。
泣き顔が笑顔に変わり、オレもにっこり微笑み返した。
車に案内するために彼女の手を引いて歩いていたら、背後から羨望と嫉妬の混ざった恨めしげな視線を感じた。
ここに最強の護衛チームが誕生してしまった。
守るべき対象が可憐なお姫様だと違うよな。
雛ちゃん専用の護衛チームは、そのまま雛ちゃんファンクラブと化したのだ。
そして、オレは知らぬ間に会長に就任していた。
パソコンオタクのメンバーが作ったオレの会員証には、会員ナンバー一番と会長の文字。
鷹雄にバレたら殺される。
冷や汗をかいたオレが、ファンクラブ解散に奮闘したのは墓場まで持っていく内緒の話だ。
END
BACK INDEX
Copyright (C) 2006 usagi tukimaru All rights reserved