償い

傷心・6(side 渡)

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 翌日の夜、鷹雄に事後報告をしに部屋を訪ねた。
 ひばりのことでは色々心配させたから、お詫びと礼を兼ねて高級日本酒を持参して行く。
 狙ったわけではなかったが、夕食時の訪問となったため、雛ちゃんが気を利かせてすき焼きを用意してくれていた。食卓の中央に置かれたすき焼き用の鍋の中で、くつくつと肉や野菜がおいしそうな匂いを振りまきつつ煮えている。
 舌鼓を打って箸を進めながら顛末を話し終えると、鷹雄は複雑そうな顔でオレを見た。

「お前って人が良すぎ。自分を裏切った女の面倒なんか、そこまで見てやることねぇのによ」
「そうは言っても、あんな酷い状態にあるのを知って、放っておくのも後味悪いだろ」

 鷹雄は直接対峙したこともあり、ひばりに対して良い感情を持っていなかったせいか、不満を口にした。
 オレは笑って鷹雄を宥めた。
 こいつがこんなことを口にするのは、オレのトラウマを知っていて、心配しているからだ。
 普段はワンマンなオレ様だけど、友達思いの良いヤツだよな。

「自分でもお人よしだと思うが、今はすっきりしてる。ひばりのことは、もういいんだ。あいつも罰は十分受けた。一度でも惚れた相手だし、心の底から不幸になれなんて願うことは出来ない」

 同意を求めて雛ちゃんの方を向く。
 彼女は穏やかに微笑んで、頷いてくれた。

「鳩音ちゃんとは、うまくいったんですよね?」

 雛ちゃんの問いに頷き返す。

「鳩音ちゃんがオレを捕まえてくれたから、過去を吹っ切れたんだ。もう裏切られることを恐れたりはしない」

 鳩音ちゃんは、オレが全てを失っても一緒にいたいと言ってくれた。
 その気持ちに応えたい。
 彼女の笑顔を、今度はオレが守るんだ。




 それからすぐに、ひばりは弁護士さんの手引きで行方をくらました。
 数ヶ月が過ぎた現在、消えたあいつを探すのは借金取りの連中ぐらいだろうと考えていたのに、意外なことにキューちゃんも探していた。
 心当たりをしらみ潰しに訪ね歩いていた彼は、オレのところにもやってきた。

「つばめちゃん、急にお店を辞めてしまったんですよ。行き先を訪ねても誰も知らないし、携帯も繋がらなくて心配なんです。鳶坂さんは、彼女から何か聞いていませんか?」

 キューちゃんは本気で心配していた。
 不穏な事件に巻き込まれているのではないかと、悪い想像をめぐらせている。
 放っておいたら探偵でも雇いかねない勢いだ。

「残念だけど、オレもどこにいるのか知らないんだ。でも、最後に会った時、いい仕事が見つかって水商売から足を洗えそうだって言ってたよ」

 オレは居場所を知っていたが、そ知らぬ顔でとぼけておく。
 借金の件が片付くまでは、以前の生活に繋がるものはできるだけ絶ったほうがいい。
 キューちゃんは手がかりを失って肩を落としたが、次に顔を上げた時には笑顔になっていた。

「そうですか。寂しいけど、その方がいいですね。あれが彼女のお仕事だってわかってたけど、いっぱい元気をもらって感謝しているから、幸せになって欲しいんです」

 単なるホステスと客の関係ではあったけど、キューちゃんはひばりに癒されていた。
 あいつは気づいていないけど、ここにも心配してくれるヤツがいるんだ。
 人の繋がりは脆く、不安定で裏切られることもあるが、捨てたものでもないと思う。
 少なくとも、オレは応えてくれる人達に出会うことができた。

「会うことがあったら、心配してたって伝えておくよ。あいつは天涯孤独の身の上だし、そのうち連絡が来たら励ましてやるといい」
「はい、もちろんです!」

 キューちゃんは、ひばりが無事だと知って安心したようだ。
 こいつも結構なお人よしだな。
 もしかすると、オレ以上かもしれない。
 彼が人の良さにつけ込まれて利用され、傷つくことのないようにと祈る。
 正直者がバカを見る世の中なんて、価値がないと思うからだ。




 休日に、鷲見グループの子会社が所有しているマンションを訪ねた。
 独身女性を対象にしたワンルームタイプの五階建ての建物で、管理人が常駐し、入り口で男の出入りを制限しているので、不審者対策は万全。希望者には食事の世話などもしてくれるそうだ。社員寮も兼ねていて、入居している社員の女性は、主にインスタント食品の製造をしている大規模の工場で働いていた。
 ひばりはここで身を隠し、借金の整理が終わるのを待ちながら働いている。
 調べてみれば、元金も利息もとっくに払い終わっていたのだ。不当な取立てで被害を受けていた実態が明らかになり、自己破産せずにうまく調停に持ち込めそうだと弁護士さんから話を聞いていた。
 管理人に彼女を呼び出してもらうと、さほど時間をかけることもなく、帽子を目深に被った地味な女が姿を見せた。
 髪は三つ編みにしてメガネをかけている。

「元気そうだな」

 声をかけると、ひばりは一瞬驚きの表情を浮かべ、すぐに微笑へと変えた。

「来てくれるとは思わなかった。どうしたの?」
「様子を見に来ただけだ。すぐ帰る」

 弁護士を紹介しただけで、無関心を決め込むのも無責任な気がして、一度だけと思い足を運んだ。
 真面目にやっているようだし、目的は果たした。

「紹介したのはオレだから、ここに来たのはその責任ってヤツだ」
「そう……」

 ひばりの笑みに影が差した。
 俯いて、足下を見ている。

「キューちゃ……じゃなくて、羽鳥が心配してたぞ。落ち着いたら連絡入れてやれ、きっと待ってる」
「うん、あの人も人が良いわね。わたしの言うこと、疑いもしないのよ。バカな男だと思ったこともあったけど、あの純粋さは羨ましかった。金づるにして貢がせようかと企んだこともあったけど、騙さなくて良かった」

 顔を上げたひばりは、遠い目をして呟いた。
 そうしなかったのは良心が疼いたんだろうか。
 信じたいとオレは思う。
 ひばりが本当の嘘つきでないことを、なぜだか切実に願っていた。

「用事はそれだけだ。これからも頑張れよ」

 話す言葉が途切れ、キリをつけて口を閉じた。
 ひばりに背中を向けて、出入り口へと向かう。

「待って!」

 背中を追ってくる声を無視できなくて、立ち止まった。
 振り向くと、ひばりはホッとした表情で息を吐いた。

「……少し、話していかない? 安心して、よりを戻したいなんて言わないから」

 懇願の眼差しに負けてしまった。
 オレは甘い。
 すがりつかれると、どうしても振り払うことができない。




 近くを流れる川の土手で、二人並んで座る。
 付き合っていた高校生の頃を思い出した。
 放課後は公園のベンチや土手の芝生の上で、こうして並んで座り、日が暮れるまで話し込んでいた。
 お金がなくて贅沢なデートは数えるほどしかできなかったけど、どちらも不満をもらすこともなく、一緒にいるだけで楽しかった。
 買い食いも、一人分を分け合って食べた。
 誤解のないように訂正するが、金がないとは言っても一人分しか買えないほど貧乏だったわけではなく、分け合って食べることが嬉しかったのだ。

「ねえ、渡。昔、こんな感じでよく放課後デートしたよね。屋台でたい焼きとかクレープ、一つだけ買って二人で食べさせあいっこしたりしてさ。今から思うと相当のバカップルだったなぁ」

 ひばりも思い出に浸っていたらしい。

「ああ、そんなこともあったよな」

 返事に困り、気のない声で相槌を打った。
 まだ未練があるなんて、誤解されたら面倒なことになる。

「信じてもらえないかもしれないけど、渡と付き合っていた頃は本当に楽しかったんだよ。確かにイケメンの彼氏は自慢だったけど、それだけで一年も続くわけないじゃない」

 ひばりは自嘲気味に笑い、目線を自分の膝元に移した。

「わたしはすごく臆病なの。あの時だって、渡が大変な目に遭っているのに、自分のことしか考えられなかった。あなたと一緒にいることが不安で、それから逃れようと嘘をついたの。バカなことしたって何度も後悔して、その度にやっぱり自分がかわいくなって、あなたの所に戻れなかった。醜い自分の心が嫌で、それをごまかすために世の中お金が全てなんて心にもないこと言って強がって、言い寄ってきたお金持ちの男と次々付き合ったけど、彼らがくれたのはお金だけ。見返りに、好みのかわいい彼女を演じているだけの不毛な付き合いばかりしていた。ちょっとでも、わたしが理想と違うと分かれば、みんな興味を失って去っていく。わたし自身を見て愛してくれたのは、渡だけだった」

 告白を続けるひばりの声を、黙って聞いていた。
 裏切りの真実を聞いても、怒りは湧いてこなかった。
 あの頃のオレ達は無力な子供だった。
 オレとの未来が見えなくなり、怖くなって逃げたのは仕方がないと、大人になったオレは理解することができたからだ。

「結局、わたしは自分が一番かわいいの。渡とやり直したいと思っていたけど、実際に昔と同じ状況になってみれば、どうしてもついていくって言えなかった。あの子、勇気があって、いい子だね。わたしにもあんな勇気があれば、違った未来になったのかもしれない」

 ひばりの目には涙が浮かんでいた。
 頬を伝って流れ落ちる涙は、後悔から出たものだろうか。
 ハンカチを出そうとしてやめた。
 オレの優しさや情は、これからのひばりには必要のないものだ。
 見なかった振りをして、立ち上がった。

「人間は誰でも自分が一番かわいいんだよ。オレだってそうだ。裏切られるのが怖いから、自分が傷つきたくなくて、愛していると口先だけで言いながら、相手を信頼できずに遠ざけて傷つけた。それでも……こんなオレでも信じてくれた人がいる。離れていくオレを、見捨てずに捕まえてくれたんだ。ひばりも諦めるな。お前が人を裏切らない勇気を持とうと努力するなら、応えてくれる人と必ず出会える」

 オレがひばりに贈る最後の言葉だ。
 世の中に絶望して欲しくない。
 オレが好きだった彼女が再びこの世に甦るなら、この心に深く根付いた傷も消えてくれる気がする。

「オレに償いたいなら、二度と人の心を裏切るな。そして……、幸せになってくれ」

 ひばりは目を見開き、オレを見上げた。
 メガネのレンズ越しに、瞳が戸惑いに揺れている。

「もう恨んでもいないし、憎んでもいない。憎むには、お前との思い出は幸せすぎた。あの時の本音が聞けて良かったよ。オレの独りよがりの恋だったんじゃないって、わかったからな」

 反応を窺うことなく、オレは土手を上り始めた。
 ひばりは動かない。
 オレも振り返らない。

「渡、ありがとう。わたし、一人でもやり直す。もう二度と、あなたを裏切らない」

 ひばりの声が、背中にかけられた。
 芯の通ったその声は、彼女の決意を表していた。
 ひばりは大丈夫だ。
 一人でも、地に足をつけて立っている。
 もう道を間違えたりはしないだろう。
 だって、彼女はオレと約束したんだから。

「さようなら、ひばり」

 オレは決別の言葉を口にした。
 過去にも心にも、線が引かれる。
 これで全てが終わり、新しく道が開けた。
 いつか偶然に、また会うことがあったなら、その時は笑顔で語り合えるといいな。




 土手を上がって道に出ると、ひばりを託した弁護士さんがやってきた。
 オレの父親と同年代の、恰幅の良い貫禄の有る男性だ。
 鷲見社長の友人で、正義感が強く、弱者の力になれる人間になりたいと弁護士を目指しただけあって、気持ちのいい心の持ち主でもある。
 金にならないオレの依頼を引き受けてくれた彼は、後見人として、こうして時々ひばりの様子を見に来てくれている。
 彼はオレに気づくと、挨拶と共に手を振ってきた。
 オレも礼を返して微笑んだ。

「彼女との話は終わったのかい?」
「はい、元気そうで安心しました」

 この人には、オレとひばりの過去は話していない。
 ただ、古い友人が困っているから助けて欲しいと言っただけだ。

「闇金の方も数日中には片がつきそうだ。厄介な連中が絡んでいたから骨は折れたけどね。ここに来てからも真面目に頑張って働いているし、借金の件が片付けば良い方向に向くと思う。うちにも彼女と同じ年頃の娘がいるから、今回の仕事には力が入ってしまったよ」

 彼はオレの肩を叩いてすれ違い、ひばりがいる方向へと歩いていく。
 彼がひばりに呼びかける声が聞こえた。
 家族で食事に行くから、一緒に行こうと誘っている。
 答えるひばりの声も弾んでいて、嬉しそうに誘いに乗るあいつの姿が目に浮かんできて笑みがこぼれた。
 ひばりはきっと幸せになれる。




 家に帰り着いてみると、鳩音ちゃんはまだ来ていなかった。
 ちょうど良かった。
 心にはひばりと決着をつけたばかりの余韻が残っている。
 こんな中途半端な気持ちで、鳩音ちゃんに会いたくなかった。

 昔のひばりの笑顔をまた思い出した。
 この笑顔を守りたい。
 別れを切り出されても、幸せになって欲しいと願うほど好きだった。
 心でくすぶり続けたひばりの記憶は、しばしば甦り、悪夢としてオレを苦しめてきたが、これからは徐々に色褪せていくんだろう。
 少しの間だけ過去の感傷に浸って気持ちを切り替える。

 もうすぐ鳩音ちゃんがやってくる。
 現在を共に生きる、オレの大切な人。
 これからは、ためらうことなく君を愛していると言えるよ。




 しばらくすると玄関の鍵が開き、元気な足音が近づいてきた。
 鳩音ちゃんだ。
 彼女はオレのいるリビングへと、息を弾ませて駆け込んできた。

「渡さん、遅くなってごめんなさい! すぐにご飯作りますね!」

 エプロンを身につけて、台所に向かう鳩音ちゃん。
 オレは音を立てないように立ち上がり、後ろからそっと近づいた。
 腕を伸ばして、包み込むように抱きしめる。
 鳩音ちゃんは驚いて固まってしまった。
 不意打ちの抱擁には、まだ慣れないみたいだな。

「今日は外食にしよう、ご馳走するよ。その代わり、先に鳩音ちゃんを食べさせて」

 至近距離から囁いて、耳朶を甘く噛んだ。
 舌でくすぐってあげると、鳩音ちゃんの腰が落ちた。

「ふぅ…あ…、やだぁ……」

 感じてるんだ。
 こんな色っぽい声を出されると、やる気が出てくるな。

 背中と膝裏に腕をまわして横抱きに抱え上げ、彼女を寝室に運ぶ。
 鳩音ちゃんは赤くなった顔をオレに押し付けてしがみついていた。
 えっちするのに異論はないってことかな。

「今日はどんな風にして欲しい? 鳩音ちゃんのリクエストに応えてあげる」
「うぅ、やだ! 渡さんのスケベ!」

 照れてさらに強く顔を押し付けてくる彼女がかわいくて、オレの顔もニヤけてくる。
 そんなやりとりをしている間に、寝室にご到着。
 彼女をベッドの上に下ろして、覆いかぶさり、唇を重ねた。

「……ぁん……渡さん、服がまだ……」

 エプロンを外そうとしている鳩音ちゃんの手を掴んで止めた。
 きょとんと鳩音ちゃんが目を丸くしている。
 えっちするのに服を着たままっていうことが理解できていないらしい。

「渡さん?」
「脱がなくていいよ、後でオレがやってあげる」

 エプロンの脇から手を入れて、下にある服をめくりあげる。
 今日は淡いピンクのブラだ。多分、ショーツもお揃いだろう。
 この中途半端な眺めもいいよな。
 エプロンの胸もとの生地を真ん中に寄せ、ブラを下にずらして露わにした膨らみをペロリと舐めた。

「や、やぁっ! 渡さん、何をっ……!?」

 舌で胸の頂を円を描くように撫で回した。
 丸くて白い膨らみは極上のケーキみたいだ。
 つんっと尖り始めた乳首をイチゴに見立てておいしくいただく。
 とっておきのイチゴは大事に味わわないとね。
 優しく優しく舐めていく。

「はぁんっ」

 甘い吐息をついて、鳩音ちゃんの体から力が抜けた。
 もう片方の膨らみも剥き出しにして口をつけ、先ほど味わった方は手の平で揉みしだいた。

「うう……、はぁ……、んんっ」

 抵抗する気力も尽きたのか、鳩音ちゃんの体はオレの意のままだ。
 胸を弄ぶのをやめて、下半身へと愛撫の手を移していく。

 エプロンごとスカートをめくり、ショーツに手をかける。
 こっちは脱いでもらおう。
 足から抜いて、無防備になった割れ目に指を這わせた。

 愛液が指についてくる。
 ぬるぬると滑るそれは、オレの指を導くように中へと引き入れていく。

「んっ、あんっ……」

 指をゆっくりと動かして、刺激を繰り返し与えていく。
 鳩音ちゃんの反応を見ながら、感じる場所を探す。

「ふ……、あ……、ひうっ……」

 仰向けで足を開き、着衣をつけたままの乱れた姿に興奮が高まる。
 こういうのなんて言ったか?
 どちらにしろ、変態プレイの一種な気がしてきたぞ。
 今までの彼女とはノーマルな普通のセックスしかしたことなかったんだけどなぁ。
 鳩音ちゃんは、オレの隠された性癖まで目覚めさせてしまう子のようだ。

「渡さん……、抱いて」

 潤んだ目をして、鳩音ちゃんが手を伸ばしてきた。
 指を抜き、ズボンを脱いで避妊具を装着する。
 そして準備のできたオレ自身を入り口にあてがい挿入した。
 愛液で溢れた膣内は苦も無くオレを受け入れていく。

「んぁ……、あぁんっ!」

 声を上げた彼女を抱きしめた。
 離れないように強く抱きながら、腰を進める。

「……んんっ……、あぁ……あぅ……っ!」

 ゆるゆると腰を動かして、彼女の中を堪能した。
 締め付けが気持ちいい。
 喘ぐ唇に吸い付くように自分のそれを重ねて、何度もキスを交わした。

 次第に余裕が消えていき、腰を振って中を往復しつつ、体と心を高めていく。
 鳩音ちゃんの方も震えて絶頂を幾度も迎えていた。

「あっ、ああっ、やぁ……、ああああっ!」

 快楽に溺れきった鳩音ちゃんのイク声を聞きながら、オレも達した。
 満足感で全てが満たされていく。
 春の日差しを一身に浴びたようなこの高揚感は、快感だけで得られるものじゃない。
 愛しい人を抱ける喜びが、オレを幸せにしてくれるんだ。




 半脱ぎだった彼女の服は、寝るのに邪魔だから全部脱がせた。
 ベッドの中でまどろみながら、鳩音ちゃんと手を繋ぐ。
 オレの手の平にすっぽり納まる細くて柔らかい手。
 愛おしさがこみ上げてきて見つめていると、鳩音ちゃんが不思議そうな顔をした。

「渡さん、どうしたの?」
「ん? 柔らかくて気持ちいいなって考えてた」
「手が?」
「うん、それだけじゃないよ。鳩音ちゃんの全部がそうなんだ」
「きゃっ!」

 手を引き寄せて、彼女を腕の中へと引き入れる。
 裸で触れ合った体は、やっぱり柔らかくて小さい。
 壊れ物を扱うように、優しく撫でた。
 張りと弾力のある乳房やお尻の感触も、手に馴染んで心地いい。

「や……、あん……」

 うっとりとした声を出し、鳩音ちゃんが頬を上気させてしがみついてきた。
 彼女の熱を感じた途端、オレの下半身にも熱が戻ってくる。
 うあ、我慢できねぇ。
 堪らず、お伺いを立てる。

「もう一回してもいい?」
「……はい」

 鳩音ちゃんもしたくなったのか、拒まれることなく了承を得ることができた。
 そっと彼女の鎖骨の辺りに口づけて、胸元へとキスを落としていく。

 何気ない日常でも、君が隣にいてくれるだけで満たされる。
 生きていくための糧さえあれば、オレが他に望むものは愛する人の存在だけだ。
 彼女と作る温かい家庭と笑い声を想像する。
 子供も二、三人は欲しいな。

 鳩音ちゃんと築いていく将来の姿は、どれも光で溢れていた。
 腕の中の彼女の温もりに癒されながら、手にした幸福と明るい未来を思うと、自然に笑みが浮かんできた。


 END

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