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「それで‥? この風呂敷包みが、その刑を執行するアイテムなの?」
すっかり空になってたお茶を入れ直して。くぴ‥とカップを口に運んだソロが、仕切り直し
と訊ねた。
「はい、そうです。なんでも‥その水晶と文献を見つけた魔導師が、それを参考にして、
遠い昔に作った魔法道具だとか。問題のある呪具だったので、神が封印したそうですが
…今回ソロの為にと、持たせて下さったんですよ。」
「‥問題って、どんな?」
「1つは、刑を受ける者と同時に、それを行う執行者が必要‥という事で。その執行者は、
これを用いるよう定められているそうで‥」
す‥とクリフトが懐から小さな包みを取り出した。
受け取ったソロが包みを開くと、真白い頭巾が現れる…うさみみ仕様の。
「うさみみ頭巾‥?」
「はい。あのピンクのうさぎと同じように、これを被ると変身するのだとか。」
「変身? ふう〜ん‥‥‥」
どれ‥と言いながら、ソロがぱふ‥と頭巾を被った。
「「あ‥!」」
両者が声を掛ける間もなく、頭巾を被ってしまったソロ。
ぼむ‥と煙が上がったかと思うと、ソロの姿が消えた。
「うわ‥。びっくりした! ホントだ〜。ちびっこくなってるや、オレ。」
白煙が薄れて姿を現したのは…テーブル上でちょこんと座る、小さな翠のうさぎ。
着ぐるみを着込んだようなその姿は、肩に乗ってしまいそうな程のミニサイズで。
ソロは不思議そうに自分の全身を眺めていた。
「この姿でうさみみ仮面の補佐をするんだね!」
にっこりと、ソロがクリフトを窺った。
「‥はい。そうです。パートナーとして協力するんです。」
心配顔を引っ込めて、クリフトが微笑む。
「お願い‥って?」
両手を合わせて小首を傾げてみせるソロ。クリフトもアドンも苦笑を滲ませた。
―――確かに。この可愛さならば、あの魔王さまには効果絶大、間違いなしだ。
「‥さてと。問題はですね、これは一度始めたらクリアするまで降りられない‥という事。
そして‥うさみみ仮面だけでなく、ぬいぐるみになる執行者も、それまでは元の姿に戻
る事が適わない‥という、一蓮托生な関係を負わされる事にありまして…」
とりあえず。落ち着いて話したいから…と、頭巾を外したソロは、元の姿に戻って神妙な
面持ちでクリフトの説明を聞いていた。
「‥え。これ、さっきみたいに脱げなくなるの?」
「ええ。こちらの風呂敷包みが解かれてしまうと、連動して発動するのだとか。」
「ふう‥ん。でも、正義の味方がんばれば、解けるんでしょう? どっちもさ。」
「ええそうですね。」
はっきり頷くクリフトに、しばらく目をテーブル上の風呂敷包みに移して。
それから、大きく頷いたソロが、クリフト・アドンの両者と目を合わせた。
「オレ、うさみみの刑の執行者になるよ。」
それから。
ソロはクリフトから詳しい刑の発動方法を伝授され。
緊張した面持ちで、両者を見つめた。
「‥それじゃ。いって来ます!」
「がんばって下さいね、ソロ。」
「陛下とお二人で戻って下さる事、楽しみに待ってますからね、ソロさん。」
「うん‥オレ、がんばる。ピサロにも‥がんばってもらう!
クリフト、竜の神にお礼伝えてね? アドンも‥ピサロ借りてしまうけど。魔城のコト
‥よろしくね?」
「ええ。大丈夫ですよ。面倒事になりそうでしたら、こちらの方にも協力して頂きますし。
安心して、世直し旅を楽しんで来て下さい。」
隣に立つクリフトをチラっと窺って、アドンがにっこり笑った。
はりきるソロが、移動呪文を唱え、空の彼方に光の帯を架ける。
光が消えて、静寂が帰ると、空を眺めたままのクリフトが口を開いた。
「…面倒事は、私でなく天へ持ち込んで下さいね。」
「竜の神は多忙なのだろう‥? 天人は役に立たぬし、貴様が適任だろう。遠慮するな。」
裏事情が露見すれば、魔王の怒りを買うことは必死。ならば‥道連れは多い方が良い‥と、
アドンがクリフトの肩をしっかり掴んだ。
「…面倒事がなくても。巻き込む気ですね、実は。」
その手から伝わる気迫に、クリフトが苦く笑んだ。
(…まあ。あんな悪戯けた呪いアイテムを使われたら、魔王さんもどこかで爆発しないと、
治まらないでしょうしねえ…)
それが従者に向かうだろう事は、想像に難くない。
クリフトは水晶が映し出した、珍妙な姿のヒーローを思い出して、プッと吹き出した。
突然笑い出した彼に、アドンが怪訝な表情を浮かべる。
「クックック‥。いえ…ピサロさんが、あんな格好に変化されたら、どんな反応するかな
‥と思いまして。…本当に。お気の毒に‥‥‥」
言いながら、更に笑いを深めるクリフトだ。
「貴様が持ち込んだ話だろうが。しかしまあ‥よくあんなアイテムを出して来たな、神も。
陛下が余程煩わしいと見える…」
真面目に返すアドンだが、顔はやはり笑っていた。
―――あの格好は、ないだろう。
嫌々そうに正義の味方をさせられていた間抜けた姿が、従者の脳裏にくっきり浮かぶ。
気の毒に…と言いつつも。
状況を愉しんでいる事が明白な二人だった。
さて。
ピサロを呼び出したソロは、神妙な面持ちでやって来た魔王を迎えた。
「‥あのね、これ。受け取って。」
ソロの前に立ったピサロに、つい‥と差し出された緑の風呂敷。(スライム模様)
ピサロは怪訝そうに、それを眺めた。
「…これはなんだ?」
不審な表情を浮かべ、どこか緊張を孕んだソロを覗う。
「とにかく受け取って。」
ソロはずい‥ともう一度、彼に押し付ける。
仕方なしに、ピサロが憮然としつつも受け取った。
「…で。一体なんなのだ?」
「正義の味方グッズv」
にっぱりと、ソロが宣った。
「―――!!?」
面妖な言葉に、ピサロが固まる。
「助けを求める声に応えて、人助けするんだ♪」
「返す。」
にっこり話すソロに、頭痛が痛いと唸りつつ、ピサロは突っ慳貪に戻す。
…が。どうした事か、手から離れない!!
―――呪われてるのか?
ピサロが眉間の皺を更に深めた。
「あのね。うさみみ仮面になって、人助けをちゃんとしないとね、ダメなの。」
魔王の懊悩などどこ吹く風のソロが、更に謎の言葉をぶつけてくる。
「早く変身して!! スライムになっちゃうよ?」
―――変身? スライム? うさみみ‥仮面?
「ソロ。貴様の言ってる事は、全然解らんぞ?」
魔王さまには何が何やら。ますます頭痛が痛い。
「だから〜。それを受け取ったらね、『うさみみ仮面!』って叫んで変身するんだよ!?
じゃないと‥ピサロ、スライムになっちゃうんだから!」
クリフトから聞いた話によると、執行者がうさみみの刑を与える者へ包みを手渡した瞬間
に発動し、3分以内に変身を遂げねば、一生スライム姿にされてしまう…というペナルティ
が付加されているとの事だった。
事情を一切説明しないまま風呂敷を手渡してしまったソロだったので。
とにかく早くと気ばかり急いてしまう。
「…そのうさみみ仮面とは…っ―――!!?」
早く早く‥と急かすソロに、口に上らせたそれが、キーワード。
最後まで台詞を発するより前に、ピサロはピンクの光に包まれた!
なんと。
黒に身を包んだ銀髪美丈夫魔王さまが、ピンクのうさぎに衣装替え!!(大笑)
可愛いサーモンピンクの全身タイツに、濃いめのピンクに赤のラインの提灯ぶるまー。
長〜いピンクのお耳の帽子をピッチリ被って。紅の双眸を隠した黄色のアイマスクが
きらんと光る。後ろから姿を見れば、可愛いふさふさ尻尾がピンクのマントの裾から
ちらちら覗いて。水晶に映っていたうさみみ仮面を、非常によく再現していた。
「やった―――!! うさみみ仮面だ―――!!」
ソロがバンザイと手を挙げた。
「ソロっ!! 貴様っ…!!」
すぐ戻せ!!と魔王が詰め寄る。
「あのね…。人助けしないと戻んないよ、それ。」
―――!!?
ぽつっと語られた一言に、魔王さまが項垂れる。
黒雲背負った魔王さまとは対照的に、うきうき顔のソロが満足そうにその姿を眺める。
割ととんでも思考のソロだが。今度ばかりは理解の域を越えてると、うさみみ仮面魔王
さま(略してうさみみ魔王)がぼんやりと、そんなソロをみつめた。
何が嬉しいのか、にこにこいそいそ‥何やら取り出す。
それは‥ソロの髪と同じ翠の頭巾だった。(うさみみ仕様)
ソロは迷わずそれを被る―――と、ぽむっと白い煙が彼を包む。
―――何事?
ピンクの長〜いお耳がぴくんと跳ねた。
果たして。
煙の中から現れたのは…なんとなんと!!
翠の頭巾を被った、小さなウサギ姿に変化した、ソロだった。
「…っ!? ソロ‥なのか!?」
「うん。オレもね、一緒に人助けするんだよ!」
惑い訊ねる魔王さまに、にっぱりとうさみみソロが答える。‥肩に乗せたら丁度良さそ
うな大きさで。
ちょっと話辛そうに、ぴょんぴょん跳ねるソロに、魔王さまは仕方なく、手を差し伸べて
抱き上げる。
「…その姿で、何をどう手伝う? というよりも。根本的にズレてないか?」
唸る魔王さまに、うさみみソロが蒼いお目目をきょろんとさせる。
小首を傾げる仕草は、先刻のぴんくうさぎを彷彿とさせる可愛さだ。
「…あのね。困ってる人助けるとね、ピンクのハートが貰えるの。このスライムポシェッ
トにいっぱい貯まったら…オレ達元の姿に戻るんだって。」
ソロが肩から斜めに掛けてる小さなポシェットを指し、にっぱり微笑んだ。
「だからね…がんばろ〜!!」
―――やはり呪われたアイテムだ。
はりきるミニうさソロに、魔王さまは大きく項垂れた。
がんばれうさみみ魔王!!
正義の味方、うさみみ仮面魔王さまの明日はどっちだ!?
2011/2/3 |