〜PS版DQ4の発売記念番外編〜(鷹耶&ソロ編)
『取り替えっこしましょ♪』
「え‥と、ここだよね。」
とある宿の部屋の前。
ソロがメモを確認しながら扉の前へと立った。
少々緊張した面持ちで、軽くノックしてみる。
「はい‥あ。‥勇者さんですね? ようこそ、お待ちしてました。」
よく知る人に似た‥だが、人懐こさを感じさせる笑顔はまるで違う柔らかさをしている。
そんな彼に、ソロは目をぱちくりさせた後、破顔した。
「わあ‥クリフト? すごい、似てる!!」
「そうですか? 勇者さんも、髪と瞳の色が鷹耶さんと同じで‥兄弟のようです。」
「鷹耶ってこっちの勇者だっけ? へえ〜似てるんだ? 不思議〜。」
「あ‥すみません、戸口で話し込んでしまって。どうぞ中へ。」
「あ‥うん。お邪魔します…あ、ピサロ!?」
部屋の中へと通されて、窓際に佇む人影を確認したソロが、更に驚いたよう目を瞠った。
「うわあ…。クリフトも似てるけどさ。ピサロは見た目全然変わんないかも!
すごいなあ‥本当…」
「そうなんですか‥? じゃあ、あちらへ向かった鷹耶さんも今頃同じように驚いてるん
でしょうねえ‥。」
のほほんとクリフトが微笑んで。ソロに真ん中のベッドに腰掛けるよう勧める。
コクン‥と頷いたソロがベッドサイドに腰を下ろすと、更に続けた。
「え‥と勇者さん、飲み物なにか召し上がります?」
「あ‥そっか。オレはソロ。そう呼んでくれていいよ。」
一方。
同じようにとある宿の一室を訪れた鷹耶は、自分の知るクリフトよりも年が上らしいクリ
フトと、見た目はほとんど変わらないだろうこちらの魔王を前に深々と嘆息していた。
なにやら届いた招待状。
一晩だけ、別世界にあるという自分と同じ存在と入れ替わって過ごすのだという‥
別世界…という存在に興味抱いて、一晩だけなら‥と遊び気分でやって来たが。
ベッドに腰掛けると、こちらのクリフトが暖かな紅茶を入れてサイドテーブルに置いた。
「え‥と、鷹耶‥さんでしたっけ? ソロとは随分雰囲気が違うものですね。」
「‥こっちの勇者か? ふうん‥あんたはともかく、ピサロは入れ替わっても気づかなそ
うなくらいそっくりだぜ。」
「そうなんですか? 私は似てませんか‥?」
「ああ。全然。」
ムス‥とした表情で顔を顰める鷹耶に、クリフトが微苦笑する。
「貴様もソロとは似てないな。共通点はその髪と瞳くらいらしい。」
隣のベッドヘッドに凭れ座っていたピサロがやっと口を開いた。
「ソロは考えなしにあちらへ向かったようだが。貴様の元に居るという魔王と神官は、信
用出来るのであろうな?」
「は‥?」
「ああ‥ピサロさんはあなたの所の彼らが、ソロに手を出さないか心配してるんですよ。」
言葉の少ない魔王の補足をするように、クリフトが話す。
「クリフトに関しては保証するが。あんたの分身については、なんとも言えねーな。」
「あちらのピサロさんも、手が早い‥というコトですか。」
あらら‥とクリフトが肩を竦ませ苦笑する。
「なあなあ。もしかして、こちらの勇者はピサロとデキてるのか?」
キランと瞳を輝かせて、鷹耶が興味津々問いかける。
クリフトがピサロと顔を見合わせると、顎をしゃくった彼に促されてしまった。
「‥まあ。そうなりますかね。そちらはいかがなんです?」
「俺‥? ウチのクリフトは、あんたと違って万倍可愛くてさv
強引に落としちまったv 今は両想いのラブラブ‥ってヤツさ。」
「ほお‥。いっそトレードして欲しいものだな。」
惚ける鷹耶にピサロが口の端を上げて、
「冗談はやめてくれ! 可愛くないクリフトなんか手出せねーじゃん。」
心底嫌そうに、鷹耶が首を振って返した。
「私もあなたのような勇者だったら、深く付き合わなかったですねえ‥」
「へ‥? なに? こっちの勇者はあんたともデキてた訳?」
「過去形じゃないですよ。なんなら‥全く気が進みませんが、再現しましょうか?」
にっこり笑うクリフトだが…明らかに冷気を纏っていて。
鷹耶がブンブン首振って辞退した。
何やら不穏な空気の立ち込める部屋とうって変わって。
ソロがやって来た部屋。
甘い物が好き…と話したソロの為に、食堂からおやつと飲み物を持って来てくれたピサロ
をソロが不思議そうに眺めた。
「ありがとう。こっちのピサロは優しいんだねえ‥」
にっこり笑って、ソロは盆を受け取った。
「クリフトもさ‥オレの世界の彼も優しいけど。こっちのクリフトはなんだかほのぼのす
るね。年が違うせいなのかなあ‥?」
揚げ菓子をほおばりながら、隣に腰掛けている彼をソロが見上げる。
「そうですか? ソロは可愛いですよね。とても鷹耶さんと同じ歳とは見えません‥」
最初彼より2〜3歳下だと思い込んでた彼らだ。ソロはむう‥と膨れっ面になったが、
ぽむとクリフトが頭に手を乗せ微笑んでくると、つられたよう笑みに変わった。
「ねえねえ。いつもこの3人部屋なの?」
「え‥そうですね。大抵は‥。」
「そうなんだ。オレんトコもそうなんだよ! ピサロが仲間に加わってからはずっと一緒
の部屋なんだ。こっちでもおんなじなんだねえ‥」
ふふふ‥とソロが笑んだ。
「3人仲良いの?」
無邪気に訊ねられて。クリフトがピサロを見やった。
「‥まあ、それなりに。ピサロさん、結構鷹耶さんを気に入ってらっしゃるようですし。」
「そっかあ‥。」
別の世界でも、魔王と勇者が親しくしている事を知って、なんだかホッとするソロだ。
「そちらはいかがですか?」
ふわんと笑う彼に、クリフトが問い返した。
「え‥オレ? う‥うん、仲良いよ。結構‥‥‥」
動揺露に身体を跳ねさせたと思うと、次の瞬間にはゆで蛸のように真っ赤な顔を見せて。
目を泳がせつつ、ぽつっと答えた。
そんな変化にクリフト・ピサロが反応する。
「…あちらの魔王は、こんな子供に手出しているのか?」
艶っぽく映る彼の羞耻み顔に、ピサロが呆れ混じりに嘆息した。
「だから‥オレは子供じゃないって。こっちの勇者と同い年なんだよ?」
子供扱いされて。むう…と口を尖らせ訂正してくるソロに、クリフトが微笑する。
やはり同い年とは見えないな…などと内心で独りごちながら。
「ソロはピサロさんと付き合っていらっしゃるのですか?」
「え‥あ、うん…そう、かな? ずっと側に居て欲しい‥って、そう言ってくれてるんだ。
あ‥でも。クリフトもね、ずうっと居てくれるって言ってくれてるんだよ!」
「そ‥そうなんですか?」
イマイチ状況が掴めずに、クリフトが首を傾げつつ微笑む。
ピサロはスッと腰を上げると、嬉しそうに報告するソロの前へと移動した。
柔らかな翠髪を撫ぜながら、滅多に見せない柔らかな笑みを浮かべる。
ソロはそんな様子をきょとん見上げ、見守る。
「お前は、安らげる者の側に在るのだな‥」
「うん。ピサロもクリフトも…それに旅の仲間みんな、大好きなんだ!」
「‥そうか。よかったな。」
笑顔で語るソロに、ピサロも和らいだ微笑をみせた。
「‥あのね。
ちょっとしか話してないけどさ。オレ‥こっちのピサロもクリフトも、結構好きだよ。
今日は逢えて楽しかった‥!」
和やかムードな部屋を余所に。
鷹耶が訪れた部屋では、酒宴が始まっていた。
『飲まなきゃやってらんねー』
言った鷹耶の台詞をきっかけに始まった酒の席である。
あまりアルコールが得意でないソロと違って、鷹耶は結構イケル口。
しかも、3人の好みが似てる事もあって、いつの間にか随分と酒が進んでしまった。
「しっかしさー。あんたも結構酷い奴だぜ?」
ほろ酔い気分で、鷹耶が魔王を指さした。
「こっちの勇者も気の毒になー。無理矢理‥ってのは不味いだろ、やっぱり。
でもさー、それでもあんたを仲間に迎えてるんだから。感心だな。
俺だったら、きっちり報復してるぜ?」
ソロとピサロの馴れ初めを聞き出した鷹耶がクドクド説教めいて続けた。
「ですよねえ。ソロは散々泣かされてますから。多少痛い思い味わってくれないと、釣り
合い取れませんよねえ。」
「うわあ‥。あんた、俺のクリフトと違い過ぎだぜ、キャラがさ。
ちょっと魔王に同情したくなった。」
にっこり怖い台詞を吐く神官に、鷹耶がブルリと身を震わせた。
「貴様‥良い事言うな。ソロももう少し、こ奴を理解してくれると溜飲も下がろうが‥
厚い信頼を寄せているせいか。なんでも奴に確認したがる。」
「まあ‥その辺は、身から出た錆‥ってやつ?
やっぱさ、時間かけて築かないと。俺んとこみたくさv」
すぐに惚気に突入する鷹耶。
「可愛い」を連発されるあちらのクリフトは、余程勇者に愛されてるらしい…
そう魔王と神官は苦く微笑った。
「‥けど。ソロ‥だっけ?
あんたらみたいの2人も相手にしてるなんて‥。なかなか根性あるよな、うん。」
かなりクセのありそうな魔王と神官を交互に見やって、鷹耶がしみじみ頷く。
「そちらの魔王さんも手癖が悪そうな事仰ってましたけど? いかがなんですか?」
涼しい顔で宣うクリフト。言外に含まれた刺に、こちらの魔王が渋面を浮かべた。
「‥確かにまあ。油断ならない奴だが‥。こいつ程悪党でもねー‥と思う。」
余所の勇者に悪党呼ばれ。眉間の皺がますます深まるピサロ。くつくつと隣で笑うクリフ
トに、苦く唸った。
「…ソロはもういいと語ってたが。やはり、気に病んで居るのだろうか?」
なんだかちょっぴり弱気になって、ピサロがこぼす。
「へえ‥一応悪かったと反省してるんだ? それは良い事だ。」
にやり…と鷹耶が好意的に笑んだ。空いたグラスに酒のお代わりを注いでやって、自分も
グラスを煽る。
「なんだか勇者さんは魔王さんに甘いですねえ‥」
はあ…と態とらしい嘆息をしたクリフトが、自分のグラスをサイドテーブルへ置いた。
「鷹耶さんはあちらのクリフトと恋仲だそうですが。意外に、魔王さんに迫られたら、落
ちてしまうんじゃないですか?」
すぐ隣に腰掛けて、彼の顔を覗き込んだクリフトが口元だけで笑んでくる。
「‥んな訳、ねーだろ!? 俺はクリフト一筋だし。」
「ですが…」
躰を退く鷹耶の頬へ手を滑らせたクリフトが、そのまま肩口を掴んで後方へと押し倒す。
「鷹耶さん‥愛される方もご存じでしょう?」
ニッと間近で微笑まれて、言われた意味を理解した鷹耶が顔を赤くした。
それを返事と取ったクリフトが、「やっぱり‥」と独り納得する。
「そういう所は、ソロと似ているのかも知れませんね。あちらのクリフトも苦労してるの
でしょうねえ‥」
クスクス笑って、クリフトは身体を起こした。解放された鷹耶もサッと上体を起こす。
「あんた‥本気で油断ならねーな。」
バクバクと早鐘を打つ心臓を抑えながら、鷹耶が渋面を浮かべ睨みつけた。
「そうですか? もしかして期待させちゃいましたか?」
「じ‥冗談じゃねー! ‥悪酔いするから、恐ろしいコトしないでくれっ。」
「そんな事言われると、なんだか苛めてしまいたくなりますが。
‥まあ。ソロに泣かれたくないですからね。なにもしません。安心して下さい。」
そもそも男は圏外のクリフトだが。嫌がらせ代わりの口接けくらいなら出来そうな気分で
微笑んだ。
そんな彼に魔王は意外なモノを見るよう目を開いて。
鷹耶は心底震えていた。
――もう帰りたい。
とても危険な場所に来てしまったような。
そんな心元なさに、身が竦む。
「…俺、もう寝るわ。これ以上付き合ったら身がもたねー‥」
言って、そそくさ布団の中に潜り込んだ。
「‥おやすみなさい。あちらのクリフトはあまり困らせないで下さいね?」
クスクスこぼしながら、そう声をかけたクリフトが立ち上がった。
「‥貴様。容赦ないな‥」
呆れ顔で吐くピサロに、クリフトが微笑んで返す。
明かりが消されて、闇に包まれた室内を静寂が満たし始めた。
鷹耶達より早く床に就いていたソロ。
和やかな語らいの後就寝となり、ソロの要望を叶えるカタチで、部屋の明かりを小さく残
して貰って。薄闇の中ベッドに横になっていたのだが‥
ソロは布団を頭から被って、ほろほろ泣いていた。
両隣のベッドで眠る2人に気づかれないように。声を殺してひっそりと涙を落とす。
楽しい話に興じている間は平気だったのだが。
独り布団の中に落ち着くと、ピサロもクリフトも居ない事実が重く圧し掛かってくる。
人肌を感じて眠る事に慣れているせいか。独り寝は殊の外しんと響いた。
――帰りたいな、元の世界に。
ぽつんと思って、更にぽろぽろ大粒の涙を落とす。
そのうちどうしても声を抑えきれずに、身を悸わせ小さくしゃくり上げた。
ポンポン…
布団の上から優しく叩かれて。案じるような声が届く。
「どうしたのですか?」
よく知る優しい声。
「…クリフト?」
「やっぱりソロでしたね。お帰りなさい。」
涙声に答えて、クリフトが更に柔らかく話しかけた。
ガバッと布団を翻し、ソロが身を起こす。
「クリフトっ! クリフトだあ‥。本当のクリフトだ‥ふ‥ぁあ〜ん。」
ソロが目の前に居た彼に抱き着いて、勢いよく泣き出した。
「お帰りソロ。よく戻ったな‥」
泣きじゃくる彼の頭を撫ぜて、ピサロが安堵したよう微笑む。
「ピサロっ! ピサロぉ‥。逢いたかったよぉ‥!!」
やっぱり本当のピサロがいい‥と、今度はピサロにしがみついておいおい泣き出すソロ。
2人はそんな彼の様子に顔を見合わせ、こっそり嘆息した。
「‥あちらの2人はいかがだったんですか?」
「うん‥優し‥かった、よ‥っふ。すごくね、優しい‥の。でも‥‥‥
オレ、こっちの勇者でよかった! 2人が居てくれて…すごく嬉しいから。」
ぎゅっとピサロに抱き着いて、クリフトにもしっかり甘える。
ピサロもクリフトも彼を落ち着かせようと、キスの雨を降らせた。
静かな部屋にひっそり響いていた忍び泣く声が止んだので。
不審に思ったピサロが真ん中のベッドへ目線を向ける。クリフトも気づいた様子で上体を
起こし、同じように中央のベッドへ目を注いでいた。
「…あの。大丈夫ですか?」
遠慮がちにクリフトが声をかけると、布団がもぞっと動き出す。
「クリフト?」
「え‥鷹耶‥さん?」
バッとベッドから抜け出して、クリフトが布団から顔を出した彼の顔を両手に挟んで確認
する。
「本当に鷹耶さん。…お帰りなさい。」
「ああ‥ただいま。」
ふわりと破顔させたクリフトに、鷹耶の顔も自然と綻ぶ。
背に回した腕を引き寄せて、ぴったり身を寄せ合った。
「…鷹耶。お酒の匂いがしますね?」
しばらく温もりに身を預けていたクリフトが、怪訝そうに鷹耶を覗う。
「‥ああ。なんかあっちの2人ってさ。すっげえクセのある奴らで。
飲まなきゃやってらんなくてさ…」
鷹耶が大変だったと眉を下げて。トン…とクリフトの肩口に顔を埋めさせた。
「ああ‥やっぱりここが一番だわ。俺‥お前で本当によかった。安らぐなあ‥」
「そんなに違うものなんですか? あちらの世界の彼らって‥」
スリスリと甘えてくる鷹耶に苦笑し訊ねると、眉を寄せた彼がぶるりと震える。
「もお全然違う! 怖いクリフトなんて、冗談じゃねーし!」
「え‥。ソロはあちらのクリフトも優しいと仰ってましたよ?」
ブンブンと激しく首を振って、鷹耶は縋り付くよう口を開いた。
「違う。表面上は穏やかだが‥鬼畜な魔王よりおっかなかった‥!」
「鬼畜‥?」
隣で聞いていたピサロが怪訝そうに眉を寄せる。
「おお。あんたも油断ならねーけど。奴に比べりゃ可愛いもんだ‥って、身に染みたぜ。
あっちの勇者の環境は、苛酷みたいでさあ…」
「そうなのか? しかし…勇者は、随分倖せそうだったぞ?」
「そうですね。にこにこ笑って、可愛らしい方でした。」
「…そうなのか? ‥まあ。うまい具合に釣り合ってる‥ってコトか?」
ピサロにクリフトまで賛同して、鷹耶が首を傾げつつ納得させた。
勇者取り替えっこな一夜。
自分の世界が一番しっくり来るものだと改めて感じた勇者たちでしたとさ。
おしまい。
2006/11/22 |