「ねえねえ、ピサロ。11月22日って何の日か知ってる?」
「いきなりなんだ? ‥というより、ここはどこだ?」
なにもない空間へいきなり連れて来られたピサロが怪訝そうに、先にその場へやって来て
たらしいソロに訊ねた。
「さあ? オレもよく解んないんだけど。招待されたんだ。」
ソロが持ってたカードをつい‥とピサロへ差し出す。
『記念日のお祝いにご招待♪
いつも泣かせてしまってるけど、今夜はしがらみ忘れて楽しく過ごして下さい。』
「‥記念日? なんの事だ?」
「…さあ? ピサロも知らないの?」
「ああ‥。それにこの“いつも泣かせてしまってる”とは…
お前、誰かに泣かされてたのか?」
「誰か‥って。あんたしかいないじゃん★」
迷わず返され、ピサロが押し黙る。
「…だから。ピサロに逢えるかも知れないって思ったから、ここへ来たんだよ。」
束の間の沈黙の後、ソロが細い声でぽつんと伝えた。
「ソロ…」
「…もう逢えないって、思ってた。けど…本当に逢えた。」
「ソロ‥」
微笑みながらぽろぽろ涙を零すソロを、ピサロは惑いながらも抱きしめた。
「…そうだな。私も再びこうして逢えるとは、思わなかった。」
「夢‥見てるのかも知れないね。
だってここ‥本当になにもない。別世界に迷い込んだみたいに。」
ピサロの胸に顔を埋めたソロが、クスッと話す。
「そうだな‥かも知れん。感覚はしっかりあるようだがな。」
言いながら、感触を確かめるよう、ピサロがソロの躰を撫ぜて来た。
「ピサロっ?! なにやってるんだ‥?」
「何‥とは今更だな。せっかくこうして逢えたのだ。
やる事は1つしかあるまい?」
ケロっと状況に馴染んだらしいピサロが宣う。
「な‥やるコト‥って。オレ達はもう…んっ‥」
ピサロは最後まで言わせず、唇で彼の口を塞いでしまった。
「ん…や‥は‥。…ふ‥ぅ‥‥」
初めはどうにか抵抗を試みたソロだったが。無理矢理口内へ侵入してきた舌が我が物顔で
口腔を巡ると、次第に力が抜けてしまう。
強引さとは裏腹に、優しい仕草が心を溶かしてゆくようで。
ソロはうっとりとそれに応えていた。
「…ずる‥いよ。」
唇を解放されたソロが息を弾ませつつこぼす。
紅潮した頬、熱に潤んだ瞳‥既に支えなしに立つ事も困難になってる。
「“柵忘れて”とあっただろう? 思いのままに振る舞え‥と、ここへ導いた者が勧めて
居るのだ。だから遠慮はしない。」
「‥なん‥だよ、それ。オレはもうあんたとは‥‥」
そっと横たえさせたソロを組み敷いたピサロが、じっと彼を見つめた。
「私と過ごすのは、不愉快か?」
「そんなコト‥言ってない。逢えて嬉しい。本当だ。でも…」
「お前が躊躇うのは、あの男のせいか‥?」
「ピサロ…。」
思いの外静かな問いかけに、ソロが訝しげに様子を覗う。
ピサロは彼が否定しなかった事を答えと理解し、自嘲気味に微笑んだ。
「ピサ‥‥っん…はあ‥‥っ。あ‥ん‥ん‥‥」
ソロの言葉を飲み込むように口接けたピサロが、そのまま口腔を貪る。
深い接吻を交わしながら、彼はソロの肌へ手を滑らせた。
意図を持った手先が器用にソロの滑らかな肌を愛撫してゆく。
固く尖った実を摘まみ上げると、彼の躯が大きくしなった。
「あん…っ‥は‥ぁ‥‥はあ…。」
「‥ソロ。…お前が欲しい。」
接吻を解いたピサロが、耳元でひっそり密話いた。 密話いた→ささやいた
瞬間、彼を押し退けようとしていたソロの手が止まる。
彼の表情を確かめたくて、ソロは瞳でピサロを追った。
普段白いその頬が微かに紅潮している。そっと伸ばした手を頬へ当てると、冷んやりした
手が重ねられた。
「…ピサロ。‥ね、答えて。欲しいのは‥オレの躯? それとも…」
努めて平静を装いながら、ソロがまっすぐな視線で彼を凝視める。
「‥全部だ。」
「ホント‥‥?」
「ああ‥。なにもかも奪い尽くしても足りぬな。」
「‥いいよ。‥奪って…」
ソロはふわりと微笑むと、両手をピサロの首に回し抱き寄せた。
「‥ここ、やっぱり夢の世界なんだよ。」
彼の腕の中で微睡みながら、ソロはぽつんと呟いた。ピサロがそんな彼を黙ってみつめる。
「…だってさ。ピサロがこんな優しいなんて、嘘だもん。」
クスクス‥とソロが笑った。
「ね‥夢なんでしょう、これ?」
問いかけられて。憮然と眉を寄せていたピサロがフッと表情を和らげた。
「‥そうだな。夢だろうな、やはり。」
「…目が覚めたら、全部‥忘れちゃってるかなあ‥?」
じっと彼の顔を眺めていたソロが、こつんと彼の肩口に頭を乗せた。甘えるように、手遊
びしながら、小さく嘆息する。 手遊び→てすさび
「‥かも知れぬな。」
「ピサロも忘れちゃう‥?」
目だけを上向かせ、ソロが訊ねた。
「そうだな‥恐らく‥な。」
「そっか…。そーだよね‥うん。」
ソロは何事か思いついたように頷くと、口接けを強求るよう手を伸ばした。
しっとり重なった唇がゆっくり離れ、ソロの首筋へ降りてくる。
小さく身動ぎながらも受け止めた彼は、愛おしげにピサロを掻き抱いた。
温もりを確かめ合うよう睦み合ううち、ピサロの手が再び双丘の奥へ伸びた。
まだ柔らかい窄まりへゆっくり指を沈めてゆくと、焦れたソロの腰が揺らめく。
「ピ‥サロ。いいよ…来て‥」
組み敷かれたソロが頬を朱に染め誘った。
ピサロは身体を屈め口接けると、楔を彼の身内へ沈めていった。
「ん‥ああっ…!」
灼熱に穿たれて、一段と艶帯びた嬌声が上がる。
「ピサロ‥ピサロ…!」
両手を差し伸ばし、ソロはピサロの背にしがみついた。
すべてを受け入れたソロが、ほっと息をつくピサロをぎゅっと抱きしめる。
「ピサロ…好きだ‥!」
「…!! ソロ…。…私も‥だ‥‥」
「…っ。ピ‥サロ‥‥ふ‥ぅ‥‥」
思いがけない返答に、ソロは顔をくしゃくしゃに歪め泣き出した。
ずっと欲しかった言葉。でも…
だから。これはやっぱり夢なのだと、確信した。
熱い楔もサラサラ躰を擽る柔らかな銀糸も‥そして、心を射める紅の眸も…
現実じゃないのだ‥と。 現実→ほんとう 射める→とめる
夢ならば‥と、結局伝えぬままだった気持ちを言葉にしたソロだったが。
欲しい言葉が返されると、それが現実でない事があまりにも苦しい。
ソロはあまりにリアルな感触に、残酷さを覚えながら、彼の熱を受け止めていた。
「…ソロ。」
すう‥と眠りついた彼の翠髪がピサロの指の間を滑ってゆく。
柔らかな髪を梳りながら、ピサロはひそやかに嘆息した。 梳り→くしけずり
「‥これが[夢]ならば…」
どちらの夢‥なのだろうな‥‥白い闇へ溶けるよう消えて行った姿に、ぽつんとピサロが
語りかけた。
独り白い空間へ残されたピサロが、距離感すら掴めぬ白い空を振り仰ぐ。
点に見えた黒い闇が、その存在に気づいた途端広がってゆくと、ピサロは瞳を閉ざした。
ゆっくり漆黒の闇に覆われてゆく躰を思いながら、彼は「ああそうか」と思い出す。
この躰は既にココにはないのだという事を。
ただ独りの‥護りたかった少女を失い、復讐に身を焦がし、闇に委ねてしまった己を‥
――最後の願望か。
ロザリーを護ってやれなかった事を悔やみながら、一方で過ったソロへの想い。
それが見せた幻とピサロは理解し、闇へと溶けていった。
2005/11/22
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