ロザリーヒル。

ホビット族が住む村。



尖った耳が特徴的な小柄のホビットが住む村は、深い森に囲まれた場所にひっそりと在っ

た。小さな村にようやく辿り着いた時、最初に見かけた村人を見て、ここがホビット達の

住む村――ロザリーヒルである事を知った。



「へえ〜。ここがロザリーヒル。ホビット達の村なのね。すごいわ!」

村の入り口で馬車を止めると、真っ先に馬車を降りたアリーナが嬉々とした感想をもらす。

「随分と森の奥にあるもんだわい。地図がなければ、捜し出せなかっただろうな。」

ブライもやれやれ‥といった様子で幌からゆっくり降りると、周囲を巡らせた。

「とりあえず、まずは宿に落ち着きましょうかね?」

「そうね。パトリシアも相当疲れているでしょうし。早く休ませてあげたいわ。」

御者台からゆったりと手綱を預かるトルネコと、隣に座って用心深く馬車の通る道に神経

を向けるミネア以外のメンバーは、馬車から降り、村の様子を眺めながら、馬車の後を着

いて行った。

宿屋らしき看板を目ざとく見つけたトルネコが、馬車をその前に着けると、ソロとクリフ

トが今夜の宿を頼みに扉を潜る。

村を歩いている時もそうだったが、ホビットはあまり人間に好意的でないのか、宿の主人

は仕方なく…といった態度を露に、望む部屋を用意してくれた。



「…なんだか、あんまり歓迎されてないみたいだね。」

部屋に落ち着くと、ソロが同室のクリフトに吐息混じりに話しかけた。

「そうですね‥。とりあえず、まだ陽も高い事ですし。手分けして聞き込みに回りましょ

 う。ホビット達が人間を警戒する理由も判明るかも知れませんし…」    
判明る→わかる

「そうだね‥」



ロザリーヒルは小さな村だった事もあり、それぞれが手分けして、情報収集にあたる事と

なった。

ソロはあのイムルで見た夢と同じ小塔へと、なんとなく足を向けると、決して高いとは云

えない石造りの塔を見上げた。

「‥‥‥‥」

「うそじゃないよ! 本当だよ!」

ソロがぼんやりその場に佇んでいると、通りかかった母子らしき2人の会話が飛び込んで

来た。子供が必死に母親になにか告げてるらしい‥

「夜になると、あの塔の窓からきれいなお姉ちゃんが顔を出すんだ!」

ソロがその子供の言葉に反応し、子供へ目線を移すと、母親らしき女が子供を庇うように

立ちはだかった。

「あ‥あの…この塔の事、少しお訊きしたいんですが…」

「塔の事? …あんた、人間だろ? 何をしにおいでだい?」

「‥え‥っと。その…実は、この村にかつて魔族が住んでいたと聞きまして…。

 その…。なにかご存じではないかと‥」

訝る女に気圧されながらも、ソロはどうにか質問を試みた。

「…ああ。確かに。ずっと以前、そのピサロ様がこの塔を造られたんだよ。

 その時に隠し部屋を造って、大切なものをしまったんだ‥って噂はあるがね。

 人が住んでるなんて話は聞いた事ないねえ。大方この子が寝ぼけたんだろうよ。」

「…そうですか。ありがとうございました。」

ソロはぺこりと会釈をすると、足早に去ってゆく親子の背を見送った。



「ソロ!」

「クリフト‥」

教会から出て来たクリフトが、ソロの姿を認め駆け寄って来た。

「どうしたの? 珍しいね、クリフトが慌ててるなんて‥」

ソロの前までやって来たクリフトが、息を切らせているのを見ながら、苦笑した。

「それが…。ちょっと一緒に教会まで来て頂けませんか?

 私が説明するより、その方が早いと思いますので。」

ソロはクリフトに連れられて、教会へと赴いた。

堅く閉ざされた扉の前で、クリフトがソロへ視線を向ける。

「…あの。何を見ても驚かないで下さいね?」

「…? ‥うん。」

ごく普通の教会と変わりなく思える建物の中へ足を踏み入れると…

そこには、様々な動物達が集っていた。

扉に程近い長椅子の側に居たウサギが、彼らの姿を見止めると、ぴょんぴょんと椅子の背

もたれ部分へ昇り、じ〜っと彼らを見つめてくる。

「あなた‥また来たの? ここは私たちの教会だってシスター様に云われたでしょ?

 仲間まで連れて…。‥‥あら? …あなた、なんか普通の人間と違うわね?」

ウサギはクリフトから視線をソロへ移すと、小首を傾げ、しげしげと彼を眺めた。

「う‥ウサギがしゃべってる? クリフト…?」

彼女(?)の視線を気にしながらも、ソロが驚いた様子で彼を覗った。

「この教会にいる動物達はみんな人間の言葉を話せるわよ。」

ふふん‥と得意そうに彼女が笑んだ。

「どういう事‥?」

「ピサロ様のおかげよ。あの方が私達をしゃべれるようにして下さったの。」

「ピサロ…様‥?」



その後、教会内に居た動物達から様々な情報を得た結果。

彼が[進化の秘法]を動物達に用いた事。その結果、人語を解する動物へと[進化]した

事が解った。そして。ここの動物達が皆、ピサロを尊敬してる事も…





教会を出るとすっかり陽も傾いていたので、彼らは宿へと引き返す事にした。

宿へ戻ると、他のメンバーも続々戻って来たので、一同はとりあえず夕食を済ませ、ライ

アン・トルネコ以外のメンバーが、ブライ達の泊まる3人部屋へ移動した。



「‥ようやく話が出来そうじゃな。」

ブライがやれやれ‥といった面持ちで肩を竦めた。

食事の間中、カウンターに座る人間の男と、今日到着したばかりの8名の団体へ注がれる

ホビットの訝しげな視線に晒され、日常会話をそこそこ交わすだけで、彼らは早々と食事

を済ませ部屋へと戻って来たのだ。

ライアン・トルネコを食堂に残して来た理由は、カウンターに居る男を見張る為。

彼はどうやらルビーの涙を流すというエルフを捜して、この村へとやって来たらしい。



「…あの男が捜して居るというエルフが、あの夢の少女ロザリー‥という訳じゃな。」

今日得た情報を交換しあった後、ブライが深く嘆息した。

「我らが追っているデスピサロは、ロザリーという少女の為に、人間を滅ぼそうと企てて

いるのでしょうか?」

「そうかもねえ‥。夢の様子だと、随分彼女には優しげだったし…」

クリフトの言葉にマーニャが頷き答えた。

「…あの教会の隣にある塔が、例の夢の建物なのよね。

 彼女に直に会って話してみたいわ。」

「そうですね‥。デスピサロの情報が得られるかも知れませんし。」

「…けれど。」

ミネアが慎重に、手にしていた水晶球を皆に見せるよう掲げた。

「あの塔には…なにか、大きな力を持つ敵が待ち構えているように感じます。

 赴くなら、戦闘準備を万全にして臨まれた方が良いと思うのですが。」

「…そうだね。

 奴が大切にしてる少女を匿ってるとしたら、護衛くらい配置してるだろうしね。」

それまでほとんど会話に加わらなかったソロが、堅い表情をみせた。

「よし‥決まりじゃな。ソロ、人選はどうする?」

「うん…アリーナ・ブライ・クリフト、来てくれる?」

呼ばれた3人が神妙に頷いた。

「それじゃ、あたしとミネアが周辺の見張りを担当するわね。」

「うん、お願いするよ。」

「では…裏口の方から外へ向かいましょう。出来るだけ目立たぬように。」

クリフトの言葉に一同が頷くと、早速彼らは小塔を目指した。



サントハイム城で手に入れた不思議な笛。

小塔の前で、夢と同じ場所に立ったソロが、静かにメロディを奏で出した。

ピ〜ヒョロロロロ〜〜♪

夜の闇に紛れるようなか細い笛の音の後、カタンと小さな音がすると、地面に隠し階段が

現れた。

「気をつけて下さいね‥。」

ミネアが心配そうに彼らを見送る。

やがて。

4人の姿が階下へ消えると、階段そのものもすうーっとその姿を消してしまった。

「大丈夫かしら?」

「平気平気。だって彼女の呼びかけで来たんだもの。」

「それは‥そうだけど…」

気軽に請け合う姉に、まだ不安混じりの顔でミネアが答えた。



一旦階段を降りたソロ達は、しばらく廊下を進むと、上り階段を見つけ静かに上へと登り

進めていた。

「…ミネアさんのおっしゃる通り、確かに力強い気配を感じますね。」

クリフトがひっそりと語る。

「心してかからねばならぬぞ。」

一番後方を歩くブライの言葉に皆が頷いた。

そして。

塔の3階へ辿り着いたソロ達の前に、開けた廊下の先に見える扉を守るよう立ちはだかる

鎧の騎士が、戦闘体勢で待ち構えて居た。

「‥オレ達は戦いに来たんじゃない。ロザリーに逢いに来ただけだ。」

「…ここを通す訳には行かぬ! 始末してくれるわ!」

ソロの呼びかけに、問答無用と云うように、鎧の騎士が構えた剣で攻撃を仕掛けて来た。

「‥っく。解らない奴だな!」

ソロがスッと抜いた剣で彼の攻撃を受け止める。

そのまま剣を押し退けると、横からなぎ払った。胴へと決まった攻撃も、丈夫な鎧を

纏った奴には効果があまりないようで、すぐに次の攻撃が降りてくる。

クリフトがスクルトをアリーナに。ブライがバイキルトをソロにかけた。

剣の応戦をしていたソロが、魔法の援護を受け、次の攻撃を仕掛けるタイミングを測る。

アリーナがソロと共に相手との距離を詰めてゆく。

その動きに、一瞬ソロへ向けられていた闘気が分散されると、ソロは渾身の一撃を彼へ

見舞った。

カッシャーン!

相手の剣を根元から切断する。細身の剣は容易く折れ、空を舞った。

ソロはそのまま彼の喉元に剣の切っ先を向ける。

「もう一度言う。オレ達は戦いに来たんじゃない。ロザリーに逢いに来ただけだ。

 彼女が人間に狙われてるのだと、この村へ来て知った。

 だけど‥オレ達は、そんなつもりで彼女に逢いたいと思ってる訳じゃない。

 彼女の夢を見て…それでやって来たんだ。」

「‥‥‥‥」

「…ナイトさん。この方々は私がお招きした方です。どうぞ、お引き下さい。」

かちゃり…静かに開いた扉から、そっと身体を覗かせた少女がはっきりと声をかけた。

「ロザリー様…。」




       

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