後ろへの刺激に応えるよう大胆さを増したソロは、彼をしっかり追い上げ、昇り詰めさせ
た。どくん‥と口内に弾けた蜜を、半分ほど受け止めたソロがこくんと飲み下す。
「はあ…はあ…。あ〜あ‥ベトベトだあ…」
残り半分を顔で受け止めてしまったソロが、ぽつんと零すと、無造作に手の甲でふき取っ
た。
「ソロ。」
名を呼ばれ振り返る。手招きに導かれ躯を反転させると、ピサロが上体を起こした。
ピサロの膝の上で向かい合わせとなった為、ソロのすぐ側に端正な顔が現れる。
「‥ピサロ。ん…、ちょ‥ピサロ…?」
彼の顔に残る欲望の残骸を躊躇いなく舐めとってゆくピサロを制そうと、ソロが窺う。
「ん…ん‥。ふ‥ぁ‥‥‥っ。」
顔中舐められた後には、仕上げとばかりに濃厚な接吻が降りてきた。
口内を巡った舌がソロのそれに絡みつく。苦しいほどに吸い上げられたかと思うと、甘や
かな蜜が送り込まれる。長い接吻は、それだけでソロを蕩けさせるようだった。
「は‥ピ‥サロ。ねえ、もう‥‥‥」
情欲に潤んだ瞳で、ソロはすっかり硬度を取り戻しているピサロ自身に指を絡ませた。
「指だけでは物足りなかったか‥?」
熱っぽく強求るソロに、その機嫌よさを窺わせる口調で、ピサロが問うた。
「‥ん。ピサロの‥欲しい。」
甘える仕草でそう素直に紡ぐと、ピサロが満足げに目を細めた。
ピサロは彼の細い腰に手を添え、軽く浮かすと、すでにしっかり解された秘所に己を宛て
がった。
「ふ…あっ…ああ‥‥‥」
待ち侘びた灼熱に、ソロが艶やかに啼いた。
「ピサロ…っ、ピサロ‥‥‥!」
きゅっと彼の首に回した腕に力を込め、ソロが縋り付く。ぽろぽろこぼれてゆく甘い音が、
ピサロの耳に心地よく響いた。
ゆっくりしたリズムを少しずつ早め、ピサロが彼を穿ってゆく。
「…ソロ、お前を‥‥‥‥っ。く‥‥‥」
一度達したソロが再び充電を終える頃、ピサロは意識を浮かせた彼に何事か話しかけ、途
中で言葉を飲み込んだ。
迸りを最奥で受け止めながら極めたソロは、ただ朧げにそれを聴いていた。
翌朝。早朝に目を覚ましたソロだったが、既にベッドには人気が残っていなかった。
独り残された彼は、ひっそり嘆息すると、窓辺へ視線を移す。
しとしと降る雨の気配に、今度は大きな溜め息を落とした。
魔力を封じているという凝った細工の腕輪をぼんやり見つめ、ソロが試すよう集中してみ
る。昨日も幾度か試してみたが、その時同様、魔力が0になっているかのような手応えし
か返って来なかった。
「‥やっぱり、こいつ外れないと駄目みたいだな…。」
雨が止んだら帰すと約束はしてくれたが、出来れば自力で脱出したい‥そんな事思いなが
ら腕輪を弄くっていると、控えめなノックが届いた。
小さなノックの後、昨日の少年ロコが食事を持って入って来る。
「おはよう、ロコ。」
「あ‥ああ。…食事、持って来たぜ。」
名前を呼ばれて面食らったロコが、仕方なく‥といた面持ちで返した。
サイドテーブルに持って来た食事を置き、クルッと踵を返す。そのまま足早に去ろうとし
たロコの背中に、ソロが「ありがとう」と声をかけたが、彼の足が止まる事はなかった。
「…オレ、怖がられているのかな‥? ‥‥人間だから‥」
フッと呟いたソロは、[人間]という言葉に違和感を覚えた。
―――オレは、[人間]…なのかな。オレだって半分は‥‥‥
‥家族のようにも思えて慕っている旅の仲間達。
けれど…もし自分が[人間]の枠組みから外れてしまってるのだとしたら‥
それは彼らにどう映るのだろう?
今はただ目的が同じだから、一緒に行動してるだけで、みんな本当は‥‥
そんな事を考え出して、ソロは急に足元がぐらつく思いに囚われた。
「‥‥食欲ないや。」
ソロは手にしたスプーンをテーブルに置くと、ごろんとベッドに寝転んだ。
昨日は仲間の安否が気になって仕方なかったのに。今日はその仲間がやけに遠く感じて、
不安で堪らない。自分が[勇者]だったから。今までみんなついて来てくれてただけで。
そんな肩書なかったら‥共に行動などしていなかったのではないか?
自分の行き場など‥村を失くしたあの時に、とうに失ってしまったのだと、改めて思い至
り、ソロは愕然としていた。
「独り‥か。…独りは嫌いなんだけどな。」
両手を交差させ顔を覆ったソロは、乾いた瞳を閉ざしぽつんと呟いた。うっとおしい程降
り続く雨が代わりに泣いていたのか、語尾だけ悸えさせながら‥
「‥あれ? まだ食ってなかったの?」
しばらくして。器を下げに来たロコは、テーブルに手付かずで残っている食事を意外そう
に眺めた後、ベッドにコロンと横になっているソロの背中に声をかけた。
「‥ごめん。あんま‥腹減ってなくてさ。」
ソロは振り返らず、抑揚ない声で説明した。
「まだ具合悪いのか‥?」
「…別になんともない。ごめんな、せっかく届けてくれたのに残してさ。」
「…もう下げていいのか?」
「うん‥ごちそうさま。」
「‥‥‥‥」
ロコは怪訝そうに彼の様子を窺ったが、自分の役目は果たしたと、早々に部屋を退出した。
結局。その後持って行った昼食も手付かずで。
ロコは下げた食事を寝室に続く私室まで運ぶと、ローテーブルに盆を置き思案していた。
自分でなくピサロが持って行けば食べるかも知れない…いや、それほど気遣う必要など、
最初からないじゃないか…
うう〜ん‥とあれこれ考え込んでいると、頭上から声が降ってきた。
「どうしたんだ‥?」
「あ、ピサロ様。実は‥‥」
ロコから次第を聞いたピサロは、彼を下がらせると一度下げて来た食事を手に、寝室へ向
かった。
「ソロ。」
背を向けベッドに横たわっている彼に、ピサロが声をかけた。
ソロは少し驚いたのか、肩を跳ねさせたものの、こちらへ振り返る事はしなかった。
「なに‥?」
どこかぶっきらぼうに返事がされる。
「食事を取らぬそうだな。」
「腹減ってないから。」
「食せる時にきちんと取る‥のではなかったのか?」
盆をサイドテーブルに乗せ、ピサロが彼の背中に話しかけた。
「‥別に。あんたにはどうでもいい事だろ。とにかく、今はいらない。それだけだ。」
「ソロ。」
突っ慳貪な返答に、埒があかないとピサロがベッドに乗り上げ、ソロの身体を仰向けに力
づくで返した。
「…泣いていたのか?」
彼の表情を注意深く見つめながら、ピサロが意外そうに眉を顰めた。
「別に‥泣いてなんかない!」
確かに。ソロの瞳は濡れてなかったし、涙の跡などどこにも残っていない。
ピサロはそれを確認するかのように、彼の目元から頬を手のひらで包んだ。
「な‥んだよ…?」
いつになく優しい仕草をされて、惑う瞳が揺らぐ。
「‥なるほど。では昨晩は物足らなかった‥という事かな。」
クッと笑うと、ピサロはそのまま彼に圧しかかり、口づけた。
「ん…ふ‥‥‥」
しっとり重ねられた唇は啄むよう触れた後、隙間から滑り込んだ舌が彼のそれに絡んでき
た。ゆっくりとまるで癒すような甘い口接け。ソロは少しだけささくれ立った気持ちが緩
むのを思った。
「…ピサロ。」
唇が解放されると、すぐ間近にある彼の双眸を彼は不思議そうに見つめた。
「貴様が食事を取らぬのは勝手だが、こちらは遠慮せず頂くぞ。」
「え…あっ、ちょ‥ピサロッ。な‥昼間から一体‥‥!?」
首筋に顔を埋めたピサロがローブを脱がしにかかったのに慌てたソロが、ジタバタもがく。
「…雨は、直上がる。」
「え‥‥あっ。…そっか。‥‥‥」
ソロは言葉の意味を理解すると、彼がこうして部屋へ戻って来た理由を知った。
その間にも、柔らかでゆったりしたローブは、肩をするりと抜け、上半身があっと言う間
に露になる。ピサロはあちこちに花片を散らした躯を満足そうに見た後、ほんのり色づく
果実を口に含んだ。
「あっ‥ん‥。」
―――これが、本当の最後‥なんだ。
ソロはちくん‥と胸に痛みを覚えながら、流れるような彼の銀糸を掻き抱いた。
天候は穏やかに回復の兆しを見せてはいたが。
結局雨が上がったのは、陽が森の彼方に沈んだ頃となってしまった。
ソロは茜色に染まった部屋の中、大分遅くなった昼飯を完食し、きっちり閉ざされていた
厚手のカーテンを少し開放した窓辺に佇むピサロを窺った。
「…やっと、雨上がったみたいだね。」
「ああ。」
窓の外へ目をやったまま、ピサロが応えた。
「‥行くか?」
「‥うん。」
すでに身支度を終えていたソロは、立ち上がると彼に腕を差し出した。
ピサロがソロと向かい合わせに立ち、呪文を唱えながら腕輪の飾り石に触れる。
淡い光を帯びた緑石がその輝きを失うと、腕輪がパカリと分離し、ゴロンと床に落ちた。
ソロがようやく枷の無くなった手首をクキクキ回す。腕輪の跡がくっきりと紫に変わって
いたが、特に痛みもなく、魔力も僅かながらだが戻ったように思えた。
「…痕になったな。」
彼の腕を取り、ピサロが静かに話した。
「ああ‥でも痛くないし。」
「…しばらくは、魔力のコントロールが難しいかも知れん。」
「‥分かった。じゃ‥行くな。」
窓を開け放ったソロが窓枠に手をかけた。
「ああ‥。」
数歩後退さって応えたピサロとソロの瞳が交わされる。
紅の双眸を見つめる蒼の瞳が切なげに細められると、何かを考えるよう視線が落ちた。
再び顔を上げたソロが、きゅっと口を結び、ゆっくりと紡ぎ出す。
「…さよなら。」
それだけ言い切ると、身体を反転させ、飛翔するようソロは魔城を後にした。
「‥‥‥‥」
彼が去った後を無言で見送るピサロ。
雨粒を残す景色をしばらく見つめ、やがて踵を返すと、彼は振り返らずに部屋を出た。
『‥たとえ世界が[勇者]のオレしか必要としてなくても、それでもオレは‥
哀しみを増やさない為に戦う。[魔王]が人間を滅ぼす者ならオレは‥‥
オレはあんたを倒す。きっと―――』
艶めいた吐息混じりに紡がれた言の葉。
どこか寂しげな瞳には、本音と覚悟が混在していた。
―――人間を滅ぼす者でなければ‥きっと‥‥‥
そんなソロの想いをのせて‥‥‥
2005/6/3
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