―――ズルいよな、オレ‥



シンシアから教わった魔の属性に有効だという毒。

それが効かない‥と知って、オレは確かにほっとしたんだ。

終わりにしようと…そう決めたのに。

本心は―――



「ピサロっ。は‥ああっ―――!!」

最奥に迸りを受けながら、ソロも追いかけるよう極めていた。





ちゃ‥ぷん。たぷん‥‥

「ん‥あれ…?」

温かな湯に包まれている感触が、夢の浮遊感でなく現実のものだと認識するのと同時に、

ソロが意識を覚醒させた。

「やっと気が付いたか。」

すぐ側で響いた低い声にソロが振り向く。岩風呂らしき湯船の中で、ソロの身体を支える

よう隣に座っていたピサロの双眸が、うっすらと細められた。

機嫌のよさをそこから感じ取ったソロがホッと嘆息し訊ねる。

「ここは‥?」

「あの小屋のすぐ下だ。ここも人間が打ち捨てた場所のようだな。」

ピサロの言葉に、周囲を巡らせたソロは、所々傷んだ様子の施設に納得した。木で組まれ

た渡り廊下らしきものが崩れかけている。露天風呂は天然の温泉を利用したものだったら

しく、湯自体は澄んでいたが、折れた板屑などが若干浮かんでもいた。

「‥まだ浸かって行くか?」

「あ‥ううん。出る‥っ。…あれ?」

立ち上がろうとしたソロだったが、意志に反してその場にへたり込んでしまった。

「大分絞り取ってしまったからな。回復していないのだろう。」

クス‥と鼻で笑ったピサロが応え、一人湯から上がった。

「待ってろ。」

そう言い残し、彼は少し先にある大岩に置いてあったバスローブを手に取った。

それを羽織りながら引き返してくる姿をソロが追う。戻って来た彼は、ソロの背後に立つ

と、両脇に手を入れぐいっと引っ張り上げた。

そのまま勢いで横抱きにし、踵を返すピサロ。

「ち‥ちょっと、ピサロ‥!?」

「立てぬのであろう?」

「それは‥そうだけど。でも‥あの…これじゃ‥」

恥ずかしそうに頬を染めると、裸のままだという事への抵抗を示唆した。

「すぐ小屋へ戻る。戻ればなにかあるだろう。」

「自分だけズルいや…」

ぽつんと呟くと、じろっとピサロが冷たい視線を寄越した。

「私としては、過ぎたサービスをしてやってるつもりだが‥。

 気に入らぬなら、ほおって帰るぞ。」

「え‥あ、いや。えっと‥文句なんかないです。…早く小屋に戻ろう? ね?」

冷ややかに言われ、ソロが慌てて繕い彼を促した。



ピサロは移動呪文で小さく跳び、先程の小屋へ瞬時に移動を果たした。

そのまま扉を潜り、ソロを使われなかったベッドへと放り投げる。

彼は部屋に備えられていたもう1つのバスローブも、ついでに投げて寄越した。

「…ありがと。」

ソロは短く伝えると、それで身体を拭い始めた。



服を着込み、ようやく人心地着いたソロが、ぽすんとベッドに懐く。

とろんとした眠気が込み上げてくる中瞳を閉ざすと、ピサロが腰掛けたらしく、ベッド端

が撓んだ。スッと差し出された指先が、まだ湿ったままのソロの翠の髪に触れる。

ソロはその優しい感触を心地よく思いながら、ふっと口を開いた。

「…ロザリーがさ。‥彼女が言ったんだ。」

ぽつん‥とこぼすようにソロが語り出した。

「オレだったら…オレにだったら、あんたの決意を変えられるんじゃないか‥ってさ。

 ふふ‥そんなの無理に決まってるのにね。」

ソロが自嘲気味に微笑んだ。そして。首を横向け、視線だけで彼の様子を窺う。

「ああ‥そうだな。」

なんの感情もこもらぬ返答に、ソロも無表情に視線を外した。

「‥だよね。彼女‥勘違いしてるんだ。オレとお前の事‥‥

 あんたにとってオレは‥退屈凌ぎの玩具でしかないのにさ…。」

静かに話すと、ソロは大きく吐息をついた。

「…あんたが、人間を滅ぼそうと思ったのは‥彼女が居たからだろ?」

「…そうだ。」

ピサロの言葉に、枕に顔を埋めたままソロが肩を悸わせた。

「ホント…バカみたい。」

ぽつんとした呟きはひっそり枕へ吸収された。静寂が部屋を包み込む。

ピサロはソロの様子を窺っているのか、静かに肩を震わせる彼の姿を、ただ黙ってみつめ

ていた。

ややあって。ソロは拳をぎゅっと握り締めると、身体を反転させながら上体を起こした。

「あんたさ、以前に言ってたよな。オレにあんた以外の奴と寝るな‥って。」 
以前→まえ

剣呑な眼差しでソロがピサロを睨んだ。

「ならさ…オレが別の奴とそうなったら、あんたとの関係も終われるんだ‥?」

「なんだと?」

「言っただろう? 清算するつもりだった‥ってさ。」

険しい瞳に怯む様子も見せず、ソロが口の端を上げた。

「ほう‥? いつかの港町でのような無頼漢でも物色するつもりか?」

「誰がそんな事! オレにだって好みぐらいあるんだ。」

「‥言ってみろ。」

揶揄かうような口ぶりに、ソロが反論すると、冷静な声音でピサロが促した。

「え…?」

「その好みとやら‥。あるのだろう?」

「え‥えっと‥‥‥」

「ふん‥実行に移る前に流れるな、その計画は。」

考えなしの言葉だと踏んだピサロが、余裕気味に笑んだ。

「オレだってその気になれば、モテるんだぞ。(…多分)」

なけなしの自信を精一杯誇張し、ソロが言い切った。

「精々頑張るのだな。」

そう言うと、ピサロが立ち上がった。

「先に帰るぞ。…貴様も自力で戻れよう。」

「ああ‥。いいか、忘れるな。次はないからな!」

踵を返し戸口へ向かう彼の背に、ソロが低く声をかけた。ピタリ‥とその歩みが止まる。

「貴様こそ、その時にはせっかく永らえた生命の潰える時と、覚悟決めておけよ。」

目線だけをチラリと送る彼の、不穏な空気をまとった声が、ソロを射貫いた。

久しぶりに見せる凍てついた瞳に、ゾクリと肌が粟立つ。まるでその空気に怯えたように、

ランプの灯火も大きく揺らいだ。

「‥言ったろう? オレは使命を果たすまで、殺される訳には行かないってね。

 だから‥覚悟しておくのは、あんたの方だよ。」

喉の渇きを覚えながら、掠れた声でソロが返した。ピサロはその挑むような瞳に満足そう

に口角を上げ冷嘲うと、再び歩き始めた。



ぱたん…ソロを独り残し、静かに扉が閉められた。

ソロはその様子を一部始終見送ると、彼の気配が消えるのを待ち、長い息を吐いた。

「はー。」

ドッドッド‥早鐘を打つ胸に手を当て、詰めていた息を吐ききる。

「…バカ‥やろう…」

自分に‥そして彼に向けた言葉がついて出た。



精一杯の強がりでああは言ってみせたが。

独り残されると押し殺した想いが溢れ出し止まらない。



「ふ‥‥っく。‥‥‥ぇ‥‥く‥。」



初めから承知っていた事だけど。ソロの気持ちは届かない。    
承知って→わかって

ロザリーの頼みも、自分には叶えられないと思い知らされてしまった。

残された道は…宿命通り、戦う事―――



―――好き、なのに。



伝えられない‥‥いや、きっと想うコトすら許されない恋。

けれど‥‥

もう独り抱えていくには重過ぎて…

想われない身を確認させられるのが辛過ぎる…



―――終わらせなくちゃ。



ソロはもう一度決意を新たにすると、涙を拭った。

そのままベッドに身体を預け横になる。

いつの間にか消えていた明かり。それに、心身ともにハードワークを科せられていたせい

か、横になると忘れていた眠気がどっと襲ってきた。

くーくーと規則正しい寝息がすぐに始まり、身体の緊張が解ける。



「‥‥‥‥」

まるでそれを待っていたかのように、気配を消し、足を忍ばせピサロが部屋に戻った。

薄暗い室内をゆっくり彼の眠るベッドへ向かうピサロ。

枕元へ立つと、涙の跡が残るソロの頬を、そっと指先でなぞった。

「‥‥戻れぬからな、もう‥」

誰にも聞かれぬようひっそり紡がれた言葉は、夜の闇に支配された室内に、すぐ融けて

いった。

小さな嘆息の後、踵を返し静かに引き上げる。

屋外に出ると移動呪文を唱え、彼は空の彼方へ消えて行った。



ソロが求めているものを、ピサロも朧げながら理解している。

だが‥出会った頃ならまだしも、現在の彼には使えぬ言葉となっていた。

戯れ言だと割り切れぬのを、どこかで自覚し始めていたから。



潮時…という言葉をピサロ自身も抱いた夜だった―――




2005/1/17

あとがき

05年初の小説はピサ勇でお届けしました。(^^
いやあ・・。今回の話、昨年から描き始めていたモノだったんですが・・・
新年早々突入したのがえっち場面だったりして(^^;
正月から何書いてんだ?私?・・・とか考えたりしましたが。
姫始めだし・・・などと変に開き直り。
しかも久々の「裏仕様」だったもんだから、妙な気合まで入って・・・
「しつこいかも〜」などと思いつつも筆がのってしまった次第です☆
しかし・・
甘すぎて胸ヤケしちゃいますよね、なんか(++;

今回ソロがあまりに気乗りしてくれなかったんで、また媚薬・・なんてもの使って
しまったのですが。あれで理性ぶっ飛ばしちゃったら、気持ちが前面に出ちゃった
んですね。押し殺そうと抑えていた分、反動が大きかったみたいです(^^;
ああまで甘えっ子に変貌しちゃうとは・・・って感じでしたが。

ちなみに。ソロが使った丸薬は、対魔族用なんで。ソロには効果ないものです。
シンシアのペンダントをみつけた時に作り方を思い出して、用意しといたんですね、
ソロは。ピサロに使うコトもあるかも知れないと覚悟しつつ・・・
(まあ。もっぱら対魔物用になっちゃってましたが)←行動不能に出来るらしい。


ソロは前回でも決意したように。ピサロへの気持ちを終わらせよう・・と、結構本気で
考えてます。だから、清算・・・というのは、気持ちの上での区切りだったんだけど。
ロザリーのコトがどうしても気になって。会うコト自体も拒みたくなってしまいました。
それで思いついたのが、浮気宣言?だったのですが・・・
ピサロサマも驚いたでしょうが。私もちょっと、ビックリです(^^;
・・・予定。また狂って来ちゃったじゃん☆

ソロも意外にビックリ箱な子で・・(@@;

描きたかったエピソードが丸つぶれ〜になりそうな予感(しくしく・・)

・・とまあ。
次回は恐らくビックリ箱ソロくんの奇行(?)がメインになるものかと。

でわでわ。ここまで付き合ってくださった方、ありがとうございました!(^^/

by月の虹


あとがき

05年初の小説はピサ勇でお届けしました。(^^
いやあ・・。今回の話、昨年から描き始めていたモノだったんですが・・・
新年早々突入したのがえっち場面だったりして(^^;
正月から何書いてんだ?私?・・・とか考えたりしましたが。
姫始めだし・・・などと変に開き直り。
しかも久々の「裏仕様」だったもんだから、妙な気合まで入って・・・
「しつこいかも〜」などと思いつつも筆がのってしまった次第です☆
しかし・・
甘すぎて胸ヤケしちゃいますよね、なんか(++;

今回ソロがあまりに気乗りしてくれなかったんで、また媚薬・・なんてもの使って
しまったのですが。あれで理性ぶっ飛ばしちゃったら、気持ちが前面に出ちゃった
んですね。押し殺そうと抑えていた分、反動が大きかったみたいです(^^;
ああまで甘えっ子に変貌しちゃうとは・・・って感じでしたが。

ちなみに。ソロが使った丸薬は、対魔族用なんで。ソロには効果ないものです。
シンシアのペンダントをみつけた時に作り方を思い出して、用意しといたんですね、
ソロは。ピサロに使うコトもあるかも知れないと覚悟しつつ・・・
(まあ。もっぱら対魔物用になっちゃってましたが)←行動不能に出来るらしい。


ソロは前回でも決意したように。ピサロへの気持ちを終わらせよう・・と、結構本気で
考えてます。だから、清算・・・というのは、気持ちの上での区切りだったんだけど。
ロザリーのコトがどうしても気になって。会うコト自体も拒みたくなってしまいました。
それで思いついたのが、浮気宣言?だったのですが・・・
ピサロサマも驚いたでしょうが。私もちょっと、ビックリです(^^;
・・・予定。また狂って来ちゃったじゃん☆

ソロも意外にビックリ箱な子で・・(@@;

描きたかったエピソードが丸つぶれ〜になりそうな予感(しくしく・・)

・・とまあ。
次回は恐らくビックリ箱ソロくんの奇行(?)がメインになるものかと。

でわでわ。ここまで付き合ってくださった方、ありがとうございました!(^^/

by月の虹


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