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「‥ちゃんと順を追って説明しますから。ちょっと落ち着きましょう。」
苦笑したクリフトが、拘束するようしがみついたままのソロを促して、ピサロと対面にな
るよう真ん中のベッドに腰を下ろした。ソロも彼の脇へと腰掛ける。
「…昨晩は‥」
話の続きを興味深げに待つ2人に微苦笑したクリフトが、徐に口を開いた。
単身向かったバーに、竜の神がやって来た事を説明し、ソロの様子を訊ねられた事、その
後何故か酒に付き合う羽目となってしまった事を大雑把に話す。
「…で。なんだか競うようにグラスを空けているうちに、潰れてしまったようでして‥。
気が付いたら、天空城の客間に寝かされていたと…まあ、そんな所です。」
「竜の神とバーでお酒‥。なんか、すごいねえ…。怖くなかったの?」
説明終えたクリフトが大きく嘆息すると、ソロも一緒に吐息を漏らし、こぼした。
「私だって遠慮したかったですけどね。仮にも神相手ですから。そう無下にも出来なくて
…。まあ‥結果的には世話をかけてしまいましたが…」
「‥竜の神、オレの事‥怒ってた?」
「‥いいえ。とても心配なさってましたよ?
ですから、様子を聞きたいと降りていらしたそうですから。」
怖々訊ねてくるソロにふわりと微笑んで、クリフトが答えた。
「…そう。でもさ。竜の神はなんでわざわざ連れて帰ったりしたのかな?
宿の部屋なんて、すぐ判りそうなのに‥」
「ああ‥それは。…一応遠慮したようですよ?」
不思議‥と言うソロに、意味深な笑みを浮かべクリフトが返す。
すぐにその意味する所を察した様子のピサロが渋面を作り、そんな彼とクリフトの表情か
ら、やっと連想出来たソロも、かあ〜っと頬を染めた。
「…竜の神って。下界の様子を探れるんだよね。…全部見てたりしたのかな?」
「全部…とは思いませんが。その気になれば、それなりには窺えるのでしょうね‥」
考えつつ答えるクリフトに、ソロが赤くなった後、一気に青ざめた。
「オレ‥もう絶対、天界行かないからっ!!」
ソロが落ち着いた所で。ピサロがソロと共に朝食を摂る為食堂へ向かった。
クリフトは食欲がないとの事で。独り部屋に留守番である。
「それにしてもびっくりだったね。」
廊下をぽくぽく歩きながら。ソロがため息混じりにこぼす。
「クリフトには災難だったかも‥だけどさ。」
「そうか? 奴の事だ。相手が誰だろうが、マイペース貫いてたのではないか?」
「そ‥っかな? でも‥オレだったら、やっぱり嫌だな。一緒に飲むのなんて。」
「私も御免蒙りたいな。絶対に。」
うんざり‥と言う彼に、ソロがくすくす笑う。
それからふと部屋を振り返って、小さく吐息をこぼした。
逡巡するような瞳を見逃さなかった魔王が、ひっそり嘆息する。
つい‥と彼の頭に手を乗せて、ピサロはソロを促した。
奥まった席で。口数の少なくなったソロが、黙々とサンドウィッチを口に運ぶ。
一足先にパスタを食べ終えたピサロが、珈琲を飲みながら、その様子を無言で見守って。
静かな朝食が進んでいた。
「…あの、ね‥」
8割方食した頃、その手を止めたソロが、ぽつりと対面に座るピサロを窺った。
口元へ運びかけてたカップをティーソーサーに戻し、ピサロが目線を彼に向ける。
目が合うと、ソロは慌てて俯き、首を左右に振った。
「あ‥いいや。なんでもない‥」
そう言って、ぱくぱくと残るサンドウィッチを忙しく口へ運ぶ。
ジュースで流し込むようにしながら完食し、ソロはふう‥と大きく吐息をついた。
「ごちそうさまでした。」
「ソロ。お前今日も外へ出るつもりなのか?」
「え‥あ、うん‥今日はどうしようかな。」
待ってたように訊ねられ、ちらっと部屋の方へ目を向けたソロが、首を傾げさせた。
「‥あ、ソロ。おはよう!」
悩む彼に明るい声がかけられる。ソロが声の方を向くと、アリーナが早足でやって来た。
「おはようアリーナ。」
「ふふ‥ソロ昨日よりも顔色いいみたい。今日のミーティング、大丈夫そうかしら?」
「あ‥うん。大丈夫‥と思うよ。え‥っと、午後だっけ?」
「ええ。午後の鐘の後に。クリフトも大丈夫よね?」
キョロ‥と周囲を見渡してから、アリーナが確認込めて訊ねた。
「うん、平気だと思うよ。ちゃんと伝えとく。」
「そう。じゃ‥お願いね? じゃ、私‥お使いの途中だから、また後で!」
ソロとピサロに小さく会釈して、アリーナは来た時同様足早に食堂を去った。
「…オレ達も部屋に戻ろうか?」
「ソロ‥お前一人で部屋へ戻れ。」
「え…?」
「少し所用が出来たのでな。出て来る。」
クイ‥と指で外を示されて、ソロが窓の外へ目を移す。
「…あ。アドン‥?」
「ミーティングまでには戻る。だからお前は部屋に戻っていろ。」
「でも‥オレ‥‥‥」
途惑うソロの肩に手を乗せて、ピサロが目を細めさせる。
「‥お前のしたいようすれば良い。私はそれで構わぬぞ‥?」
くしゃりと柔らかな翠髪を掻き交ぜて、そっと頭を引き寄せ囁いた。
「ピサロ…。‥いいの? オレ‥‥‥」
「ああ‥。…一人で戻れるな?」
「‥うん。平気‥いってらっしゃい、ピサロ。」
コックリ頷いて。ソロは小さく微笑み、送り出した。
「‥あ、ありがとうライアン。」
ピサロを見送った後。ソロは部屋で待つクリフト用の紅茶に自分の分も加えて、ついでに
クッキーをプラスした盆を持って、自室へと戻った。
部屋の前で盆を抱えて悩むソロを通りかかったライアンが見つけて、代わりに部屋の戸を
開けてくれたのだ。
礼を述べたソロに笑顔で返す。彼は元気そうで安心した‥と、頭を撫で場を立ち去った。
「お帰りなさいソロ。…おや、ピサロさんは?」
重そうに盆を抱えて入ってきたソロの後方を覗うように、クリフトが訊ねる。
「あ‥うん。なんかね、アドンが来ててさ。ちょっと出て来るって。」
「そうですか。あ‥大丈夫ですか?」
慎重に盆を運ぶ姿に、クリフトが立ち上がった。
「うん‥多分‥‥」
そろそろとサイドテーブルに盆を乗せて、ほお‥と吐息をはくソロ。
安心したよう微笑むと、ベッドサイドに腰を下ろした。
「クリフトもお茶くらいなら大丈夫かなと思って。お菓子も食べれたらどうぞ?」
「ありがとうございます。お茶…ソロも一緒でいいんですよね?」
ティーポットを手に取ったクリフトが一応と確認する。「うん」と頷くのを見て、両方の
カップへと注いだ。ふわりとした湯気と共に、甘い香りが広がる。
「アップルティですね。ソロはコレ使いますか?」
竜の神からソロ宛に貰った土産の蜜を指し、クリフトが問いかけた。
「うん、もちろん。これ‥すごく美味しいんだ。」
「ふふ‥ソロがとても気に入ってたと話したら、お土産にと持たせて下さったんですよ。
良かったですね。」
「うん。」
紅茶を淹れ終えたクリフトに隣に座るよう促して。並んでベッドに腰掛けた2人が温かな
紅茶に口をつける。
「美味し〜v」
「ええ‥本当に。ありがとう、ソロ。」
「良かった。食欲ないって言ってたから、具合悪いのかもって心配だったの。」
「大丈夫ですよ。ちょっと昨晩飲み過ぎただけですから。」
にっこり話すクリフトに、ソロが少し瞳を曇らせ俯いた。
「…ごめんね、クリフト。」
「え‥?」
「だって‥。なんか追い出しちゃったみたいでさ…」
「そんな事‥。私が自制効かせる自信なかったので、席を外しましたけど。
そんな風には思ってませんよ?」
「昨晩ピサロも同じ事言ってた。加減効かないとかってさ‥本当、向こうに居た間は手加
減してくれてたんだな‥って。痛感した。オレ‥随分体力戻ったつもりだったけど。
まだまだ全然だ‥ってのも。」
髪を梳いてくる感触を心地よく思いながら、ソロが甘えるよう肩にもたれ掛かった。
「つい先日までほとんどベッドの中に居たんですよ? 本当はもっとじっくり静養して
頂きたい‥というのが、私達共通の意見なんですけどね。」
「でも‥さ。いつまでも旅を中断出来ないもん。」
「…敵が進化の秘法を極める前に叩ければ、それが一番ですけど。
肝心の居所が掴めなければねえ‥。」
「うん。だから‥ね、やっぱり一度あちらへ行ってみるべきだと思うんだ。」
「‥例の洞窟…ですか?」
「そう。世界樹の花の報告もあるしさ、彼らなら何か知ってるかも知れないでしょ?」
「そうですねえ。」
「今日のミーティングでね、提案しようと思ってるの。」
「洞窟に挑戦するのは良いですけど。ソロは‥しばらく待機のままで居て貰いますよ?」
思案した後、クリフトが吐息交じりに応えた。
「…うん。無茶は言わないから。今は‥体力回復に努めるよ、オレ。」
ぽつぽつとソロが静かに話した。
安堵したよう笑むクリフトに、ソロが腕を絡ませる。
「‥あの、ね…。オレ‥ちゃんと待って居るから。だから‥
側に居られなくなる分の温もり‥頂戴?」
「ソロ‥?」
「ピサロには昨晩いっぱい貰ったの…。でも‥駄目なの。クリフトが…
クリフトが居ないの‥嫌なの。余所へ行っちゃ嫌だ…!」
ぎゅう〜と腕にしがみついて、ソロが涙混じりに喚いた。
「余所へなど行きません。安心して下さい、ソロ。」
「だって…昨晩帰って来なかったもん。」
「‥あれはまあ事故‥という事で。私だってそんなつもりなかったのですから。
機嫌直して下さい。ね?」
「いや。子供扱いじゃ駄目だもん。」
あやすよう接してくる彼に、ツーンとソロが拗ねた。
酒が入ってる訳でもないのに、口調が幼くなってるソロにクリフトが苦笑し、小さく肩を
竦めてみせる。それからそっぽ向いたままの顔を自分へと向けさせて、口接けを落とした。
「…ん、もっと‥」
重なった唇がすぐ離れていきそうになって、ソロが彼の首に腕を回し引き寄せた。
深い口接けを強求られて。クリフトが応えてゆく。
「…ソロ、これ以上は‥‥止められなくなってしまいそうなんですが‥?」
「ん…いいよ。だから‥ね…もっと、欲しい‥‥‥」
キスの合間に告げてくる彼に甘く応えて、ソロが尚も求めた。
熱っぽい吐息交じりに乞われれば、それに否を申す筈もなく、クリフトは背に回していた
腕を滑らせる。意図を持って探る手は上着の裾に潜り込み、滑らかな肌を這った。
「‥あ…んっ‥‥」
解放された唇から艶めいた声がこぼれる。
クリフトはそっと彼を組み敷いて、紅潮した頬から首筋へと唇を落とした。
そうしながら、悪戯な指先がソロの腹部を這い上って来て、ふっくら色づく突起へと触れ
る。固くしこったそれを指の腹で押し潰すと、ビクンと躰が撓った。
「‥敏感なのは昨晩の余韻なんですかね? …それともキスのせい‥?」
クスクスと耳元に囁くよう訊ねられ、その吐息にすら反応したソロが熱い息をもらす。
「いっぱい愛してもらったのでしょう‥?」
そう言って、更にたくしあげた上着を剥いでしまう。
「ほら‥花弁があちこち散ってきれいですよ。」
露になった肌に吸い込まれるよう唇を近づけて、ひっそり告げてくるクリフトの腕がソロ
の背に潜り込む。シーツとの間に出来た隙間へ滑らせた手は、ゆっくり背を巡った。
「あ‥っん、もぉ‥クリ‥フト…意地悪‥しない‥で‥‥‥」
敏感な部分を避けて辿る指先は、いつまでも優しいままで、焦れたようにソロが懇願する。
「意地悪だなんて‥。どうして欲しいんです、ソロは?」
「…もっと、ちゃんと‥触って…。いつもみたいに‥」
潤んだ瞳で困った様子で答えるソロに、クリフトが破顔した。
「…こんな風に?」
ぺろっと舌で胸の飾りを舐められて、ソロの躰が悸える。
「や‥ん、もっと‥! いっぱいがいいの…」
「ソロは欲張りさんですね。」
クスクス‥と胸元に微笑を落とし、赤く腫れ上がった粒を口に含んだ。
「んっ‥だ‥って。クリフトが‥欲しいんだ‥もん…っ、ふ‥‥ぁ…ああっ‥」
湿った音を響かせて、たっぷり舐られた箇所から、熱い衝動が突き上げてくる。
その波に酔いしれながら、ソロはさらりと揺れる青髪を掻き抱いた。
「可愛いコト言ってくれますね、ソロは‥」
そう笑って、もう片方の飾りへ口を寄せる。たっぷり濡らした飾りには指を這わせて、
クリフトは熟した果実を存分に味わった。
「あっ‥ああ‥‥‥」
言葉にならない嬌声がぽろぽろこぼれて。ソロが肩で息をする。
「クリフト‥っ、クリフト‥‥っ、ね、好き‥?」
目元を染めたソロが、浮かされたよう訊ねてくる。
「ええ‥好きですよ。愛してます…ソロ。」
ふ‥と瞳を眇めて、望む答えを上らせ、クリフトが唇を寄せた。
「オレも‥大好き…」
花が綻ぶような笑みを浮かべて、ソロが答える。
口接けが降りると、それにうっとり応えて、込み上げてくる熱に浸った。
ピサロが好き。
だから‥
彼だけ居れば、倖せなんだと思っていた―――
だけど…
クリフトの居ない夜――そんなの、考えたコトなかったんだ。
失くしたくない。彼も‥‥
だって…違うから。
ピサロもクリフトも‥オレにはかけがえない大切なヒトで…
でも‥その想いは重ならない。
だから――
2007/6/5 |