「わあ…随分と捗ったんだね。」
「ええ。収穫祭の前には完成させるんだと、皆はりきってましたから…」
山奥の村。夏の終わりから本格的に作業が開始された、来客に対応出来る施設の建築。
その大部分が仕上がった様子に、ソロが感嘆の声を上げる。
そんな彼に、責任者であるレンがにっこり返した。
「収穫祭…? そっちにもそういうのあるんだ?」
「いえ。人間達が稔りの季節にそういった催しを行っているので。
 こちらでも行うのだろうと思ってたものですから…」
「そっか。特に考えてた訳じゃないけど。畑の作物とか果物とか、オレ達だけじゃ食べ切れないし。
 色々作業手伝ってくれた皆呼んで、賑やかに過ごすのも良いね。」
ソロがにっこり笑うと、側で話を聞いていた魔物達が沸きあがった。

その場に居なかった者にも、その情報はあっという間に伝わったようで、その晩訪れたピサロが、開口一番確認して来た。
「収穫祭を開くと聞いたが、本当か?」
「ああ、うん。建設中の宿屋を見に行ったら、話の流れでなんかそんな感じに…。
 ってか。今日の午後に出た話題だったんだけど。早いね…」
思いつきを口にしたら、周囲が盛り上がってしまっただけだったのだが。
「気が進まぬのなら、無理せずとも良いのだぞ?」
「あ、ううん。作業のお礼はちゃんとしたかったから。それは問題ないよ。
 ただ‥オレも収穫祭ってよく分かってないから。
 みんなが期待している祭りとは違っちゃうかも知れないな‥って。」
皆が楽しみにしていた様子を思い出しながら、ソロが微苦笑する。
「形など拘らずとも、お前と共に騒げたら満足すると思うぞ。」
ちょっと眉を寄せて嘆息する魔王に、やりとりを見守っていたクリフトが笑う。
「ここへ通って下さる方は、ほぼソロ目当てみたいですものねえ‥」
「え‥!? いやいや。いくらなんでも、そんな事は…」
「…まあ。不埒な行為に至るような不届き者はいない筈だがな。無駄に愛想を振りまかなくて良い…」
ピサロが、挙動不審に狼狽えるソロの頭に、ポンと手を乗せた。
「別に愛想振りまいてなんか…」
むーっと膨れっ面を浮かべて、ソロはテーブルに置かれたジュースのグラスに手を伸ばした。
コクンと一口喉を潤して、隣に座るピサロへ目を移す。
「あのさ…手伝ってくれたみんなとの集まりとは別に、孤児院の子供達も村に招待したいんだけど。どう思う?」
「ああ。前々から言っていた件だな。お前がそうしたいのなら、呼ぶと良い。
 施設が完成すれば、対応も容易になるだろう。」
夏にエンドールで倒れた際に世話になった孤児院の子供達に、お礼に畑で収穫できた物を持参すると持ちかけた所、自分達も手伝いたいと申し出があった。その時は、大人数を受け入れるだけの施設がないと断ったのだが。
旅の仲間が遊びに来た時にも対応出来る宿屋について、ソロが前向きに考え始めた。
思いがけず賑やかに過ごした子供達との時間が、彼の心に変化をもたらしたのだ。
「色々と力貸してくれて、ありがとう…」
コテッと彼に寄りかかって、ソロが笑んだ。

客室以外の設備が大分整って来ると、現在ソロが住んでいる家よりも便利そうだと誰かが言い出して。こちらが完成したら、そっちの増築も必要じゃないかと盛り上がり始めた。
「ねえレンさん。ソロさんの家の水回りも整えませんか? ほら、この間風呂帰りに突然の雨に降られて散々だったとか、ソロさんがこぼしてたじゃないですか。ここみたいに1つの建物内にあった方が便利ですよ。」
「そうだな。陛下もこちらへ来られる事だし。住環境は出来る限り整えるべきかもな。後で進言してみよう。」

「…とまあ、そんな話が出てまして。こちらの増築、させて頂いてもよろしいでしょうか?」
その日の夕刻。1日の作業の報告にソロの家へと訪れたレンが、ソロとクリフトに確認して来た。
「そりゃあ、こちらとしては助かるけど。レンが大変なんじゃない?」
ソロはクリフトと顔を見合わせた後、そう案じるように窺った。
「大変とは?」
「随分長い事、通って貰っているからさ。…あ、そうだ。なんだったらさ。
 工事が落ち着くまででも良いから、こっちに住んじゃう? 
 宿屋の管理人をどうしようか悩んでたんだ。レンだったら、安心だし。どうかな?」
「‥‥‥」
「ああ、通いの方が都合良いのでしたら、これまで通りでも構わないですよ。」
思いがけない提案だったようで、珍しくフリーズしてしまった彼に、クリフトが声を掛けた。
「…私の一存では決めかねますので。陛下に報告してみます。」
そう辛うじて返すと、レンは帰路に着いた。


「お帰りなさい、レン兄ちゃん。」
「ただいま。留守中変わりなかったか?」
「うん! …あれ? ピサロ様!?」
森の中にひっそり佇む一軒家で出迎えた少年が目を丸くした。
「久しいな。元気だったか?」
「はいっ。ピサロ様のおかげで、妹もずいぶん元気になりました!」
栗色の髪をした少年がにっこり笑うと、ピサロも口角を上げぽふっと頭を撫でた。
「そうか。レンからもモモが順調に回復していると聞いてたが。様子を見に寄らせて貰った。」
レンに案内されるよう室内に移動するピサロが、側にいる少年へ説明する。
少年は嬉しそうに破顔すると、寝室へと駆けだした。
「モモ! ピサロ様が会いに来て下さったんだぞ!」
そんな声に苦笑したレンが、申し訳なさそうにピサロを伺う。
「こちらに移ってからは、特に訪ねて来る者もなかったので。久しぶりのお客様が嬉しいようです…」
「そうか。城の修繕が終わるまでは、致し方ないとはいえ。子供2人で過ごすのは、不安もあろう…」
考え込むようにピサロが返すと、少年が妹を伴って戻って来た。
「…こんばんは、ピサロ様。」
兄に促されるよう進み出た少女が、遠慮がちに挨拶をした。
「ああ…ふむ、顔色は大分よくなっているな。」
顔を隠している淡くピンクがかった髪をかき上げて、ピサロがそっと少女の頬に触れる。
ピサロは本人の状態を確認した後、レンや兄ロコからも回復状況を聞き出した。

「ピサロ様。モモ、もうお外へ行っても大丈夫?」
話が一段落すると、兄と並んでソファへ腰掛けていた少女が期待を込めた眼差しで、ピサロとレンを見つめた。
「…うむ。少しずつ様子を見ながらになるが。ただ、時期が悪い。」
「雨…ですか?」
固い表情で、少年が訊ねた。
「そうだ。あの雨に当たれば、元の木阿弥だろう…」
そう答えると、ピサロは立ち上がった。
「引っ越しの件、検討する余地はあると思うぞ。あちらには、私から伝えて置く。」
レンにそう言い残して、ピサロは帰って行った。

「引っ越しって…?」
訪問者が立ち去った後、彼が最後に伝えた言葉に、ロコが首を傾げた。
「俺が今携わっている仕事は覚えているか?」
「うん。勇者の故郷で建物造ったりしてるんだよね。」
「そうだ。今建てているのは宿屋でな。
 今日その勇者様から、その管理人を兼ねて住む事を勧められた。」
「え…レン兄ちゃん、ここを出て行っちゃうの?」
不安げに語る兄の言葉に、妹も顔を曇らせる。
「お前達を置いて出て行ったりはしないさ。
 陛下に相談したら、モモがある程度回復してるなら、長距離移動も可能だろうと。
 今日はその確認に来て下さったんだ。」
兄妹の前にしゃがんだレンが、ゆっくりと説明を始めた。
「2人にとっては、この島よりもずっと過ごしやすいと思う。
 もちろん、また戻って来たいならそれも良い。
 雨の季節だけでも、モモの負担とならない土地へ移らないか?」
「…でも。呼ばれたのは兄ちゃんだろ?
 オレ達が一緒に行ったら、迷惑がられるだけだよ。モモにイヤな思いさせたくない…」
ロコが苦い顔で俯く。
「…モモは、レンお兄ちゃんといられる時間ふえるなら、行ってもいいよ?」
「…そうだな。昼ご飯は一緒に食べられると思うぞ。
 モモが外へ出られるようなら、目の届く場所で待っててくれても良い。」
そっと伸ばされた手を握って、レンが返すと少女の瞳が輝いた。


そして山奥の村。
「あれ? ピサロ今日は早いね?」
夕食を食べていた手を止めて、ソロが訪問者へ声をかけた。
「ピサロさんもまだでしたら、一緒に召し上がります?」
「いや。用件を済ませたら、また城へ戻るから良い。」
立ち上がりかけたクリフトを手で制して、ピサロは空いてる席へ腰掛けた。
「なんか急用?」
「急ぎというか。一応確認と、頼みたい事が出来たのでな…」
ピサロはそう言うと、ソロとクリフトへ目線を向けた。
「建設中の宿屋の管理人の件だ。ソロが勧めたのだろう?」
「ああ、うん。宿が出来たら、こっちの増築もしてくれるっていうからさ。
 いっその事、こっちに住んでしまった方がレンも楽じゃないかと思って。
 建物が出来たら、管理人室遊ばせておくより使った方が良いと思ったし…」
「そうだな。どちらにしても、管理者はあった方が良いだろう。」
施設が増えれば、ソロとクリフトだけで、村の管理全てを行うのは難しいだろうと考えていたピサロが頷いた。
「うん。レンに話した時は、思いつきを口にしちゃったんだけど。
 あの後クリフトとも話しててね、彼が管理人引き受けてくれるとありがたいね‥って。
 レンはピサロに相談しないと‥って言ってたけど。どうかな?」
「ああ、本人も今の仕事が性に合ってるようでな。
 こちらへ拠点移す事も悪くないと語っている。ただ一点、条件が合えば‥だが。」
「条件?」
首を傾げるソロ。ピサロはそれに頷くと、一瞬迷ったようにクリフトを見た。
「‥デスパレスには、魔族と人間の間に生まれた兄妹が身を寄せていたのだが‥。
 邪神官が玉座に在った頃にな、城の爺が匿う形で脱出させたそうだ。
 そして、兄妹が元々暮らしていた家へ移り住んだのだが‥あの戦いからしばらく経って、病に倒れたのだ。
 その後、時折彼らの元へ通っていたレンが保護者を引き受け、兄妹の面倒を見ている…」
「その兄妹って。もしかして、前に会ったあの男の子?」
ピサロが最後まで言い切る前に、ソロが確認して来た。
「ああそうだ。覚えていたか…?」
「忘れる訳がないよ。…ずっと、気にかかってたんだよ。」
ただ…訊くのが怖かったと小さく呟いて、ほお…と嘆息した。
「無事…だったんだね。兄妹って事は、妹さんも?」
「ああ。最近は寝込む事も少なくなったようで、そろそろ外へ出て体を慣らす頃合いまでに回復して来た。
 だが‥あの島はもうじき、雨の季節に入る。」
そうピサロが答えると、クリフトとソロも「ああ」と納得顔になった。
「‥確か、長く雨に当たった事が原因で、病に見舞われていたんでしたよねえ‥。
 丁度良いじゃないですか。その子の療養にもなりますし。
 子供だけで長い時間過ごさせるというのも、知っては放置出来ません。」
「そうだね。レンと一緒に、こっちへ来ると良いよ。その方がレンだって安心だろうし…」
クリフトの言葉にソロが続いて、にっこり笑んだ。
「ピサロの頼み事ってそれ?」
「ああそうだ。子供連れでも受け入れる余地があるのかをな。
 最短でも、雨の季節が終わるまで滞在させてやって欲しいのだ。」
「こちらは問題ないよ。ね、クリフト。」
「ええ。こちらの方で用意する物等あったら、遠慮なく仰って下さいね。」


管理人室の内装を先に整えて、生活に必要な環境が整ったその日。
レンは2人の子供と共に、山奥の村にやって来た。
ふわりと舞い上がった風が止むと、村の入り口に降り立ったのは…
「いらっしゃい…って、あれ? ピサロも一緒とは思わなかった。」
タタッと駆け寄ったソロが、意外そうな顔で出迎える。
共に来たのも意外だったが、その腕に幼い子供を抱いているのも驚きだった。因みに、彼の隣に立つレンも少年を抱き上げていたが、移動の余波が消えたと同時に下ろして貰ったようで。呆けた顔でピサロを見るソロを見上げながら、眉根を寄せた。
「ソロ、お前が動かねば、皆移動出来ぬのだが…?」
「あ、ああ。ごめん。挨拶は新居の方で交わそうか。」
細い体の少女に不安そうな眼差しを寄せられて、ソロがぎこちなく案内した。

宿のロビーになる場所には、ソファーセットが設置されているので。そこで少女を座らせると、兄が隣に腰掛けた。
「ソロ様、クリフトさん、今日からお世話になります。」
兄妹の横に立ったレンがあいさつし、子供達の紹介をする。人見知りしているような、どこか不安顔の妹と、警戒心を滲ませる兄に、ソロとクリフトは目線を合わせるよう屈むと、安心させるよう笑顔で2人を歓迎した。

「…じゃ。移動して疲れているだろうから、オレ達はお暇するね。
 レンも今日は子供達優先してあげてね。」
「何かあれば、声かけて下さい。
 それと、お昼はこちらで準備してあるので、後程お届けに上がりますね。」
そう声を掛けて、2人は建物を後にした。

「‥モモは疲れてないか?」
赤い顔をしている少女の様子をレンが伺う。
「移動呪文を用いても、長距離移動は疲労するからな。
 今日はゆっくり休ませた方が良いだろう。
 ロコはどうだ? 随分大人しいが、疲れたか?」
どこかぼんやりした様子の少年に、ピサロが尋ねた。
「‥風が止んだ後は、変な感じだったけど。それはもう平気。ただ…」
眉を傾がせて、何かもやっとさせているような仕草で、ピサロを伺う。
「少し村を歩いて来るか…?」
ぽふっと頭を撫でたピサロの言葉に、ロコはコックリ頷いた。

外へ出ると、さっきはあまり気づかなかった村の風景にロコはしばらく圧倒されたように目を瞠っていた。
「あれ…畑だよね? こんなに広いんだ! それに見たことない植物ばっかり…」
自宅前に小さな畑を作っていたので。その何倍も大きく見える畑を見て、ロコが目を丸くする。
「…なんだか風も甘い匂いがするみたい。」
「ああ…確か村の外れに果樹があったな。その花の薫りだろう。」
そう話ながら、ピサロがスタスタ歩いて行く。それを追うように、ロコも足を動かした。
周りの景色に見とれていると、ピサロが説明してくれる。
そんな長閑な散策で到着したのは、村の外れ。
古びた丸太のベンチの前にやって来ると、そこへ2人で腰を下ろした。
「…疲れたか?」
「ううん。ここは…思っていたより、静かな所ですね。」
「そうだな。ここでなら、モモもゆっくり過ごす事が出来よう。」
ピサロの言葉に、ロコがこっくり頷く。
「…あの、ね。ピサロ様。…あの、ソロ様って…勇者なんだよね?」
「そうだな。」
「…オレ、前に会った事…あるよね?」
「そうだな。」
「そっか…。やっぱり、あの時の人間だったんだ…」
ロコはほうっと支えが取れたように呟いた。
「レン兄ちゃんがさ、勇者様は怖い方じゃないって言ってくれてたんだけど。
 オレ…本当は不安だったんだ。でも‥ちょっと安心した。」
ロコは、ピサロが雨の毒気に中って倒れていた所を助けた人間が勇者だったと言う事を知って、そういった縁から親交を深めたのだろうと解釈した。
「そうか。あの者達が、お前達兄妹を害する事はない。
 お前がここで一番に優先するのは、妹の回復を促す事だろう。
 その為に何が必要か、よく考えて行動する事だ。」
「はい。色々ありがとうございます、ピサロ様。オレ、モモの所に戻ります。」
しっかり頷いたロコが、立ち上がってピサロに礼をした。
「一人で戻れるか?」
「はい。‥あ。この花少し摘んで帰っても良いですか?」
柵の片隅に淡い紫の花を認めて、ロコが確認する。
「ああ。それなら問題あるまい。モモも喜ぶだろう。」
ロコは嬉しそうに破顔させて、数輪花を摘むと、足早に元来た道を駆けて行った。
それを見送ったピサロは、ふと空を見上げて深く息を吐き出す。
ロコが色々勘違い起こしてそうなのは、彼の表情から察せられたが。かと言って、わざわざ訂正する意味もない。彼が前向きに、ここでの暮らしを受け入れてくれるなら、その方が良いだろう。本人は、デスパレスへ戻るつもりでいるようだが。ピサロとしては、あの兄妹には、人間の中で暮らせるだけの知識こそが必要だと考えていた。
『‥きっとね。ソロは村の復興を望むようになると思うの。
 だって、彼は本当に淋しがりやなんだもの。
 あなたやクリフトの存在は、とても大きいものだけど。
 きっと‥それだけじゃ、駄目なのよ。
 だから‥その時が来たら、ちゃんと協力してあげてよね。
 独占欲で彼を孤独にしないでね?』
目を閉じたピサロは、少女の言葉を思い出す。
ソロに内緒で単身やって来た彼女は、ピサロに未来についての約束事を幾つも飲ませた。その1つを思い出したのだ。
実際、夏にエンドールで倒れた後、ソロはこの村の復興に前向きになった。子供達と賑やかに過ごした時間が、思いの外満ち足りていたのだろう。だから、来客があった時過ごせる施設を求めた。
人口が増えれば面倒も増す事になる。そこが厄介だと頭を悩ませていた所に、レンから報告を受けて、今日に至った。
子供達がこちらに馴染むかはまだ分からない。けれど。
療養に最適な環境だと言う事は断言出来ると、ピサロは満足そうに笑んだ。

「ソロ。もうすぐお昼ですけど。ピサロさんて、まだこちらに居るか分かりますか?」
昼食の準備をしていたクリフトが、物置で荷物を纏めていたソロへと声を掛けた。
「うーん‥ああ。まだ帰ってなかったみたい。オレ、ちょっと行って訊いて来るね。」
「ええ、お願いします。」
考える仕草で気配を探った彼が、そう答えるとパタパタ駆けて行った。

「ピサロ! ‥珍しいね、こんな所にいるなんて。」
畑の間の小道をやって来た彼に、駆け寄ったソロが微笑んだ。
「‥そうだったな。収穫祭の話が出てたから、興味沸いてな。」
「自分達が食べる分くらいは‥って、思ってたんだけど。
 気づいたら、世話が大変なくらいの広さを耕しちゃった。‥って、そうだ。
 昼ご飯、どうするか聞きに来たんだった。時間大丈夫だったら、一緒に食べよ?」
「ああ。問題ない。」
「ふふっ。お昼一緒に食べるの、久しぶりだね!」
デスパレスを拠点にしてからも、かなりのペースでこちらに訪なっているピサロだったが。昼間に来る事はあまりないので、並んで歩いている事も楽しいと、ソロは機嫌良く家路への道のりを歩くのだった。

「ただいま! ピサロも一緒に食べるって。」
「そうですか。先にレンさんの元へお届けする分を準備したので、もう少し待ってて下さいね。」
「ああ。そっち出来上がっているなら、オレが届けて来るよ。」
厨房へやって来たソロが、テーブルの上に乗っているバスケットと片手鍋を見てかって出た。
「これ持って行けばいいんでしょう?」
「ええ。お願いしますね。ソロが戻って来る頃には、こちらも準備整うと思いますから。」
クリフトがソロを送り出すと、はりきって出て行った彼の代わりに、ピサロが到着した。
「ソロが荷物抱えて飛び出して行ったが。レン達の食事か?」
「ええ。引っ越したばかりで落ち着かないでしょうから。こちらで用意させて頂きました。
 子供達の口に合うと良いのですが‥」
「問題ないだろう。こちらで供される食事は、評価が高いからな。」
ピサロが椅子に腰掛けながら、請け負った。
「それは嬉しいですね。所で、ピサロさん‥」
テーブルに皿を並べたクリフトが、彼の向かい席に座り話し始めた。
それは、療養が必要と聞いていた少女の事。
思ってた以上に痩せた少女の姿を見てしまったので。健康状態がとても気になったのだと、クリフトは色々気がかりな点を確認して行った。
「‥そうでしたか。少しずつ無理ない範囲で、体力つけて行けると良いですねえ…」
「ああ。出来れば色々とアドバイスしてやってくれ。そういった方面での気配りは得意であろう?」
「私もそれ程詳しい訳ではありませんが。協力は惜しみませんよ。」
肩を竦めたクリフトがそう返した所で、玄関扉の開く音が届いた。

久しぶりに3人揃っての昼食を終えて。
ソロは満足顔で、甘いお茶をコクンと飲んだ。
「やっぱり食事は賑やかな方が美味しいね。」
「そうですね。こうしていると、あの館で過ごした日々を少し思い出してしまいますが…」
ソロが魔物に捕らえられ、衰弱した時の事を思い出したクリフトが微苦笑した。
「もう随分昔の事のように思えるが…。そう過去でもなかったな…」
「本当…いろんな事があったもんね…」
そっと髪を梳るよう手を伸ばすピサロに頭を預けて、ソロもしんみり呟いた。
「ね、ピサロ。さっきレンにも言ったんだけどさ。
 あの子達の事、オレ達にも色々頼ってくれていいからね? 遠慮はなしだよ。」
「ああ。頼りにしている。」
強い瞳で見つめられたピサロが頷くと、ソロはにっかり笑った。


レン達が山奥の村へ移ってから1週間。
ここでの生活にも慣れて来たのか、ロコが畑仕事をしているソロの元へとやって来た。
「おはよう、ソロ兄ちゃん。」
「ああ、おはようロコ。何か持って行くかい?」
「あ、ううん。この間貰ったのが、まだあるから平気。
 あの‥さ。えっとね…オレも手伝っていいかな‥?」
モジモジとロコが遠慮がちに口を開いた。
「ん? 畑仕事手伝ってくれるの?」
コクンと頷く少年に、ソロが笑みを深めさせる。
「ありがとう、助かるよ。」
ソロが掘り出した芋を籠に移動させるようにお願いすると、既に地面に顔をだしているそれらを見て頷いた。
「少しはこっちにも慣れたかな?」
土を払って芋を籠に入れていくロコに、ソロが話しかけた。
「結構あちこち歩いた。村の中なら安全だって聞いてたけど。
 モモが危ない目にあったら大変だからね。」
「そうだね。一応危険な生き物は入って来れないはずだけど。
 モモを一番知ってるロコが、村の中に詳しくなれば、彼女が外へ出る時に心強いだろうね。」
「まあね。モモがもう少し元気になったら、オレが花畑に連れて行ってやるんだ。」
自慢げに語る少年がにっかり笑う。
今は基本的な移動はレンが担っているので。彼女が自力で村を散策するようになるには、もうしばらく時間が必要になるのだろう。
「モモもこっちの生活には慣れてくれそうかな?」
「うん。レン兄ちゃんといる時間増えたし。花畑が特に気に入ったみたいで。
 ここ数日は、夕飯前に連れて行ってって、ねだられているよ。」
「そっか…あの花畑は特別だから、好きになってくれて嬉しいよ。」
そう笑ったソロが、少し寂しげな瞳で花畑の方へ目を移した。
『この花畑は、ソロさんにとってとても大切な場所だから。決して荒らしたりしないようにな。』
こちらへ移った翌日。モモとロコを連れてやって来た花畑の前で、レンがそう2人に言い聞かせた。彼の視線が花畑を一望出来る場所にしばらく留まっていたのも覚えている。
「兄ちゃん、もう籠いっぱいになっちゃったよ?」
少ししんみりした感情を飲み込んで。ロコが明るい声でソロに尋ねた。


宿屋の内装もほぼ完成したその日は、これまで作業を手伝ってくれた魔物達を招待して、ちょっとした祭りが催される事になった。
村で収穫した野菜等を使った料理と、彼らに好評だった肉料理をエンドールから調達して、やはり好評だった酒類を揃えての宴会だ。
最初は皆でワイワイ料理する所から始めるつもりだったのだが。彼らが食べる量を賄うのは、余程の大鍋を揃えなければ無理だろうと指摘されて、そういった形に落ち着いた。
会場となった広場には、大きなテーブルの周囲にベンチを配して、料理はバイキング形式で食べて貰うようセッティングされた。
「いつも手伝いに来てくれてありがとう。
 今日は村で収穫出来た作物の他にも沢山料理を用意したので、お腹いっぱい食べて行って下さい。」
ソロが集まった一同にあいさつをすると、それぞれ手にしたジョッキやグラスを掲げて煽った。
最初のうちは、ソロはピサロと並んで一段高く設置された席に座って来客の様子を眺めていたが。ある程度料理が行き渡った頃合いで、席を立った。
「オレ達も食べようか。オレが適当に選んで来ても良いけど、一緒に回る?」
「…そうだな。共に行くとしよう。」
ソロのお任せだと、甘いものに偏りそうだと判断したピサロが、立ち上がった。
お皿を持ってテーブルを回りながら、ソロが村で準備したものの説明を加えていく。
「このサラダとね、果物、焼き芋と、焼き菓子は、オレの担当だったんだよ。
 特にがんばったのが、このスイートポテト。美味しいよ!」
ほぼ素材のままのメニューの中、原型留めていない料理らしい料理と言えるお菓子は、とっても甘い匂いを漂わせているのだが。ソロの口振りだと、きちんと選ばなければ不興を買うのは間違いない。
「えっ!? ソロさんの手作りですか?」
ピサロが手を出すより前に、会話を耳にしていた魔族の青年が瞳を輝かせた。
「うん、そうなんだ。甘いもの苦手じゃなければ、食べてみて。
 今日の為にがんばって覚えたんだ、オレ。」
にっこり話すソロに、笑顔を向けられた青年が口元を緩めて大きく頷く。
「は、はいっ! 是非っ!」
そういって、ついっと皿を差し出されたので、ソロは持ってたトングで1つ分けた。
「もっと食べる?」
「はいっ! あと3~4個下さい!」
ソロは嬉しそうに彼の皿に菓子を乗せて行く。そんな様子を見ていた幾人かが、ニコニコしまらない顔つきでソロの前に立つ青年の後ろに並び始めた。
「ソロさん、良かったらおいらにも3つ程下さい。」
「あ、うん。いいよ。ちょっと待ってね。‥はい、どうぞ。」
青年に声をかけると、ホクホク顔で礼を言って去って行く。
それを見送ったソロが、隣に立つピサロへと目を移した。
「ピサロも1つ食べるよね?」
そう言って、1つを皿に乗せると先に行っていいと仕草で促す。
ピサロはチラッと何やら列が更に伸びて来たのを見やった後、小さく頷き隣のテーブルに移って行った。
ソロの手作り‥と耳にした連中が、次々並んだ結果。最初は不人気だった菓子が一番になくなってしまった。

「ふう‥やっと戻って来られた。」
その後もあちこち声を掛けられたりしたので。テーブル一巡りして戻った時にはクタクタになっていた。
「相変わらずだな、お前は‥」
席に着くと隣から呆れ声が届いた。
「むー。だって嬉しかったんだもん。本当に口に合ったか分からないけど。
 みんな嬉しそうに食べてくれてたしさ。他のテーブルの料理も、みんな美味しそうに食べてたね。
 煮込み料理とかも人気高かったみたいで‥」
そう応えたソロがピサロの皿に目を移すと、彼も煮込み料理をたっぷり乗せていた。
「ピサロも結構料理ガッツリ持って来たんだね。」
「何故か多めによそわれてしまったのだ。器いっぱいに盛られるとは思わなかった‥」
「ふふっ。でも、こういうのって良いよねえ‥。みんな楽しそうで…オレも嬉しい。」
ワイワイがやがやとした雰囲気に包まれた会場を眺める姿は、とてもリラックスしていて、柔らかい表情を浮かべていた。
自然と浮かぶ笑顔に、ピサロも目を細めさせる。夏の前にはまだ見られなかった笑顔が、最近確かに増えてきたと思う。
前方へ視線を動かせば、楽しげに語らいながら食事する部下の姿と、給仕の手伝いをがんばっているロコの姿に気づいた。
「…ロコは、ここの生活に馴染めそうか?」
「そうだね。最初は少し緊張してたみたいだけど。
 最近は、オレだけでなくクリフトとも親睦深めているみたいだよ。」
ピサロの視線の先の少年を見つめながら、ソロが説明する。
「ほら‥この間エンドールで買って来た服。
 モモが本当に喜んでくれてね、それがロコにも嬉しかったんだって。」
モモがずっと臥せっていた事もあって。彼女は兄のお下がりの服しか持って居なかった。そこで、モモに似合いそうなワンピースとリボンを贈ったのだ。その時に衣装を見立てて、髪を結った縁で、クリフトは先にモモと親しくなった。
「ああ。昨日寄った時に、嬉しそうに報告してたな。
 確かによく似合っていた。レンも奴に感謝していたぞ。」
「レンにはいつも世話になってるし。あの子達も可愛いからね。」
彼らが来てからまだ2週間程だが。生活の中に少しずつ彼らの存在が入り込んで来る事を歓迎するよう微笑むソロだった。

「結構な量の食べ物用意したつもりだったけど。なんだかんだみんな食べたんだねえ‥。
 レンの所で片づけ手伝ってくれた人達が2次会するって言うから、お酒と料理多めに分けたら‥ウチの分はこれだけになっちゃった。」
夕闇に染まった会場から引き上げて、自宅のテーブルへ残った料理を並べたソロが、腰に手を当て嘆息した。
「でも、3人で食べる分には問題ない量ありますよ?」
クリフトがグラスの準備をしながら、指摘する。
「うん‥そうなんだけど。2人には物足りなくない?」
野菜・果物がメインの料理ばかり並んでいるので。ソロが気にかかるよう問いかけた。
「特に問題ない。酒の肴に摘まむ程度で良いからな。」
「私も構わないですよ。昼間それなりに食べて居ますし‥」
結局。食事よりも酒を楽しむ席に‥と話が纏まり、ローテーブルの方へ適当に料理を並べて、酒棚から出した酒とグラスを並べた。
「それじゃ‥今日はお疲れさまでした!」
3人並んでソファへ腰掛けると、真ん中に座るソロが乾杯の音頭を取った。カチッとグラスが軽く触れ合って、並々注がれた液体を煽る。
コクコクとジュースたっぷり目で割った酒を半分飲み干して。ソロがフォークに手を伸ばす。
パンプキンパイを一切れ小皿に取り分けて、モグモグ食べる姿を眺めたピサロが肩を竦めさせ、ナッツを1粒口に持って行った。
「ふう‥。やっとお酒が飲めました。皆さん美味しそうに召し上がってらっしゃるから、誘惑に負けないよう努めるのは、骨が折れましたよ‥」
ゆっくり味わうよう含んでいたクリフトが、ほお‥っと息を吐いた。
「オレもオレも。
 まあ、オレが飲んだら、最後までちゃんと見届けられなくなりそうだけどさ‥」
主催が潰れたら困るだろうと、宴が終わるまでアルコール禁止にしたピサロが、こぼすソロの頭を撫でた。
「酒が入るとスキンシップが加速するからな、お前は。
 あまり無駄に愛想振りまかれては、敵わん。」
言葉の意味が理解出来なくて、きょとんとソロがピサロを窺う。
「ここへ手伝いに来て下さる方々って、ソロをアイドル視しているみたいですよねえ‥。
 行列が出来た時は、流石に驚きましたよ…」
クリフトがクスクス笑って、昼間の光景を語った。
「ああ…うん。オレもビックリしたよ。でも、期待の眼差し向けられたら、ね。
 それに、やっぱり自分が作った料理食べたいって言われるて、嬉しかったし…」
「そうですね。私も頂きたかったですが。すごい勢いでなくなってしまったのが残念です…」
「あ…。あれ、まだ残っているよ。
 忙しくて食べられなかった時の為に、3つだけ家に置いてあったんだ。」
残念がるクリフトの言葉に、ソロが思い出したとばかりに立ち上がった。
「ちょっと取って来るね!」
そう言って、厨房へとダッシュで移動してしまった彼を、残された2人が見送る。
「ピサロさんは召し上がったんですよね?」
「…ああ。甘味が好きな連中には好評だったみたいだな…」
そう答えながら、グラスに残った酒を煽る。
「お待たせ。持って来たよ。」
菓子の乗った皿を持って戻って来たソロが、ローテーブルを挟んだ対面に座って、2人を見た。
「それじゃ、1つ頂きますね。」
クリフトが自分の小皿を近づけて、1つを皿に移した。
「ピサロは?」
「ソロも食べ損ねたのだろう? 1つでは物足らないんじゃないのか?」
じっと見つめられた魔王が、コホンと咳払いして返した。
「んー。でも、ピサロが食べたかったら、いいよ?」
「そうか。では私も1つ貰おう。」
考える仕草で語るソロに、ピサロがそう言って、1つ取り分けた。
にっこり笑ったソロが、残った1つにフォークを立てる。
「じゃ…頂きます。…ん、美味しー。」
「では私も…」
ソロが口に運ぶのを待って、クリフトが一口大に切った焼き菓子を食べた。
「うん、美味しいです。今度子供達を招く時も作ったら、喜ばれますよ。」
「えへへ。そうかな…。…ピサロには、やっぱり甘い?」
同じく口に運んだピサロが、黙々と食べている姿に、ソロが申し訳なさそうな瞳を寄せた。
「…まあ。確かに甘いが。これくらいなら、悪くない。量があったら、厳しいと思うが…」
「そっか…。無理強いしてないか、心配だったけど。良かった…」
ソロはホッとしたよう微笑むと、コクコクグラスを煽った。
「今度はさ、ピサロが沢山食べたくなる料理作るから。その時はいっぱい食べてね?」
ふふっと笑って、ソロは残る菓子を平らげてしまうと、2人の様子を機嫌良く眺めた。
「それは楽しみだな。」
ニッと笑うと、菓子を食べ終えたピサロが、酒のお代わりを手酌で注ぐ。グラスを空けたばかりのソロにも瓶を向けると、彼もグラスを差し出した。トクトクと注がれたのは、グラス4分の1程。後はソロが自分でジュースを継ぎ足した。
「今日は大変だったけど。楽しかったな…。ピサロとクリフトは? 大変だった…?」
「準備は大変でしたけど。私も楽しかったですよ。」
「そうだな。今日集まった連中の顔みていたら、デスパレスでも似たような催し開催しても良いだろうと思ったな。」
「うん。きっとみんな喜ぶと思うよ。手伝いが必要だったら、声掛けて。」
にこにこ返すソロに、ピサロも瞳を和らげる。
「客人として招いてやるぞ。その時は…」
「それは楽しみですね…」
「ワクワクするね、そういうの。」

機嫌良く語りながら、適当に摘まんで、ゆっくり飲んでたソロだったが。
昨日から忙しくしてた疲れが出たのか、テーブルに突っ伏して眠り込んでしまった。
「おや…ソロは本格的に寝てしまったみたいですねえ…」
うつらうつらとし始めているとは思っていたが。グラスを抱えたまま寝入ってしまうとはと、クリフトが苦笑いを浮かべる。
「流石に疲れたのだろう。今日は大勢の中で過ごしたしな…」
立ち上がって、ソロが抱えるグラスをテーブル越しから回収したピサロが、そっと髪を梳った。
「そうですね。」
「貴様も今日は疲弊しただろう? ソロは私が寝かし付けてやるから、ゆっくり休むと良い。」
「…まあ、いいですけどね。ですがその前に。丁度良いから、ちょっと来週の件でお話が…」
魔王の意向を理解したクリフトが呆れ顔で了承すると、少し神妙な顔つきで語り始めた。

「ふあ…よく寝た。おはよーピサロ‥」
目が覚めるとベッドの中で。ぼーっと起き出すと腰に腕が回されて、ソロは隣で横になっている男へ体を向けると手を伸ばした。
「おはよう、ソロ‥」
自身の頬へ伸びて来た手を掴んだピサロが、その甲に口接ける。
「わっ‥もう。朝から素早いなあ…ん‥」
一瞬動きが止まった所で強引に体勢を崩されて、組み伏せられた格好になった。
ソロが困ったように小さく笑うと、ピサロもニッと口の端で笑んで、そのまま唇を寄せた。しっとり重ねられた唇は、啄むように幾度か触れて、離れてく。
「昨晩はすっかりお預けにされたからな…」
「…途中で寝ちゃったんだ。やっぱり…」
記憶が飛んでいるのはそういう事だろうと、ソロが苦笑した。
「今夜はちゃんと付き合うよ。‥ピサロが来られるんならだけど。」
「お前に誘われて、断るなどと言う選択肢はないな。少し遅くなるかも知れぬが‥」
互いに体を起こして、2人が見つめ合う。
「うん…待ってる‥」
「ああ…」
先程よりも少しだけ深い口接けを交わした後は、気持ちを切り替える。
「クリフトはもう起きているみたいだね。オレも早く行かないと。」
「私はあちらの様子を見に行って、そのまま城へ戻る。」
「分かった。行ってらっしゃい~」
先に支度を終えたピサロを送り出して。ソロも身だしなみを整え寝室を出た。

「そういえばさ。今度の子供達招待する時にさ、ロコ達はどう紹介したら良いんだろう?」
昼食を摂りながら、ソロが向かい席に座るクリフトへと声を掛けた。
「2人がみんなと一緒に過ごすか分からないけどさ。全く紹介しないのも変だよね?」
人間嫌いと聞いているソロだったので。無理に誘えないと思いつつも、孤児院の子供達が興味津々訊いて来るのは確実と、首を傾げさせる。
「…そうですね。ピサロさんの住む島から、こちらへ引っ越して来たと説明すれば大丈夫じゃないですか。」
「そっか。うん、聞かれたらそう説明するよ。」

  
「やあロザリー。いらっしゃい。」
子供達を招待する前に、ロザリーと段取りの打ち合わせをと、村まで足を運んで貰った。
「こんにちは、ソロさん。今日はお招きありがとうございます。」
「こちらこそ。今日はよろしくね。ピサロから聞いてると思うけど…」
彼女を案内するよう歩きながら、ソロは今日の予定を説明し始めた。
ピサロと共にまず訪れたのが、先日完成したばかりの宿屋。
「お待ちしておりました、陛下。」
扉を潜ると、レンが恭しく頭を垂れた。
「彼女はロザリー。今度訪れる子供達のまとめ役として、当日同行する事になっている。
 この施設とロコ達の紹介を頼む。」
「はい、承りました。初めまして、ロザリー様。まず施設の案内からさせて頂きます。」
「はい、よろしくお願いします。」

レンとソロにロザリーを任せると、ピサロは奥の管理人室へと足を向けた。
「…ピサロ様。…お客さま来たの?」
ソファ席でクリフトの両脇に座っていた兄妹が、やって来たのが見知った顔と分かって、ホッとした様子で小さく訊ねた。
「ああ。今レンが宿の案内をしている。
 今日来たのは、私と縁のある娘だから、怖がる必要はないぞ。」
不安な瞳を寄せるモモの前で膝を折ったピサロが、そう静かに説明する。
「…ピサロ様の古くからの知り合いって、本当ですか?」
「ああそうだ。お前達よりも長い付き合いになるな。」
妹がコックリ頷くのに続いて、問いかけた兄にも、ピサロが答えた。
「とても優しい女性ですから。きっと2人とも仲良くなれますよ?」
クリフトがぽんと兄妹の肩を叩いて、微笑む。兄妹はクリフトの顔を窺って、ピサロをじっと見つめた。
「…彼女もお前達に会うのを楽しみにしていた。会ってくれるな?」

説得に応じた子供達を伴って部屋を出ると、ロビーへ戻って来たレン達と合流した。
「ロザリー様、あの子達が先程お話した兄妹です。2人ともおいで。」
レンに招かれて、兄妹がおずおずとやって来た。
「初めまして。私はロザリー。ロコと…モモちゃんね?」
目線を合わせるようにしゃがんだ彼女が、ふわりと微笑む。
「こんにちは。オレはロコ。こっちが妹のモモ。」
「…モモです。初めまして…」
「この村にはもう慣れた? 緑が豊かで私はとても素敵な土地だと思うのだけど…。
 ソロさんもクリフトさんも優しい方ですし…」
「ソロ兄ちゃんも、クリフト兄ちゃんも優しいよ。」
コックリ頷いたロコに、モモもコクコク頷く。
「それにね…きれいなお花がいっぱいなの。レン兄ちゃんもいっぱい遊んでくれるし…」
「そう。それはとても素敵ね。」
柔らかく微笑むロザリーに、兄妹が緊張を解いたのが周囲にも伝わって。見守ってた男性陣が、ホッと胸をなで下ろすのだった。

昼食は、ロザリーが実際の使い勝手を確認したいと申し出た事もあって。こちらの厨房を使わせて貰い、当日作る予定のレシピを振る舞う事となった。調理の手伝いをクリフトとレンが。ピサロとソロは、午後に試作する予定のデザートの材料調達に、畑へ向かって。子供達は自室で休憩となった。
「大丈夫かな、あの子達…」
畑へと歩きながら、ソロがぽつんとこぼした。
「モモの方は、元々他者と接する機会が少なかったからな。
 初めて会う者に緊張するのは、仕方なかろう…。
 この村へ来る事になった時も、やはり不安そうにしてたからな…」
「そっか…。まあ、初めの頃は、確かに緊張してたみたいだものね…」
そう返しながら。ソロはふと、彼らがやって来た日の事を思い出した。
ピサロが幼女を抱き上げている姿が、まるで親子みたいだと、なんかこうモヤっとしたのだ。
「…どうした? 難しい顔してるぞ。」
「…ピサロってさ。小さい女の子に、結構好かれるよね?」
じとっとソロが睨めつける。
「ずっとそれ、困っているんだと思ってたんだけど。ピサロも満更じゃなかった?」
「何を言い出すやら…。どこでそんな結論に至ったのだ?」
突然のヤキモチモードに、ひたすら困惑しながら、ピサロが呻いた。
「…引っ越しの時、モモの事抱っこしてたでしょ。慣れてる風だったから…なんか…」
「自力で移動出来ない時期が長かったからな…。それに。
 あの日は慣れぬ移動呪文に、体への負担が重くならないよう努めていたからな…」
「…あ。そうか…。移動呪文て、慣れないと気分悪くなる人居るもんね…」
眉間の皺を解いて、ソロが納得顔を浮かべる。
「私に見境なく妬き過ぎると怒るが、ソロも負けてないようだな。」
フッと笑みを深めさせたピサロがそう言って、彼の髪を梳った
「…そうみたい。
 ピサロがよく言う『理性で分かっていても、生じる気持ちがある』って、なんかやっと実感した。
 オレも結構独占欲強かったんだ…」
モヤモヤの正体がはっきりして、ストンと腑に落ちたように、ソロが自嘲気味に笑んだ。
そして理解する。先週開いた宴の翌日、やたらと夜の営みがハードだった原因を。
ピサロもクリフトも、それで容赦なかったんだ…と結論付けて、口元を綻ばせたのだった。

お昼は宿の食堂で、全員揃って食事をする事になった。大勢との食事が初めてとなる兄妹は、少し緊張した様子も見せたが、午前中にロザリーと大分打ち解けた事もあり、後半はリラックスした表情を浮かべていた。
「午後は畑を案内して、それからお菓子作りに取りかかろうか。」
食後のお茶を飲み終えたソロがロザリーへと声を掛ける。
「はい、私は構いませんが。先にここの片付けを済ませてもよろしいですか?」
「片付けは私達がやりますから。ロザリーさんはソロと行って来て下さって大丈夫ですよ?」
クリフトが隣に座るレンの肩に手を置いて、ニッコリ請け負った。
「え‥ですが…」
「問題ない。それは今日のお前の役目ではない。そうだな?」
「はい陛下。ロザリー様、こちらはお気になさらず、いらして下さい。」
ピサロに振られたレンが恭しく返答すると、ロザリーへと向き直った。
「分かりました。では、レンさん、クリフトさん、よろしくお願いします。」

「‥でね、この辺が収穫出来る野菜なんだ。だから…」
ソロは畑で予定している作業を説明しながら、当日子供達に託したい仕事についての見解をロザリーに求めた。
「そうですね…。
 今回は農作業の手伝いをしている男の子達メインに、こちらへ伺う予定になってますから。
 子供達にも無理ない作業だと思いますわ。」
「そっか。子供達にどれだけ仕事振っていいか、分からなくてさ。
 とりあえず、終わったら良いなと思う分説明したんだけど。達成出来そうなら、本当にありがたいよ。」
「ただ‥収穫した後の過剰分をお裾分けして下さると言ってましたが。結構な分量になりませんか?」
「うん。そうなんだ‥。迷惑じゃなければ、貰って欲しいんだけど…」
「迷惑なんて、とんでもない。院長も喜ばれると思います。」
ロザリーがそう請け負うと、ソロも安心したよう笑んだ。
「…という訳で。ピサロ。収穫した作物のお裾分け分が入るだけ、木箱の準備とそれを積む荷車の手配、トルネコに頼んでくれるかな?」
2人の会話を見守っていた魔王に、ソロが話を振った。
「後でロザリー送って、エンドール行くんでしょ。ついでじゃない。」
目を丸くした彼が文句言う前に、畳みかけるようソロが続ける。
「…了解した。」
小さく嘆息した後、そう短く返すのだった。

午後はお菓子の試作を行って、その行程や設備の使い勝手をチェックして、完成したお菓子を食べながら、当日の打ち合わせを行う運びとなった。
昼食を食べたテーブルで、大人達が話を詰める。
「じゃあ、当日はオレとピサロでみんなを迎えに行って…」
すっかりお手伝い要員にカウントされたピサロを巻き込んだ予定が、ソロの口で語られて行く。
「…とまあ。一応大まかな流れはそんな感じで。大丈夫かな?」
一同見渡すと、同意を示すように頷く3名と渋い顔で腕を組んだままなのが1名。
ソロは満足そうに頷いて、大きめにカットして貰ったケーキを平らげたのだった。


そして迎えた収穫の日。
その日は朝から快晴で、風も穏やかだった。
前日から泊まり込んだピサロと共に、はりきり顔でソロがエンドールへと出立する。
エンドールの教会では、孤児達も既に準備を整えて、彼らの到着を待っていた。
「おはよう、ソロ兄ちゃん! ピサロ様!」
真っ先に反応したのが、今日村へ来るメンバーの一人レオンだ。
門の前で待ちかまえていた彼は、通りをやって来る姿を認めて、大きく手を振った。
「おはよう、レオン。みんな準備出来てるかな?」
「もちろんだよ! だって、すっごく楽しみだったんだもん!」
「そっか…。ロイドもおはよう。2人とも今日はよろしくね。」
門に入ると、こちらへ駆け寄って来た少年に、ソロは声を掛けた。
「ソロさん、ピサロさん、おはようございます。」
「おはようございます、シスター。お待たせしちゃいました?」
扉の前に集う子供達を眺めながら、ソロが確認する。
「いいえ。子供達がそわそわしてただけですから。
 ここに居るのが、今日お伺いさせて頂く子供達です。」
「そうなんですね。…あれ? ロザリーは?」
ぐるっと見渡したソロが、彼女の姿がない事に気づいて訊ねた。
「すぐ参りますわ。あ、ほら…」
シスターが答えている間に、そっと扉が開いて、ロザリーが出て来た。
「あ…おはようございます、ソロさん、ピサロ様。お待たせしてしまったのでしょうか?」
「今来た所だよ。ね、ピサロ。」
「ああ。もう出立出来るのか?」
「はい。大丈夫です。」
ロザリーがはっきり答える間に、子供達が行儀良く整列する。
「今日は子供達をよろしくお願いします。さ、みんな。」
「「よろしくお願いします。」」
シスターが促すと、声を揃えて礼をした。
「こちらこそ、よろしくね。じゃ…みんなあっちに集まってくれる?」
門の脇に止めてある荷車を指すと、子供達がわっと駆けて行く。
「それじゃあ、お預かりします。」
荷車を囲むように集まった子供達を確認すると、移動呪文をピサロが唱える。
「「行って来まーす!」」
はしゃいだ子供達の声を合図にしたように、ふわりと風が巻き起こる。
光に目を瞑った次の間には、彼らの姿はかき消えていた。

「うわあ…すごーい!」
移動呪文を初めて経験した子供達は、ふわりと自分達を取り巻いた風が解けると、知らない景色が広がっているという事象に、瞳を輝かせた。
「ここがお兄ちゃんの村なの?」
「そうだよ。…村って言っても、自宅と宿くらいしかないんだけどさ。」
ソロは肩を竦めてそう返すと、全員を見渡した。
「さ、まずは完成したての宿へ案内するね。紹介したい人がいるんだ。」

顔合わせを済ませた後は、収穫へ向かうメンバーと料理をするメンバーで分かれる事になった。料理はロザリーとレン、女の子3名が担当となり、残るメンバーが収穫組に。男の子6名と女の子2名が畑に移動する事となった。
ソロが今日の作業について、まず一通り説明し、銘々が動き始めた。
農家で手伝いをしている子が多かった事もあり、それぞれ分担を決めるとてきぱき作業を開始した。
「みんな手際いいなあ…」
自分よりも慣れてる風な手付きに、ソロが感心したようこぼす。
ちゃんと大人が付いてないと難しいかと思っていた作物の取り扱いを、危なげなくこなしている姿は意外だった。
「ソロ、少しお任せしても大丈夫ですか?」
順調に作業を進めていると、側へやって来たクリフトが声を掛けた。
「そろそろ小休止しても良い頃合いなので。例のもの持って参りますね。」
「ああ。もうそんな時間か。うん、よろしくお願いね。」
一旦手を止めたソロが、そう微笑むと、隣で彼を手伝っていたマイクへ目を移した。
「マイク。ここは良いから、リンゴの収穫しているピサロ達の元へ行って、小休止しようって声掛けて来てくれる?」
「うん分かった。」
今日来た中で一番年長になるマイクが、そう答えると果樹が実る方へ駆け出した。
そんな彼を見送って、立ち上がったソロが周囲を見渡し歩き出した。
「クリフトが戻ったらお茶にするから、キリの良い所で手を止めてね。」
それぞれに声を掛けて回ると、村に戻った時に利用していたテーブルへと誘導する。農作業の忙しい時に、休憩場所として今も使っているその場所には、水桶も用意されていて、到着した子供から順に手を清めて席に着いて貰った。
「お待たせしました。」
子供達が全員着席したタイミングで、クリフトが荷物を持って戻って来た。
「今丁度揃った所だよ。思ったより早かったね。」
声に振り返ったソロがそう返すと、クリフトの後ろにひょっこり見えた少年に目を細めさせた。
「ええ、ロザリーさんがすぐ持ち出せるよう準備して下さってたので。それに、ロコも手伝ってくれましたし…」
「そっか。ロコもありがとう。重かったでしょ?」
タタッと小走りしたソロが、彼の持つ籠を受け取り、頭を撫でた。
「せっかく来たんだから、一緒におやつ休憩しよう?」
そう誘うと、逡巡しつつも頷いて。クリフトの手伝いを買って出た。
「はいどうぞ。」
クリフトがカップに注いだ麦茶を、ロコが順番に子供達の元へ配って行く。最初は緊張した面持ちだったが、「ありがとう」を言われる度に、少しずつそれが解れていくようだった。
「熱いから気をつけてね。」
そんな様子を微笑ましく眺めていたソロが、籠に入っていた紙の包みを1つずつ手渡して行く。
「ありがと、ソロ兄ちゃん。本当だ、熱いや…」
落とさないように両手で受けた少年が、手の上で転がして熱を逃がす。
全員に飲み物とおやつが行き渡ると、子供達は声を揃えて「いただきます」と手を合わせた。あまりにピッタリ重なる仕草に、初めて見たロコは目を丸くしていたが、誰も驚いてなかったので、「今の何?」とは聞けなかった。
おやつとして適切なサイズにカットされた焼き芋を、はふはふ頬張りながら、子供達の瞳は興味津々周囲を映す。
「ここの畑はみんなソロ兄ちゃんが面倒見てるの?」
「うん? そうだね。世話が大変な時は、手伝って貰う事もあるけど。一応オレが見てるよ。」
ソロがそう返すと、訊ねて来たレオンの隣に座るロイドの方がしたり顔で頷いて破顔した。
「やっぱりな。兄ちゃんは緑の手を持ってる人なんだよ。」
「緑の手…?」
「ああ、植物を育てるのが上手い人の事をそう言ったりしますね。」
クリフトが説明を加えると、初めて聞いた子供達が感心した様子でソロを眺めた。
「え…そうかな? 元々畑があった土地を直して利用しているから、土が良いだけだよ、多分…」
荒れ放題だった畑を、雑草抜いて耕して…との修繕が思いの外上手く行ったのだと、ソロは考えた。
「兄ちゃんは、畑もっと広げるの?」
元々の畑はもっと大きかったのだろうと思うレオンが訊ねる。
「ん? う~ん…確かに元々の畑はもっと大きかったけどさ。これ以上は、オレだけじゃ手が回らなくなっちゃうかな…」
「…オレ、手伝うよ?」
クイッとソロの上着の裾を引っ張って、彼の隣に座ったロコがぽそっとしゃべった。
「ありがとう。助かるよ…」
小さな声を漏らさず聞いて、ソロが彼の頭を撫でた。

小休止の後は、ロコも収穫の手伝いをする事となり、レンが昼時を知らせに畑へと訪れた頃には、予定の大半を終えるまで進んでいた。
昼食は、宿の食堂にあるテーブル席を繋げた形で、大きな食卓を設けて全員で頂く事となった。
午前中のうちにモモもロザリーを手伝った少女達と親しくなったようで、楽しそうにおしゃべりしている姿にホッとする。
子供達は作業の話や、村の感想を、大人達に楽しげに他愛なく語りかけて来るので。なかなか賑やかな食卓となった。

「今日は本当にありがとう。すごく助かったし、みんなと過ごせて楽しかったよ。」
午後の作業も順調に進んで、みんなでゲームしたりと賑やかに過ごした一日は、あっという間に帰る時間となった。
孤児院へ届ける分の作物を荷車いっぱいに乗せて、ロザリーと共に来た子供達が整列する。
「おれ達も今日は本当に楽しかったです。お招きありがとうございました!」
一番年長のマイクが、一同を代表してあいさつすると、皆揃って礼をした。
「…みんな、また来る?」
クリフトに抱っこされたモモが、淋しそうに訊ねた。
そんな彼女の言葉に、子供達がソロとロザリーを交互に見やる。
「…また、来たいけど。」
レオンがぽつりと呟くと、ソロがこっくり頷いた。
「うん。また遊びにおいでよ。今日お留守番させた子達も、連れて来てやりたいしね。」
「…!! きっとみんな喜びます!」
わっと沸いた歓声に、モモはぱちくりしたが。皆が喜んでいるので、また会えるのだと結論つけ、一緒にはしゃぐ。
「さあ。そろそろ移動しないと。あちらでも、皆の帰りを待っているだろう。」
「あ‥そうだったね。遅くなったら、心配するよね。」
ピサロの指摘に頷いて、ソロは隣に立つクリフトへと体を向けた。
「それじゃ、みんな送ってくるね。」
「はい。いってらっしゃい。」
そう答えたクリフトが、ソロの脇にいたロコと手を繋いだ。
ロザリーと子供達が、見送りに来ていた彼らに手を振り、思い思いの言葉を送る。
彼らが風に包まれるまで、子供達の親しげな声が届いたのだった。


「今日は色々ありがとうね、ピサロ。」
子供達を送り届けた後。村へと戻って来た2人が家路をゆっくり辿る。
すっかり陽が落ちてしまったが、薄闇が広がり始めた道のりは、周囲を静かな色に染めていて。昼間の喧噪が夢のようにも感じられた。
そんな風景を見やりながら、ソロがほお‥と安堵の吐息を落とし微笑む。
「結局、移動呪文以外にも付き合わせちゃったけど。協力してくれて、すっごく嬉しかった。」
スッと彼の腕に自身の腕を絡めさせ、寄り添ったソロが笑顔で告げる。
「…貸しはきっちり取り立てるからな?」
彼の笑顔で十分報われたピサロだったが、ニッと口角上げて、柔らかな翠の髪を梳った。
「別に…いいけど。出来ればこまめに取り立てて?」
貸しが嵩んでとんでもない事になりそうだと、ソロがボヤいた。
「クックック…」
貸しどころか、勇者には返しきれない借りがあるのにと、冗談に真面目に答えるソロに、魔王は敵わないものを覚えてくつくつ笑う。
突然笑い出すピサロに、眉根を寄せて口をへの字に曲げたソロが睨むと、唇が重ねられた。
「ソロ…愛している‥」
「オレも‥」
甘い瞳で囁かれたら、眉間の皺など一気に解けて。トクンと鼓動が跳ねる。触れ合った唇が離れると、彼の首に両腕を回して、ソロが引き留めた。


           



あとがき
久しぶりの更新です。実はピクシブの方に先にupしていたのですけど。
なかなかサイトへの更新作業が進まなくて。とうとう新しい年になってしまいました。
微妙に放置されているサイトに、お越し頂きありがとうございます。
今年こそ、7章綴り始めたいものですが‥

2021.1.5












 

e[NȂECir Yahoo yV LINEf[^[Ōz500~`I
z[y[W ̃NWbgJ[h COiq@COsیI COze