船の様子の報告を貰って、2人は船を後にした。

「とりあえず船員も大丈夫みたいだし、船も問題ないようだな。後は‥夕食後のミーティ

 ングで詰めるとして。なあ、クリフト。」

「なんですか?」

通りを歩きながら今後のスケジュールを語っていた鷹耶が、隣を歩くクリフトへ目を向け

た。

「ミーティングの後、ちょっとさ、外へ行かないか?」

「外?」

「そう。‥疲れてるなら、無理強いはしねえけど。」

「魔法力は消耗しましたけど。しっかり休みましたし、大丈夫ですよ。」

遠慮がちな誘いに、クスクス笑ったクリフトが答えた。

「よし。んじゃ、約束な。」

満面の笑みを浮かべて鷹耶が拳をコツンと合わせた。

足取りまで軽くなった彼に、クリフトも自然と笑みを浮かべる。

昼間張り詰めた神経が解れていくような感覚に包まれて、クリフトはほう‥と吐息をつい

たのだった。



ミーティングでは、互いの今日の報告と、現状の確認が話し合われた。

結果。船の損傷も負傷した船員も問題なし‥という事で、明日もう一度探索の続きを進め

る事が決まり、そのメンバー並びに、待機方法についても詳細が詰められた。

「‥じゃ、明日の探索メンバーは、俺、アリーナ、クリフト、ブライで決定な。島に着い

 たら後のメンバーは、船と街へ戻っててくれ。港に戻ったら、船長とトルネコ中心に船

 の装備品再点検な。目的のモノが手に入ったら、しばらく船が拠点になるだろうから。

 よろしく頼むぜ。」

「はい了解しました。一応必要最小限の物資補充は終わってますので。後は蓄え分をどう

 配分するか‥ですね。よく話し合ってみますよ。」

一同を見渡した鷹耶に、トルネコが答えた。

「ああ、よろしく頼むな。」



特に問題もなくミーティングが終了し、メンバーは散会となった。

ライアンとブライはそのままテーブルを移動して、アルコールを注文し、女性陣も奥のテ

ーブル席に腰掛けて、メニューを広げわいわい始めた。

風呂を済ませてくると食堂を離れたトルネコと一緒に、鷹耶とクリフトも場を後にした。

「鷹耶さん達も風呂ですか?」

「いや。俺達は夜の散歩。ちょっと出て来るよ。」

「そうですか。エンドールは夜も華やかですからね。いってらっしゃい。」

のほほんとした笑顔に送られて、2人は宿を出た。

トルネコの話していた通り、夜になっても街灯に照らされた大通りは行き交う人もちらほ

らあって、オレンジ色した明かりがこぼれる店からは賑やかなざわめきが漏れている。

「鷹耶さん、どこへ行くんですか?」

テクテクと通りを歩く彼の隣に立ったクリフトが声をかけた。どこか近くの店へでも向か

うのかと思ってたのだが、そんな足取りでもなさそうだ。

「ん〜。そうだな。まだ寒くもねえし、夜の公園とか行ってみるか?

 人目のない場所、な?」

「夜の公園って‥。これからですか?」

「そ。流石に今夜は飲めねーだろ? だから、健全なデートでもいいかなって。」

クリフトの顔を覗き込んだ鷹耶が、にっこりと笑んだ。

「デ‥デート?」

思いがけない単語に、クリフトがかあっと頬を染める。

「そ。だってさ、俺は今日クリフト不足で寂しかったのに。そのクリフトときたら、俺が

 居ない間に船員と親睦深めて。変な虫が付かねーかって、俺としてはハラハラもんよ。

 だ・か・ら。親密度深める為に、デートなの。健気な男心ってやつだな。」

腰に回した手をグッと引き寄せ密着させると、すかさず肩に腕を回して内緒話でもするよ

うに密やかに話す。軽くお茶らけたノリではあったが、肩を抱く手に込められた力は、しっ

かり所有権を主張していた。

恐らく船でニコと話してた時‥いや、あの時声をかけてきた船員全員に対して、妬きもち

モード全開になってたのだろう。クリフトは不機嫌顔を浮かべてた彼の姿を思い出して、

ひっそり嘆息した。

「的外れな心配だと思いますけどね。鷹耶さんは失念してるかも知れませんが。私も男な

 んですよ? 変な虫なんて付きようがないでしょう。」

「お前がそんなだから、余計心配するんだって。隙有り‥ってな、奪われないようにしろ

 よ?」

ちゃっかり唇を触れ合わせて、鷹耶が言い含める。

「もう…。そんな事するのは鷹耶さんくらいですよ。人に見られたらどうするんです?」

後半声を顰めて、クリフトが唇を尖らせた。

それでも、本気で怒ってない様子の彼に、鷹耶が目を細めさせる。

「誰も見てねーって。この先はもう、店もねえしな。」

足を止めた鷹耶が振り返って答えた。

大通りを外れた路地には、自分達以外の人影はなかった。そして、前方に目線を戻せば、

その先には夜間訪れる者などほとんどないであろう公園の木立が、月明かりに照らし出さ

れていた。


「わあ…もっと暗いかと思ってたんですけど。月明かりの公園というのもいいものですね。

 広々とした緑がきれいに彩られて…」

木立の向こうに広がる手入れされた緑の丘が、銀の光を受けてキラキラ輝く。さわさわと

緑の揺れる音に合わせてきらめく草達の姿に、クリフトは笑みを深めさせた。

「ああ‥そうだな。気に入って貰えてよかった。」

「鷹耶‥さん?」

背後から抱き竦めるように身体を密着させて来た彼を、クリフトが顔を横向けて覗う。

「誰も居ないから、いいだろう‥?」

もう少しこのままで‥と、甘える仕草でぎゅっと抱き着く鷹耶が、クリフトの耳元に

そっと語りかけた。

「いいですけど…。なんだか‥会ったばかりの頃みたいですね。」

出会って間もない頃。何故か鷹耶に気に入られたクリフトは、夜になると甘えモードが増

すらしい勇者の過剰スキンシップ攻勢に、とても手を焼いていた。

あの頃は、それが高じてここまで深みにはまるだなんて、想像だにしなかったのだが…

「‥何だよ? 急に。思い出し笑い?」

くすくすと肩を揺らすクリフトに、彼の肩に顎を預けていた鷹耶が訝しんだ。

「ふふ‥そうですね。なんだかいろいろ思い出してしまいました。」

「いろいろって‥?」

クリフトの表情を覗き込んだ鷹耶と瞳が合うと、彼が悪戯っぽく微笑んだ。

「話すと笑うから、絶対教えません。」

「え〜。なんだよ、それ? そう聞いたら、逆に気になるだろ?」

「ふふふ‥。いいんですよ、それで。私だって、散々振り回されましたから。」

するりと彼の腕から逃れたクリフトが、2、3歩進むと振り返った。

「たまには鷹耶さんが悩んで下さっても良いでしょう?」

「‥参ったな。今日は疲れてるだろうから、自制するつもりだったんだけど‥」

ぽりぽりと頭を掻いた鷹耶が、ぽつっと呟く。

「え‥? わ‥っ、鷹耶‥さ…んっ‥ふ‥‥」

大きく1歩を踏み出した鷹耶がズンズン迫って来る勢いに圧されて後退さったクリフトが、

樹の根に足を取られ躓くと、崩れた体勢を背後の樹木に預けるような形で縫い止められて、

口接けが降りた。

「んんっ…ふ‥‥あ。鷹‥耶さ‥‥‥」

一旦離れたかと思った唇が、角度を変えて重なる。下唇を食むように挟まれて、擽ったさ

に口を開くと、熱い舌が差し込まれた。上顎を辿る侵入者に、クリフトが肌を粟立たせる。

ゾクゾクとした熱が躰を走って、知らず甘い吐息がこぼれた。

それに気を良くした鷹耶が、更に遠慮なく貪ってくると、クリフトも求めるように、背に

回した腕に力を込めた。

最初は途惑うばかりだった深い口接けだけれど。

想いを自覚した今は、不思議に甘く心地よくて。温もりが、疲れていた身体を癒してくれ

るようで、離れ難い。

「ん‥んっ…ふ‥ぁ‥‥はあ‥はあ‥‥」

自らも積極的に応じていたクリフトが、すっかり息が上げながら、すぐ前にある青年の顔

を見つめた。

色に滲んだ表情で覗うクリフトに、鷹耶が瞳を眇めさせ、耳元に唇を寄せる。

「‥部屋で続き、いいか?」

少しだけ遠慮がちな囁きは、却って身内に点った熱を煽るように響いて。クリフトは朱を

上らせた頬の熱さを思いながら、俯きがちに口を開いた。

「‥いいですけど。加減‥して下さいね?」

「‥善処はする。」

そう、真面目顔で答えて、鷹耶はクリフトを抱き寄せると、移動呪文を唱えた。





翌朝。

クリフトは全身に圧し掛かってくる重みに息苦しさを覚え、目を覚ました。

昨晩の疲れが残ってるのかと、一瞬焦ったが、ぱっちり目を開けると、息苦しさの原因が

別にあると理解し、ホッと胸を撫で下ろす。

「鷹耶さん‥動けないんですけど?」

がっちり身体をホールドされているクリフトが、困ったと声を掛けた。

「ん〜? あ‥おはよう、クリフト。」

俯せで彼の上に乗っている鷹耶が、ぼうっと目を開けてちゅっ‥とキスを贈った。

「もう‥寝ぼけてないで、ちゃんと起きて下さいよ。朝ですよ?」

昨晩の甘いムードはどこへやら‥クリフトは自分に覆い被さる鷹耶を邪険に退け、躰を起

こした。

「うう‥なんか、クリフト冷たい。」

昨晩はあんなに可愛かったのに‥とこぼしながら、恨めしそうな拗ねた瞳をぶつける。

「何言ってるんです? 加減して下さいって、お願いしたのに。結局ズルズルと…

 今日は待機じゃないんですからね。戦えなくなったらどうするんです?」

「ん‥まあ。それは悪かったよ。けど‥クリフト、元気じゃね?」

あまり疲れを残してるように見えないクリフトを見て、起き上がった鷹耶がじっと覗き込

んだ。

「う‥まあ、幸い躰はその‥大丈夫です、けど…」

夜の営みのあった翌日は、割と躰が重かったりするのだが…今日は不思議と残ってない。

昨晩何度か挑まれたにも関わらず‥だ。

「ふう〜ん‥そっか。昨晩はお前もすげえ乗り気だったもんな。それが良かったのかも知

 んねえ。うん。」

腕を組んだ鷹耶がうんうんとしたり顔で頷く。

「な‥なんですか?」

嫌な予感を覚えて。クリフトが心持ち後退った。

「ふっふっふ‥。これからは、航海中も自制なしでイケるなv」

「は‥? え‥まさか…?」

にんまり上機嫌で肩を抱き寄せてくる鷹耶に、クリフトが眉を顰める。

「クリフトも大分慣れたようだし。船の夜も楽しく過ごそうぜ。」

「なっ‥慣れ‥って。私は別に…。それに、船の上だって、鷹耶さんちっとも自制なんて

 してな…っ、ん…」

真っ赤な顔で慌てふためくクリフトの唇を、鷹耶が口接けて塞いでしまう。

「してたの。だ・か・ら、クリフト、覚悟してくれな?」

「そ‥っ、無理ですよ。鷹耶さん程タフじゃないんですから、加減してくれないと…」

ずい‥と顔を近づけられて、どうにか身体を離そうと身動ぐクリフトだが、がっちり掴ま

れた肩は微動だにせず、突っ張ろうとした手も空いた腕に捕らえられてしまった。

「加減はするさ。翌日に響かないようにな。でも…

 あんまり拒まれたら、無茶しちゃうかも知んねー。クリフトはどっちがいい?」

一旦言葉を切った後、やや間があって、鷹耶がさらっと口にした。

「どっちも遠慮したいんですけど…」

行為すべてを拒否する気はないが。彼の欲求に付き合ってたら身が持たないと、クリフト

が重い溜め息を落とす。

「じゃ‥こうしよう。クリフトがどうしても気が乗らない時は諦める。」

「…本当ですか?」

やけにあっさり妥協して来る彼に、却って不審げにクリフトが窺った。

「俺だってそれくらい誓えるさ。」

任せろ‥と鷹耶が請け負う。

「‥なんだか疑わしいですけど。本当に守って下さいね? そんな理由で戦闘から外れる

 のはごめんですからね?」

更に念を押すクリフトに、鷹耶が大きく頷いた。

「おう。これでもリーダーだからな。メンバーの体調管理は忘れねーよ。」


にっこり請け負う鷹耶だが‥


鳴かずんば 鳴かせてみよう 時鳥―――


そんな鷹耶の性質を、その後の航海で十二分に味わうクリフトだった。




2008/10/30

   
あとがき

お久しぶりの鷹耶編お届けですv
今年はBL系小説をほとんど書いてなかったんで。
ここは濃いものを‥と目論んでたんですけど。
フタを開けてみたら、えっち場面―――逃げました。はい。
期待してた方いたらごめんなさい。

鷹耶がクリフトに熱上げてるのは、もう最初から変わらず‥なんですけど。
今回書きながら、クリフトもかなり早い段階で堕ちてますね、彼にw
なんかラブラブモード全開で、あてられましたわ、本当(^^;
おかげでイチャイチャキス場面でお腹いっぱいw
えっちが端折られたのは、そんな理由もあったりしてw

ハードな話が書きたいんだけどなあ‥

とりあえず。ここまで付き合って下さった方、ありがとうございました!

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