バトランドで天空の盾の行方を聞いた勇者一行は、ガーデンブルグを目指すべく、とりあ
えずイムルへと戻って来ていた。
今晩はここへ泊まって、明日早朝船が待つ海岸へ向かう事となり、例の夢についての検証
もその後で…という運びになった。
イムルへ着くとクリフトの案内で、[夢]に興味を深く示した面々が教会へ向かう事と
なった。メンバーは鷹耶・ミネア・ブライ。
そこで彼らは夢の記録を見せて貰ったのだが…
一通り目を通した鷹耶は、先に帰る‥と早々に教会を後にしてしまった。
じっくり検証したいブライとミネアを残し、クリフトも彼の後を追いかける。
「…待って下さい!」
まだぎくしゃくしてしまう身体を叱咤しながら走るクリフトが、随分前を歩く鷹耶に声を
かけた。
「クリフト…。‥大丈夫か?」
彼を待つよう立ち止まった鷹耶が、案じるように話しかける。
追いついたクリフトが乱れた呼吸を整えると、隣で様子を覗ってくる鷹耶へ視線を向けた。
「…鷹耶さんこそ‥大丈夫ですか?」
夢を見た後荒れまくった彼を知るクリフトが心配そうに訊ねる。
「‥ああ。もう‥あんな風には荒れねーから。安心しろ。」
ふわっと顔を綻ばせた鷹耶がクリフトの髪に手を伸ばした。
「‥本当ですか?」
尚も怪訝そうに確認してくるクリフト。鷹耶は彼の頭をくいっと引き寄せ囁いた。
「お前が昨晩呑んじまったからな。全部さ…。」
「‥‥‥!! た‥っ鷹耶さんっ!?」
離れる刹那耳朶を甘噛みしていった鷹耶に、かあっと頬を染め上げたクリフトが後退る。
ニッ‥と悪戯に笑んだ顔が、彼の意図するところを知らしめて、クリフトはあたふたと周
囲を見回した。誰も聞いてない事を確認し、安堵の息をつく。
「鷹耶さん…。もう、何言い出すんです、いきなり。」
「はは‥。なかなか敏感に返すじゃないか。昨晩はお前も結構…ぶっ‥は…」
機嫌よく笑う鷹耶の先の言葉を塞ぐよう、クリフトが彼の口に、持っていた手帳を押し付
けた。キッと目角を立てるクリフト。鷹耶は肩を竦めて返すと、悪かった‥と彼を促し歩
き出した。
「‥そういえばさ。さっきもそれ、出してたよな。」
クリフトが持つ手帳を指し、鷹耶が訊ねた。
「あ‥ええ。一応旅の役に立ちそうな事はメモするように心掛けているので‥。」
「ふ〜ん。見せて。」
言った時には、すでに手帳は彼の手の中にあった。
「…へえ‥。クリフトらしいな。丁寧にまとめてあるじゃん。」
パラパラとめくりながら、鷹耶が感心する。彼はイムルの夢についての記述があるページ
で、ふと指を止めた。
―――塔の鍵→不思議な笛の音?
「…笛かあ。笛‥‥‥笛?」
考え込むよう歩みを止めてしまった鷹耶が、思いついたよう顔を上げた。
「クリフト。確かさ、サントハイムで変わった笛を手に入れたって、言ってなかったか?」
「…あ。そういえば。ブライ様もトルネコさんにも解らないアイテムがあったような‥。」
「馬車に行けばあるかな?」
「ええ‥多分。」
馬車へ向かった2人は、そこで会ったトルネコのおかげであっさりとその笛を見つける事
が出来た。宿へ戻ると食堂で、その笛をじっくりと観察する。
「う〜ん…どう思う?」
「ええ‥。似てる…ような気もしますが。はっきりとは、解りませんね…」
「ま‥今夜もう一度夢で確認すれば解るか。」
「そうですね…。…鷹耶さん?」
話が一区切り着くと立ち上がった鷹耶に、クリフトが声をかけた。
「俺、先に風呂に行って来るよ。お前はどうする?」
「あ…私は後でいいです。」
食後は少しのんびりしていたいというクリフトに、笑んで返した鷹耶が食堂を後にした。
「クリフト〜!」
独りテーブルに残されたクリフトへ、奥のテーブルに陣取っていたマーニャ達女性陣が声
をかけて来た。食事の後頼んだらしいジョッキが並ぶテーブルに、手招きして呼ばれる。
「なんですか?」
クリフトが彼女達の席まで向かった。
「いいからいいから。座って。」
マーニャとアリーナの間に増やされた椅子に、強引につかされてしまった。
「あ‥あの…?」
理由も解らず彼女達を見回すクリフト。
「二日酔いの方はどう?」
「え…はあ。なんとか‥。今日はすっかりご迷惑をおかけしてしまいまして…」
マーニャの問いかけに、申し訳なさそうにクリフトが俯いた。
「あはは。気にする事ないわよ、クリフト。むしろ、あなたにはみんな感謝してるわ。」
アリーナが彼の背を叩くと、にこにこ笑った。
「感謝‥ですか?」
「ええそう。だってさ。昨日の鷹耶、不機嫌全開だったでしょ? クリフトですら寄せ付
けない程ピリピリしてたの、初めてじゃない。これは当分、雷警報解けないだろうって、
みんな諦めてたのよ。」
「そうそう。あいつってばギガデイン背負っちゃってさ。迷惑だったらありゃしない。」
マーニャが肩を竦めて大袈裟に嘆息ついた。
「それが今朝はすっかりいつもの鷹耶さんに戻ってらして。クリフトさん、流石ですわ。」
「本当。クリフトってば、すごいわ。」
「…いえ。そんな事…。」
「さあさあ、クリフトも飲んで。皆からの気持ちだから。」
ハイテンションなマーニャが、新たにテーブルへ届けられたジョッキを1つクリフトへ差
し出した。
「いえ…私はお酒は…。」
「いいじゃない1杯くらい。ね、クリフト。」
「‥姫様。…では、1杯だけ‥‥」
ほんのり頬を染めたアリーナにまで勧められ、クリフトはジョッキを傾けた。
「…なんだ。随分盛り上がってるんだな。」
風呂から上がった鷹耶が食堂に残っているクリフトを見つけ、彼女達の席までやって来た。
「あら〜鷹耶。あんたもやる?」
「‥いや。俺はいいよ。クリフト、例の笛は? まだ残るんなら、俺が預かって置くぜ。」
かなり酒が進んだ様子のマーニャに苦笑して答えると、鷹耶がクリフトに声をかけた。
「あ‥はい。」
まだジョッキに半分程残っていたクリフトが、とりあえず笛を彼に手渡した。
鷹耶は「あんまり飲み過ぎるなよ」とだけ言い、部屋へと戻って行った。
あっさり引き上げた鷹耶に、クリフトが小さく吐息をつく。
昨日までのイライラ感は感じられないが、なにかが気にかかっていた。
「鷹耶さん‥。」
部屋へ戻ると、ベッドに横になってぼんやりと天井を見つめる彼にクリフトが声をかけた。
「‥ああ。クリフト、お帰り。早かったな。」
上体を起こしながら鷹耶が笑んだ。
「…考え事、してたのですか?」
「…ん、ちょっとな‥」
遠慮がちに訊ねるクリフトに、鷹耶が微苦笑った。
「鷹耶さん‥なにか心配事でも?」
彼のベッド端に腰掛けたクリフトが、彼の様子を覗う。
「いや…そんなんじゃねーよ。」
「本当‥ですか?」
俯きがちな鷹耶の髪に触れながら、クリフトが更に問いかけた。
「なんだか俺が口説かれてるみたいだな‥。」
クスリ‥と笑った鷹耶が、彼の頬に手を沿え額をコツンと当てた。
「え‥そ…っん…」
真っ赤な顔で退こうとしたクリフトだったが、それより早く唇が重ねられてしまった。
「ん‥ふ‥‥‥」
「ごちそうさま。」
悪戯に絡んだ舌が出てゆくと、唇が解放された。
「鷹耶さん…」
頬を染め上げたクリフトが困惑顔を浮かべる。彼は数歩後退ると、風呂の用意をしてそそ
くさと部屋を出て行った。
「…なあクリフト。寝たか?」
それぞれのベッドで眠りについていた鷹耶が、ひっそりと声をかけた。
「‥いえ。」
「…そっち、行ってもいいか‥?」
「え‥でも…」
「大丈夫。今夜はなにもしねーよ。ただ‥‥」
鷹耶はそっと起きあがると彼のベッドへ移動した。
「人肌が恋しくてさ‥」
ベッドへ潜り込んだ鷹耶が、クリフトを背中から抱きしめる。
温もりを求めるような指先は、それ以外の意図がないように感じられ、クリフトはほうっ
と吐息をつくと、「おやすみなさい‥」と声をかけた。
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