翌朝。小鳥の囀りに誘われるよう、目を覚ましたクリフトは、1つベッドに半裸で寝て

いる自分と鷹耶に気づくと、驚いたように跳び起きた。

「…クリフト。まだ早いだろ? …もう少し寝てようぜ‥」

半分寝ぼけた声で、鷹耶が彼の腕を引いた。

「鷹耶さん…昨晩は‥‥‥」

「んー? …お前、もしかして覚えてねーの?」

肘をつき、頭をもたせかけた鷹耶が訝しむよう問いかける。

「…あの。‥全然って‥訳では…ないんですが‥‥‥」

しどろもどろに答えるクリフトが、ほんのり頬を染めた。

「ふ〜ん‥。昨晩はさ、お前の方から誘ってくれて、嬉しかったんだけどな。

 それも覚えてないんだ?」

「ほ‥本当ですかっ!?」

責めるような口ぶりに、クリフトは狼狽えながら、信じられない‥といった面持ちを彼に

向けた。

「本当。だから目一杯励もうかと思ってたのに。お前1ラウンド終えたら寝入っちゃって

さ。‥そーだ。どうせ早く起きたんなら、これから続きやろうかv」

名案!‥と上体を起こした鷹耶がウキウキと話す。

「な…。なに言ってるんですかっ! 朝っぱらから。」

きゅうっと抱きつき顔中にキスの雨を降らせる鷹耶に、クリフトが退避ぎつつ窘めた。

「…ダメ?」

「ダメです。」

強求る鷹耶に、きっぱりと答えるクリフト。

「…あの、本当に昨晩は、その…私から‥‥‥?」

彼の腕の中で、どうしても至った記憶が蘇らないクリフトが、途惑いがちに訊ねた。

「その辺は覚えてないんだ。お前、俺の居ない所では絶対飲むなよ?」

以前の話を持ち出しながら、鷹耶が念を押すようクリフトに言い付ける。

「…僕って‥酒癖悪いんですか…?」

「ある意味そうだな。知らない男にお持ち帰りされたくねーだろ?」

不安になったクリフトが訊ねると、彼の柔らかな髪を梳きながら、鷹耶が忠告した。

「お持ち帰り‥って☆ …しかも。どうしてそれが、男の人なんです?」

そんな物好きそうそう居るものではないだろう…と、クリフトが呆れ返る。

「だから。心配なんだろう? お前、バトランドでの件忘れてねーか?」

酔っ払いの男2人にナンパされたのは、ついこの間の事だ。

「…と、ゆー訳で。俺がちゃあんと相手してやるからさ。他の男なんて近づけるなよ?」

言いながら。鷹耶は徐にクリフトをベッドへ押し倒した。

「鷹耶さん‥?」

「今日はさ、どうせ戦闘ないんだし。な‥やろうぜ?」

艶を孕ませた声音で、鷹耶が彼を誘う。クリフトは頬に朱を走らせ、コクンと喉を鳴らし

た。

「…それとも、躯‥辛い?」

「少し‥重いですけど‥‥‥」

「もう1戦くらい、平気かなv」

「鷹耶さん…」

困惑気味に苦笑むクリフトが、観念したように嘆息した。     
苦笑む→えむ

口づけを受け止めると、口唇をなぞった舌先が入り口をノックしてくる。

滑り込んだ熱っぽい舌が、緩やかに口内を巡る。送り込まれる蜜を嚥下しながら、クリフ

トが鷹耶の頭を掻き抱いた。

「ふ…ゥん‥。はあ‥‥‥」

唇を離れ、首筋を降りてゆく舌先が、鎖骨に止まり赤い花びらを落とす。

そのまま胸の回りに幾つもの花弁を散らしていくと、クリフトの躯が小刻みに悸えた。







翌日。予定通りのメンバーで、女王への謁見を申し出ようと城へ赴いた一行は、多忙を理

由に断られ、街での情報収集を先に行う事に決めた。

町中を歩いていると、鷹耶の姿が意外と目を引くのか、年頃の女性の視線がやたらと集まっ

ていた。当然、そうなると彼の横に寄り添わされている女装したクリフトへも視線が集ま

る。その眼差しは、羨望や嫉み‥といったモノを孕んでる時もあって、ただでさえこの状

況にピリピリしているクリフトに突き刺さった。

「はあ…」

もう何度目か解らない溜め息をこぼすクリフト。

「‥ちょっと休憩入れるか?」

鷹耶が彼の肩を気遣うように寄せ、柔らかく声をかけた。

側で彼らの様子を窺っていた若い女性から、一瞬どよめきのようなモノが巻き起こる。

そんな様子さえ意に介さない鷹耶は、共に歩いていたアリーナとミネアに目線を送ると、

近くの喫茶へ向かった。



「あんまり有力な情報ってないわね…」

頼んだ飲み物がそれぞれ届くと、テーブルに頬杖ついたアリーナがぽつりとこぼした。

「そうね‥。

 やはり女王への謁見が適わないと、盾についてもどうする事も出来ませんしね…。」

「まあな。…にしても。どうにかならないかねえ、この環境。」

落ち着いた店内ではあったが、チラチラ向けられる視線に少々うんざり口調で鷹耶が嘆息

した。

「ふふふ‥。どこの町でも目を引かれてましたけど、ここ程あからさまではありませんで

 したものね。」

この状況を楽しむようにミネアが微笑んだ。

「‥まあ、俺はまだいいけどさ。こいつまでとばっちり食らうのはな…」

やや俯き加減に顔を固定したままいる女装中のクリフトに、鷹耶が視線を移す。

本人は目立ちたくないと思ってるはずだが、鷹耶の隣に居るせいで、しっかり視線を集め

てしまってる彼に、ちょっぴり申し訳なさを感じる。

「…クリス。お前、先に宿に戻ってるか?」

声をかけられたクリフトが、ふと彼へ視線を向けた。

「でも‥‥‥」

「随分疲れた顔してるわよ。情報収集だけなら、私達でもなんとかするし。

 謁見が適うまで、休んでて?」

アリーナも彼を気遣うように声をかけた。



結局。クリフトだけしばらく宿で休むコトが決まり、店を出た一行は、そのまま宿屋への

道を歩いていた。

バタン!

通りに面した家の扉が突如乱暴に開き、不審な動きを窺わせ、何者かが足早に立ち去った。

偶然それを目撃したのは、家の間近を通っていた鷹耶一行。

「…あの、どなたかいらっしゃいますか?」

揺ら揺らと揺らぐ扉に手をかけ、中の様子を窺うよう扉を開き、クリフトが遠慮がちに声

をかけた。

無音の室内に、躊躇しながらも、何事かと一行は足を踏み入れる。

荒らされた室内。

だが幸いにも怪我人などは見受けられなかった。

「単なる泥棒だったみたいね。」

「そうだな。」

やれやれ‥と肩を降ろすアリーナに、鷹耶が応える。

「とりあえず警備の者を呼んで‥」

言いかけたアリーナが、家の入り口に立ち尽くす女性を見て足を止めた。

「きゃー! 泥棒っ!!!」





「…はあ。やれやれだな‥。」

宿屋。長い尋問から解放されたパーティ一行は、人質として城の牢に残るコトとなったト

ルネコ以外のメンバーが、とりあえず昨夜泊まった宿へと戻って来ていた。

ミーティングは明朝‥という事にして、それぞれ昨日と同じ部屋へ落ち着いた。



部屋に戻ると、鷹耶はベッドにダイビングするよう沈み込んだ。

「‥ったく。誰が泥棒だって言うんだよ!? 思い込みの激しいシスターだよな、本当。」

「はあ…。そうですね。でも…本当に我々で犯人を見つけられるのでしょうか?」

女装を解きながら、クリフトが案じるように訊ねた。

「…まあ。なんとかするっきゃねーだろ?」

「…そうですね。…鷹耶さん、先にお風呂頂いて構いませんか?」

「ん‥ああ。そーだな。俺ちょっと下へ行って、食事ここで出来ないか聞いてくるな。

 その方がお前も気楽だろ?」

「ええ‥。ありがとうございます。」

クリフトはふんわり微笑うと、着替えを手に浴室へ向かった。



セルフサービスでなら‥という事で、鷹耶は2人分の夕食を盆に載せ、自室へと戻った。

その頃には、クリフトも入浴を終えたようで、自室の扉の開く音を聞くと、濡れた髪を拭

きながら、脱衣所から出て来た。

「よお。なんか丁度いいタイミングだったみたいだな。」

「鷹耶さんが運んで下さったのですか? ありがとうございます。」

「なんか適当に頼んじまったけど、よかったか?」

「ええ‥。」



ここへ到着して、初めての人目を気にしない食事だったおかげか、クリフトは普段通りの

食事を取る事が出来、満足そうに吐息をついた。

「ごちそうさまでした。」

「‥よかった。ちゃんと食べれたな。」

「鷹耶さん‥。心配‥して下さってたんですか?」

「そりゃ…。今日一日、まともに口にしてなかったろ? 昨夜も食が細かったし…」

「‥慣れない女装なんてさせられてましたからね?」

クリフトが微苦笑して答えた。

「そいつは済まなかったな。けど‥ここを出るまでは、クリスで居て貰うぜ?」

「はあ…。解ってます‥。不本意ですけど‥‥‥」

「ありがとな…」

鷹耶は素早く彼の額にキスを送ると、椅子から立ち上がり食器をまとめ始めた。

「とりあえずこいつ返して来るわ。ついでに何か飲み物貰ってくるか?」

「あ‥それじゃ、紅茶かなにか。暖かい物お願いしていいですか?」

「了解。じゃ‥待っててくれな。」

ウインクを贈る鷹耶に、思わず頬が朱に染まるクリフト。

今日一日、何かと自分を気遣ってくれていた彼がどこかで嬉しいクリフトだった。



しばらくして。

リクエスト通りの紅茶と彼用らしい冷たい飲み物を手に、鷹耶が戻って来た。

「んじゃ‥俺風呂行って来るから、お前はのんびりしてろよ。」

盆をサイドテーブルに置き、鷹耶はそう彼に声をかけると、今度は自分が浴室へと

向かった。

クリフトはそんな彼を見送ると、暖かな湯気を立てるティーポットを手に取り、暖められ

たカップに注ぎ入れる。ほんわり薫る優しい匂い。角砂糖を1つ落とすと、ゆっくりと

スプーンをかき回し、口元へと運んだ。

「美味しい‥」

聞こえて来たシャワー音が、不思議に安らいだメロディへと変換される。

クリフトは窓の外の暗い景色へ目をやりながら、落ち着かなかった一日を思い起こして

いた。

女装そのものに対する違和感。それなのに、注がれる瞳の多さは半端でなく…

しかも。その中にはあからさまな刺も含まれていたコトは、普段そういったコトに鈍い

クリフトにも痛烈に感じさせた。



「…クリフト。どうした、ぼんやりして?」

「鷹耶さん…」

いつのまに風呂から上がったのか、鷹耶が彼のすぐ横に立っていた。

「いえ…別に。‥ただ‥今日のコト、少し考えていただけです。」

鷹耶はポンと彼の頭に手を置くと、レモネードの入ったデカンタを取り、グラスへ注ぐと

一気に煽った。

そのまま自分のベッドへ彼と対面になるよう腰掛ける。

「明日の聞き込み‥お前が負担なら、一日宿にいても構わねーぜ?」

「鷹耶さん。でもそれじゃ‥あんまり‥‥」

「別に何もしなくていい‥って言ってるんじゃねーよ。

 宿に残って皆からの情報を纏める役目を負う人間だって必要だろ?」

「そういう事でしたら‥。でも‥いいんですか?」

「お前にぴったりな役目だと思うけど?

 今回はさ。怪しい奴の情報集めて、そいつを見つけださなくちゃなんねーだろ?

 そういうのの整理って、お前得意そうじゃん。」

「ありがとうございます。がんばります。トルネコさんの為にも…!」

クリフトがようやく得心したよう微笑んだ。

「ああ‥。でも、無理はするなよ?」

「はい…」

素直に答えるクリフトの頬に鷹耶は手を伸ばすと、そのまま彼の髪を梳いた。

「鷹耶‥さん…?」

間近に迫る彼の顔を見つめるクリフト。艶めいた瞳に魅入られるよう瞼を綴じると、

そっと唇が重なった。

「ん…っあ‥。」

深くなる接吻に合わせて、彼の手が服の上からクリフトの胸元を弄った。

「な‥いいか…?」

探るような動きをさせながら、口づけの合間に鷹耶が色っぽく囁きかける。

「‥んっ‥ふ‥‥ぁ‥ん…」

そのままゆっくりと体重を乗せてくる鷹耶に、熱っぽい吐息を交ぜたクリフトが応える

よう、彼の頬にかかった緑の髪をそっと掻き上げた。

「鷹‥耶さん…」

クリフトは彼の両頬を捉えると、顔を寄せ鷹耶の頬に口づけた。

「クリフト‥‥」

珍しい彼からの行動に、鷹耶が一瞬目元を染める。

愛おしげに唇を重ねさせると、鷹耶は着ていた服を脱ぎ捨て、彼の上着にも手をかけた。

導かれるまま上着を脱がされたクリフトは、そのままベッドに横たえると、重なってくる

鷹耶の身体に両腕を回し、その背を抱いた。

「‥紅茶で酔ったなんて言うなよ…?」

積極的に応じてくれる彼に、鷹耶が微苦笑してみせる。

「ふふ…そうかも知れませんね。」

微笑いながら、クリフトは彼に口づけを強求った。



――昼間。女性達からの熱い視線を浴びまくっていた鷹耶。



それがクリフトをいつになく熱くさせる要因となっていたのだが…

いつもより熱く感じる肌の触れ合いに夢中になった2人はそれに気づいてはいなかった。




2004/9/14


あとがき

なんだかすっかり出来上がってる2人ですねえ・・(^^;
この女装の話は、当初ギャグ中心に展開させようと目論んでいたんですが。
見事に裏切られてしまいました・・・
まあ一応、今回の目的であった、お口での初体験(何言ってるんだか☆)は
済ませるコトが出来たので、ヨシとしましょう(^^
もうちょいキチクにいじめて泣かせてみたかったんですけどね。
どうも鷹耶はクリフトに甘いです(^^;←あれでも。

クリフトがどんな女装をしていたか。
いずれ機会があれば、イラストででも、公表してみようかと思いますが。
細かい部分は個々でイメージしてくれてもいいかな・・とか考えてますv
髪はリボンをヘアバンド風に飾って、女っぽくみせたのかな(^^

でわでわ。ここまでお付き合い下さった方、ありがとうございました!

by月の虹






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