その6
帰りの道中。二人は無言のまま並んで歩いていた。時折クリフトは、そっと鷹耶の顔を
覗き見ては、その度にぽうっと熱を帯びる左手の先の感触に囚われていた。
―――イヤじゃないんだ。
触れられる事が。寧ろ‥‥
クリフトは戻って来た部屋の前で足を止めた。鷹耶が鍵を回し扉を開く。
キイ‥。静かに開かれた扉は、洞窟の入口に立った時のような緊張感を走らせた。
「…どうした、クリフト?」
宿の廊下に立ち尽くす彼を鷹耶は訝しげに見ると、声をかけた。
「…あ、いえ‥‥。」
覚悟を決めたように部屋へと足を踏み入れるクリフト。
ぱたん‥。扉が閉まると、更に心拍数が上昇して行くのが自覚出来た。
小さな明かりが灯る部屋は、ベッドサイドを柔らかく照らしている。
鷹耶は装備品を外すと、部屋の奥にあるベッドの端に腰掛けた。
「クリフト。お前も来いよ。」
柔らかな声音が彼を招くよう呼ぶ。クリフトはのろのろと歩き出した。
「…鷹耶さん‥。」
彼の前に立ったクリフトが惑いを見せる。彼は鷹耶に促されるまま隣に腰掛けた。
鷹耶は待っていたようにクリフトの両肩を掴むと、そのまま組み敷いた。
呆気なく倒されてしまった上体を、起こす気配ないまま、じっと彼を見つめるクリフト。
「…俺は、お前が抱きたい。…今夜は抑えが利きそうもねーからな。…駄目‥か?」
「鷹耶‥さん…」
熱っぽく訊ねられ、クリフトが頬を朱に染める。困惑の色が、身体の奥で燻っていた熱を
受け、変化を始めた。
「…嫌じゃ‥ないです。きっと‥‥」
クリフトはクスリ‥と微笑むと、鷹耶の顔に手を添え引き寄せた。そっと重ねられる唇。
誘うように薄く開かれた扉から舌を差し入れると、クリフトがそれを絡めて来る。蜜を
求めるよう吸い付かせ、貪るクリフト。鷹耶はじっくりとその感触を味わいながら、シャ
ツのボタンを器用に外して行った。
「…んっ。ふう‥‥ん‥っ。は…。んん…」
「ここ…固くなってるな‥。」
鷹耶がシャツの合わせから忍ばせた手で、彼の胸のツンと尖った部分を撫ぜ回した。
「あ‥‥や…っ。」
「ふふ‥。敏感になってるみたいだな。…可愛いよ。」
「んっ‥‥は‥ぁ。は…。鷹‥耶さ‥‥メ…。」
胸の突起を口に含まれると、ぞろりと舌で転がされた。湿った音が羞恥心を煽る。
「あ…はあ‥はあ‥。」
交互に突起を弄くられたクリフトが熱っぽく吐息を漏らす。指先が下腹部をなぞって行
くと、舌先がその軌跡を追った。短い嬌声が徐々に艶を孕んでゆく。
「あ…はあっ‥! んっ‥。」
いつのまに剥ぎ取られていたのか。不意に一番熱を帯びていた箇所にダイレクトな快感
が走った。鷹耶がやんわり握り込んだのだ。クリフトは背中をのけ反らせると、焦れるよ
うに身動いだ。
「先に‥一度達っとくか‥?」
彼の昂ぶりをやわやわと扱きながら、色を含んだ声音で鷹耶が訊ねる。返事も待たず追い
上げにかかる鷹耶に、すっかり翻弄されてしまうクリフト。
「あっ‥あっ…。やあ…んっ…はあ‥ああっ‥。」
導かれるまま弾けさせたクリフトが、胸を大きく上下させる。解放感に微睡むように
身体を投げ出すと、視界に鷹耶が映っていた。彼はゆっくりと上着を脱ぎ捨てると、
すっかり着崩れているクリフトの服も取り去った。
「‥ちょっと待ってろ。」
鷹耶はクリフトに軽くキスを贈ると、ベッドから降りた。
彼はそのまま机の椅子にかけてあったポシェットから、なにやら取り出し戻って来た。
「あの…?」
戻って来た鷹耶を不思議そうに窺うクリフト。鷹耶は意味ありげに口の端を上げると、
唇を重ねさせた。そのまま体重を乗せ組み敷いてゆく。歯列をなぞり入口を開けさせると、
そっと舌を忍ばせた。
「ん…んんっ‥。ふ‥‥」
ねっとりと口内を巡らせると、ソレは口腔を隈無く這い回った。甘い余韻が残る身体は、
そんな刺激を心地よく受け入れてしまう。クリフトは両腕を彼の背中に回し引き寄せた。
「…んふ‥。はあ‥」
名残惜しさを残し離れた唇は、耳元から首筋へとキスを落として行った。唇は鎖骨を滑
り、花びらを散らしてゆく。きつく吸い上げると、身体がぴくんと悸えた。
鷹耶はピンクの突起を避けるよう、周辺に花びらを散らしながら、脇腹から下腹部へ指
を滑らせた。這うような動きのそれは、足の付け根から内股へ辿り着いた。さわさわと周
囲を撫ぜ摩る鷹耶。クリフトはびくびくと身体を震わせた。
「あ‥ん…。鷹‥耶さん…。」
焦れるような愛撫に、甘くねだる声が零れる。
鷹耶は先程取って来た容器を取り出すと蓋を開け、たっぷりと指で掬った。
指先に馴染ませるよう小さく指を擦り合わせる。彼はクリフトの足を大きく開かせると、
その指を蕾に宛てがった。
「あ…ん‥んんっ‥‥」
ゆっくりと忍び込んでくる感触に、クリフトは眉根を寄せた。圧迫感はあるものの、
いつもよりすんなり侵入を果たした指先は、内壁を解すように蠢き始める。
「あ‥はあ…はあ‥。ん…」
増やされた指が好き勝手に蠢き、湿った音を立てながら出入りを繰り返す。
一番敏感な場所を避け、解されて行った内壁は、熱く脈打ち始めていた。
「…クリフト。‥いいか?」
鷹耶は彼の耳元で小さく訊ねた。甘い囁きはもどかしげに響き、彼を煽った。
コクリ‥と小さく頷くと、彼は鷹耶の背に腕を回した。
それを了解と取った鷹耶が、彼の秘所から指を抜き自身を宛てがう。
その熱い感触に、一瞬びくりと反応したクリフトが、不安そうに鷹耶を見つめた。
「…怖いか?」
「‥ええ。…でも‥大丈夫ですから。」
「‥なるべく負担かけないよう、気をつけるな。」
不安な瞳で微笑んで返すクリフトに、鷹耶が優しく声をかけた。
「…んっ。く‥‥」
指とは質量の違うソレが齎す圧迫感に、クリフトが苦しげに顔を顰めさせる。鷹耶は意
識を反らせようと、彼自身をそっと握り込んだ。やんわりと扱き、先端の蜜を指先で塗り
込める。鷹耶の手をすっかり覚えこんでしまったソレは、与えられる快楽を瞬く間に追い
かけてしまう。彼が緊張を緩めた隙を見量って、鷹耶はゆっくりと自身を沈めて行った。
「あ…っん‥く…。ふ‥‥」
「キツイか‥?」
自身への刺激より、後孔の苦しさが勝る様子で、汗ばむクリフト。彼を労るように声をか
ける鷹耶だったが、その響きは熱っぽくもあった。
「苦し…けど‥‥んっ…はあっ。あ‥んっ‥‥」
ゆっくりと押し入って来るソレが、ゆるゆると敏感な部分を擦り上げた。艶を帯びた声に
応えるよう、鷹耶がそこを重点的に責め上げる。
「あ‥はあ‥は‥っん…。あ…僕もう‥‥」
先程追い上げられてた自身が、新たな刺激に追い詰められたように極みを求める。
「あ…はあっ‥。」
鷹耶の手に弾けさせたクリフトは、大きく息を吐くと身体を弛緩した。
「クス‥元気だな…。」
にんまりと笑んで見せる鷹耶。彼は手に残る欲望の証をぺろりと舐めとった。
「…! た‥鷹耶さん…。…汚いですよ‥?」
「別に。お前のだからな。…それより。俺もそろそろ‥お前の中で出したい。」
上体をクリフトに重ねるよう寝かせた鷹耶が囁いた。熱い声音が耳元をくすぐる。
「あっ‥ふ…うんっ‥‥」
それまでじっとさせてた、彼を穿つソレが、再び存在を主張させるよう蠢いた。そろそろ
とギリギリまで引き抜かれ、再び沈み込んで来る。始めは慎重だったその動きも、次第に
リズムを上げて来た。潤滑剤の効果も手伝い、滑りがよくなってる内部から、湿った音が
漏れる。
「あっ‥ん‥。は…っ。はあ‥‥」
短い嬌声がより艶めきを増し零れてゆく。苦しげだった表情が和らぐのを見ながら、鷹
耶が律動を速めさせた。
「すげ…熱い‥よ…。マジ‥嵌まりそう‥‥」
「…僕は‥思っていた以上に…んっ‥苦し‥い‥です…」
「ふふ…。でも‥もうそれだけじゃないみたいだぜ?」
鷹耶は下腹に当たる屹立した彼の感触を確かめるよう、身体を沈ませて来た。
屹立したソレが彼の下腹部で擦られる。
「あっ…ん‥」
「どうせなら‥一緒に達こうぜ。」
キスを掠め取った後、鷹耶は上体を起こすと彼自身を握り込んだ。
「あっ‥あっ…。ん‥‥鷹‥耶…さん…っ。」
「く‥っ。クリフト…!」
「あ…はあ‥はあ‥‥。」
「ふう…。すげ…良かったぜ‥。」
ほぼ同時に達した二人は、ぐったりと身体を横たわらせた。クリフトの身体を傷つけない
よう、かなり自制を強いられたらしい鷹耶が、満足気に笑みを浮かべる。
クリフトはそんな彼の表情を満ち足りた思いで見つめていた。彼の和らいだ表情が、
ここ数日付きまとっていた心細さを取り払ってくれるようだった。
「…なあ、クリフト。」
ややあって。息を整えた鷹耶がクリフトの側に顔を寄せ、ねだるよう囁いた。
「‥もう一回‥いい…?」
「ええっ?!」
「だって俺…もっとお前の中、味わいたい。」
甘ったるくねだる鷹耶。けれどクリフトの体力はもう限界で‥
「も‥もう、勘弁して下さい。流石にこれ以上は‥持ちません、僕…。」
「ええっ? もう限界? お前体力ないなあ…。」
切実に訴えるクリフトに、がっかり顔で鷹耶が零した。
「…まあいいや。これからゆっくり慣れて行けば。」
「え‥? 慣れるまでやるんですか‥?」
「何言ってんだ? 基本だろ。お互い寂しい夜とはおさらばしよーぜ?」
「鷹耶さん…。え‥? 鷹耶さん? なに‥を…んっ‥」
明るく笑んだ鷹耶が上体を起こすと、不意にあらぬ所に指が差し入れられた。
途惑う彼に構わず奥へと入り込んで来る指。クリフトはかあっと頬を赤らめ、苦い顔で
鷹耶を睨みつけた。
「何‥って後始末。つい中で出しちまったからな。」
けろりと言いながら。鷹耶は彼を俯せに返した。
「あ‥。鷹‥耶さん…。やめ…」
「ちゃんと掻き出して置かないと、明日辛いぜ?」
自分が放ったモノを秘所から掻き出しながら鷹耶が説明をする。
「…でも。‥ん‥‥」
「感じちゃうか?」
愉しそうに鷹耶がにやけた。
「大丈夫。その気になっちまったら、俺が責任取るからさ。」
抗議の瞳を向けるクリフトに、一層愉げな鷹耶が笑いかける。彼はそのままクリフトの
上体を起こすと、後ろ抱きのまま蕾を開かせて来た。
「鷹‥耶さん…。本当にそれ‥必要なんですか…?
‥‥すごく、いたたまれないんですけど…?」
払い退ける力も残っていないクリフトが、赤い顔を歪ませた。
「…なんか。そんな表情されちゃうと、堪らなくなりそうだな‥。」
「え‥な…? んんっ…。鷹‥‥」
切なげな声音が耳元に届くと、クリフトは強引に顔を横向かされ唇を塞がれた。
「んん…や‥駄目です‥ってばぁ…。」
別の意図で蠢き出した指先に、どうにか身を捩って抵抗を示すクリフト。彼はなんとか逃
れると、鷹耶と身体を向き合わせた。ふと視線が一点に釘付けとなる。
「…鷹耶さん。それ‥‥‥」
「はは‥。やっぱまだ物足りねーらしいわ。」
屹立したソレをクリフトは複雑そうに見つめた。確かに鷹耶の言う通りかも知れない。
自分はもう、御馳走様‥な心境であったが。タフそうな彼には全然足らないのであろう。
「…あの。僕はもう、本当に限界なんで‥。…でも、手でなら‥その‥‥」
「付き合ってくれるか‥?」
真っ赤な顔で妥協案を提示するクリフトに、嬉しそうな瞳で問いかける。
クリフトは小さく頷くと、彼に促されるまま膝の上に跨がった。
「…今度は悪戯しねーから。」
先程の続きを再開させる鷹耶。クリフトはコクリと頷くと、彼のモノを両手で握り込ん
だ。なるべく神経を手先に集中させるよう、彼を握り込む。まだ拙い動きではあったが、
彼のやり方を思い返しながら、懸命に動かしていくと質量が増加した。
「く…。ん‥‥っ。」
「すごい…不思議‥。」
「何が…?」
「僕‥下手じゃありません?」
自分の不慣れさを知るクリフトが、その手に反応してくれる鷹耶に訊ねた。
「ど‥して…?」
「だって…。白状しちゃいますけど‥僕、鷹耶さんに触れられてから、一度も自分で
した事ないんです…。」
掠れた声で聞き返す鷹耶の胸に顔を埋めさせたクリフトが、ぽつぽつと口にした。
「…俺の手、良かった?」
「…すごく。」
嬉しそうな声音に正直な感想を伝えるクリフト。
鷹耶は破顔させると、ぎゅうっと彼を抱きしめた。
「鷹耶さん‥?」
「お前やっぱ可愛いや。な‥このまま達っていいか?」
彼の手に自分の手を添えると、甘くねだった。
甘やかな夜はこうして緩やかに更けて行った‥‥。
「…ん。重い‥‥あれ?」
翌朝。一つベッドで目覚めたクリフトは、俯せに眠る鷹耶の腕の重みから逃れると、
二人とも上半身裸のままで居る事に、怪訝な表情を浮かべた。
「あ…。」
昨夜の出来事がどっと脳裏に浮かび上がる。クリフトはかあっと頬を朱に染めた。
「‥よお。おはようクリフト。」
気配に気づき目を覚ました鷹耶が、顔だけ横向かせると声をかけて来た。
「おはよう‥ございます。あの‥‥」
「身体、大丈夫か?」
掛ける言葉が浮かばない様子のクリフトに、笑んで返した鷹耶は上体を起こすと、
気遣うように問いかけた。
「え‥あ。…大丈夫‥だと思いますけど。」
「一応身体は拭いたけど、折角宿に居るんだから、風呂でも行くか?」
ベッドから出た鷹耶が、半身を起こしぼーっとしている彼に声をかける。
「あ…はい。…え‥‥?」
促されベッドから出ようとしたクリフトだったが。
そのままずしゃり‥と床に座り込んでしまった。
「やっぱり‥駄目そうだな。」
鷹耶は苦笑すると、彼を抱き上げベッドに戻した。
「‥‥鷹耶さん。なんで‥『やっぱり』なんです…?」
忌ま忌ましげな表情でクリフトが彼を睨む。
「…すっごく、身体が‥痛いんですけど‥?」
「普段使わない筋肉使ったからな。傷はないと思うけど。」
「ど‥どうするんですか? これじゃ‥歩けませんよ?」
「しばらく休めば大丈夫だと思うぜ? どうせ今日はここで情報収集だろ。
寝てりゃいいじゃん。皆には熱出したとでも言っておくさ。」
「鷹耶さん…。」
あっけらかんと言う鷹耶に、苦い顔を見せるクリフト。
「すぐ慣れるさ。」
「…! 慣れる必要ありません。次はありませんから。」
きっぱりとクリフトが言い切った。
「ええ〜? つれない事言うなよ、クリフト。」
「駄目です。だって‥これじゃ戦えないじゃありませんか!」
キッと睨みつけると、クリフトはそのまま布団を被り横になってしまった。
「皆さんには、鷹耶さんが責任持って伝えて下さいね! 変な理由付けずに!」
「は〜い。上手に言って置きます。他にご要望はありますか?」
「…独りにしといて下さい。」
妙に愉しげな鷹耶の口調に、すっかり疲れた様子でクリフトが話した。
一度走った身体の痛みは、時間と共にしんどさを増していくようで‥。
クリフトは閉じた瞳の奥で、痛む箇所の気恥ずかしさを痛烈に味わっていた。
「もう絶対、挿れさせないぞ!」
独り残された部屋の中。決意を込めるクリフト。
その日一日ご機嫌だった鷹耶が、そんな彼の決意など、容易に蹴り飛ばすだけだと言う
事を、すっかり忘れているクリフトだった。
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