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「…そんなに怒るなよ。なあってば‥。」
黙々と着替えるクリフトに、甘えるように鷹耶が擦り寄る。
「…ちっとも分かってないんだから。」
彼を無視して、先に身支度を整え終えたクリフトは、上着を着込んでいる鷹耶を冷やや
かに見据えると、ぼそりと呟いた。
刺を含んだ声色に、鷹耶の手が止まる。Tシャツを潜らせた彼が頭を出すと、不思議そ
うにクリフトをみつめた。なんとなく、いつものクリフトとは様子が違う。怒ってる‥と
いうより、これは‥‥
「‥なあ。もしかして…煮詰まってる?」
「‥‥‥!」
鷹耶の言葉にクリフトがかあっと頬を染め上げた。
「そうですよ。だから早くゆっくりあなたと過ごしたくて…。なのに‥っ‥」
真っ赤な顔で情に潤む瞳を伏せさせ、クリフトが吐露する。
「…ごめんな。もう待たせないから、2人きりになれる場所、行こうぜ。」
クリフトをぎゅうっと抱きしめた鷹耶が、宥めるよう囁いた。
「…どこへ行くんですか?」
宿を出ると、鷹耶はクリフトを誘い、大通りを早足で通り抜け、町の外れに広がる林を
ざくざくと突き進んでいた。どこへ向かうつもりか読めないクリフトが問いかけるが、
「もう少し」と同じ台詞が返って来るだけ。
やがて。町の境界である壁が見えて来ると、遠見の台の元、小さな小屋へ辿り着いた。
「ここは…」
「見張り台の休憩小屋かな。前に来た時見つけた。」
言いながら。鷹耶は小屋の戸を開いた。
こじんまりした小屋の中は、隅に机と椅子が置かれている他なにもなかった。鷹耶は机
の上にあった短くなったろうそくに火を灯すと、戸口に立つクリフトを招いた。
「ここなら誰も来ないぜ。なんもない場所だしな…」
「そう‥ですけど。勝手に入っては…」
「使われてもいねーみたいだぞ。それとも…宿の方がいい?」
あそこならベッドもあるし‥と鷹耶が付け足し笑った。
クリフトは慌てて首を横に振ると、そっと鷹耶の側に歩み寄った。
距離を縮めた2人は、どちらからともなく口づけを交わす。高まる熱の赴くまま重ねた
唇は、角度を変え深く混じり合い、濡れた音が小屋を満たした。
「…クリフト、ちょっとだけ待ってくれな。」
情熱的な接吻ですでに息を弾ませているクリフトに、すまなそうに鷹耶が声をかけた。足
元をふらつかせるクリフトを椅子へ座らせ、ちゃっかり宿から失敬してきたシーツを木の
床に敷き詰める。四つん這いで作業を行っていた鷹耶に、クリフトが背中から抱きついた。
「…鷹耶‥」
甘く囁いたクリフトが、そのまま体重を乗せ鷹耶を組み敷いた。
シーツの海の上で、仰向けに横たわる鷹耶を押し倒した形でクリフトが彼の上に覆い被
さる。
「珍しく積極的なんだな‥。」
クスリ‥と鷹耶が笑みを浮かべる。そんな彼に笑んで返したクリフトが、ふっと顔を近づ
けた。
「散々焦らされましたから…」
内緒話のように密やかに囁く。耳元をくすぐるような甘やかな吐息に口角を上げた鷹耶が、
覆い被さる彼の腰を抱き引き寄せた。
「う‥ん…。」
しっとり重なった唇が深く交わり、お互いの熱を交換しあう。
もどかしげに服を脱ぎ捨てると、互いの肌を確かめるように触れ合った。
「‥鷹‥耶…。」
愛おしむような仕草で彼の背に腕を回したクリフトに、鷹耶が応え、口づける。
そのままそっと彼を横たえると、鷹耶は淡く色づく果実をきゅっと捉えた。
甘い吐息がこぼれるのを合図に、悪戯な指先が敏感な場所を狙いすまし滑ってゆく。
指先は奥まった蕾へ真っすぐ到達し、入り口でゆっくり弧を描いた。
「はっ…。ん‥‥‥」
焦れるように腰をゆらめかせるクリフトに、鷹耶が耳朶を食み囁きかける。
「ごめんな‥俺も余裕なくてさ。」
濡れた声でそう断ると、彼は秘所にジェルを塗り込めた。
慎重に入り込んだ指が内壁を解すよう蠢き回る。少し性急な動きではあったが、今夜は
鷹耶だけでなく、クリフトにも余裕がなかったので、それすらもどかしく思えた。
「は‥ぁ‥。た‥かや…も、いいです‥からっ…」
ぎゅう‥と彼の背に回した腕に力を込め、クリフトが懇願した。
「大‥丈夫です、から…早く‥‥」
「‥そんなに煽ってくれるなよ。」
熱っぽく潤んだ瞳で急かすクリフトに、鷹耶が苦く微笑うとあっさり指を引き抜いた。
「あっ‥ぅん…。ふあ‥‥‥」
待ち望んだ熱塊に、クリフトは喉を反らせその衝撃を受け止めた。前言通りに余裕なく奥
まで入り込んだ侵入者は、ほんの少しの間をとっただけで、活動を始めた。
「あっ‥。はあ‥はあ‥。ふ‥‥‥」
「…ツライか?」
眉根を寄せたクリフトに、鷹耶が気遣うよう声をかけた。
「だ‥大丈夫です。鷹‥耶‥‥」
口づけを強求られ、鷹耶がそれに応える。湿った音をたて重なった唇は深く交わり熱い蜜
を交わし合う。睦み合う内、深く浅く穿つ接合からも湿った音がこぼれ始めた。
「あ‥ああっ‥‥!」
クリフトが蟠った熱を放出すると、それを追うように、鷹耶も弾けさせた。
お互い息を弾ませながら、そのまま脱力する。
「…鷹耶‥」
乱れた呼吸が落ち着くと、クリフトが愛おしむ仕草で彼の髪を梳いた。
「‥なんか、いいな。」
鷹耶が満足そうに笑み、甘えるよう彼の胸元に乗っかる頭を擦り寄せた。
「愛されてる‥って感じv」
「愛してますよ。‥そう言ったでしょう?」
クス‥っと微笑いながら、髪を滑らせた手を汗ばむ彼の背へと辿らせた。隆起した肩甲骨
をなぞる指がくるんと弧を描く。悪戯っぽい動作に、鷹耶が目を細め破顔した。
「俺も‥愛してるよ。怖いくらいにな‥」
「怖い‥?」
鷹耶の言葉に不思議そうに首を傾げ、クリフトが返す。
「ああ‥。満たされ過ぎてるからな…」
つい不安になるらしい…そう呟くと、ゆっくり躰を起こし、首筋に顔を埋めた。
「今度はゆっくり愛しあおうぜ‥」
そう囁き、鷹耶は愛撫を再開した。
『不安になる』――その言葉の意味は、今のクリフトには理解出来なかった。
愛する者を失う…それは二度と味わいたくない、傷み。
[得る]という事は、[失う]に通じてるから――
安らぎの中芽生えた不安を消すように、その晩鷹耶はクリフトを求め続けた。
2005/8/18
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