その2
「…は…ぁっ‥なに…?」
突然の電撃が走ったような感覚に、途惑うクリフト。
「見つけた。ココ‥だな。」
「は…んっ‥は…。や‥。な…? …なん‥で…?」
嬉しそうに言った後、執拗にソコを刺激してくる鷹耶に、痺れるような疼きがどっと込み
上げて来る。ダイレクトに腰にくる疼きが‥。それが信じられなくて、クリフトは泣きそ
うな瞳で眉根を寄せた。
「や…ど‥して…?」
「イイ‥だろう? ‥こっちもすっかり元気だ。」
言いながら、張り詰めていた彼自身を握り込むと、やわやわと扱き出した。
「あ‥ん…ああっ‥!」
抗いようのない快楽に引き込まれてしまう場所を同時に責められ、深い靄の中に意識が飛
ぶ。昇り詰めて行くような感覚に、クリフトはぎゅっとシーツを握り締めた。
「あ…ああ‥。はあ…は‥あ…んんっ!」
ずるり…と達した彼から指を抜くと、鷹耶はまだ荒く息をする彼にそっと口づけた。
「…悪くなかっただろ?」
「…はあ‥はあ‥。…なんで‥。どうして‥こんな…?」
ようやく靄の中から帰って来た彼が、未だ信じられない‥といった表情で零した。
「‥男なら当たり前…なんだとさ。」
「え…?」
「後ろにもな、あるんだよ。泣き所がさ。」
「そんな…。」
「なんなら‥もう一度確かめて見るか?」
にやり‥と人の悪そうな笑みを浮かべる鷹耶。クリフトは慌てて頭を振った。
「も‥もういいです。明日戦えなくなりますよ。」
真面目顔で言う彼に小さく笑んで返すと、鷹耶は身体を起こした。
「身体‥拭いてやるからさ。そしたら休もうぜ?」
「え…。それくらい自分で…あ。そういえば。…あの、鷹耶さんは…?」
半身を起こした後、ふと前回同様今回も自分が達しただけ‥というコトに疑問を持ったク
リフト。彼は視線をそちらへ向けながら訊ねた。
「俺‥? 俺がどう…。あ、ああ。コレか。お前色っぽかったからなあ‥。」
「な‥なんですか、それ? ん…はっ。」
「そういう表情とかさ。」
唇を奪った後、しまりのない笑顔で言い切った。
「…もう。‥‥あの。上手く出来ないと思いますけど…あの‥。僕が…鷹耶さんみたい
に…あの‥‥‥。僕ばっかりなのって…不公平だし‥その‥‥‥」
「え…。」
真っ赤になって言い淀むクリフトに、言わんとする事を察した鷹耶が目元を染めた。
「…別に。無理しなくていいぜ? …嫌‥だろう?」
「あ…。えっと…。…それは‥判らないですけど。
でも…一方的なままの方がもっと嫌なんで…。だから‥その‥‥‥」
「‥‥‥‥。じゃ‥頼もうかな。」
変な所で律義なクリフトの申し出に、しばし逡巡した後、鷹耶は答えた。
(う…。やっぱりなんか…怖いかも‥‥‥‥)
ベッド端に浅く腰掛けた鷹耶がスタンバイ状態になってたソレを取り出すと、その前に
膝立ちになったクリフトが、早くも後悔するかのように心持ち退け反った。
「別に止めても構わないんだぜ? 貸しは後でたんまり返して貰うからさ。」
楽しそうに鷹耶が笑った。
「‥で‥出来ます…! だから‥これで貸し借りなしですからね?」
「ああ。」
元々‥貸し借りの問題とは思えないのだが、クリフト程の律義さを持たない彼は、その
辺敢えて追求する事はなかった。何と言っても嬉しい申し出、断ったら勿体ないではない
か。この状況をすっかり楽しむつもりで、ご機嫌な様子の彼はクリフトを窺っていた。
ごっくん‥。覚悟を決めたように、クリフトはソレに手を伸ばした。
「あ…。」
「…ん? どうした…?」
「あ‥いえ。なんでも‥ないです…。」
…大きさも形も違う。見た時から思ったが、実際触れて見た時に自分のとあまりに違う感
触に、思わず声を出してしまったが‥まさかそのまま感想を口に出来る訳もなく、口ごもっ
てしまった。
とりあえず。自分がしているように扱きあげてみる。すると‥それに応えるかのように、
熱量が増した。
(うわ‥。生き物みたいだな…。)
「ふうん。クリフトっていつもそうやってんのか‥?」
頭上から、少し息を詰めたような静かな声音が届いた。
「え‥? あ‥えっと‥‥‥」
「ん…! 丁寧に扱ってくれよ…。」
慌てたクリフトに力を込められてしまった彼が、絞るように言った。
「あ…。すみません。鷹耶さんが変な事言うから…。」
「俺のせい‥かよ…。」
(…ふうん。鷹耶さんて‥こんな表情もするんだ…。)
乱れそうな息を押し込めているような、少し苦しげな横顔。ほんのり上気してるようにも
見える。
(…ちょっと面白いかも。)
興が乗った様子で、クリフトはせっせと彼を追い上げにかかる。
「…ん。は‥‥‥」
時折小さく漏れる声。鷹耶がしていたように、動きに変化をつけて見ると、面白いよう
に反応が見られた。
実際その動きはぎこちなくあったのだが、懸命なクリフトに鷹耶が平静を保てる訳もな
く、しっかり追い上げられてしまった。
「く…。クリフト、離せ‥。もう…限界‥‥」
「え…。あ‥。」
咄嗟に側にあったタオルをあてた鷹耶。次の瞬間には放っていた。
「はあ…。‥大丈夫だったか、クリフト?」
「あ‥はい。」
「…水、汲んであるからさ。とりあえず身体拭こうぜ。」
結局。乱れたベッドを直すのも面倒‥という事で、その後二人はクリフトの部屋へと移っ
た。服を身につけ人心地着いたクリフトは、既に半分夢の人だったので、鷹耶に連れられ
自分のベッドに潜り込んだ時には、既に寝息が始まっていた。
「…ごめんな、クリフト。」
小さく言うと、彼も隣に滑り込んだ。
翌日。クリフトが目を覚ました時には、既に鷹耶の姿はなかった。
少し腫れぼったい目に気が付くと、途端に昨夜の行為が蘇ってくる。
「あ…! 僕はまた‥‥‥。」
ショックで頭をフラフラさせながら、更にショッキングな事実を思い出してしまう。
(…そう言えば昨夜は、僕も‥‥! うわああ〜! どんな顔して会えばいいんだ!?)
「…大体どうして…そんな‥‥‥」
床に座り込みながら頭を抱えるクリフト。
コンコン‥。ノックの音が届く。クリフトはのそのそ立ち上がると、戸口へ向かった。
「はい‥。あ、ミネアさん。」
「そろそろお昼の準備始めようかと思って…。」
「え‥もうそんな時間ですか? すみません‥なんか寝過ごしてしまったようで。」
「あ‥。慌てなくて大丈夫よ。私が少し早めに来たのだから。
用意出来たら食堂へいらして下さいね。」
「あ‥はい。すぐ参ります。」
今日の食事当番であるクリフトは、さっと身支度を済ませると、食堂へと向かった。
(うわあ…。どうして会っちゃうんだ?)
デッキ経由を選んだクリフトは、途中正面から鷹耶がやって来た事に気づくと足を止め
た。昨日までは殆ど顔を会わさなかった気がするのに…と、踵を返してしまおうかと真剣
に悩むクリフト。
「よお。」
前方に立ちすくんでいるクリフトを認めた鷹耶が明るく声をかけて来た。
「あ…」
「おい鷹耶。ちょっといいか?」
クリフトが何か言わないと‥と、口を開いたのと同時に、鷹耶の後方からやって来た男が
彼の肩に手をかけて呼び止めた。
「ん‥? なんだ船長じゃねーか。どうかしたか?」
鷹耶は振り返ると、親しげに笑いかけ訊ねた。
元海賊だったという船長は、未だに「お頭」と呼ぶかつての仲間と共にこの船の操舵を
取り仕切っている。魔物が人を襲うようになってからも、「海の男は海で生きるもんだ!」
と、より危険の増した大海原を豪快に渡っていたのだが、灯台の明かりが邪悪なモノと変
わってしまった時、大勢の仲間と共に様々な冒険を共にした船を失ってしまった。
その後。トルネコの造船に協力した縁もあって、残った仲間と共にこの船に乗り込む事
となったのだ。
口髭を蓄えたジャックは、貫禄たっぷりな物腰でパイプを一ふかしすると切り出した。
「ああ実はな…」
鷹耶が船長と話してる横を、クリフトは小さく会釈だけして通り過ぎた。
(ああ…良かった‥!)
二人の前を過ぎた後は足早にデッキを離れ、船倉に向かう階段を一気に降りた。
「はあ〜。」
倉庫の壁に寄りかかると、クリフトは大きく吐息をついた。
「まいったなあ…。」
「なにが?」
「え…? ア‥アリーナ様?!」
デッキへ出るつもりだったらしい彼女が、項垂れた様子のクリフトを訝しむように立って
いた。
「どうしたの、クリフト。‥何かやっかい事?」
「あ‥いえ。あの…別に。全然…全然たいした事じゃないんですよ。ははは‥」
慌てふためいた様子で、必死に繕うクリフト。
「…クリフト。目が赤いわね‥? 本当になんでもないの?」
「あ‥。これは…その‥。昨夜遅くまで本を読んでしまって‥ちょっと寝不足で…。」
「ふふ‥。また本読みながら泣いてたんじゃない?」
「…! え‥ええ、そうなんです。だから困ったなあ‥と。…やっぱり目立ちますか?」
「う〜ん。明かりの加減もあるから、それ程でもないと思うわよ?」
「そうですか。なら良かった。…では。ミネアさんを待たせてあるので失礼します。」
あまり話してボロが出ても‥と、クリフトはこの場を離れようと進み出た。
「ああ、食事当番だったわね。お昼ご飯、楽しみにしてるわ! じゃ、また。」
納得したように笑うと、アリーナも階段を駆け登って行った。
「すみません、お待たせしてしまって。」
クリフトは食堂の奥にある調理場で、食材を前に首を捻っているミネアに声をかけた。
「ああ良かったわ。なかなか来ないから、私だけで始めてようかと思ってたの。」
にっこりとミネアが微笑んだ。
「あ‥いえ。もうメニューは決まってるんで。待ってて下さって良かったです。」
「スペシャルメニューはまた今度ね。」
「あ‥はは。…そうですね☆」
彼女に任すと、薬草だか毒草だか判別つかなそうな怪しい植物をふんだんに使った料理が
出て来るのだと聞いているクリフトが、苦く笑った。
「…後は煮込めば完成です。夕食の分も半分は済みましたし‥以外に捗りましたね。」
ぐつぐつ煮える鍋を見ながら、クリフトがほっと息をついた。
「くすくす…。クリフトさんたら、すごい包丁捌きだったわよ。なんだか私が手伝って、
かえって手間かけさせてしまったんじゃない?」
「いえ‥そんな事。」
「なんだか準備は任せっきりになってしまったから、片付けは私に任せて下さいな。」
「でもそれは…。あ。あの‥ではお言葉に甘えて、食事の用意が整ったら、ここお任せ
してもいいですか? ‥慌てて部屋を出たんで、散らかしたままなんですよ。」
鷹耶と顔を合わせづらいクリフトが、適当な口実で場を離れようと願い出た。
快く送り出してくれたミネアに、申し訳なく思いながらも、クリフトは足早に自室へと
戻った。幸い途中誰にも会わず、自室の前まで辿り着くと、手早く部屋に滑り込んだ。
「はあ…。」
大きな吐息を落とすと、ヨレヨレとベッドに崩れ落ちる。
「…なんだかなあ‥。」
いつもと変わらぬ様子で、鷹耶は声をかけて来た。自分も普通にしてればいいんだ…と
頭に言い聞かせてはいるのだが‥どうにも難しい。昨夜の行為がちょっとでも過れば、心
拍数がグンと上昇し、メダパニ状態に陥ってしまう。そこで妙な事を口走った日には、本
気で立ち直れなくなるんじゃないか‥といった具合に、追い詰められていた。
「あ〜なんかぐるぐるする…」
本人は顔が熱いせいだけかと思っていたのだが、実際少し発熱していた。
メビウスの輪と化してしまった思考を抱え、クリフトはそのままうとうとし出した。
やがて…。
トントン‥かちゃり。
部屋の扉が静かに開いた。
「クリフトいるか?」
言いながら部屋へと入って来た鷹耶は、ベッドに横になってる彼を見つけると、そっと近
づいた。
「…寝てるのか?」
彼の様子を確かめるように覗き込むと、そっと髪に触れた。
「…ん。‥‥‥‥」
「…? …あ。」
熱っぽく思えた息に、額に手を当て確かめた鷹耶が、きゅっと口を結んだ。
「…ん−。これくらいなら、薬は飲まなくても良さそうよ? 少し安静にして様子をみま
しょう。幸い陸地も近い事だし、上陸しても体調が回復しなかったら、お医者様に診
て頂きましょ?」
部屋を出てすぐ掴まったマーニャを伴って、部屋へと戻った鷹耶は、クリフトの様子を
早速診て貰っていた。
額や首筋から熱の程度を確認したマーニャは、安心したように小さく吐息をつくと、心
配そうに窺う鷹耶の方へ向き直り、更に続ける。
「今日の当番はあたしが代わっとくからさ。このまま寝かせてあげていいわよ。」
「あ‥ああ。頼むよ。」
(‥‥‥?)
冷んやりと心地よかった手が離れる感覚に、ぼんやりとクリフトが目覚めた。
「…マー‥ニャさん…?」
「あら‥起こしちゃった?」
「クリフト、大丈夫か?」
「…! 鷹耶‥さん…。」
鷹耶の姿を認めた途端、クリフトはほんの少し顔を曇らせた。
「あんたが熱出した‥って聞いてね。様子見に来たの。熱はたいした事なさそうだけど、
他に調子悪い所とかある? 食事は済ませた…? 食欲はあるの?」
彼の表情の変化に気づいてたマーニャだったが、敢えて触れずに、身体の様子を訊ねた。
「あ‥いえ。特には…。…食欲はあんまりないですけど…。」
上体を静かに起こしながら、クリフトが答えた。
「そう‥。でも出来れば何か口にした方がいいわよ。後でスープ持って来てあげるわ。」
「あ‥。私なら大丈夫ですから。後で適当に…」
「今日はゆっくり休んで。当番なら代わりしとくから平気だよ。」
「え…そんな。それじゃ悪いですよ。」
「ふふふ。鷹耶に倍貸し作れたから、クリフトはちっとも気にしなくていいわよ。」
「‥‥‥。」
突然の言い分に顔を顰めながらも、鷹耶は反論しなかった。
「じゃ‥あたし行くわね。あんたはちゃんと休むのよ?」
「あ‥はあ…。」
マーニャはスタスタと戸口へ向かい、ふと扉の前で立ち止まった。
「あ‥そうだ。鷹耶!」
マーニャは犬でも呼ぶかのように、指でこちらへ来るよう示した。
不承不承マーニャの側へ歩み寄る鷹耶。
「…んだよ?」
「あんた‥まさか無理強いしたんじゃないでしょうね?」
小声でマーニャが険しく訊ねた。
「…別に‥んなんじゃ‥ねー。」
「…彼は普通の体力しかないんだから、タフなあんたが振り回しちゃ駄目なんだからね
? 解ってる?」
「う…。」
痛い所を突かれて絶句した鷹耶を見たマーニャは、顔を上げるとこちらの様子を窺うよ
うに見ていたクリフトに声をかけた。
「クリフト。鷹耶があんたの看病する気みたいだけど。他のメンバーがよければ、あた
しが呼んで来るわよ? どうする?」
「え‥。別に看病なんて‥大袈裟な。一人で大丈夫ですよ?」
「それだと過保護なこいつが、あんたの事心配でたまらないってさ。だから付き人一人
ちゃんと選んで。」
「そんな…。」
「誰か寄越す? それとも…コレでいい?」
鷹耶を指しながら、マーニャが重ねて訊ねた。
ぽかんとするクリフトが鷹耶へ視線を向けると、いたたまれない様に彼が視線を反らせ
た。そんな様子に、クリフトも目線を手元に落としてしまう。
「…別に。‥いいですよ。鷹耶さんで…いいです‥‥。」
小さくぽつりと零した。
マーニャは小さく息を落とすと、やれやれ‥といった様子で肩を竦め部屋を出た。
ぱたん…。
静かに扉が閉まると、部屋は沈黙に支配された。
「あの‥な、クリフト。」
ややあって。先に沈黙を破ったのは鷹耶だった。気まずそうな様子で、ぎこちなく彼の
側へと歩む寄る鷹耶。
「…昨夜は悪かったな‥。無理‥させた‥んだよな‥。」
「‥‥‥‥」
「…俺の事‥嫌になったか?」
ベッドの側に立った鷹耶が、苦しそうに訊ねた。
思いがけない彼の言葉に顔を上げたクリフトは、意外そうに鷹耶をみつめた。
「…別に‥そんな事‥。…考えなかった‥です。」
しばらくして。ぽつりと零すと、再び顔を背けた。
「ただ…。」
「ただ…?」
「…だって、やっぱり信じられなくて。あんな…!」
顔中茹だったようになったクリフトは、続く言葉を導き出せなくなってしまった。
「…あのさ。もしかして‥クリフトって、性欲に罪悪感感じたりする?」
「‥‥‥!」
「…だから。昨夜みたいに溺れちゃうような行為が許せない‥とか?」
クリフトは小さく頷いた。
「あのなクリフト。腹が減ったら飯食うだろ? 眠くなれば休む訳だ。それってさ、普段
意識せずに繰り返してる行為だけど、どれも生きていく為に不可欠なモノだよな? 性
欲だって同じなんだぜ? 食うのは身体を維持する為に必要で。睡眠は身体と心を休ま
せ、明日の活力を回復させる。そして性欲は‥生きる活力そのものなんだ…って。受
け売りだけどな。でも…俺もそうだと思うぜ?」
「鷹耶さん‥。」
「好き‥って気持ちがあるから、人は努力も喜びにして生きていけるんだ…って。」
「‥‥‥‥。」
真面目に語る鷹耶をクリフトは静かに見つめていた。
彼は一旦言葉を切ると、ベッドサイドに腰掛けクリフトと目線を同じにすると、少し躊
躇った後続けた。
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