「ロザリーの事は気にかかるけど、とりあえず少し休みたいわ。」
洞窟から脱出した一行は、ミントスへとやって来ていた。
そこで改めてデスピサロと対峙した時の事を皆に報告したのだが‥
まだ残る疲労感を自覚するアリーナが、また鉢合わせした場合も想定に入れて、ベスト
コンディションに戻ってからロザリーヒルへ向かおうと提案した。
「‥そうね。彼女の事は確かに心配だけど。あいつが向かってるんだもん。きっともう
トラブル脱出してるわよ。」
「そうじゃな。何かあったのだとしても、とっくに解決しておるかもな。」
「そっちは問題なくても、人間への警戒は厳重になってるかも知れない。
だから、私達はちゃんと戦闘準備を整えてから向かうべきなのよ。」
アリーナの言葉にブライがしきりに頷く。皆も同意見らしかったので、ソロがまとめに
かかった。
「‥じゃ、2〜3日ここで休養とってから、ロザリーヒルへ向かおう。
それでいい‥?」
「ええ‥異存ないわ。みんなもでしょう?」
アリーナが答えると、皆へ確認を取るよう声をかけた。一同が納得したよう頷く。
「じゃ‥そういう事で、解散。」
夜にはエスタークを倒した祝勝会を‥と予定が組まれた以外、特にする事のないソロは、
解散後部屋へと戻った。
クリフトはアリーナ・ミネアに捕まってしまったので、独りぽつんと明るい日差しの射し
込むベッド端へ腰掛ける。
そのままゆっくり身体を倒すと、コロンと仰向けになった。
「‥もう終わりなら、いいのにな。」
消え入るようにか細く、ソロは呟いた。
エスタークは倒した。それでもう、役目を終えられたらいいのに…
後は別に[勇者]じゃなくたって――
正直、もう一度逢う勇気がなかった。
逢って思い知らされるのはごめんだった…
かちゃり‥
ドアノブが静かに回ると、同室のクリフトが部屋へ入って来た。
「‥ソロ。眠ってしまったんですか‥?」
ゆっくり部屋の奥へ歩を進めたクリフトが、静かに彼の眠るベッド端に腰を下ろした。
「…眠かったら、布団は敷かずにかけて下さいね?」
「‥別に眠い訳じゃない。‥ちょっと、考え事してただけ…」
ぱっちり目を開けたソロが低く答える。
「…エスターク戦の後から、なんだかずっと沈んでますね。」
ふう‥と嘆息した後、クリフトが案じるように声をかけた。
「そんな事…」
「ソロ、よければ町へ出ませんか? 美味しいアイスクリームの店を聞いて来たんですよ。」
惑う彼に、気分転換を勧めるクリフトが、明るく誘いかけた。
「…うん。行く‥。」
のろのろと起き上がると、ソロはクリフトと共に宿を出た。
「‥随分いろんなのがあるんだね。」
色とりどりのアイスクリームを前に、ソロが目を丸くした。
保冷ボックスの中にぎっしり詰まったアイス。定番のバニラの他、可愛いピンクのイチゴ、
シックな茶のチョコ、それより淡い色合いのコーヒー、ミルクティ等々‥店へ着くまであ
んまり気乗りしていなさそうだったソロも、やっと顔を綻ばせた。
「すごいな‥! こんなにいっぱい迷っちゃうよ。」
「3種類までなら重ねられるそうですよ。」
「えっ本当!? う〜ん、それでもやっぱり悩むなあ‥。」
アイス選びに集中しだすと、憂い顔が消えた。代わりにワクワクとした瞳が口元も緩ませ
る。
「クリフトはどうするの?」
「私は流石に幾つもは無理なので、1つだけ頼むつもりですが。」
「ええ? こんなにいっぱいあるのに、1つだけ?
勿体ないよ。オレも手伝うからさあ‥」
結局、クリフトはダブルで。ソロはトリプルで。選んだ5種類は、すべてソロが食べて
みたいアイスとなってしまった。
近くの公園にあるベンチへ腰掛け、2人は冷たいアイスを口に含む。
「本当美味しいね、これ。前に来た時も知ってたら、ちゃんと立ち寄ったのになあ‥!」
溶けかかる端から順に舌を這わせながら、ソロが舌鼓を打った。
「クリフトのはどう?」
「ええ、美味しいですよ。」
「味見させてv」
「どうぞ。」
クスリと笑うと、クリフトは食べかけのアイスを彼へ渡した。
ミントチョコとミルクティのアイスを1口ずつしっかり味わうソロ。
「うん、こっちも美味しいv うわっと、オレのも食べなきゃ溶けちゃうや。」
ついと彼のを返すと、慌てた様子でペロペロアイスを舐めた。
しゃべってる間も惜しい‥といった様子で、ソロは自分の分をさっさと平らげながら、
しっかりクリフトの分も予定通り、半分以上平らげた。
「あ〜美味しかった!」
満足気に言うと、ソロはすくっと立ち上がった。
「なんだか喉渇いちゃったね。オレ、飲み物買って来るよ。」
「はい‥クリフト。コーヒーブラックでよかったんだよね?」
彼の分のオーダーを取っていたソロが、カップを渡しながら確認するよう訊ねた。
「ええ。ありがとうソロ。」
微笑むクリフトににっこり笑い、ソロが隣に腰掛けた。
「‥やっぱり外はいいね。」
ぽつん‥とソロが話す。
「ずっと地下だったもんね。こうして日差しの中に居ると、外ってこんなに明るくて、
広かったんだな‥って。つくづく思うよ。」
「そうですね。風も花の薫りを含んで優しいですし。」
「本当‥なんか甘い匂い…。こうしているとさ、戦いの日々を忘れそう…。」
「ソロ…」
「…エスタークを倒せても、旅の終わりにならないんだね。どうしてかな?」
「人間を滅ぼすつもりの魔王が居るから‥ではないですか?」
「…うん。そーだね。そうだよね‥。それも‥勇者の仕事‥かなあ…」
「ソロは‥あまり気が進まないようですね。」
「え‥?」
「デスピサロを憎んでないのですか?」
「憎む…?」
「村を滅ぼされたのでしょう‥?」
「あ‥うん。そーだけど。」
ソロは持っている飲み物をコクコク口に含むと、ふーと息を吐いた。
「…なんだか気が抜けちゃった‥ってゆーか。
オレの使命は地獄の帝王を倒す事‥だったから。
…オレはいつまで[勇者]やらなきゃいけないのかなあ‥って。」
「別に[勇者]を無理に続ける必要はないと思いますよ。…あなたがもう戦いを望まない
というのであれば、そういう選択もあっていいと。」
「…戦わなくても、いいの‥?」
「それが望みなら‥。ソロはこの旅を終わらせたいのですか?」
「…解らない。」
「ソロは何より心の休養が必要みたいですね。滞在中はのんびり過ごして下さい。」
「‥うん。」
「ふわあ〜‥なんかグルグルする‥‥‥」
賑やかな宴会の後、ソロはクリフトの肩を借りながら、宿の廊下を歩いていた。
「本当にもう、ちょっと目を離したら、すっかり出来上がってしまって‥。
ほらソロ、階段ですよ、気をつけて。」
「ん‥だって…。マーニャがいろいろ勧めてくれるんだもん、美味しいカクテル。」
「あの人も懲りないというか‥。ソロが弱いの知っててこんなに酔わせてしまうなんて。」
「んー元気ないから心配らって‥。そー言ってたぁ‥‥」
呂律を怪しくしながら、ソロがにんまり笑む。上機嫌な様子に、安堵しつつも、にこにこ
笑顔をマーニャに振り撒いてたのかと思うと、素直に微笑みを返せない。
階段を登りきり、部屋の前までどうにか辿り着くと、クリフトは足元の覚束無いソロを支
え、扉を開いた。
「ふう〜。なんかふわふわする‥‥」
ベッドにコロンと横たわり、ソロが吐息混じりにこぼす。
「大丈夫ですか‥?」
「うん…大丈夫‥。」
心配そうに身体を折って顔を覗き込んで来るクリフトに、ソロがふわりと微笑んだ。
「ソロ…」
そっと伸ばされた手を握り返し、シーツに縫い止める。そのまま彼に覆い被さったクリフ
トはふっくらしたその唇に口づけた。
しっとり重なったそれを受け止めながら、ソロは瞳を閉ざす。
「‥ん‥‥」
誘うように空けた隙間から、そっと滑り込んだ舌がゆっくりと口内を巡る。ソロはゆった
りした動作がふわふわとした浮遊感と重なるのを思いながら、うっとり応えた。
「…クリフト‥?」
唇が離れると、上体を起こしてしまったクリフトを、怪訝そうにソロが覗う。
「‥これ以上進むと、中断出来なくなりそうで。」
クリフトが珍しく狼狽を滲ませ、答えた。
「…いいよ、別に。」
上体を起こしクリフトと視線を合わせたソロが、彼の頬を掌に包み声をかけた。
「‥続き‥しよう…?」
ソロは彼の肩に腕を回し、額をくっつけ強求った。
強求った→ねだった
「ソロ‥」
再び口接けを交わす2人。
熱い舌がソロの中へ滑り込んでくると、それに自らも絡ませ、互いの熱を貪る。
その間もソロの胸元を探る手が、器用に縦襟のシャツのボタンを次々外してゆく。
散々蜜を味わった後、名残惜しげに離れた唇が、首筋へと降りた。
「あっ…」
シーツの海へ身を預けたソロが、シャツを左右に開かれて、頬に朱を走らせた。
白い肌が露になり、淡く色づく果実がアクセントのように、磁器のごとく滑らかな躯を
彩っている。潤んだ瞳で恥じらう姿にすっかり興を誘られたクリフトは息を飲んだ。
元々ノーマル指向のクリフトだが、過去に幾度か同性からの告白を受けた経験はある。
学校でもアイドル的存在だった可愛い後輩から、思い出だけでも‥と迫られた事すらある。
…が。どれだけ可愛い顔立ちでも、やはり男は男。という訳で、全くその気になどなれな
かったものだが…。
(適わないな…)
込み上げてくる感情にクリフトは小さく笑うと、膨らみのない胸へ手を滑らせた。
その感触を愉しみながら、ささやかな突起をつまみ上げる。
「あ‥っん。」
ビクンと喉を反らせたソロから甘い吐息が上がった。
その反応の良さに気を良くしたクリフトが、果実を指の腹で潰すよう捏ね回した。
「‥ここ、感じるみたいですね。」
「あん‥だ‥って…。ふ‥‥ぁ‥」
コリコリと硬度を増すに従って、艶やかな吐息を次々こぼすソロが、身動ぐ。
久しぶりに躰を巡る快楽の予感に、本能がなによりそれを歓迎していた。
ピサロと別れて以来、欲望というものを忘れていたソロだったから…
不安定な心も、限界越えたハードワークを科された身体も、ただ解放を求めていた。
「ふ‥あ…。ク‥クリフト、そこばっかり‥嫌だ…。」
交互に胸の飾りを舐め含まれ、すっかり蕩けた様子のソロが、焦れたよう腰を揺らした。
つい楽しくて、そこばかり集中してしまったが、視線を移すと男の証が存在を知らしめて
いた。
窮屈そうなズボンをくつろがせ、下着から張り詰めたモノを解放してやる。
既に先走りで潤った先端を軽く握ると、親指の腹で蜜口に弧を描いた。
「はあ…っ! ん‥‥」
ビクビクとソロが強い刺激に躰を震わせる。
「なんだか、余裕ないみたいですね、ソロ。」
屹立をくすぐるように指先で撫ぜ上げ、クスリ‥とクリフトが笑んだ。
「ふ‥ぁっ。あ‥ん‥‥‥クリフトぉ‥焦らさないで…」
涙目で訴えかけてくるソロがあまりに可愛くて、クリフトはドクンと熱が集中するのを思っ
た。
――これは本気でハマるかも知れない。
逸る鼓動に自覚していた以上に入れ込んでる自分を発見し、ひっそり嘆息する。
クリフトは何の躊躇もなく彼の中心に手を伸ばすと握り込んだ。
「あっ‥。ふ‥ああっ‥‥んっ…」
滴る樹液を潤滑に、手の筒を上下させると艶めいた吐息がぽろぽろこぼれてゆく。
ソロは一気に昂ぶらせた熱を、呆気なく弾けさせた。
「はあっ‥‥!」
ドクリ‥溜まっていた熱を放出させたソロは、荒い呼吸を繰り返し、余韻に浸るよう四肢
を投げ出した。
「はあ‥はあ‥‥」
蟠り燻っていた熱が吐き出された感覚に、ソロは心地よい疲労感を覚えながら目を閉じる。
ぼんやり瞼の裏に浮かぶのは、静かに凪いだ明るい水面だった。
ふわふわゆらゆら‥たゆたう感覚に身を任せ、ソロはすうーっと眠りに落ちてゆく。
「‥‥ソロ…」
呼吸が落ち着く頃寝息を立て始めた彼に、困惑混じりの声がかけられた。
「‥仕方ないですね。」
彼に振り回されるのはいつものコト。
すやすやと穏やかな表情で眠る姿を眺めながら、クリフトはやれやれ…と肩を竦めた。
実際この状況でお預け‥というのは、厳しい気もしたが★
なんの準備もないまま最後まで至れるのか、正直心元なかったのも事実。
知識は一応あるものの、やはり初心者だから。
不様な失態など晒したくないしな…そんな事思いながら、気持ちを切り替えた。
「…おはようクリフト。」
「おはようございます…」
「‥なんか、眠そうだね…?」
のっそりベッドから上体を起こしたクリフトに、不思議顔のソロが声をかけた。
「…はあ。まあ‥‥‥」
既に着替えを済ませベッド端に腰掛けるソロへ、クリフトは目をやった。
「ソロは元気みたいですね。」
「うん。なんかぐっすり寝たからかな。身体が軽くて、気分いいんだ。」
「そうですか。」
「…もしかしてさ。オレ、昨夜なんか迷惑かけた?
実は部屋に戻ったのも覚えてないんだけど。」
明るく笑んだソロだったが、欠伸の止まらないクリフトに、眉根を寄せ訊ねた。
「…覚えてないんですか?」
一瞬目を開いて、クリフトが意外そうに聞き返した。
「うん。やっぱ‥オレ、なんかやったの?」
「‥‥‥。」
「クリフト!?」
「あ‥ええ。…ソロ。」
クリフトは思案した後、おいでと彼を手招きした。
呼ばれたソロが彼の隣へ移動する。
そっと頬を包んだ手がソロの顔を固定すると、口接けが降りた。
「…ん‥ふ‥‥‥」
朝からするには少々濃いめの口接けを、ソロは惑いながらも享受する。
徐に解放すると、クリフトはほんのり頬を染めた彼の間近で笑んだ。
「…思い出せませんか、まだ? それとも、こっちの方が覚えてますかね?」
徒っぽく言いながら、クリフトはそっと彼の胸へ触れた。
徒→いたずら
「…あ。」
甘い余韻の残る躰に、ソロは怪訝そうに考え込む。
「…あれ、夢じゃ‥なかったの?」
ぽつんと独りごちるよう呆然としたまま呟いた。
「‥もしかして。オレ…クリフトと‥しちゃったの…?」
おそるおそる‥といった面持ちで、ソロは上目遣いに彼を見た。
「‥最後まで…という意味でしたら、NOですよ。」
ふわりと笑んで答えたクリフトが、そっとその手を彼の頬に添えた。
「ソロは‥どこまで覚えてるのですか?」
「…えっと。あの‥‥オレだけすっきりしたトコまで‥デス。」
顔を真っ赤に染め上げたソロが気恥ずかしそうに俯いた。
「‥全部覚えてるみたいですね。ソロはその後すやすや眠ってしまったので、それ以上は
何もしてませんよ。安心して下さい。」
クスクスとクリフトが説明した。
「そうなんだ…。そっか‥。」
「…ホッとしました?」
「あ…。ううん、そうじゃなくて‥。記憶が飛んでないってのに安心したんだ。だって‥
ちゃんと‥覚えてたいもん。」
「ソロ…。よかった。後悔してるのではないんですね?」
ぽすん‥と肩口に顔を埋めたソロに、クリフトが再度訊ねた。
「うん、してないよ。‥昨夜は先に寝ちゃってごめんね。」
顔を上げ、瞳を交わした後、ソロは軽く触れるだけのキスをクリフトに贈った。
桜色の唇が離れてゆくのをゆっくり眺めながら、クリフトは瞳を和らげた。
「朝ごはん、食べに行こうよ。オレお腹空いちゃった。」
照れ臭そうに笑うソロが立ち上がると、切り替えるようクリフトを促した。
「ね‥クリフトは今日、なんか予定あるの?」
ぱくんとトーストをほおばったソロが、向かい席に座る彼へ声をかけた。
宿の食堂。仲間で今ここにいるのは、この2人だけだった。
「あ‥ええ。ちょっと探し物があって‥買い物に出て来ようかと。」
「そっか…。」
「お昼に帰るのは難しいかも知れませんが、夕食は一緒に食べましょう。」
残念そうなソロに心苦しさを覚えたクリフトが明るく話す。
「うん。そしたらオレも‥昼間は町へ出てみようかな。」
気を取り直した様子で微笑って、ソロは中断した食事を再開した。