早々に食事と風呂を済ませたクリフトは、宿の部屋へと戻った。
すっかり暗くなった室内で、出る時同様ソロは静かに眠っていた。
クリフトは小さな明かりを部屋の隅に置かれた机へ乗せ、足音を立てないようひっそりと
ベッドへ向かった。
すやすや眠る横顔に、小さく吐息をこぼす。そのまま彼の眠るベッド端に腰を下ろすと、
さらさらとしたソロの髪をゆっくり梳った。 梳った→くしけずった
そっち方面には疎そうなアリーナですら、ソロの様子をああ表現した。
恐らく今日声を掛けて来たという男達の目にも、同様に映っていたのだろう…。
「…本当、危なっかしいですね。」
マーニャじゃないが、一緒に連れて行けばよかった‥と、目を離した事が悔やまれる。
でも独りじゃなくてよかった‥そう、クリフトはほっと吐息をついた。
思いの外頼りになるミネアが一緒に居てくれてよかった‥とも思った。
しばらくそうして彼の寝顔を眺めていたクリフトは、小さな欠伸を落とすと、明かりを消
しに立ち上がった。
一番鶏の鳴き声で、ソロはぼんやり目を覚ました。
ほんのり明るさを孕んだ空を窓の外に見て、ソロは起き上がろうとゆっくり首を上げた。
(あれ…?)
身体を動かして初めて、ソロはすぐ隣で眠るクリフトが自分の腰をしっかり抱いているの
に気づく。まるでひっそり抜け出すのを防ぐかのように…
(クリフト…)
ソロは身体を反転させ、クリフトの方へ向けた。
静かに眠る彼の姿をそっと覗き込み、ふとその顔に手を伸ばす。
指先がちょこんと触れると、小さく身動いだクリフトが静かに瞳を開いた。
「‥ん? …ソロ? ‥おはようございます…」
まだ寝ぼけた様子で、クリフトが返す。
「‥まだ夜明け前だよ。寝てて平気だから。」
ソロは小さく笑うと、そう声をかけ首を起こした。そのまま上体を起こそうとしたソロだっ
たが、それを阻むよう、クリフトが腰に回した手を引く。
「…で。ソロはどこへ行くつもりですか?」
彼を引き寄せてから、咎めるようクリフトが訊ねた。
「ん‥と。目が覚めたから、散歩して来ようかと…。オレ、昨夜は早く寝ちゃったし‥」
「そうでしたね。何故だか私を避けたがってるんですよね?」
「そ‥そんな事。ただ‥オレは‥‥‥」
拗ねる口調のクリフトに、オロオロ返したソロが瞼を伏せた。
「…オレと居ると‥クリフトが、変に思われちゃう‥‥そんなのオレ…」
ぽつん‥と呟くようソロが吐露した。
「ソロ。こっちを向いて下さい。」
クリフトは優しく声を掛け、そっと彼の頬を掌で包み込んだ。
「無責任な他人の目など、元から気になどしてません。
大切なのは‥あなたの気持ちと、私の気持ちでしょう? 違いますか?」
「…クリフト。オレ‥側に居て‥いいの?」
「いいですよ‥そう、何度も言ってるでしょう。判りませんか‥?」
微苦笑しながら、クリフトがソロの髪へ指を滑らせた。
「だっ‥て、オレ‥‥‥」
「私が‥あなたをこうしたいんです。側に居て下さい。」
ゆっくり身体を起こしたクリフトが、しっかりとソロを抱きしめた。
「クリフト…」
じんわり伝わる温もりに、ソロの瞳に溜まっていた涙が溢れこぼれた。
彷徨っていた彼の手が、自分を強く抱きしめるクリフトの背に回される。
「ソロ‥」
徐に彼の顔を上げたクリフトと、情を含んだソロの瞳が交わされた。
2人の距離がゆっくり縮まり、唇が重なる。
「‥ん‥ふ‥‥‥」
すぐに深くなった口接けは、蕩けるように優しくソロへと絡められた。
応えるソロが甘い蜜を嚥下し、彼の肩に縋りつきながら、もっと‥と強求った。
深い接吻に夢中になっている間に、ソロの上着ははだけられ、小さな2つの飾りも露になっ
ていた。
「ソロの肌は吸いつくようですね。それに…」
その感触を愉しむように、クリフトが彼の躯に手を滑らせた。
「あ‥っ、ん…」
「感度もいい。」
くす‥とクリフトが口角を上げた。
胸の飾りを爪で引っ掻かれたソロは、甘い疼きを覚え身動ぐと、吐息交じりに口を開く。
「‥そんな‥の、わかん‥ないよ。あ‥ん…ふっ‥‥」
スルリと上着を脱がせたクリフトがソロを組み敷くと、本格的な愛撫を始めた。
尖った果実にねっとり舌が這ったと思うと、丸ごと口に含まれる。その感触に躯を戦慄か
せ、ソロは焦れるように腰を揺らした。甘い吐息が次々とこぼれてゆく。
「クリ‥フト。…クリフト、ねえ‥クリフトも…」
彼にキスを強求ったソロが、彼の肩に回していた腕を解き、服を脱ぐよう迫った。
「そうですね‥。」
そう答え、躊躇わず、クリフトは上着を脱ぎ捨てた。
ソロは間近で初めてじっくりと見る彼の裸に、不思議そうに手を伸ばす。
「…思っていたより、ずっとがっしりしてるんだ。」
胸筋を確かめるよう周囲を撫で回したソロは、視線を落とし頬を染めた。
「多分‥私の方が余裕ないですよ、今夜は…」
クリフトが苦笑しつつ答えた。
「‥ん。ね、昨日のお返ししようか‥?」
抱き寄せられたソロが彼の胸に寄り添いながら、思いついたよう口にしたと思うと、その
まま身体を離し、窮屈そうな彼のズボンから、張り詰めたモノを取り出した。
自分に反応してくれてる…そう思うと、熱く脈打つ証が嬉しくて、ソロは手を添わせると、
そのまま口接けた。
「‥ソロ!?」
躯を屈めて猛る分身に奉仕始めたソロに、クリフトは驚きの声を上げた。
「そんな事‥しなくても…くっ‥‥」
巧みな口淫に、クリフトの声が詰まる。行為を止めようとした手がソロの肩を掴んだ。
「…こういうの、厭?」
がっかりした様子で、ソロは上目遣いに彼をみつめる。
「厭‥じゃないですけど。‥その、初めて…ですから‥‥」
「‥そーなの? 普通‥しないの?」
キョン‥とソロが訊ねた。
「え‥っと。普通…といっても、私も同性相手はソロが初めてですから…」
クリフトが途惑い露にこぼすと、苦く笑った。
「ふふ‥。なんだかスマートに行きませんね。格好悪くてすみません…」
「ううん。そんな事ない。オレだって‥何が[普通]なんだか解らないもん。
たださ‥。クリフトがオレに感じてくれたら嬉しいな‥って。そう思ったんだ。」
「そうですね。互いの気持ちを高め合う‥というのは、きっと変わらないんですね。」
クリフトは静かに話すと、彼の両頬を掌に包み、熱い視線を絡ませた。
「ソロ‥私にも、あなたのすべてを見せて下さい。」
艶めいた声で強求られて、ソロはコクンと頷いた。
ゆっくりと残っていたズボンと下穿きを脱ぐと、生まれたままの姿を彼の前に晒す。
彼と共にクリフトもすべてを脱ぎ去り、2人は小さく笑い合うと、どちらからともなく
口接けた。
深い口接けを交わしながら、互いの温もりを交わし合う。
睦み合ううち、昂ぶりを解放させると、クリフトはソロの禁忌の場所へ指を滑らせた。
「あ‥‥」
迸りを潤滑に、クリフトはゆっくり指を忍ばせた。入口の辺りでぐるりと円を描くその動
作に、ソロの躰がふるんと揺らぐ。
「ふ‥ぁ。あ‥ん‥‥‥」
まだ息の整っていなかったソロだったが、甘い疼きがじわじわ広がるのを思い、艶めいた
声を上げた。
クリフトはそんな反応に気を良くしながら、更に奥まった場所を探春してゆく。
沈めた指をゆっくり巡らせると、ソロの躯が大きく撓り、一段と艶やかに啼いた。
「ここ‥ですね。」
「あっ‥! ふあ‥っん‥‥」
何度か確かめるよう探られて、ソロは大きく躯を悸わせた。
「そ‥んな風にされたら…オレ‥‥すぐ‥んっ。」
燻っていた焔が一気に勢いを増し、躰中を駆け巡る。そんな衝動に、ソロが身動いだ。
「ああ‥本当だ。すっかり元気になっちゃいましたね。」
クスリ‥とクリフトは笑うと、きゅっとソレを握りしめた。
「あ‥やっん…。」
「どうします? こちらの準備が整うまで、我慢出来ます?」
「え…? あ‥‥ん。駄目‥我慢…出来ない‥よ‥‥‥」
出口を塞き止められ、再び後孔への探春を開始されたソロは、呆気なく白旗を上げた。
「では‥」
クリフトは塞き止めていた手を緩めると、そのまま上下させた。
「んっ‥あ‥‥。は‥‥‥」
緩やかな刺激がもどかしく蟠る。あと一歩の刺激が欲しくて、ソロは熱に潤んだ視線をク
リフトに注いだ。
「ね…、あっ‥ふ‥‥‥」
ソロが強求ろうと彼へ手を伸ばすと同時に、秘所への指が増やされた。
そっと伸ばされたソロの手が、彼の腕を強く掴むと、躯が撓った。
「キツイですか‥?」
「‥ううん。大丈夫‥びっくりしただけ…んっ…」
心配そうに顔を覗き込むクリフトに、ソロがふわりと笑んだ。
「…オレ、平気だから。クリフト…来て、いいよ‥。
ね‥一緒に、いこう…?」
ソロは彼の肩に腕を回し、そっと囁いた。
「ソロ…」
クリフトは一度彼を抱き寄せると、静かに身体を離し、「待ってて下さい」と伝えベッド
を降りた。
荷が乗せてある机まで向かったクリフトは、そこでなにかを取り出し、再び戻って来る。
「…なに?」
「潤滑剤です。加減判らず傷つけては大変ですから。」
「クリフト‥。」
気遣いが嬉しくて、ソロはふわりと笑った。
「…ね、もしかしてさ、買い物って‥‥‥」
戻って来た彼の背に腕を回し、寄り添ったソロが、思いついたように口にする。
「‥ええ。言ったでしょう? 余裕ない‥と。本当なんですよ‥」
苦笑し答えたクリフトが、ソロをきゅっと抱きしめた。
「‥ん。オレも‥だよ‥‥」
胸に埋めていた顔を上げると、接吻が降りてきた。
しっとり重なった唇が名残惜しげに離れ、ソロは傾いだ躯をそのままシーツの海に沈めた。
「ん…はあ‥っ。ああっ…」
ゆっくりと押し入って来る屹立に、ソロが白い喉を反らせた。
十分に潤わせたそこは、侵入者を難無く受け入れ、ソロを穿っていった。
「あ‥ああ‥っ、ク‥リフト…」
閉じた瞼の向こうに、一瞬浮かんだ姿を振り払うよう、ソロは頭を振ると、彼を求めて手
を伸ばす。クリフトの肩を抱きながら、ソロは口接けを強求った。 頭→かぶり
「ん…ふ‥‥‥」
熱く広がる灼熱に浮かされ出すと、どうしても憶い出してしまう。
その名をふとこぼしてしまいそうで。ソロは夢中で口接けを貪った。
こうして肌を重ねているのはクリフトなのに。
それを自分も望んでいるはずなのに。
呑み込む言葉が、こんなにも切ない――
オレは―――
満たされる想いと満たされぬ想い…
それらを抱えたまま、ソロは彼の迸りを受け止めていた――
「…ソロ。私は‥急ぎ過ぎましたか…?」
四肢を投げ出し呼吸を整えるソロの横に身を横たえたクリフトが、労るようそっと彼の髪
を梳きつつ訊ねた。
「‥どうして…?」
荒い呼吸の合間に、ソロが不思議そうに返す。クリフトはそんな彼に苦笑しながら、親指
の腹を頬へ滑らせた。
「…泣かせてしまいましたね。」
「‥あ。オレ‥どうして‥‥」
伝い落ちる滴を拭われて、初めて涙に気づいたソロが、途惑い揺れた。
朝の陽光の差し込む室内は、彼の揺らぎをそのままクリフトへ伝える。
「…変だよね。‥こんなの…。オレ‥クリフトのコト、好きなのに…」
苦しそうに微笑ったソロが想いを紡いだ。
「ソロ‥。ゆっくり始めましょう。全部ひっくるめて、受け止めますから…」
「…全部?」
「ええ‥全部です。」
「‥オレで…いいの?」
「あなたがいいんです。」
にっこり微笑まれ、ソロも安心したよう顔を綻ばせた。
「好きですよ。」
頬をふわりと包み、クリフトが優しく語りかける。
「オレも…」
そう答えると、ソロはクリフトに寄り添った。
額に舞い降りたキスを擽ったそうに受けたソロが、顔を上げる。瞳を交わし、ふわりと微
笑んだソロは、ゆっくり瞼を閉じた。
好き――と求められる事が嬉しい。
温もりが愛しい。
だから‥‥いいんだよね?
伝わる温もりを思いながら、誰にともなくひっそり問いかける。
優しい口づけは、差し込む朝日のように暖かく、彼を包んでいった――
2005/10/3
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