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「‥なんだかお腹空いたね。」

行為後の微睡みの後。シャワーを浴びて、落ち着いた所で、ソロがぽつんと口を開いた。



エンドール。宿の部屋。

昨晩ソロの知らぬ間に外出し、そのまま外泊してきたクリフトに、独占欲全開となってし

まったソロ。そんな彼の求めに応える形で、昼間から睦まじく過ごした2人である。

「まだ少し早いですけど。お昼食べに行きますか?」

彼が腰掛けるベッドの脇に立って、クリフトが提案した。

「ん‥? う〜ん。でももしかしたらピサロも帰って来るかも知れないし‥。

 お昼の鐘までは待ってみる。…それでいい?」

上目遣いに訊ねてくるソロに目を細めさせて、その頭に手を乗せたクリフトが、彼の隣に

腰掛ける。

「ええ勿論。構いませんよ。」

「えへへ‥ありがとう、クリフト。」

ベッド端に並んで座る彼に笑んで、ソロがこてんと肩にもたれ掛かった。

「クッキー貰って来てて良かった。クリフトも一緒に食べよう?」

しばらく甘えていたソロだったが。

ほとんど口をつけないまま残っていたおやつに手を伸ばして、ふふ‥と微笑む。

クリフトも付き合うように手を伸ばすと、一層にっこり笑って、おやつタイムが始まった。



冷めた紅茶と共に、皿に盛られていたクッキーもきれいに平らげて。

ぼんやりと過ごしているうちに、昼を告げる鐘の音が部屋へと届いた。

「あ‥もう、昼なんだ。」

半分うとうとしかけていたソロが、ふ‥と顔を上げる。

「そうみたいですね。…もうしばらく待ちますか?」

「う‥ん‥‥」

ソロは曖昧に相槌打ちながら立ち上がると、窓辺へ歩み寄った。

外の様子を窺って、周囲の気配を探るように辺りを窺う。

「…やっぱりまだ戻ってないみたい。‥先に食べてようか?」

ふう…と吐息を落として、ソロが小さく微笑んだ。



しばらく待って。それでも戻らないので、2人は食堂へと向かった。

奥のテーブル席に着いて、頼んだ料理が届くのを待っていると、ソロが弾かれたよう顔を

上げる。

「…ピサロ。」

前方へ目を向けるソロに倣って、クリフトが振り返った。

のんびりした足取りで、ソロの待ち人がテーブルへと向かって来る。

「なかなか戻って来ないから、先に頼んじゃったんだよ?」

「それは済まなかったな。報告は大した事なかったのだが。少々脱線してたのでな。」

到着したピサロに、形ばかり膨れてみせるソロに苦笑した彼が、嘆息混じりに返す。

彼はソロの隣へと腰掛けると、水を持ってやって来た少女に料理を注文した。

「脱線‥て? あいつとどんな話するの、ピサロって?」

パタパタ去ってゆく少女の後ろ姿を見届けたソロが、口を開く。

興味津々問いかけてくる瞳に、ピサロが苦い顔を浮かべ思案げに目を閉ざした。

「…元々遠慮ない口を聞く所はあったのだが。最近更に小うるさくなってな…。

 説教めいた苦言をやたらと並べ立ててくる。‥困った奴だ。」

「ふう〜ん。仲良いんだねえ‥なんか。」

ぽつ‥とこぼすと、ピサロがカッと目を見開いた。

「何故そう返って来るのだ!?」

不服そうに突っ掛かるピサロに、ソロの前に座るクリフトがクスクスと笑う。

「溜め息はあっても、不愉快ではないのでしょう? 不機嫌には見えませんから。

 ね、ソロ?」

「うん。」

「…ふん。一応あれにも、いろいろ煩わせたからな。面倒な奴に借りを作ってしまった。」

ふて腐れたよう応えて、ピサロが肘を着いた。

「そっかあ‥。魔王って、もっと偉そうにしてるもんかと思ったけど。苦手もあるんだね。」

ふふふ‥とソロがにっこり笑う。

肩を竦めて見せたピサロだったが、不意に口の端を上げて、ソロの髪を掻き混ぜた。

「寧ろ苦手ばかりだな。得意とする事の方が少ないんだ、私は。」

「うっそだ〜。ピサロ物知りだし、いろいろ出来るし、強いじゃん。オレなんか‥」

「お前は私に出来ぬ事をやり遂げて来た。それは誰にも真似出来ぬ力だ。」

「そうですよ。あなたが居たから、この今のパーティが在るのです。」

真顔で語ってくるピサロに、柔和に笑んだクリフトが続く。

「ピサロ‥。クリフトまで…。もお、やだな‥2人とも。」

照れた様子で羞耻んで。ソロが困ったと頭を掻いた。



昼食を終えて一旦自室へと引き返した3人は、午後の鐘が鳴るまでの僅かな時間を

ゆったり過ごしていた。

「‥なんかさ。ミーティングに出るの久々だから。やっぱ緊張するかも‥」

ベッドに腰掛けたソロが、足元をぷらぷら揺らしながら、ぽつっとこぼした。

少々緊張した面持ちで、不安の滲んだ瞳が2人を窺う。

「大丈夫ですよ。さっきだって、いつも通りだったでしょう?」

ブライとライアンも食堂に来て居たので、小さなやりとりをして来たばかりのソロだ。

「‥うん。でも…やっぱりこれ‥外さないと変だよね?」

ピサロがくれたマントを指して、ソロが悩ましげに吐いた。

部屋の外へ出る時の必需品になってるそれを着けたままで良いものか、どうやら考えあぐ

ねているらしい。

「‥いいんじゃないですか。そのままでも。」

「…変じゃない?」

にっこりと答えるクリフトに、ソロが更に伺いを立てる。

「では‥こういうのはどうですか?」

クリフトは他の仲間に問われた時の回答をソロへ提案した。



「‥え、でも…。それじゃあなんだか‥‥‥」

「良いではないか。それなら連中も納得する他あるまい。

 余計な詮索は避けたいのだろう?」

「…うん。解った‥ピサロがいいなら、それで。…ごめんね。」

俯くソロの頭に手が置かれクシャリと髪が撫ぜられた。

優しいピサロの仕草が嬉しくて、ほんわりとした気持ちが膨らむ。

顔を上げると暖かな紅と蒼の瞳が見守ってくれていて、ソロはふわりと微笑んだ。





「ソロ‥! よかった、来られたのね!」

アリーナ達が使っているという3人部屋へ入ると、早速アリーナが笑顔で出迎えた。

「本当。これで久しぶりにメンバー勢揃いのミーティングになるわね!」

マーニャもにこにこと話し、隣に立つミネアもそれに頷きながら微笑んだ。

ブライ・トルネコ・ライアンもすでに揃って居たので。

ソロがベッド端に腰掛けたところで、早速ミーティングが始まった。

「ソロ‥改めて、お帰りなさい。」

アリーナがそう言うと、他のメンバーも口々に彼をそう迎えた。

ソロは最初驚いて、すぐに嬉しげに頬を染め、ほんの少し俯いた。

「‥ありがと、みんな。オレ‥こんな頼りないのに。本当に‥‥‥」

「何言ってんのよ、ソロ。あんたが居なきゃ始まんないのよ、このパーティは。」

「そうですよ。あなたがまとめ上げて来たパーティですからね。」

マーニャ・トルネコが口々に言うと、一同も同意を示すよう頷く。

「‥本当にありがとう。まだすぐには前線復帰出来そうにないけど。

 オレ‥早く元気になるから。」

「ええ‥楽しみにしてるわ、ソロ。でも‥焦らずにね?」

「うん。ありがとうミネア。」

気遣ってくる彼女に明るく微笑んで、ソロが顔が上げた。

泣きそうだった顔から憂いが晴れて、皆もホッと胸を撫で下ろす。

「‥ところでソロ。あのね、ミーティングに入る前に、訊いても良いかしら?」

「何‥?」

「皆気になってるから、先にすっきりしたいのよ。大したコトじゃないんだけど…

 あのね‥それ、なあに? なにか意味があるものなの?」

ソロの羽織った白いマントを指して、アリーナが遠慮がちに問いかけた。

「戻った時からずっと身につけてるでしょ? だから‥何か意味があるのかしら‥って。」

「あ‥うん。えっとね…オレ、手酷い傷負ったでしょ。それで‥竜の神が、ちゃんと治る

 まで身につけとけって‥。オレに言い付けたんだ。だから…一応さ‥。変‥かなあ?」

クリフトからの提案通り、竜の神の命令だと説明して、ソロが微苦笑した。

「へえ〜、そうだったんだ! 竜の神様もソロを心配してくれてたのね。そっかあ‥!」

アリーナが我が事のように喜んで、うんうんと頷く。

何がそんなに嬉しいのか、ソロには計り兼ねたが。どうやらそれで皆も納得した様子で。

ソロはひっそり安堵の吐息をもらした。

「お護りみたいなモノかしら? 何か特別な力を秘めているようですもの。それと…

 とっても似合ってるわよ、ソロ。」

「うん、すごく可愛いよ、ソロv」

「…マーニャ。それ全然嬉しくないから。」

笑顔全開で言われたソロが渋面を浮かべ、呟いた。

「それよりさ‥早速始めようよ?」

そうソロが促すと、アリーナが仕切り直すように小さく咳払いして、議題へと移った。

まずは現状を確認して、それから今後についての検討へと移る。

ソロに発言を求めると、彼は一同を見渡してから、ゆっくり口を開いた。

「えっとね‥とりあえず、新しい情報が入らない以上、ここに居ても仕方ないと思うんだ。

でね‥ここは別の角度から、探ってみるのも手かな‥って。

 例の洞窟‥挑戦しようと思ってるんだ。

 彼らなら、何か掴めているかも知れないでしょ?

 ちょっと訊くのに時間取られちゃうのが難点だけど。いい稽古にもなるしさ。」

「ふむ‥確かにな。徒にここで時を重ねているより有意義かも知れぬ。」

ブライが頷きながら答えると、ライアンも同意を示すよう頷いた。

「そりゃ‥あいつら相手の戦闘は、いいトレーニングになるだろうけど。

 でもソロ、あんたはまだ休まないと‥!」

ソロの発言に苦い顔を浮かべていたピサロが、マーニャの苦言に大きく頷く。それを認め

たクリフト・ミネアがひっそり微笑んだ。

「‥確かにソロには休養が必要ね。でも…皆で休んでる必要もないでしょう?」

「洞窟最深部へ向かうメンバーは4人。常に半数が待機となる訳ですから。しばらくソロ

には待機して戴く‥という事で。拠点をあちらに移しても良いのではありませんか?」

ミネアの言葉をクリフトが継いで、皆へ提案する。

「成る程ね。それなら戦力アップに励む傍ら、ソロにはきちんと休養を取って貰える‥か。

ソロ、それでいいなら、私も賛成よ。」

「ありがと、アリーナ。うん、みんなには申し訳ないけど、オレはしばらく戦闘メンバー

から外させて貰う。それでしっかり身体治して、戦列に復帰するからさ。」

「じゃ‥それで決まりね。ソロが大丈夫なら、明日にでも移動する?」

アリーナが一同へ問いかけた。

「うん、大丈夫‥だと思う。みんなもそれで平気なら、そうしよう。」



結局。ソロの提案通り明日拠点を移る事が決まり、ミーティングが終了した。

流石に少し疲れの色を滲ませたソロだったので、クリフト・ピサロとすぐに退出するつも

りでいたのだが‥背を向けたピサロをアリーナが呼び止めた。

「‥あ、ピサロ。ちょっと待って。あなたには少し話があるのよ。」

「‥なんだ?」

ちょっと不機嫌さを帯びた声音に、アリーナが思わず1歩後退る。

「ロザリーの事でちょっと‥」

小さな咳払いの後、気を取り直してアリーナが用件に入った。

「‥先に戻ってましょうか、ソロ?」

すぐに終わらないと判断したクリフトが、ソロを促す。

「うん…。」

踵を返したピサロの背をひっそり窺って、ソロは部屋を退出した。





「…あの、さ。クリフトは‥知ってる?」

部屋へ戻ると、ソロが逡巡しながらも切り出した。

「何をですか?」

ベッド端に腰掛けたソロの元へやって来たクリフトが、隣に腰を下ろす。

「…さっきの部屋、3人部屋だったでしょ? ‥ロザリーは?

 合流してからオレ一度も会ってないけど。宿に居ないの?」

「ああ‥そう言えば。ソロにはまだ話してませんでしたっけ?

 彼女今、トルネコさんのお宅でご厄介になってるそうでして‥」

「トルネコの家‥?」

「ええ。ネネさんの手伝いをして過ごしてるそうですよ。」

「‥そうなんだ。ふうん‥‥」

ソロはそう答えると、ゴロン‥とベッドに寝転んだ。

「‥アリーナの話ってその事かな?」

ぽつんと独りごちて、ソロが瞼を綴じる。そんな彼の額に、スッと手が当てられた。

「…疲れましたか?」

「‥ん、少し。」

「では‥ちゃんと横になって、少し休んだ方がいいですよ。」

「うん‥そうする…」



          

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