ピサロとソロ2


ブランカからエンドールを目指して約1週間。

歩けど歩けど街どころか、人にすら出会えない。

広がる草原は、こんなに視界がいいと言うのに。

うんざりする程遭遇するのは、魔物ばかり‥‥‥



「本当に道‥合ってんだよな?」

応えなどないのを知りつつも、オレは独りごちた。



最初は躊躇いがあった戦闘も、はっきり言って慣れてしまった。

…だって。殺らなきゃ殺られる―――

けれど。オレはまだ、死ばる訳には行かない。

村を滅ぼしたあいつを倒すまでは―――絶対、死ねない!



だから。[勇者]を捜してる…という姉妹に会う為に、彼女達が滞在しているという街を

目指してオレは旅をしていた。

[勇者]を殺しに来たと言ったあいつの…手掛かりが得られるかも知れないから。



ブランカでその情報を得た時、意外に容易く思えた旅だったけど‥‥‥

[世界]は想像以上に広いんだと、既に挫けたくなる自分がどこかに在った。

「はあ‥‥‥」

果てない青い空。この広い世界の中で。オレは独りなんだ――と改めて思い知らされる。

どこまでも続く緑の風景は、人の匂いがどこからも感じられなくて。

オレは途端、不安になった。

このまま独り、誰とも遇えぬまま‥‥‥一生――――?!

身の竦むような孤独感に、オレは身震いをした。



そんな時だった。馬の嘶きが微かだったが、丘の向こうから聞こえた。

僅かに人の気配も感じた気がして、オレは音の方へ走り出す。

「うわあ…! 助けてくれえっ!!」

丘を登ると、草原のずっと先から、切羽詰まった叫び声が届いた。

丘を駆け下り、更に走る。

「大丈夫かっ?!」

近づくと、馬車が大ミミズに取り囲まれていた。

2人が魔物を牽制し、2人が横転した馬車に引きずられたように倒れている馬を

起こそうとしてる。どうやら大ミミズの巣にでも嵌まったんだろう。

「とりあえずこいつらを追っ払おう!」

でこぼこした土を注意深く踏みしめながら、魔物と対峙してる彼らを促す。



あっさりと決着がついた後、皆で協力して馬と幌を起こした。

「やあ、本当にありがとう。助かったよ。」

馬車の持ち主だという商人の男が、オレの両手を掴み大袈裟なくらいに振った。

「…いえ。そんな‥。皆無事でよかったですね。」

「ああ本当に。君が加勢してくれたから。見かけに寄らず、強いな君は。」

…見かけに寄らず?

「…あ。いやいや‥まあ。所で。君は一人旅なのかい?」

思わず憮然としたオレに商人は口を濁すと、話題を変え訊ねてきた。

「はい…まあ‥。…あの。オレ、エンドールに向かってるんですけど。大陸を結ぶ

 トンネルって、こっちでいいんですか?」

「ああそうだよ。そうかい、エンドールに向かってるのかい。トンネルはこの先だよ。

 上手くすれば、今日中に着けるんじゃないかな?」

「え? 本当ですか!? そっかあ…。全然着かないから、不安になりかけてたんです。

よかったあ。オレ、ブランカを出てから人に会うのも初めてで。ああ‥よかった。」



結局。オレはそのまま彼らと昼飯を一緒にし、久々の人との接触に心底ほっとしながら、

彼らと別れた。

今はもうない故郷を出てから、まともに誰かと会話したのって、愛想ない割に親切だった

きこりのおっさんくらいだったから、なんだか色々話を弾ませてしまった。



まあ、その結果。日暮れ前にトンネルへ辿り着く事も適わなかったけどさ。

丁度良さそうな水場を見つけ、オレは野宿の準備に取り掛かった。

商人のおじさんから、食料も分けて貰ったし。見つけた泉はすごくきれいで。

馬車の通り道からは少し外れてる木立に囲まれた空間のせいか、村外れの林の中に居る

ような…そんな安堵感を覚えて。久々にのんびりした気分に浸っていた。

焚き火を起こし、貰った肉とその辺で見つけた野草を一緒に水で煮て、塩・胡椒で味を

調えたスープを作り、貰ったパンを取り出す。

今日は昼も豪華だったけど、夜もまともな食事にありつけて。

[食]のありがたみをしみじみ感じながら、暖かな夕餉を噛みしめていた。



食事を終える頃には、すっかり辺りは夜の気配が広がっていた。

今夜は明るい月の晩。丸みがかった月が泉を照らし、キラキラと輝いている。

オレはふと立ち上がると、泉へと向かった。

そっと手先を泉に浸す。

「…そんなに冷たくないか。」

そう呟くと、オレは焚き火の場所まで戻り周囲を窺った。

…今の所。魔物も獣も気配なし。

「…よし。決めた。」

決意を込めて言った後、オレは泉の側の岩に剣を置き、服を脱ぎ捨てた。



「うわ…。やっぱ少し冷たい‥かなあ…。」

静かに泉へと身体を沈めると、小さく身震いした。

それでも。頭から水を被り、身体の汚れを落としていく頃には、水の冷たさよりも

爽快感の方が勝り、オレは上機嫌で水浴びを楽しんでいた。

そう。あの声を聴くまでは――――



「禊とは、中々用意がいいな。」

揶揄かい混じりの低い声。ソロはびくんと身体を強ばらせた。

「…ピ‥サロ‥‥‥」

ソロは声のした方へ視線を向け凝視している。

腰まで伸びた見事な銀髪。黒づくめの衣装にアクセントのようにある赤いバンダナと腰帯。

鮮やかな紅の瞳。氷のように冷たい声。

ソロが剣と服を置いた岩に、くつろぐように腰掛けた男がそこに在った。

ピサロは茫然と立ち尽くす彼を、顎をしゃくって促した。

「‥ど‥して…あんたが‥‥‥」

『来い』と促されてるのは理解したが、身体が凍りついたように動いてくれない。

それでも。ソロは精一杯の眼光で、彼を睨めつけた。

「もう忘れたのか? その躯に所有の印を刻み付けてやっただろう?」

ねぶるような不躾な視線に、ソロはかあっと羞恥で頬を染める。

「水から上がって来い。2度は言わぬぞ。」

冷たく有無を言わせぬ迫力を含んだ声音が、金縛りにあっていたソロを貫いた。

彼はのろのろと泉から上がると、導かれるまま男の前に立った。

「ふん…すっかり跡が消えてるな。」

ぽたぽたと水を滴らせ、微かに震える躯に指を滑らせたピサロが薄く嘲笑う。

「なにを悸える?」

承知っていながら、ピサロが訊ねた。

「私が‥怖いか?」

「こ‥怖くなんか…! ‥‥あるもんか…!」

クク‥と嘲笑うピサロに睨み返したソロは、一旦言葉を切ると顔を逸らし吐き捨てた。

「‥では。期待に悸えているのかな? 甘美であったろう悦楽に酔いしれるのは。」

艶めいた声が耳元で唆してくる。意図を持って這う指先が背を滑り、腰を捉えると抱き寄

せ唇を奪った。

「ん…んん―――っ!」

逃れようと身を捩るが、力の差は歴然で。突起を摘まみ上げられ、気がそっちへ向いた

瞬間を狙い、入り込んだ舌先が口腔を蹂躙してくる。

送り込まれる蜜を嚥下させられ、蠢く舌がソロのソレに絡みついてくると、息継ぎがまま

ならず、呼吸の乱れたソロが、苦しそうに眉根を寄せた。

「ふ…。はあ…はあ…。あ…やっ‥駄目‥‥‥やめ‥ろ‥よぉ…」

唇を解放すると、体勢を入れ替え岩に組み敷かれるよう倒されるソロ。躯を這い回る舌に

ビクビクと反応を返しながら、ソロは抗議の瞳を向けた。

「躯はしっかり覚えているようだな…。」

朱に染まってゆく躯を満足そうに眺めながら、果実を味わうように舐め上げる。

ねっとりと熱い舌が、ほんのり彩づく突起を舐めてくると、密やかな甘い吐息が零れた。

左右交互に感触を確かめるよう、口に含まれねぶられる。

「あっ…やあっ。や‥んっ…はあ…はあ…ん‥‥‥」

殺し切れない甘い声音が次々とこぼれてゆく。

ソロは湧き上がってくる熱を解放させたくて、無意識に手を己に向かわせた。

だが、覆い被さる男にあっさりと、両腕を頭上に縫い止められてしまった。

片手で両の腕を戒められ、残る手が胸や腹を弄り、熱い舌が赤く染まった突起をねぶる。

勃ち上がるソレには掠りもせずに、指先が躯を這い回ると、こもっていく一方の熱が全身

を駆け巡った。



「ああっ‥。や…もっ‥‥‥」

焦燥ったく燻るソコに、決定的なものが欲しくて、オレは強求るような声を発してしまう。

ピサロは薄く嘲うと、唇を耳へと寄せた。                       
強求る→ねだる

「もう…なんだ?」

愉悦を含んだ囁きが耳元を濡らす。

「…あ。‥‥‥‥達かせて‥くれよ…」

消え入るような声音は、語尾が掠れ夜の闇に融けた。

「…あ‥っん…。ふ…はぁ‥はあっ…。ふ‥ぁ。んんっ…」

ピサロはオレ自身の根元を絞めるように握ると、唇を寄せ咥え込んだ。

滴っていた露を舐めとるように舌が這い、オレの反応を愉しむよう絡みついてくる。

水音がやけに響く気がして、羞恥と歓喜がない交ぜに煽られた。

ようやく待ち望んだ刺激なのに、根元を抑えられてるから解放出来なくて。

「あ…や‥っ。お願‥‥ぃ‥かせっ―――!」

強請むように言うと、ふいにピサロが口に含んでたモノを解放し、顔を上げた。

「‥今度は、貴様にもきっちり返して貰うぞ?」        
強請む→せがむ

…返す? 何を…?

「分かったから…お願い、早く―――」

何を言われたのかちっとも把握出来てなかったけど、一刻も早くこの熱から解き放たれた

くて。オレはコクコクと頷き、返答していた。

ピサロは口角を上げると、再び口にオレを含んだ。戒めていた手を離し、唇で扱き上げら

れる。既に限界に達していたソレは、瞬く間に極まった。

「あっ。ああっ―――!!」

ピサロは放ったモノを嚥下すると、口の端を伝うソレすら舌で舐めとった。

妖艶なその仕草は、躯が孕んだ熱にうねりを起こし、疼かせる。

「…ソロ。」

ピサロは脱力したまま、荒く呼吸をするオレの頬に手を添えた。

「今度は貴様の番だ。…解るな?」

指先がオレの唇をなぞる。艶やかな双眸で射貫かれると、ぞくりと背中が粟立った。



オレはその瞳に魅入られるよう、彼の導くまま彼自身を口に含んだ。

『嫌だ――!!』と拒絶する心奥とは裏腹に、躯の内に孕んだ熱が彼の誘いに酔いしれる。

おずおずと屹立したソレの先端を含むと、口内に苦みが走った気がして、眉を顰めた。

「ん‥ふぅ…。んんっ‥」

岩に腰掛けたピサロのソレに、彼の前で膝を着きたどたどしく舌を這わせる。

口に含むには大き過ぎたソレを、オレはペロペロと猫のように舐め上げていた。

「あっ。や‥なに‥‥‥?」

不意に後ろの蕾に指が忍び込んだ。

「こっちも大分お待ち兼ね‥だったんだろう?」

「そん‥な。あ…ふう‥‥‥」

揶揄されながら内部を指が探ってくる。肯定するような甘い喘ぎが思わず零れてしまった。

「口元が留守になってるぞ。」

くく‥と喉で嘲いながら、続きを促される。オレは後孔を探る指先に神経を取られながら、

舌を這わし彼を含む。滴りを舐めとっていると、思考がぼんやり霞みがかってきた。

「ん‥ふ‥。んん…ふ‥ぁん‥‥‥む?」

突然頭を抑え込まれ、強引に口内へ奴を呑み込まされる。喉の奥に熱い飛沫を叩きつけら

れると、ずるりとソレが引き抜かれた。

「ケ‥けほ‥。こほっ‥。ふ…なに、する‥っ…こほ…。」

口中に広がる苦みに顔を顰めさせながら、むせ返る。

そんなオレに構わず、奴はオレを立ち上がらせると、膝の上に跨がされた。

後孔を出入りする指がいつのまにか増やされ、内壁を掻き回す。

「あ‥ん…。や‥駄目‥ん…はぁ‥‥」

淫猥な水音に煽られるよう、オレは身動ぎ仰け反らせた。

奴の前に小さく尖った部分が晒されると、吸い込まれるよう唇が寄せられ、啄まれる。

どくり‥と欲望に灯が点火るのを感じ、オレは身震いをした。

艶を帯びた甘い嬌声がぽろぽろと零れてしまう。こもった熱を解放して欲しくて、オレは

無意識に奴に縋りついた。



「あ…も‥。ど…にか…して。」

色情に潤んだ瞳で懇願するソロに薄く嘲笑んだ後、ピサロは愉悦混じりに訊ねる。

「…どうしたい?」

敏感な場所をわざと掠めさせながら、唆すよう聞いてくる口ぶりに、閉口したのもつかの

間…彼は熱く脈打つその熱に負け、望む答えを口にしていた。



「…あんたが‥欲しい。…来てくれよ。」



「お前の躯は本当に覚えがいいようだな。」

ピサロは満足そうに言うと、指を引き抜き己を宛てがった。ソロの腰を抱く腕がそろりと

降ろされると、ソロ自身の重みが、猛ったソレを呑み込んでゆく。



「う…っく。はぁ…。ん‥‥‥」

質量のあるソレが入り込んで来る瞬間は、苦しくて痛かったけど。その先にある快楽を知

る躯は、思っていたより容易に奴を咥え込んでいった。

内壁を擦られる感覚は、甘美にさえ響く。

オレを穿つ楔が最奥まで辿り着くと、ピサロは唇を重ねさせ、歯列をなぞり上げた、

「はぁ…ふう‥‥ん――――」

甘い吐息の合間を縫って、滑り込んできた舌が口腔を生き物のように蠢き回る。

熱のこもった息すら奪うような執拗な接吻。

オレはいつの間にか、奴の背に両腕を回し、その接吻に酔いしれていた。

「ん…っはあ…。はぁ…。ふ‥」

緩く回されていた腰は、唇が解放されると本格的な律動に変わり、オレを突き上げてきた。

「あっ‥はぁ…っ。あ‥ん…ぁ‥‥‥ん…」

突き上げられる度、甘い喘ぎが零れ落ちる。熱い塊に熔かされていくような、そんな錯覚

を憶えながら、オレは奴の腹に白濁したものを放っていた。

オレの後を追うかのように、奴も躯の最奥に熱い飛沫を叩きつける。

その感覚を心地よく思いながら、オレは意識を手放していた。



「…んあ‥? ふ…っく。あ…はぁ‥」

深く沈んでいく意識が、穿たれる感覚に引きずられ覚醒した。

睡魔を増長させた、柔らかな毛皮を下敷きに、後ろから突き上げてくるのは…

一人しか居ない。

「…ピ‥サロ。も…勘弁して‥くれ‥よ。」

俯せになっているオレの腰を抱き突き上げてくる奴に、目線だけ向け懇願した。

「まだ始めたばかりでないか。」

「な…もう‥十‥分っ‥ふ‥ぁんっ‥‥」

しれっと答えながらも緩く責め立ててくるから、言葉が上手く紡げない。

「…それに。貴様もその気になってるようだが?」

…奴の顔は見えないけど。にやり‥と嘲笑ったろ、絶対。

「あんたがっ…そう‥仕向けてるから…だろ‥‥?」

欲望をいやって程煽ってくる場所を、わざと抉って来る奴に苦くぶつければ、

「違うな。この躯が貪欲なのだ。ほら、蜜を滴らせ悦こんで居るだろう?」

愉悦混じりの声音が言い聞かせるよう響く。張り詰めたモノを握り込んだ手が、鈴口に弧

を描いた。

「あっ‥はあ‥‥っ。」

堪らず漏らした甘い喘ぎに、したり声が届く。ピサロは更に律動を速めながら、オレを穿

ち啼かせてきた。律動に合わせた手の動きに促され、オレは瞬く間に追い上げられる。

だが絶頂を迎える直前、無上な掌にそれを妨げられてしまった。

「あ…や‥。なん‥で‥‥?」

「‥‥‥‥からな。」

呟くような囁きは、殆ど聞きとれなかった。

ピサロはオレの抗議など気にもかけず、己のリズムで突き上げる。

解放されないもどかしさが、塊に掻き回されながら熱に融ける。

繰り返される抽挿に甘い吐息が絶間なく零れてゆく。

奴の迸りを最奥で受け止めると、戒めが解かれ、オレも放っていた。

「…ああっ。はあ――――!!」

ようやく得られた絶頂感に身体を震わすと、胸を上下させ呼吸を整える。

くったりと突っ伏したオレの背に、繋がりを解き隣に座り込んだ奴の指が滑った。

「…も‥本当に、無理‥‥‥」

びくん‥と反応示す躯を恨めしく思いながら、体力の限界を再び告げる。

「貴様は力より先に、持久力が必要らしいな‥。」

意図なく指先を背に滑らせたまま、ピサロが揶揄するよう呟いた。

「伽の相手も務まらぬようでは、戦いにもなるまい…?」

…こいつとの力の差なんて。‥最初から‥理解していたさ。‥‥それでも。

「…今は無理でも‥。…今は無理でも、いつか‥オレはあんたを越える。」

決意を込めて吐き出すと、オレは重だるい身体を起こし、奴を睨みつけた。

「…そして。その時こそ、村の皆の仇を討つ。…殺すよ?」

「いい瞳だ。…私が憎いか?」

「当たり前だろ。いつか…オレはあんたを殺す。」

「…愉しみだな。」

凍った瞳で奴を射貫けば、愉悦を含んだ嘲笑が返される。

ピサロはオレの頬を掌で覆うと、冷たい唇を押し当てた。

「精々実力を蓄えることだな。…勇者に相応しい力量を。」

触れた唇より、更に冷たい声音が突き刺さる。

「…あの‥さ。」

オレはふと、村を出る時から不思議に思っていた事を憶い出し、口にしていた。

「…村には、誰の遺体も残ってなかったけど‥あれも、あんた達の仕業なのか?」

村人だけじゃない、魔物のそれすら、あの村には残されていなかった。闘いの爪痕から、

両者に犠牲が在ったのは疑いようないのに…

「…知らぬな。そのような意味を持たぬ事しかせぬ者の心当たりならあるが…」

‥‥意味がない? 心当たりがあるって‥‥

「知ってるの?! 皆がどこへ消えたのか?」

「…勇者を護った者として、神が弔ったのだろう。奴は地上に介入出来ぬからな‥。」

うんざりとした口調で言い切るピサロ。

解ったような解らない話に途惑うオレを他所に、ピサロは再びオレを組み敷いてきた。

「大分余力が戻ってるらしいな。所有物としての務めを果たして貰うぞ。」

誘うような艶を帯びた声音を響かせると、ピサロはオレの首筋に顔を埋める。

その先に待つものなど、いい加減覚えたから、慌てて奴を引き剥がすよう懸命に足掻いた。

「だ‥駄目だ…!  本当にこれ以上は勘弁してくれっ。この前ん時だって、翌日大変

 だったんだからなっ。腰は辛いは、腹が痛いは…。寝不足続きで、足腰立たなきゃ

 戦えねーよ。だから…な?」

「…私に貴様の体調を考慮する義務などない。

 第一貴様だって細微かな回復呪文なら扱えるのだろう?」      
細微か→ささやか

余りに色気なく懇願するオレに興が殺がれた様子のピサロが、憮然と話す。

初級呪文しか扱えねーのは確かだけどさ…。そうでなくて‥

「筋肉痛には効かねーんだよ。腹痛にもな。」

…おかげで、あの後3日は軋む身体を引きずって旅する羽目になったんだ。

「…ほう。筋肉痛が病と変わらぬとは知らなかったな。だが‥腹痛の原因なら、心当たり

あるぞ。いいだろう、今後の為にも教えてやろう。」

ピサロは含んだ笑味を浮かべると、いきなりオレを横抱きにし、立ち上がった。

「な…なんだよ‥?」

「明日も腹痛に苦しみたくないのだろう?」

「そ‥そうだけど‥‥」

ピサロは困惑顔のオレにそれだけ答えると、オレを抱えたまま泉に向かった。



「なあ‥一体なにを‥‥?」

泉の中央で奴に身体を支えられながら静かに降ろされたオレは、そっと奴の表情を窺う

よう顔を上げる。

「後始末をな‥実地で教えてやる。」

低い声音が情を孕み耳元を濡らす。その響きにぞくりと躯が悸えた。

「あ…やっ。駄目…って、言った‥ろ…」

片足を抱き、蕾を捉えた奴が、遠慮なく指を忍ばせる。入口を広げるように指が動く度、

泉の水が内部に入り込んでくる。冷んやりとした水が出入りする感触に総気立ちながら、

逃れようと試みるが、奴に支えられてどうにか立ってる身では適わなくて‥。

「あ…や‥。なに‥してるんだ…よ‥‥‥」

涙目になりながら、オレは精一杯奴を睨みつけた。

「後始末…と言ったろう。内部を洗ってやってるのだ。     
内部→なか

 内部に異物が残っていては、翌日辛かろう…?」

瞳を眇めながら、どこか愉しげにピサロが返した。

…内部に異物? ‥‥‥‥。…それって。考え至ったオレは、かあっと頬を染めた。

「…うん? ようやく理解出来たか?」

朱を走らせた顔で呆けているソロに、ピサロがはっきり愉しげに告げた。

「学習能力はあるらしいな。」

揶揄するような響きに、ソロは赤い顔を顰めさせながら、彼を睨みつける。

「…つまり。あんたの名残が腹痛の原因だった訳だ。最悪。」

精一杯毒づくと、ピサロが喉で嘲笑った。

「食さぬ物を喰らえば中たりもしよう。道理だな。」       
中たり→あたり

「て‥てめー! 他人事のように言うな! 誰が食わせたんだ?!」

涼しい顔でさらりと話す奴に食ってかかると、冷たい瞳がオレを睨めつけた。

「な‥なんだよ…?」

…う。そーだった。こいつはオレの村をあっさり滅ぼした張本人、危険な奴だった。

「…口が悪いな貴様は。それとも‥乱暴に扱えと強求られてるのかな?」

怯むオレにピサロは怖いくらい冷たい声音で言いながら、内部を抉るように探春してきた。

「…っく。やめ‥ろ‥よ‥‥‥う‥く…」

「こうされたかったのだろう…?」

乱暴に内部を掻き回しながら、冷笑を浮かべるピサロ。爪で引っ掻かれた箇所が水に晒さ

れ小さな痛みが幾つも走った。だが何より[怖い]と感じたのは、そのまま内壁を引き裂

いてしまいそうなくらい、冷酷な紅の瞳。

「‥‥‥‥‥ダ。…ヤダ‥。‥‥‥っく。ふ‥ぇ―――」

ぶんぶんと首を振って否定を現した後、不覚にもオレは泣き出してしまった。

有ろう事か。オレはこんな時にやっと、独り遺された不安定な自分を自覚したのだ。

――突然ほおり出されてしまった[世界]の中に置かれた立場というものを。



「…ソロ‥?」

突然堰を切ったように泣き始めた彼に、ピサロは少々困惑顔を浮かべる。

脅しが効き過ぎたか…とも考えたが、それにしてもこの反応は大仰だろうと眉根を寄せる。

これではまるきり子供ではないか。泣きじゃくるソロを扱いかねた様子で嘆息した。

「ふ…っく。ふぇ…ん‥‥‥えっ‥く…」

ソロ自身、非常に不本意な状況だったのだが、一度零れ始めた涙は、涸れる事を忘れたよ

うに後から後から込み上げて来る。感情の収拾が上手く着かないまま、ソロは目の前の温

もりに縋って泣き続けた。







翌朝。

目を覚ましたソロは、相変わらず服を身につけてなかったが、久しぶりに熟睡出来た事も

あり、すっきりとした面持ちで起き上がった。



「んー。なんかよく寝たー。…って。あれ…?」

自分の姿を確認して、昨夜の事を思い出し、オレは青ざめた。

「…オレ、あのまま寝ちゃったのか?」

泉の中で泣き出した後…どうにも記憶が落ちている。

…っつーか。仇の前で泣きじゃくった揚げ句寝ちまう…って。マジ?

「みっともねー…」

オレは独りごちると、何故か抱えていた服を着込んだ。

「…っつ。相変わらず辛いし…。」

そっと立ち上がったが、やはり腰の周囲が重くて痛い。ふと視線を焚き火へ向けると、

周りの石がやけに煤を被っているのに気づいた。

まるで。長い時間火に当たっていたかのように…

「…まさかな。」

―――でも。

深い眠りの中で。ふかふかな感触に包まれていた気がして、オレは眠っていた場所へと視

線を移した。

そこは緑の下草が申し訳程度に茂っていただけで。夢で感じた毛皮の感触とは程遠く。

周囲を見回しても、それらしい感触を齎してくれそうなものなどなかった。

‥‥‥あれは。

オレは不意に思いついたソレを否定するよう大きく頭を振る。

「やめやめ。さ。とっとと飯食って旅立たないと。

今日こそトンネルに辿り着くぞ!」



―――奴のマントだったんじゃないか?



浮かんだ答えは即座に却下し、オレは朝飯の準備に取り掛かったのだった。





2004/2/4
 



あとがき  


はい、こんにちは月の虹です(^^  ピサ勇妄想止まらないです、どうにも(^^;
もう楽しくて楽しくてvv 1話目を書いてる時に2話目がほぼ出来上がって(頭の中で)
今も既に3話目まで頭の中は突っ走ってたりします(^^;
鬼畜魔王サマ・・・は、どうやらソロくん相手にする限り無理そうなので。
ベタ甘路線に向かいそうな気配ですが。
元々恋愛感情もわからぬままに発生した関係が、どう歩んでいくものか(^^;
ちなみに。どーでもいいけど、
ソロくん、ピサロの「禊」だとか「伽」とか言った発言、わかってません☆
せっかくからかうように言ったのに。反応なくて、ピサロはちょっぴり寂しかったかも?

この時点で。すでに「おちて」そうなのって、ピサロの方な気が・・・・☆
その辺含めたピサロ視点の話。表にUPしようかな・・と企んでます♪←UPしました!

ここまでお付き合い下さった方、ありがとうございました(^^

追記:そうそう。ソロが突然泣き出した理由ですが。
この日は感情のアップダウンが激しくて。特にぴーサマと会った辺りから
ジェットコースター並に感情が揺さぶられてしまったため、
それまで押し殺してた感情が一気に噴出してしまったようです。
怖い――という感情が引鉄になったせいか、やたらと子供じみた泣き方に
なってしまいましたが・・・(^^; 

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