『木漏れ日の中で』 ピサロ×ソロ番外編




とてとてとて‥‥とたっ。

張り出した木の根を越えようとした幼子は、その向こうにあった障害物に躓きべたっと転

んでしまった。



深い森の中。きらきらとした木漏れ日が降り注ぐ昼下がり。愉しげな小鳥の囀りに誘われ

た翠の髪の幼子。拙い足取りの幼子が躓いたのは―――



大木に寄りかかり微睡んでいた旅の青年は、小さな物体が足に絡んで来たのを感じ、閉じ

ていた瞳をうっすら開いた。見ると、新緑の翠を映したような髪をした3等身程のちまっ

とした幼子が、地べたに座り込んだまま、何事かときょときょと視線を彷徨わせている。

幼子は視線を感じたのか、根の先にある幹へと目線を動かした。

蒼い大きな瞳が、紅の瞳と交わされる。

蒼の瞳は視線の先に在る青年をじっと見つめた。切れ長の紅い瞳。無造作に束ねた流れる

ような銀の髪。黒いシャツに同色のマントを羽織った全身黒ずくめの青年は、静かにそこ

に在った。特徴のある尖った耳は人外の証しだったが、幼子には馴染み深い少女のそれと

同じなだけである。

きょとんと己を見る幼子を、青年は猫の子でも掴むように、子供の背をつまみ上げ身近に

引き寄せた。



――近くに村などなかったはずなのに、どう見ても人間の子供のようだ。



青年は怪訝そうに眉根を寄せながら、突如現れた物体をまじまじと観察した。

こぼれそうなどんぐり眼が、更に大きく見開かれた後、弾けたような笑みに変わる。

きゃっきゃ‥とはしゃぎながら手をばたばたさせる幼子を、扱い兼ねた青年が離した。

ぽて‥っと青年の腹に落ちた幼子が、彼の顔に手を伸ばし這い上る。

「だくろのおめめ。だくろだよ。」

嬉しそうに、幼児特有の拙い音を発してくる物体を、青年が不思議そうに見つめた。

「だくろ‥?」

「うん。だくろ。しあない?」

「解らぬな。」

「んっとね、だくろはね、あかくてつぶつぶれね、ぷちってするとね、きらきらなの。

 そいれね、ぱくってたべうとすっぱあのよ。」

「赤い粒々? 酸っぱい食べ物…か?」

拙いしゃべり口調をどうにか読み取りながら、青年が首を捻る。

「こえくあいれね、ぱかってすうとつぶつぶいっぱいなの。ソロねー、すきなんだ。」

ジェスチャーを交えながら、幼子が懸命に説明した。

「ああ。…もしかして、柘榴の事か?」

「うん、だくろなの。にーた、おめめだくろだね。」

また思い出したように、幼子が彼の顔に手を伸ばしてくる。

「だくろたべたら、あかくなったの?」

ぺたぺたと整った顔に容赦なくぽよんとした手を張り付かせる幼子。青年はやんわり

とそれを外しながら、逆に問いかけた。

「お前のそのこぼれ落ちそうな瞳は蒼いが、空の青でも写ったか?」

幼子はぽよぽよと眉を寄せると、その瞳を曇らせた。

「ソロのおめめ、おちちゃうの?」

不安げに訊ねてくるソロの瞳からは、すでに涙がぽたぽたこぼれている。

「‥落ちた事があるのか?」

ブンブンと首を振って否定を示すソロ。青年はポムと彼の頭に手を乗せた。

「ならば問題なかろう。落ちぬから安心しろ。」

「ほんと?」

「ああ。」

「えへへ。」

薄く笑んだ青年に安心したようソロが笑顔を取り戻した。

「にーたあ、かみもきらきらね。」

サイドに落ちた一房の銀髪を掴みながら、ソロが青年に笑いかけた。

人懐こい笑みを浮かべる幼子を、青年は不思議そうにみつめる。

「…お前、私が怖くないのか?」

「ろーして? にーた、こあいの? ソロいるからへーきだよ。」

「‥‥‥‥」

‥どうやら通じてないらしい。妙な返答に青年がクツクツと笑った。

あまり他人と関わる事をして来なかった青年だが、当たり前のように胸にどっかり腰を下

ろしたまま無邪気な笑顔を向けてくる、この奇妙な幼子の体温がどこか心地よく思える。

「お前はソロと言うのだな。この辺りの者か?」

「うん。ぼくソロなの。」

「‥家は? 近いのか?」

「うん。あっち。ソロねー、あういてきたんだ。」

ソロは自分が来た方角を指差しながら答えた。

彼の指し示した先は深い森でしかなかったが、青年はその先に小屋でもあるのだろうと、

大して気に止めなかった。



「にーたあ、ずっとここにいうの?」

青年の顔の覗き込みながら、ソロが訊ねた。

「‥いや。ここにはたまたま寄っただけだからな。」

「じゃあ、いなくなっちゃうの? もうこない?」

寂しそうにソロが眉を曇らせた。

「ああ‥そうだな。」

「…そうなの。‥‥ぼくかえる。あそんれくえて、あいがと。」

俯いたまま、どこか感情を抑えた口調でぽつぽつ語ったソロが、青年から退こうと身体を

滑べらせた。

「…? どうした、ソロ?」

顔を見せずに背を向けた彼を訝しむように、青年が声をかけた。

ソロは小さく首を振り、彼の膝の上から降りようと腕を着く。青年はそのまま去ろうとし

ている幼子の肩に手をかけた。

「急にどうした? 来ない‥と言ったのを怒ったのか?」

青年の問いかけに、ぷるぷるとソロが首を振った。

「‥ちあうもん。さいみくなんかないもん。」

涙声のソロがぽつんとしゃべった。

「そうか‥泣くほど寂しいか、ソロは。」

ようやく理由を理解した青年が、なぜか機嫌良く顔を綻ばせ、ソロの髪を撫ぜ回した。

「ちあうもん。ないてないもん。さいみくないもん。」

「では何故、そちらを向いたままなのだ?」

ソロはふるふると首だけ振って答えた。

頑なな態度に、青年がソロの両脇に手を添えるとふわりと抱き上げ、自分の方に身体を反

転させた。顔を覗き込むよう高く上げられ、ソロが困ったように眉を寄せる。涙の跡を残

すソロが、不満そうに口をへの字に曲げた。

「やはり泣いてたな。」

紅い瞳が細められ、すっと口角が上げられると、ソロの瞳が揺らいだ。

「どうした? 正直に申したら、気が変わるやも知れんぞ?」

今にも涙がこぼれ出しそうなソロに、青年が促す。

「‥いいの? さいみくてもおこあない?」

「ああ。」

柔らかく微笑む青年に安堵したのか、ソロがぽろぽろと涙を落とした。

「にーたあ‥」

小さな両腕を彼の首に絡ませながら、ソロがしがみつく。

青年は片腕でソロの背を支えつつ、残る手で顔に張り付く柔らかな新緑の髪を梳き上げた。



「…あのね、にーた、またくう?」

一頻り泣いた後、彼の首に顔を埋めたままのソロが、遠慮がちに訊ねた。

「来て欲しいのか?」

こくん‥とソロが頷いた。

「またソロとあそんれ?」

クルクルとした蒼の双眸が、紅の瞳を捉えた。ぽよんとした紅葉の手が白く滑らかな青年

の頬をぺたっと押す。

「気が向いたらな。」

「ほんと!?」

苦笑しながら話す青年に、ソロの顔がぱあーっと晴れた。

「うふふ‥‥‥」

にこにこと笑顔を浮かべたソロが、不意に自分がやって来た方角へ顔を向けた。

「…あーたん。…ソロもうかえるね。」

ぽつんと呟くと、ソロが青年に向き直り続けた。

「にーた、あのね‥」

ソロは青年の膝の上で目一杯身体を伸ばし、彼に内緒話をするよう両手を彼の耳にあて、

口を寄せた。

「ソロね、だくろすきなの。にーた、おめめだくろだから、すきよ。」

ぽよぽよの手のひらを通して伝わる少しくぐもった可愛らしい声音。暖かな体温と共に伝

わった小さな声は、不思議に心地よく届いた。

えへへ‥と笑った次の瞬間、ソロはぽよんとした紅葉の手を彼の頬に添え、ふっくらした

小さな唇を、そっと青年のそれと重ねた。

意外な行動に、青年の瞳が初めて動揺に揺らぐ。

「えへへ…んっとね、ちかいのきすなの。またあそんれね、にーた。」

ソロはそう言い切ると、ストンと彼から降り離れた。

「じゃーね、ばいばーい。」

大きく手を振って駆け出したソロを、ぼんやり見送った青年は、彼の身体がほんの数歩先

で霧に隠れるよう姿を消した事にも気づかなかった。

独り取り残された青年が、ぽつりと呟く。

「誓いの‥ねえ。意味など解ってないだろうに…」

クック‥と愉快そうに笑う青年が肩を揺らした。

「可笑しな奴だ…」

そう言って立ち上がった青年は、またそのうち訪ねてみようと思いつつ、この不思議な地

を去った。



銀髪に紅い瞳の青年ピサロと、まだ幼かった勇者ソロの小さな出逢い。

魔王でも勇者でもなかった2人の出逢いが、そこにひっそりと在った―――








2004/4/22





あとがき・・・という名の言い訳☆

いやあ・・・。やってしまいました(^^; ちびっこいソロを想像し出したら止まらなくて。
・・・こんなん出来あがってしまいましたよ(++;
もう趣味走りまくりですね、私・・・(^_^;
今回のお話は、あくまで番外編としてお読み下さいませ。
実際にあの2人がこういう出逢いを果たしていたとするか否か・・・
考え中だったりするんで(^^;

それでも。一応背景などをちょっと・・・・
ソロは3〜4歳。(それにしては、言葉が未熟か?)←まあ。彼の成長が遅かったのかと☆
ピサロはまだ魔族の王でもなんでもない、流浪の身だったようです。
(ロザリーともまだ出会ってない)
独り気ままに世界を回っていた途中、身体を休めていた場所が、たまたま村の近くだった・・と。
彼には森が広がってるように見えた、あの樹の少し先は、もう結界内だったんですね。

念の為。ピサロ様は、○リコンではありません(^^;

・・・が。描いてる最中、ソロがあんまり可愛らしくて、ピサロ様もついつい?「可愛い」と思ってたのは
確か(^^; まあこの場合。「小さきモノ」「幼い者」へ普通に感じる愛しさ・・とゆーことで。
妙な方向へ走ってる訳では、決してありませんので、その辺誤解ないように。
まあ。この時ソロを「可愛い」と思ったコトがきっかけとなり、「可愛いモノ好き」に目覚めたようでは
ありますが・・・☆

ソロがねえ。なんだかすご〜く、ぴー様に懐いてしまいました(^^;
彼がずっと「独り」である事を肌で感じたようで、「側に居てあげたい」と思った台詞が「ずっとここに居るの?」
だったんですね。だから「来ない」と言ったぴー様の台詞に、「ソロは必要ない」と言われた気持ちに
なって、とってもがっかりしてしまったと。
そこで彼は自分が「居て欲しい」と望んでるコトに気付いてしまい・・・・
「誓いのキス」にいたった訳です(^^;

少し前、シンシアが夢見るように語った物語のラスト、ハッピーウエディングを曲解して☆
(「誓いのキス」をすると、ずっと側に居られるようになるんだ・・・と思い込んでる。)

ちなみに。ソロは「おやすみのキス」を5〜6歳くらいまで親しい人としていたらしい。
まあ。見知らぬ「お兄さん」にしたのは、かなり『特別』であったと思いますけどねv

・・・って。本文短いのに、あとがき長っ!!(==;

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