春愁酔闇










春愁:春になっての、なんとなく気だるく物憂い感じ。















訪ねてきた時分がいけなかったのだろうか……?
確かに今は真夜中で、普通だったらこんな時間に訪問してくるような客はいないだろう。
訪ねた理由だって、真夜中に訪ねてくる程の急用というわけでもなく、ふざけるなと言われるかもしれないが、ただ……なんとなく……。
それでも敢えてその『なんとなく』を言葉に形容するなら『人恋しくなって』……という言葉が一番しっくりくるだろうか。
山奥の村で1人で暮らすことにはもう慣れたけれど、春が近いとはいえ、まだまだ冬の寒さの残る中、 1人孤独に過ごすというのはやはり精神的にまいってくる……。
それは何も今日に始まったことではない。
雪が降った日、雨が降った日、本当になんの変哲もない穏やかな日。
ふいに胸中に寂しさや空虚といったものが押し寄せた時、僕はいても立ってもいられなくなり、気付けばいつもピサロの元を訪れていた。
こればかりは自分でも不思議だと思うが、他の仲間の所へ訪れるという選択肢は思い浮かばなかったのだ。
それでもピサロは僕がいつ来ても、それこそ深夜に訪れようと、何の文句も言わず、いつも変わらない態度で接してくれていた。
だからそんなピサロに、僕はいつしか甘えていたのかもしれない……。


だけど、今日のような態度は初めてだ……。










「ユーリル殿?ピサロ様をお探しですか?」

いつもの執務室に行ってもピサロの姿は見当たらなかった。ならば会議室のあたりにいるのかと思い、そちらに向かえば書類整理をしていたアドンに先に声を掛けられた。

「うん。遅くに悪いな、アドン。……ピサロは?」

念のため、ぐるりと広い室内を見回すが、目的の人物はここにもいなかった。

「……ユーリル殿、今日は、その…ピサロ様にお逢いにならない方が……」

「え?なん―――」

珍しく口を濁すアドンの言葉の意味を量りかね、尋ねようとした刹那ガチャリと扉が開いた。扉から入って来たのは捜していた人物、ピサロ。

「…あ、ピサロ」

「……ピサロ様……」

ピサロは声の方に視線を向け…ユーリルの姿を確認すると僅かに眼を細めた。そして―――

「……何をしに来た……」

逢うなりの第一声にいつにない棘を感じ、ユーリルはなぜかピサロに拒絶されたような気がした。

「何って……ごめん、別に用はないんだけど……」

今までこんな言い方をされたことはなかったので、思わず口篭る。
平素ならば「用がなきゃ来ちゃいけないのかよ?」と減らず口の1つも叩けたかもしれないが、今日のピサロにはそれを言わせないような重苦しい雰囲気がある。

「………………」

ピサロは黙ったまま、ただこちらを見つめている。

「あ、あのユーリル殿、申し訳ありません。今日はピサロ様も執務が忙しく、それで……」

「……ごめん、おまえ忙だって忙しいのに、こんな遅くに来て迷惑だったよな。やっぱり帰るよ……」

アドンが取り計らってくれているがピサロの無言の重圧に居た堪れなくなり、ユーリルが踵を返そうとすると、そこで再び声が掛かった。

「………それでおまえは何処へ行く?」

「…え?何処って……村に帰る、けど……?」

何処も何も、自分が帰る場所はそこしかないではないか。
不明瞭なピサロの問いに振り返り、何を言っているのだと言わんばかりにユーリルは首を傾げた。

「………来い」

だがその答えに何を思ったのか、憮然とした表情のまま一言告げたピサロに、ユーリルは突然腕を掴まれ、引っ張られる。

「え?ちょっ、何処に行くんだよ!?」

「ピサロ様!?」

驚いたアドンも慌ててピサロに声をかけるが、ピサロはアドンに対して一瞥をくれただけだった。
その紅の瞳は……いつになく冷たい……。
おそらくは余計なことを言うなという無言の圧力だろう。

「……ピサロ様……」

会議室に取り残されたアドンは、いつになく様子のおかしい主と、連れて行かれたユーリルを想って、ただ祈り、見守るしかなかった……。










一方、ユーリルが強引に腕を引かれたまま連れて行かれたのは、予想通りというべきなのか、ピサロの寝室。
いつもここに来ているとはいえ、今日は何となく嫌な予感がした……。

「ちょ、ちょっ、ピサロ…!?」

平素のピサロらしからぬ行動に戸惑っていると、ふいに微弱なアルコールの残り香が鼻についた。一緒に旅をしていた時でさえ、ピサロが酔っていることなど見たこともなかったが、まさか……

「おまえ……ひょっとして酔ってるのか?」

確認しようと問い掛けても、ピサロは変わらず無言のままで、気付けばあっという間に視界が反転し、背後にあった豪奢なベッドへと押し倒されてしまう。

「あ…っ!」

勢いよく倒れこんだためにベッドのスプリングがキシリと悲鳴を上げた。
だがピサロは気にすることなく、ユーリルの華奢な身体をベッドに押しつけると、その上に自分も圧し掛かった。

「ちょっ!ピサロ!!退けよ!!」

焦りながらもユーリルは怯む事なく抵抗し、覆い被さるピサロを退けようと、必死に手足をばたつかせてもがいた。こうもわけがわからないまま、意のままになってたまるかという意思表示である。

「……邪魔だな」

暴れるユーリルにピサロは短く舌打ちすると、振り回される両腕を難無く見極め、素早く掴む。そして自らの頭部を覆っていたバンダナを用いてユーリルの両手首を頭上で拘束すると、腕の自由を奪った。

「痛っ…、何するんだよ!おまえ、なんか変だぞ!放せっ!!」

いつもと様子の違うピサロに内心では困惑するものの、ユーリルの紫暗の瞳はますますピサロを強く見返し、射抜く。
一見すると穏やかで、女性と見紛うような容姿や華奢な外見から誤解されやすいが、いくら力で脅したとしてもユーリルは易々と屈服するような容易い気性ではないのだ。

「……わたしはいつも通りだ」

だがピサロの方も解放するつもりは毛頭ないらしく、そのまま行為を進めようと胸元までシャツを捲り上げた。ユーリルの白磁のような肌が外気に晒され、露になる。ユーリルの細い躯の線に沿って、まずは脇腹を撫で上げ、シャツの合間から見え隠れする熟れた紅い果実に舌を這わせた。その果実を口内に含めば、ピクンとユーリルの躯が反応する。

「……やっ…あ―――」

己の意に反するように、ピサロの口内に含まれた紅い果実が愁々しく膨らみ、艶めかしく色付いてゆく。開いた方の手でもう片方の果実を弄り、爪先で捻るように摘み上げると、ユーリルの口からは短い悲鳴が洩れた。

「あっ…く……」

どれだけ嫌がろうと、既に何度も己を受け入れたことのある慣れた躯は、正直に反応を返してくるのだ。
それに気を良くしたピサロは一度胸元から唇を放すと、今度はユーリルの顎を捉え、唇で唇を塞ごうとする。

「!?」

上向かされ、ピサロの行動の意図に気付いたユーリルが顔を背けようとするが無駄だった。背ける顔を強引に正面に捉えられ、一瞬、視線が絡み合ったかと思えば次の瞬間には無理矢理口付けられる。

「………っ、………や…だっ……!」

痛みに思わず唇を放せば、ピサロの唇からツと紅い血が滴った。
ユーリルが思い切り噛んだせいである。
ピサロは自らの腕で血を拭いながら、些か怒気を含んだ表情でユーリルを見やる。すると当のユーリルは肩で息をしながら、どこか脅えを含んだ眼でこちらを見つめていた。

「……ピサロ……一体どうしたんだよ?おまえ、やっぱり変だよ……。何か怒ってるのか……?」

いつものピサロならば多少強引な所はあるにせよ、こうも無理矢理ことを進めようとはしない筈だ。何か怒っているのかとも思ったが、その理由もわからない。わからないままただ強引に事を進められるのだけは嫌だった。
怒っているのなら怒っているで、せめて理由を言ってもらいたかった……。

「……別に怒ってなどいない。……わからないか?」

わからないか?と逆に返され、ますますユーリルは混乱する。
わからないから尋ねているというのに、どうしてこの男は求めている答えをすぐには与えてくれないのだろう……。

「……わからないから聞いてるんだろ?僕が何かしたのか?」

下手なことを言うぐらいならと、正直に答えてみたが相変わらずピサロは何も言わない。それどころか答えを告げないまま再び行為を進めようと、今度は首筋や鎖骨に唇を寄せ、舌を這わせてきた。
ユーリルの肌に次々と紅くれないの華が咲き乱れてゆく……。

「だ、から…よせってば……!!」

押し返したくとも、腕は頭上で固定されている。こちらの言う事をまともに取り合ってくれないピサロにユーリルは声を荒げた。それでも肌に熱く絡む、ねっとりとした感触が離れることはない。
悉ことごとく意志を無視され、終いにユーリルは泣きたい気持ちにすらなった。
やがてピサロの手が下肢へと伸ばされ、昂ぶり始めている自身を布越しに緩く弄ばれる。

「やっ……あぁ……」

「拒む割には悦んでいるようだが?」

下肢の昂ぶりを揶揄しながらピサロが冷たく嘲笑する。先程からの焦らすような愛撫に、ユーリルの下肢は熱く疼き、眩惑げんわくされていたのだ。

「こん、なのは……いやだ…っ!!」

心に反するように躯に裏切られ、ユーリルは悔しさから唇を引き結んだが、とうとう涙は零れ落ちた。一度零れ出した涙は後から後から湧水のように流れ出し、止まらない。これにはさすがのピサロも行為を止め、困惑した。

「………何を泣く。今更、生娘でもなかろう?」

「///ッ…それはアンタがっ!!」

「わたしだけのせいにする気か?受け入れたのは他でもない、お前自身だというのに……」

「………っく、……でも……こんなの…は……やだ…っ……。……僕は…、…っく、……物じゃ、ない…のに……っ……」

しゃくり上げながら、それでもユーリルはピサロに訴える。自分の意志は聞き入れられず、まるで己を物の様に扱うピサロが怖かったのだ。

「……ユーリル……」

ユーリルの言葉に、ようやく我に返ったピサロは零れ落ちる涙を指先で拭い、汗で張り付いたユーリルの前髪をそっと掻き上げてやる。

「……なぁ……本当に……おまえ、どうしたんだよ……?」

ユーリルは愁えた瞳のまま、心配そうにピサロを見上げる。ピサロがこんなことをしたのには、やはり何かしらの理由があると思ったからだ。

「………気分が優れなくてな……少し、悪酔いしていた。それだけだ……」

ピサロは見上げてくるユーリルから心持ち視線を逸らし、答えた。

「……なら、僕から視線を逸らすなよ。こっちを見て言え」

けれど、ユーリルは見え透いた誤魔化しを許そうとはしない。ジッとピサロの眼を見つめている。

「……おまえは……時々酷なことを言うな……」

「アンタが嘘を付くからいけないんだろ」

苦笑するピサロにユーリルはきっぱりと答える。もはや一時前に自分が泣いていたことなど忘れているのではないかと思う程の潔い態度だ。

「まぁ、元よりおまえの瞳を誤魔化せるとは思っていなかったが……」

「わかってるなら最初から答えればいいじゃないか。それとも僕には……言いにくいこと、なのか……?」

ユーリルの瞳が幾分か不安気に揺れる。本人は気付いていないのかもしれないが、ユーリルの感情は、何よりもその紫暗の瞳に顕著に表れるのだ。

「そういうわけではない。……わたしがその瞳に振り回されて、勝手に苛立っていただけだ」

ピサロはユーリルの頬にそっと手を添えながら囁いた。観念したのか、今度はユーリルの視線を真正面から受け止めている。

「僕の、眼……?」

「先のように何でも見通すような瞳を持っているくせに、おまえは鈍いのか、鈍い振りをしているのか、肝心なところでわたしの横をすり抜けていく……。ようやく捉えたかと思えば、空気のように易々と逃げていく。おまえの感情だけは……いつまで経っても掴めぬままだ……」

「ピサロ……」

「それなのに当のおまえの瞳は……一つ所に留まることをしない……」

いつになく饒舌に語るピサロは、やはり酔っているせいなのだろうか……。

「………………」

「……いっそ、どこかに閉じ込めておいてやろうか?わたしだけしか眼に入らぬよう、暗い地下牢にでも繋いで置いて……」

互いの吐息が触れ合うぐらい近くで、まるで睦言のような、昏くら く甘い誘惑を囁かれる……。

「……でも、どうせお前はそれじゃあ満足しないんだろ?」

力ずくで捉えるだけなら、端からそうしていてもおかしくなかった。けれど今までピサロはそれをしていなかったのだから……。

「!?」

ユーリルはふいに僅かに上体を起こし、自らピサロへと口付けた。これにはピサロも面を喰らったようで、眼は開いたままであった。

「……もういいよ。ごめん、無理に言わせちゃって……。もう、聞かないから……」

唇を放すと、ユーリルは長い睫を伏せたまま謝罪する。
おそらく酔ってでもいなければ、ピサロはどう問うたところで、絶対に口を開かなかっただろう。それを無理に聞き出してしまった己に、罪悪感が募ったのだ。
そんなユーリルの態度をどう捉えたのか、今度はピサロの方から口付ける。笑んだ薄い唇を、角度を変えては、何度も何度も……。

「……ならば、もう何も言わせぬからな……?」

耳元で囁かれたピサロの言葉の意味が、これからする行為に対して言っているともわかったが、ユーリルはただゆっくりと頷いた。
そして頷いた次の瞬間には耳朶を噛まれ、鈍い…けれど甘い痛みがユーリルを襲った。

「つっ……」

痛みに顔を顰め文句の一つぐらいは言ってやろうかと、ユーリルがピサロの方を見上げれば、いつもの性悪な、そしてどこか愉し気なピサロの表情が眼に入った。

「人を散々振り回してくれた礼をしなくてはな……」

「それはアンタが勝手に―――」

こちらに反論の余地もなく、息も吐けぬほどの激しいキスに言葉を封じられ、眩暈がする……。
まさか演技をしていたとは思わぬが、先程までの殊勝さがまるで嘘のよう。

「んぅ……っ……」

口腔に舌を差し込まれ、奥へと逃げる舌を舌で絡ませられる。歯列の裏をなぞり、口腔を我が者顔で蹂躙していく、悪戯な生き物。唇を放せば、どちらのともしれない銀の糸が唇から漏れ、顎から首筋へと伝った。
ユーリルは流れ落ちる唾液を拭おうとしたところで、未だに手首は不自由なままだと気付いた。

「……それ、外してくれないのか?」

ユーリルは涙目のまま、視線で未だ戒められたままの頭上の手首を示す。

「それとこれとは話が別だ。たまにはこういうのもいいだろう」

中々に良い眺めだぞ、とピサロは可笑しそうに言いながら、素早くユーリルのズボンを下着ごと取り去った。

「///なっ!?」

ピサロは曝け出されたユーリルの両脚の間に割って入ると、中心に向かって屈み込んだ。慌てて閉じようとした脚は強引に開かれ、ヌルッとした生き物のような感触が自身を襲った。
もはや両脚に力は入らず、ビクビクと不埒な快楽に震えてしまう。

「……ひあっ……止め―――ッ!!」

身を捩って拒もうとすれば、巧みな舌の動きでユーリルの言葉を封じてしまう。
ピチャピチャと濡れた卑猥な音が、下肢から洩れ響いてくるのを聞いて思わず泣きたくなった。ユーリルは耳を塞いでしまいたかったが、両手は頭上で戒められているため、それすら叶わない。
眼を閉じ、ただひたすら羞恥に耐えることしかできなかった。

「い、や…っ……ひっ…あぁ――――!」

舌先の妙技が止んだかと思えば、次の瞬間には自身はピサロの口内に含まれ、舌先で嬲られ、思うままに愛撫されている。それどころか大腿を捉え、撫でるしなやかな指先の微妙な動きや、頭上から零れ落ちる銀糸にすら、翻弄されているのだからたまらない。
ピサロが刺激を与えるその度にユーリルの躯は活きのいい魚のようにビクンビクンと撥ね上がり、撓った。
そんな己の反応に羞恥は増すが、手が使えない分、より深い快楽を求め、無意識にピサロの方に腰を押し付けていることにユーリルは気付いていない。

「や、ぁ………も、……だめっ………はな、して……っ……!!」

次第に下肢を駆け巡る慾望の熱に翻弄され、ユーリルは身を悶えさせる。それでもピサロは口を放しはしない。

「そのまま達けばいい」

「や、あぁぁっ…!!」

ピサロが嗤い、徐に歯先で尖端を甘噛みしてやれば、ユーリルは堪らず背を弓なりに仰け反らせ、そのまま甘露を放った。
ピサロがそれを躊躇いなく嚥下する音に、ユーリルは紅潮した頬をますます紅くさせ、あまりの恥ずかしさに居た堪れなくなる。

「随分と出したな。そんなに悦かったか…?」

意地の悪い問いかけにユーリルは俯いてしまう。だが、言葉にせずとも頬の赤身が、肯定していることを如実に物語っていた。

「………もう、これ……外せよ……。……手、いたい……」

やがて荒い息を整えながら、ユーリルは戒めを解けと訴える。

「仕方がないな……」

ユーリルの様子に満足したのか、ピサロは以外にあっさりと戒めを解いた。解かれた手首は紅く擦り切れ、まだジンジンと痺れていたが……。
ユーリルは擦り切れた手を擦りながら恨めしげにピサロを睨むが、生憎と涙目のままでは、誘っているようにしか見えない。

「無論、これで終わりだとは思っていないな?」

確認のように問い掛けると、ピサロは先程熱を放ち、未だ湿っているユーリルの蕾に、躊躇いもなくつぷりと指を差し入れた。

「っ、あ…」

甘い吐息が洩れる。濡れた蕾は、多少の違和感を感じさせはするものの、異物の侵入を存外あっさりと許した。それが慣れているせいとは思いたくなかったが……。
やがてピサロの長い指先が内壁を拡げるように掻き回し、掻き乱す……。同時にユーリルの内壁はピサロの指を奥へ奥へと誘い込んでゆく……。

「…あ、やっ…ん……!」

抜き差しを繰り返し、くちゅ、と淫靡な音と共に、ある一点を引掻いてやればユーリルの口からは一際高い嬌声が洩れる。
指の数が2本、3本と増やされても、決定的な刺激を与えられないのがもどかしい……。
もはや指だけでは、足りない……。躯はもっと確かな刺激を求めている。
ユーリルは強請るように両腕を伸ばし、ピサロの背を掻き抱いた。

「欲しいのか?」

ユーリルの望むものをわかっていながらの、意地の悪い問いかけ。戯れに再び熱を孕んだユーリル自身を爪先で弾いてやる。

「はっ…あぁ…!」

堪らない刺激にユーリルは白い喉を仰け反らせる。自身からも再びとろとろと蜜が溢れてきた。

「どうした?言わぬのならずっとこのままだぞ?」

ピサロはくっと喉の奥で嗤う。

「ひ、あッ………あ、も、いい…から……はや…く…っ……きてっ……」

ユーリルは堪らずピサロに口付ける。言外に、早く欲しいと訴えて……。

「……強請るのが上手くなったな」

ユーリルの無意識の痴態に煽られ、背筋がゾクリとする。
ピサロは指を引き抜くと、空虚さを埋めるモノを求めていやらしく収縮する蕾に、己の慾望を宛がう。

「……力を抜いていろ」

囁き、ユーリルの最奥を一気に穿った。

「ひっ、あぁ――――!!」

内臓まで抉られるような圧迫感。ようやく待ち望んでいた刺激に、掠れた歓喜の悲鳴が上がる。

「ッ……キツイな……」

内部のキツイ締め付けにピサロが感嘆の息を漏らした。やがてユーリルの息が整う暇も無いうちに、激しい動きで突き立てられ、ユーリルの躯がビクリと震えた。

「やっ……あ…ダ、メ…ッ…うごか…ないで……っ……」

ユーリルは身を捩りながら訴えるが、その懇願は聞き入れられない。それどころか、かえってピサロを煽り立て、尚も激しい動きで揺さ振られてしまう。

「悪いが…生憎こちらも限界が近いのでな……」

そう言うピサロの額からは汗が滲んでいた。いつも意地の悪いことを言っては焦らしてくるくせに、今回ばかりは珍しく余裕がないように感じられた。

「あっ、あぁっ……はぁ…っ……」

律動に合わせるように声が洩れる。ギシギシとスプリングが軋む音と、ユーリルの喘ぐ声だけが絶え間なく部屋に響いている。
繋がった互いの下肢が擦れ合い、堪らなく熱い……。
ピサロの背に回した手が現実を繋ぎとめるように、知らず爪を立てる。
もはやどちらのとも知れない熱に煽られ、昂ぶらされ、自我の感覚ですら曖昧だ。

「あ……や、も……イ、く…ッ………ピサ…ロ…ッ……!!」

感極まったユーリルはピサロの名を呼び、腹の上を自らの白露で汚した。

「…ッ、ユー…リル……」

それとほぼ同時に、ユーリルの最もキツイ締め付けによって、躯の最奥へとピサロの慾望の飛沫が叩き付けられた。

「はぁ…っ……」

荒い息を吐く2人は、落ち着くまでのしばらくの間、繋がったままで抱き合っていた。












「……夢を、見た……」

ベッドで眠るまどろみの中、ふいにピサロが口を開く。

「………夢?」

ピサロの腕を枕に、既に意識がなくなりかけていたユーリルが尋ね返した。

「……おまえが……地上ここを離れ、天空へと帰る夢を……」

「僕が?ここにいるのに?」

「……もしかしたらそれは天空ではなかったのかもしれぬが……、ただ、おまえが何処かに行く夢をな……」

「ひょっとして……それが不機嫌の理由?」

「………いや」

ピサロは逡巡の後、口を濁す。

「まだ何かあるの?」

「………去っていくおまえの横に、誰かがいた……。それは、わたしではなかった……」

もっとも、誰かも定かではなかったが…と、ピサロは苦笑する。

「………………」

それで僕の瞳が一つ所に留まることをしない……なんて言ったのか……。

「すまなかったな。鬱を払うつもりで飲んだ酒だが、返って深みに嵌ってしまった。多少酔っていたとはいえ、先の行為はほとんど八つ当たりだ……」

本当に悪いと思っているのだろう、珍しくピサロが素直に謝罪してきた。
ユーリルにしてみても、全く非がこちらにないとは言い切れない上、先の話を聞いてしまえば、もはや怒る気にもなれなかった。
だからと言って、振り回された手前、ただ許すのは癪で……なんとなく意地悪な思いが胸をよぎった。

「…………あのさ、アンタ、いつも人のことを素直じゃないとか言ってるけどさ……。アンタだって十分、素直じゃないと思うんだけど……」

「何がだ」

「要は、僕がここを離れて何処かに行くかもしれないって思ってたから、そんな夢を見たんだろ?で、アンタはそれが嫌だった。なら…『ここに居てくれ』の一言ぐらい素直に言ったら?」

普段の仕返しとばかりにユーリルはピサロを意地悪気に見やる。案の定ピサロは苦虫を噛み潰したような表情をしている。

「……なぜいきなりそうなる。第一、それを言ったらおまえはここに居るとでも言うのか?」

「さぁ?」

どうだろうね…と、ユーリルは笑う。

「だろうな。最も、わたしがそんなことを言うわけがなかろう」

「……さっきのって、言ったも同然じゃないか……?」

「言って欲しいのはおまえの方だろう?」

「………それこそ、何でそうなるんだよ」

サラリと言ってのけるピサロにユーリルはムッとし、反論する。

「わたしに逢いに、幾度もここを訪れるぐらいなら、初めから『ここに居たい』と素直に言ったらどうだ?」

先程の意趣返しとばかりに、薄く笑ったピサロが言い方を真似て告げてくる。

「///ッ…別に、アンタに逢いたくて来てるわけじゃないからな!」

「ほう?ではなぜここに来る?」

鋭い突っ込みにユーリルはうっと言葉に詰まる。
デスパレスなど、それこそピサロに用でもなければ訪れる事はないだろう。何といっても魔物の巣窟なのだ。

「それは……だから、1人じゃ嫌だな〜って思っても、他の仲間には逢いに行ったら迷惑が掛かるだろ?アリーナなんて今じゃ一国の女王だからさ。でもアンタなら、もう魔王業も廃業だから別にいいかな〜と……」

もはやバレバレなのにも関わらず、ユーリルは必死で言い訳を述べる。

「……全く素直でないな。それにわたしは暇でもなければ、廃業した覚えもないが?」

「……なら、アンタが悪さしないように監視してるってことで丁度いいじゃん」

ユーリルはナイスタイミングと言わんばかりに理由をこじ付ける。

「まぁ、そういうことにしておいてやろう……」

「なんだよ、それ……。あぁ、もういいや。なんだか眠くなってきた……」

「お子様は寝るのが早いな」

「誰がお子様だよ。元はと言えばアンタが……」

「わたしが、何だ?」

ユーリルが言葉を続けるのを躊躇ったのを面白そうに見やりながら、ピサロは口角を上げて問い返す。途端、ユーリルは首筋まで真っ赤になった。

「〜〜〜ッ、もういい、おやすみっ!!」

ユーリルは恥ずかしさからシーツの中に顔を埋めてしまう。どうにも事後の遣り取りは苦手なのだ。

「ユーリル」

「………………」

ここで暮らすか?

ピサロが囁いた言葉が、シーツに顔を埋めたままのユーリルに聞こえていたのかは定かではない。
それでも、やがて掠れるような小さな声で、うん…と言ったのは恐らくピサロの聞き間違いではないだろう。










1人の春を愁えて、寂しさに身を凍らせる。
そんな想いはもうしなくてもよいのだと、安堵する。
自分を抱き込む暖かな腕に身を寄せ、穏やかに、眠った……。











                                 END








______________________________
2004.02.19

久々に裏を書いたので、裏の書き方を忘れてて無駄に長くなってしまった……。変なところがあっても広い心でもって見逃して下さい><
付かず離れず、ラブラブな2人。恋人以上夫婦未満?で最後はプロポーズに終わると(笑)なぜこんなに甘くなったのか、自分でも不思議でしょうがないです。ピロートークが長すぎるんだよ!と突っ込まれるかもしれませんが、あれは彼らが勝手にくっちゃべってるんです。断じて私の意図ではありません。もはやうちのピサ勇は勝手に道を歩んでますから(苦笑)
にしてもピサロ様、弱っ……(汗)
ちなみに題名の春愁酔闇の"酔闇"は宵闇と掛けた造語です。なぜか題名が一番悩んだ気が……。センスがないから一苦労……。
リクが「酔ったピサロに乱暴(強引)に犯られてしまうユーリル君」or「酔っ払ったぴー様と振りまわされるユーリル君」の筈なのに、なぜか振り回されてるのはピサロ様で、乱暴どころか甘甘になり…ピサロ様が酔ってる以外は、リク内容から激しく逸れてる気がするんですが、こんなんでよければ貰ってやって下さいマセ。


―――――――――――

はい! 早速頂戴して帰って来ました!!(嬉)
幸運にもキリ番GETさせて頂いて、頂戴したピサ勇小説ですvv
思いきり趣味走ったリクエストを快諾して下さり、こんな素晴らしいお話を♪”
樹雪サマのサイトのピサロvユーリルがあまりに素晴らしくて、
私のピサ勇熱がどっと上昇した事を思うと、こうして作品を飾らせて頂ける幸運に感謝です(^^
樹雪さんのところのユーリル君、めちゃくちゃ可愛いんですよねvv
ラストの台詞、「ここで暮らすか?」 「うん…」――のやりとりが堪らないですvv
ユーリル君、嬉しかっただろうなあ・・v とか。
ウチのピサソロでも言わせてみたいなあ・・・とか♪

リクエストさせて頂けるとお聞きして。いろいろ(かなり真剣にv)考えてたんですが・・
酔ったピサロ様がみたいなあ・・・と、ふと思ったら楽しくて(^^
わがまま承知でお頼みしたのが 「酔ったピサロに乱暴(強引)に犯られてしまうユーリル君」or
「酔っ払ったぴー様と振りまわされるユーリル君」 を裏で・・・とゆー、ある意味私らしい☆
依頼だったのですが。 見事に願いを叶えていただきました!
(しかも。リクエストから完成まであっという間でした! すごいです!!)

樹雪様v こんなに素敵な小説、本当にありがとうございました!!

by月の虹




                    

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