14





その日の午後。シンシアの願いもあって、ソロは彼女が最近お気に入りにしている場所へと

向かった。

村外れ近くにある古びたベンチ。半分緑に埋もれたようなその場所に並んで腰掛けて、

シンシアが空を仰ぐ。

「また明日は雨になるのかしらね‥」

雲が厚く広がって来た空を眺めながら、シンシアはぽつんとこぼした。

「そうだね。テント暮らしの時じゃなくて、本当に良かったよ‥」

「そうね。雨は嫌いじゃないけど。テントにずっと閉じ込められてたら、ちょっぴり窮屈

 したかも知れないわね。レン達には本当に感謝してるわ‥」

「そうだね。機会があれば、オレからも彼らに改めてお礼しとくよ。」

「そうね。是非そうしてね。」

シンシアはソロの手をきゅっと握り力を込めた。

「うん‥」

「あのね、ソロ‥」

口を引き結ぶ彼に小さく笑ったシンシアが、視線を空に戻しぽつんと呟く。

「私‥ここへもう一度戻れた事、本当に良かったと思っているの。

 だからね、その時が来ても、あなたが悔いを抱く必要ないんだからね?」

「シンシア‥」

「沢山の助けと、奇跡があって、そのおかげで私は今の時を過ごせているの。

 そう思ってる‥‥」

不安そうに見つめるソロへ、シンシアがふわりと微笑する。

「あなたを支えてくれた冒険仲間にも会えたし、素晴らしい景色も見られた。

 お酒もちょっぴり楽しめたしね。

 何より‥あなたと過ごす時間が再び得られたんですもの。

 私は‥とても恵まれていると思うわ‥‥」

「シンシア‥でも‥‥」

「ごめんね、ずっと居てあげられなくて。」

シンシアが泣き出しそうなソロをそっと抱き寄せた。

「だけど、子供の頃交わした約束は、ちゃんと適任者に引き継いだから。

 その人に果たして貰って?」

「約束‥?」

「そ‥。ふふ‥」

きょんと首を傾げるソロに、シンシアが悪戯っぽく笑って見せる。

「さ‥そろそろ戻りましょうか? 皆も心配してるだろうし‥」

「うん‥」



「じゃ‥お風呂先に頂いて来るわね。」

夕食後。マーニャがソファ席に移動したソロとクリフトに声をかけた。

「あ、うん。いってらっしゃい。シンシア、逆上せないよう気をつけてね?」

「ええ分かってる。じゃあ、行って来ます。」

風呂の用意をして、姉妹とシンシアの3人が家から程近くなった風呂場へと向かった。



「大丈夫ですか‥ソロ?」

扉の閉まる音が響くと、ソファの背もたれに身体を預け、ソロは深い吐息をついた。

隣に座るクリフトがそれを心配そうに伺う。

「ああ‥うん。ありがとうクリフト。側に居てくれて‥」

「昼間‥ピサロさんも少し顔を出したんですよ?」

「え‥ピサロが?」

そっと彼を抱き寄せたクリフトが静かに伝えると、ソロが意外そうに跳ね起きた。

「ええ。恐らくレンさんから聞いたのでしょうね。あなたの様子がいつもと違っていたと‥」

「そっか。バレバレだったんだ。普通にしてたつもりだったんだけどな‥」

ソロが微苦笑浮かべて、再び彼に寄りかかった。

「それでピサロは何だって?」

「事情は大体伝わったようで。また夜にでも顔出すと。」

「そう‥」

それだけ返すと、ソロは彼に身体を預けたまま目を閉じた。



「ただいま〜っと。あら‥相変わらずねえ、あんた達。」

一番にリビングへと入って来たマーニャが、クリフトに寄りかかったまま眠っているソロを

眺めて呆れたよう笑った。

「あ‥お帰り、みんな。早かったね。」

気配を感じた様子で身動ぎしたソロが、目を擦りつつ出迎える。

「ただいま。お寝坊さん。クリフトも大変ねえ‥」

「ね、寝ぼけてなんかないもん。寝てなかったし〜」

クスクスとシンシアにからかわれて、ソロが真っ赤になって否定した。

「ちょっと目瞑ってただけだよ。ね、クリフト?」

「そうですね、多分‥」

「多分てなんだよ〜? クリフトまで〜」

「いやまあ‥あのまま寝落ちしそうな気配だったので‥」

「こんな早い時間から寝ないよ、旅してた時じゃないんだし〜」

「まあまあ。ジャレ合ってないで、お風呂済ませて来たら?

 今日は土いじりして来たんだし。汗かいたでしょう?」

マーニャが仲裁に入ると、盆に飲み物を乗せてやって来たミネアも同意を示した。

「そうね。また雨が降り出す前に、済ませた方がいいかも知れないわね。」

「雨降りそうだった?」

「んー星は全く見えなかったわね。風も少し湿って来てるみたいだし‥」

「そっか。じゃ、行って来ようかクリフト。」

顎に手をやり思い出すよう話すシンシアに頷くと、ソロがさっと立ち上がった。

風呂の準備はしてあったので、それを片手に戸口へ移動する。

「じゃ、行って来ます〜」



「ふふ‥本当に仲良いのね、あの2人って‥」

3人がソファに腰掛けると、シンシアがクスクス笑った。

「ええもう。気がつくとベタベタしてるんですもの。

 あたしだって、ソロをベタベタ甘やかしたいのに。あの男に抜け駆けされなかったら‥」

「姉さんたら、また‥。普通に姉さんは圏外だったわよ。ソロからは‥。ねえ?」

ミネアがシンシアに同意を求めるよう声をかける。

「あはは。まあ‥ソロは昔から女の人が苦手だったぽいですから。

 流石に男性の恋人作って帰って来るとかは考えませんでしたけど‥」

冷たいジュースで喉を潤したシンシアが、ため息を落とすと微苦笑した。

「ああそうよねえ。普通考えないわよねえ‥

 シンシアが最初から動じてないみたいだったから、敢えて訊かなかったけど。

 やっぱ驚いたんだ?」

「まあ、それなりに。でも‥ちょっと安心しました。」

「安心?」

「大切に想う誰かが居るって、それだけでとても倖せな事だと思うから。

 だから‥良かったなって‥‥」

ふふ‥と小さく笑んで見せた表情は、少し寂しげだったが、安堵しているようでもあった。



「あのね‥クリフト。」

身体を洗い終え、湯船にと浸かったソロが、遅れてやって来た彼へと声をかけた。

「オレ‥やっぱり頼りないのかな?」

「何がですか?」

「うん‥シンシアさ、本当は‥一番しんどいはずなのに。

 ずっと気丈に振る舞っているだろ。オレが頼りないせいで、甘えられないのかなって‥‥」

ソロがぽつりぽつりと、喉の奥にしまい込んでた言葉を吐露する。

「そんなんじゃないと思いますよ。我々もですけど。

 彼女もまた困惑している状態じゃないかと…」

濡れた翠髪を梳るように滑らせて、不安に瞳を揺らす横顔を窺った。

「そう…なのかなぁ‥」

ぼんやりと返して、ソロはまた考え込むよう口を閉ざした。



「あ‥ピサロ。」

風呂から上がった帰り道。家の前まで戻った所で、移動呪文で訪れたピサロと鉢合わせた。

「昼間も来てくれたんだってね。今度はゆっくりして行けるの?」

「あ‥ああ。そうだな‥」

想像してたよりも常と変わらぬような対応に、気抜けた顔でピサロが返事をする。

「じゃ、寄って行ってよ。まだみんな起きてると思うし。」

そう誘って、ソロが家の扉を開いた。



「あら、ぴーちゃん。いらっしゃい〜」

「噂をすれば何とやら‥かしらね。こんばんは、魔王さん。」

姉妹が口々に軽くあしらう物言いで出迎えて、ピサロが渋面を浮かべる。

「ふふ‥。昼間も来たのですって?

 今そんな話してた所だったのよ。何か急ぎの用事かしら?」

シンシアが訪問の理由を察しつつもにこやかに訊ねた。

「夜を待たねば、皆揃わぬようだったからな。」

そう静かに返すと、勧められたソファ席にと腰掛けた。

向かいのソファは女性3人でいっぱいだったので。ソロも仕方なく彼の隣にと腰を下ろす。

それから程なく、盆に飲み物を乗せたクリフトがやって来て、ソロの隣へと座った。

「ありがと、クリフト。喉渇いてたんだ〜」

ソロが早速手に取ると、ゴクゴク冷たいレモネードで喉を潤す。半分程飲み干して

テーブルへコップを戻すと、ソロは両サイドに置かれたコップの中身に首を傾げた。

「あれ‥もしかして、2人ともお酒?」

「ええ‥まあ。あちらも始めてるようでしたので‥」

クリフトが正面席をチラッと目で示して、微苦笑する。

「え‥ああ〜本当だ! え、シンシア大丈夫なのっ?」

マーニャはともかく、どうも3人とも同じモノを飲んでいるのに気づいて、ソロが

心配そうに彼女を見つめた。

「大丈夫よ。薄めてあるし、これ1杯だけだし。」

「そう‥ならいいけど。‥あれ? それでどうして、オレだけジュース?」

「お子様だから?」

マーニャが茶々を入れて、ソロがむうっと膨れっ面で言い返しかけたが、ぽむと

クリフトが彼の頭に手を置いたのでそちらへと顔を向ける。

「風呂上がりに飲むつもりで折角用意してたのですし‥

 レモネードなら、一気に飲んでも問題ありませんから。

 最初の1杯はそちらが良いと思っただけですよ。」

「確かに。さっきの勢いでお酒飲んだら、危険ね。ソロの場合。」

「ミネアまで〜。まあ‥この間みたく、さっさと寝ちゃってもつまらないけどさ‥」

クリフトの判断を支持するよう頷いた彼女に、ソロが形だけむくれて見せたが、

そのまま大人しくジュースをコクコク飲んだ。

「ソロは酔うとすぐ寝ちゃうタイプなの?」

シンシアが興味深げに訊ねた。

「んーどうかなあ?」

ソロが隣に座るクリフトへ問いかけるよう小首を傾げさせる。

「泣き上戸だったり、怒ったり‥色々ですね。

 ただ共通してるのが、ソロは酔ってくると口調が幼くなる事でしょうか‥」

ピサロが同意を示すよう、うんうんと頷く。

「それと‥私はよく絡まれるぞ‥」

「あらあ。ぴーちゃんが悪戯するからじゃないの?」

ぽつ‥とこぼした魔王に、マーニャがすかさず突っ込んだ。

「そうなの?」

シンシアがじーっとソロを覗き込む。

「う‥えっと。酔っぱらっている時の事なんて、覚えてないから、分からないよ。」

ソロは居心地悪そうに、あたふた返した。

彼から答えを聞けそうにないと悟った女性陣の視線が、一斉にクリフトへ注がれる。

「‥私からはなんとも。」

小さく息を吐いた後、にっこりスマイルでクリフトは返した。



「私ね、あなたに頼みたい事があるのだけど‥」

他愛のないおしゃべりが途絶えたタイミングで、シンシアがふとピサロへ話しかけた。

一同の注目がその2人へと注がれる。

「頼み?」

「ええ。あなたも何かと多忙みたいだから、出来れば‥で良いのだけれど。」

シンシアはそう言うと、ジッと彼を見つめた。

「しばらくの間、ここに滞在してくれないかしら?」

「「ええ〜〜!!?」」

シンシア以外の一同が、意外とばかりに驚く。

「‥それは。今夜からか?」

「ええそう。無理かしら?」

動揺を抑えつつ確認するピサロに、シンシアがはっきりと返した。

「それは無茶だよ〜シンシア。」

「あら、なあぜ?」

ソロが困惑露わに口を挟むと、涼しい顔でシンシアが微笑む。

「だって‥寝る場所もないし…」

「私ならここでも問題ないが?」

困った様子で返したソロに、ピサロがソファを差しつつ答えた。

「え‥? ピサロ、大丈夫なの?」

「まあ‥書類仕事をこちらへ回すよう手配すれば、当面は問題ないと思うぞ。ここには

 丁度良い助手もあるしな。」

後半、人の悪い笑みを浮かべたピサロがきっぱり言い切ると、ソロの隣に座るクリフトが

苦い顔を浮かべる。

「また私を便利に使うおつもりですか‥」

うんざりと言うクリフトに、振り返ったソロが「ああ‥」と納得顔を見せた。

「そう言えば。あの館でも、ピサロの手伝いしてたもんね、クリフト。」

「へえ〜。あんたってば意外に潰しが利くタイプなのね〜」

マーニャが揶揄い混じりにクリフトへと声をかけたのに小首傾げさせたソロだったが、

ハッと気づいたようにピサロへ視線を戻した。

「泊まれるのは分かったけど。幾らなんでも、ここに寝て貰う訳には行かないよ‥」

「本人がそれで構わないってんだから、いいじゃない?」

「オレが構うんだって、それ。一応お客さまになるんだし‥なんか申し訳なくてさ…」

口を挟んで来たマーニャに苦い顔で返して、困ったと溜息を落とす。

「私と姉さんなら、1つのベッドでもなんとかなるから。空いた方を魔王さんに貸しま

 しょうか?」

それまで黙っていたミネアが徐に口を開いて提案した。

「え…マーニャ達の部屋に? でもそれじゃ…」

「では、私が彼女達の部屋に移りましょう。シンシアがそれでも良ければ‥ですが?」

一同の視線がシンシアに集まる。

「‥そうね。クリフトとマーニャ達には申し訳ないけど、それでお願いしても良いかしら?」




「さてと。じゃあ、私は今夜からこちらを使わせて貰おうかしら‥」

隣部屋への彼の引っ越し作業が終了すると、部屋にはソロとシンシア、ピサロの3人だけ

が残された。

どこか状況に追いついてない風情の2人を眺めたシンシアは、そう言ってクリフトが

使っていたシングルベッドへと手を置く。

「えっ、えっ‥? シンシアがそっち行っちゃうの?」

ハッと我に返ったソロが、焦った様子で詰め寄った。

「うん、行っちゃうの。今は‥その方がゆっくり休めると思うのよ。私もソロもね。ね‥?」

「‥もしかして。オレが疲れさせちゃってた?」

「違うわよ。今日みたいな事があった時、その方が気楽だなあと思っただけ。

 広いベッドに1人で眠るのは、なんだか寂しいな‥って感じたから。」

心配顔を寄せるソロの頬に手を宛てて、シンシアが言い聞かせるよう説明した。

「…分かった。でも、もし体調悪くなったら、すぐに知らせてね?

 一人で抱え込まないと約束してくれる?」

「ええ。大丈夫よ。だから安心して、ソロもちゃんと休んでね?」

コクンとソロが頷くと、シンシアも柔らかく微笑んだ。

「それじゃ、おやすみなさい…ソロ。」

「おやすみ‥シンシア‥」

額にそっとキスが落とされると、お返しにとソロも彼女の目元に微かに触れるよう唇を

寄せた。

身体を離したソロの背後に立っていたピサロとシンシアの目線が交わされる。

ほんの一瞬だけ、目を開いた彼女だったが、すぐに現状を思い出した様子で口元に微笑を

浮かべた。

「おやすみなさい。」

「あ‥ああ…」

ピサロがビックリ眼で小さく頷く。ソロが背後の彼へと振り返った時には、どこか困惑

したような表情で立ち尽くして居たのだった。



「‥本当に、大丈夫だったの?」

深夜。珍しく寝付けずに居たソロが、隣に眠るピサロへとそっと話しかけた。

「なんだ。まだ気にしてたのか。行き先は告げてあるし、問題ない。」

「そっか‥。無理させてないなら、いいんだ‥」

「お前の方こそ、良かったのか‥?」

「え‥」

「私がここへ滞在決めた事‥それで、良かったのか?」

「シンシアが望んだ事だもの。ただ‥シンシアがどうして急にそんな事言い出したのか

 分からなくて、途惑っているだけ…」

耳元で密かに訊ねられたソロが、身体を仰向けにすると、自分を覗き込む紅の瞳に仄かに

微笑んだ。

途惑う気持ちだけではない、どこか照れた様子も伺える微笑みに、ピサロの気配も和らぐ。

「そうか…。さあ、いい加減眠れ。明日に響くぞ?」

「うん。おやすみなさい、ピサロ…」





「あら…シンシア、もういいの?」

「ええ。あまりお腹空いてないみたいで‥」

シンシアが申し訳ないとマーニャに応えた。

翌日、昼下がり。ソロとシンシア、マーニャ・ミネアの4人で昼食を摂っていたのだが、

彼女はスープと果物一切れだけで十分と、食後のコーヒーを淹れに席を立った。

「朝もあまり食べてなかったのに‥」

「シンシア、食欲ないの? 具合悪い?」

今朝は珍しく寝坊したソロが、心配顔を彼女に向ける。

「大丈夫よ。本当にお腹空かないだけだから‥」

「何か、食べたいものとかは?」

そういうモノなら喉を通るのじゃないかと、ソロが更に訊ねる。

「そうね。町まであたしが買いに飛ぶわよ。なんでも言って?」

「ふふ‥ありがとう、マーニャ。じゃ、何か食べたくなったら、強求っちゃうわね。」

「そうそう。姉さんもだけど、移動呪文の使い手が増えているのだから、遠慮なく

 リクエストしていいわよ。」

「うんそうだよ。

 食べたいものあったら、遠慮しないで言ってくれていいからね、シンシア。」

「ありがとう2人とも‥」



「うわ‥なんか色々増えてるね。」

昼食を終えリビングへと移動すると、ようやく作業がひと段落したらしいクリフトが

ソファに腰掛け、新しく追加された作業机の側で、ピサロとアドンが立ち話に興じていた。

机の隣には整理棚のようなモノも配されて、書類らしき紙の束が伺える。

「本当にここで仕事するんだ、ピサロ‥」

「小奴が遠慮なく持ち込んでくれたのでな。済まないな、場所を取ってしまって。」

「別にそれは構わないんだけどさ‥。本当に留守にしちゃってて、大丈夫なの‥?」

ソロが彼らの元まで歩いて行くと、両者へ探る視線を注いだ。

「ええ、大丈夫なように色々持ち込ませて頂きましたから。しばらくは、レンに代わって

 私がこちらへ通わせて頂きますので、ご用があれば仰って下さいね?」

「そういう訳だ。面倒事をどしどし申しつけて構わぬからな。」

「あはは。頼りにしてるよ。そうそう、3人とも昼食は? お腹空いたでしょう?」

「私は城へ一旦戻りますので。では、陛下失礼します‥」

アドンは礼をすると、そのまま退室して行った。

「アドンも忙しい人ねえ‥」

彼が家を出た後に、食事を終えた女性陣もリビングへと移動して来た。

戸口を見ながらぽつりとこぼすマーニャに、後ろに居たミネアが同調するよう微苦笑する。

マーニャの隣に居たシンシアもクスクス笑って、少々模様替えしたリビングへと目を移した。

「ご苦労様、クリフト。悪かったわね、あなたの仕事まで増やしてしまって‥」

「ああいえ。気にしないでいいですよ、シンシア。」

「そうだぞ。こちらもきっちり見返り請求されてるのだからな。」

ソファへ腰掛けるクリフトを労うシンシアに、ピサロがむっすりと付け足した。

「まあ。あんたもちゃっかりしてるのねえ‥」

「マーニャさんに言われたくないですね。」

「そうよねえ‥当然の要求だもの。」

ミネアがのほほんと返し、クリフトは更に脱力したよう力なく微苦笑したのだった。



「おや、ソロ。どうしたんですか?」

クリフトとピサロがダイニングで昼食を摂っている所へやって来た彼に、クリフトが

食事の手を止め訊ねた。

「うん‥シンシアが、マーニャ達と込み入った話があるからって。追い払われちゃった。」

そう答えて、ソロが空いた席へと腰を下ろす。

「それでしょんぼりやって来たのか。」

「しょんぼりなんて、してないもん! オレも2人に話があるから、丁度良かったんだ。」

苦笑混じりにピサロに指摘されたソロが、噛みつくように返した。

「話‥ですか?」

「うん。あのさ‥シンシア、食欲落ちているみたいだから。

 どういうモノなら食べられそうかな‥って思って。」

「朝もあまり召し上がってませんでしたね。お昼もだったのですか?」

「うん、そうなんだ‥」

「それは心配ですね。」

「うん。本人は大丈夫って言うんだけど。でも…」

案じるように話したソロが、彼女の居る寝室の方へと目を向ける。

「朝のコーヒーは普通に召し上がってましたし、飲み物に近いものなら、いかがですかね?」

「喉を通りやすいものか…。そうだ。アイスとかどうだろう?

 コーヒー味のも確かあったと思うし。」

「ああ、それは良いかも知れませんね。

 ソロが食欲落としていた時も、アレは別勘定だったようですし‥」

「だって美味しいんだもの。シンシアにも食べさせてあげたいな‥」

「‥分かった。午後のティータイムに合わせて買って来るとしよう。」

ちらっと上目遣いに見つめられたピサロが、不承不承といった風情で口を開いた。

「いいの?」

「私は詳しくないから、他は適当に見繕って来るぞ?」

「そういう事なら大丈夫。後でマーニャ達にも伝えて、リスト作るから。」

弾んだ調子で返したソロが、スクっと立ち上がる。

「じゃ、後でよろしくね〜」

「ソロが一番食べたがっていたようだな‥」

いそいそと居間の方へ戻って行った彼に、ピサロが嘆息する。

「ふふ‥。本当に好物なんでしょうねえ。

 彼女に食べさせたいというのも確かなのでしょうが‥」


      














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