――敵なんだと、承知っているのに。 承知って→わかって
いつかは戦わなければならない敵…なのに。
――オレは‥‥‥
「…ピサロ。いいよ‥動いて。‥もっと…あんたを‥感じたい。」
躯が辛くても、その痛みは罪の重さに届きはしない。そう思うと、その痛みは当然の代償
のように感じられ、彼の心を少しだけ軽くしてくれた。
内壁が傷ついたのか、血の匂いが微かに混ざる。
そんな内部を遠慮ない抽挿が繰り返され、ソロの声が艶を孕み始めた。
「あっ…ん‥。ふ‥‥ぁ。はあ…っ‥」
ソロを突き上げる動きが更に大きくなると、ピサロはその最奥に欲望を叩きつけた。
「ああっ…!!」
彼の飛沫を思いながら、ソロも自らの欲望を弾けさせた。
彼の背に回していた両腕が、躯の弛緩と共に緩み、地面へ落ちる。
ピサロはそっと自身を引き抜くと、彼を抱えるように横たわった。
「…ピサロ。」
彼に腕枕されるように横になってたソロが、少し落ち着いたのか小さく話しかけた。
「‥ずっと来なかったのは…どうしてだったの?」
「…私も多忙だったが。ソロ、お前もずっと移動中だったろう?」
少し不機嫌そうにピサロが低く答えた。
「タイミングが合わなかった‥ってコト?」
ピサロが無言のまま頷いた。
「そっか‥。そーだよね。ここんとこ移動が続いてたもんな‥。
いつも都合よく、町に寄った時に現れてた方が、むしろすごい偶然だったんだ‥。」
「‥‥‥‥」
単純なソロはそれですっかり納得してしまったが、もちろん、魔王サマ故の我が儘を通し
た結果だったのである。
実はガーデンブルグ滞在の際も、通えない訳ではなかったのだ。
今回も、そのつもりはなかったのだが、お節介な部下の一言で、つい気になって訪なって
しまった…というのが真相だった。
ソロとクリフトの2ショットを偶然みかけたアドンが、脚色交えてピサロに報告したので
ある。
『親密そうだった――』
と言われれば、やはり気になってしまう。
それに‥若いソロに快楽を覚えさせたのは自分で。長い間ほおって置いて、妙なムシが
付いてしまうのも本意ではなかったから。
本人はまるで自覚してないが、ソロに関しては、独占欲がかなり強く根付いていた。
「ピサロ…」
ソロは彼の頬を捉え唇を寄せると、彼を組み敷くように体勢を入れ替えた。
ソロも彼に会うまでは、どうしたらいいのか悩んで来ていたのだが、こうして会ってしま
えば、気づいてしまった想いが膨らみ、肌を合わせる悦びを求めてしまう。
次は――ないのかも知れないのだから‥
彼はいつもピサロが自分にするように、唇を滑らかな肌へ這わせてゆく。
白磁のような肌は、いつもよりほんのり熱を持っていて、より吸い付くようにしっとりと
指に馴染んだ。
たどたどしい仕草でピサロを求めるように愛撫してくるソロに、しばらくその身を任せて
いたピサロだったが、彼自身もまたソロを求め、素早く体勢を入れ替えてしまった。
「あ‥ん、ピサロ‥。」
不服そうに言ったのも束の間、胸元に色づく突起を舐め含まれ、甘い吐息へと変換された。
「あ…はあ‥っ。ふ‥ぅん‥‥‥」
彼の頭を掻き抱きながら、躯の内を再び焦がしてくる熱流に、ソロが嬌声をこぼしてゆく。
すっかり勃ち上がった屹立に、器用な手先が絡まると、根元をしっかり押さえたまま、緩
く扱いてきた。
滴りを掬い撫でつけ、鈴口を軽く引っ掻いてくる。
吐き出せない欲望が、徐々に躯を巡ってゆくのを思いながら、ソロは腰を揺らめかせた。
「ピサロぉ…焦らさないでよ…」
「そうだな…。またいつ来れるか解らぬからな。存分に絞り取ってやろう。」
ニヤリ‥と人の悪い微笑を浮かべると、ピサロは彼を口に含んだ。
「‥‥‥! んっ…ふ‥ぁ‥‥‥」
彼の口内に含まれてしまったソロは、与えられる快楽に導かれるまま、極めた。
ピサロはその放たれた欲望をゴクリと嚥下すると、最後の一滴まで絞り取るかのように
唇を窄めてくる。
「ん…ああっ‥。はあ‥‥‥っ。」
ソロを含みながら、ピサロは彼の後孔へ指を辿らせた。
彼の残滓を残す窄まりが、容易に彼を受け入れる。
「あ‥っ、も…。ピサロ…来て‥よ‥‥‥」
湿った音を立てる秘所の疼きに耐えかねて、ソロが彼の背を抱き強求った。
じっとりと汗ばむ彼の上体をピサロは抱き起こすと、彼を膝の上に乗せ、猛る楔をその入
り口へ宛てがう。
細いソロの腰を抱くピサロは、そのままゆっくりと彼の躯を穿っていった。
「くっ…キツイな‥」
先程の余韻を残す内壁は、彼にしっかりと絡み付いてくるようだった。
熱い内部が収縮を繰り返し、逃さない‥と言いたげに、彼を受け入れる。
「あ…ふ‥ぁ。ピ‥サロ…ぉ‥‥‥」
自身の重みが手伝って、いつもより繋がりが深まる体勢は、ピサロとの口づけも抱擁も、
存分に享受出来るので、ソロが一番好きな体位でもあった。
彼の背に両腕を回し、口づけを強求る。
すぐに交わされる接吻は、最奥の繋がり同様深く淫靡に交わった。
宣言通りに、存分に精を吐き出されてしまったソロは、指1本動かすのも億劫な程、
ぐったりと彼の隣に横たわっていた。
そんな彼を労るかのような仕草で、ピサロが翠の髪を梳く。
「…なんだよ?」
普段は見せない彼の行動に、ソロが無愛想に声を出した。
――そんな風にされたら、誤解しちゃうじゃんか…
そんな彼の内心を知らないピサロが、無意識に取っていた自分の行動に苦々しく冷笑う。
「…それだけ元気があるようなら、戻れるな?」
ピサロは突き放すよう、そう答えると、素肌を晒したままの彼をマントごと包み、抱き上
げた。側に脱ぎ散らかされていた服をまとめ、ふわり‥と浮かび上がる。
2人は森の外れに場所を移すと、すぐ近くに湧いていた泉の前へと移動した。
ピサロは滾々と湧き出づる泉の端でソロを降ろした。
彼は近くに転がっていた水汲み用らしい桶を携え戻ると、それに水を汲み、ソロの前に差
し出す。彼はのろのろと、桶の水にシャツを浸し、自分の身体を拭い始めた。
ピサロも自身の汚れを清水で清め、服を着込む。
先に身支度を整えた彼は、口程には動きが回復していないソロを手伝うよう、手を伸ばし
た。
「‥な、なんだよ!?」
「そのペースでは、夜が明けてしまい兼ねんからな。…こっちは全然だろう?」
ニヤリ‥と口角を上げ、ピサロが彼の秘所に手を伸ばした。
「ちょっ‥。や‥、自分でやるってば…」
ぐいっと腰を彼に差し出すよう引かれたソロは、不覚にも四つん這いの体勢を取らされる
事となり、首だけで振り返って抗議の目を向けた。
「はあ…はあ…」
なんだかもう、全ての体力を奪い尽くされてしまったように、ソロはぐったりと木の根元
に身体を預けた。
幸い服ももう身につけた事だし、このままここで少し眠って行っても問題ないよな…
そんな事考えながら、ソロは偉そうに自分の前に仁王立ちしている青年へ目線を向けた。
「‥戻らぬのか?」
静かな声音で訊ねてくるピサロ。ソロは小さく微笑むと瞳を閉ざした。
「ちょっと休んでから戻るよ‥」
「ほう…。随分と余裕だな。結界内とは云え、こうして魔族が立ち入る事も適う場で独り
居眠りとはな。」
ソロがぱっちりと目を覚ました。
そのまま、まだ重みを覚える身体を叱咤しながら、樹木に頼るよう立ち上がる。
「キングレオ‥バルザック…奴らを倒した者が、亡き者にしたはずの[勇者]ではないか
‥と、そろそろ周りの者共も感づき始めている。」
「…どうして、それをオレに‥‥?」
「折角仕込んだ躯だ。まだ手放すには惜しいからな。」
ピサロは彼の顎を捉えると、口角を上げ凍る瞳で冷笑った。
「…そう‥だったな。」
彼の瞳に応えるよう、ソロが挑むような瞳をぶつける。
ソロは寄りかかっていた樹木から身体を離すと、目の前に立つピサロの肩に両手を回した。
「ピサロ…忘れるな。オレはいつか、必ずお前を倒す。
あの時の言葉はまだ有効だろ? 次からは寝首をかかれない用心して、来るんだな。」
まるで睦言でも言うように、ソロは彼の耳元でひっそりと囁いた。
「…貴様が失敗した時の約束を覚えてるならな。」
ピサロが愉しげに嘲笑った。
ソロの顔が一瞬にして真っ赤に染まる。
「‥忘れてねーよ…。」
「では…楽しみに待つとしよう‥」
ピサロはそう言うと、唇を掠めさせ、身体を翻した。
2〜3歩歩いた所で移動呪文を唱える。
彼の姿が消えてしまうと、しばらく止んでいた虫の音が、再び音楽を奏で始めた。
「はあ‥‥」
ソロはそのままずるりと木の根元に身体を落とす。
――自分を狙う魔族が再びオレの前に現れる?
一番最たる者であるピサロとは別に。また自分の命を狙って来る者が居るかも知れない。
ピサロは…何故だか、自分の仲間を狙うような事も、その存在を本気で悟らせるような事
もしないで来た。
…が。
あの村の悲劇が再び繰り返されてしまうかも知れない。
ソロはギリギリとした痛みを胸に覚え、片手でぎゅっと押さえた。
―――ピサロ。好き‥だよ。
でも、もういつまでもこのままではいられない。
次に会ったその時は…必ず―――
瞼を伏せた瞳から1雫こぼれた水滴は、乾いた地面に吸い込まれる。
どんな想いを含んでも、想いを持たない水の雫同様に…
ふと空を仰いだソロの瞳には、名残のように輝く星が薄く煌いていた。
2004/9/21
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