その2
「…落ち着いたか?」
一頻り泣きじゃくった後。ピサロが静かに声をかけて来た。
オレはどうやらピサロにしがみついたまま、ずっと泣いてたらしい。…こいつもオレなん
か振り払えばいいのに。こうして呼吸が落ち着くのを待っててくれるなんて…
オレはどんな顔をすればいいか分からなかったので、奴の胸に顔を埋めたまま頷いた。
「…あのさ。…回復魔法、かけてくれて‥ありがとう…」
「…今後は。魔力のコントロールが効かぬ時に魔法を放つのは控えるのだな。」
オレは小さく頷いて答える。
髪をそっと漉いてくる感触がなんだか暖かくて、オレはしばらく奴の手の感触に微睡んだ。
「…なあ。…今夜は‥抱かねーの?」
ぽつりとこぼすと、奴の手がぴたりと止まった。オレはそっと顔を上げ、その表情を覗う。
だって…。こいつが現れるのは、いつもそういう時なのに。
「…抱いて欲しいか?」
反対に訊ねられてしまった。そっと眇がめられた紅の瞳が不思議に柔らかで。
オレは小さく頷いた後、奴の首筋に顔を埋め小さく囁いた。
「‥‥抱いて。」
どちらからともなく口づけると、オレは自ら誘うように薄く入口を開ける。
躊躇いなく差し入れられた舌が、そのままゆったりオレのソレと絡み合った。
湿った音が静かな闇に融けてゆく。ほんのりとした星明かりが大きな窓から差し込むだけ
の室内は、オレ達の睦み合う音だけ照らし出す。
「ん…ふ‥。ピ‥サロぉ‥‥」
唇が解放されると、甘ったるく強求るような声が漏れてしまった。
ピサロはふっと瞳を眇がめさせると、オレを抱いたまま立ち上がった。
そのまま隣の部屋へすたすた向かう。
連れて行かれたのは、随分大きなベッドの置かれた寝室だった。
ピサロはそっとオレを横たえると、そのまま身体を重ねるように組み敷いた。
頬から喉へと滑る唇が、もどかしい熱を孕んでゆく。
「あっ‥はぁ…っん‥。」
バスローブの合わせから忍び込んだ指先が、敏感な飾りを撫で上げた。
ピサロは更にそこを摘まみあげると、もう片方の手でバスローブを大きくはだけさせる。
露になった飾りに唇を寄せると、ピサロはそのまま口に含んだ。
「あっ――ん‥」
ねっとりとした感触が、固さを増していた突起を包み込む。
熱い衝動がどっと全身を走り、オレは大きく背を仰け反らせた。
舌先が遊ぶように突ついてくると、甘い疼きが更に巻き起こる。その強烈な感覚に、
オレは途惑うよう首を振った。
いつもとは違う、柔らかなベッドを包む肌触りのよい布の感触が、頬を滑る。
…そう言えば。もう何度もこいつに抱かれてるけど、こうしてベッドの上で遣るのは
初めてだったな。ふふ…と小さく笑うと、ピサロが怪訝な瞳をこちらに向けた。
「あんたとさ…ベッドで遣るのは初めてだな‥って思ってさ。」
本当は、こういうの‥ベッドで遣る行為なんだろ…?
そう続けると、ピサロはにやりと笑んだ。
「ほう…。少しは知恵がついて来たのだな。」
「んだよ、それ?」
意地悪く言うピサロに顔を顰めさせる。
「…ついでに、今宵の教訓も刻んで置くのだな。お前は隙があり過ぎる。」
「ピサロ…。」
なんだか‥ただ純粋に、オレの為に紡がれてる言葉と思うのは…気のせいか?
「ピサロ…」
オレは奴の頬に手を添えると、引き寄せ口づけた。
ふわりと肩先に銀糸が掛かる。
オレは奴の細い髪を漉くように両手で頭を掻き抱くと、奴の口内に舌を滑り込ませた。
いつも触れる肌は、オレより心持ち冷たいけれど。初めて感じる奴の口腔は、ひどく熱く
思えた。…なんだかドキドキする。
たどたどしく絡めようと試みる舌先を優しく受け止めながら、ピサロはオレの中心から滴
る蜜をすくい、窄まりへと指を滑らせた。
「ふう…ん‥っ。んぁ‥はぁ‥‥‥」
緩々と入り込んだ指先は、小さく弧を描きながら着実に奥を目指してゆく。
増やされる指を躊躇いなく呑み込んでゆく秘所。
そちらから持たされる快感に翻弄され出すと、唇が解放され、甘い喘ぎがこぼれ出した。
「ああ…ん‥。あ‥‥はあ‥‥‥」
そこから広がる熱が中心へと集まり始める。解放を求めるよう、腰が揺らめいた。
「こっちはもう限界みたいだな‥。」
ふっと目を細めながらピサロが中心を小さく弾いた。
「あんっ…。ピサロぉ…。」
ソロはびくんと躯を跳ねさせると、潤んだ瞳が強請むよう彼を捉えた。
ピサロは欲しがるよう揺れる中心に手を添えると、緩やかに上下させる。
滴る蜜を塗り込めるよう軽く扱いた後、尖端が口づけられた。
「あん…あっ…はっ‥‥ん‥‥‥」
電撃を浴びたように躯が戦慄いたのも束の間。ねっとりとした口内の感触が、解放を望む
塊を包み込んだ。ぞろりとした舌が裏を這い、口唇と共に付け根から先端を滑っていくと、
ぶるりと腰が震え、極まった。
「ああっ―――!!」
ピサロは最後の一滴まで搾りとるよう吸い上げた後、脱力したオレから離れ顔を上げた。
放ったモノを嚥下されるのは、どうにも気恥ずかしいんだけど。
こいつの仕草がどことなく妖艶で艶めかしいから、つい見惚れてしまう。
「ピサロ…。」
オレは肩の息を整えながら静かに上体を起こした。
「オレもやる――」
「…今宵は、随分積極的なのだな?」
苦笑するピサロに羞じらいが生じたのか、ソロは頬を染め俯きがちに彼の胸に額を預ける。
ピサロの手がすっかりはだけたバスローブを脱がせるよう滑ると、ソロはそれを手伝うよ
う手を下ろした。そして‥‥
「ピサロも‥。」
言いながら。ソロはほとんど乱れていない彼の上着に手をかける。
これまで。服を着たままで居る事に文句を言ってくる事はあっても。こうして脱がしに
かかった事などなかった。
ピサロは常とは違う彼の行動を、興味深げな面差しで見守る。
長い腰帯を不器用に外そうとするソロへ向けられた眼差しは、ひたすら暖かだった。
向ける彼自身も、向けられるソロすら気づいてはいなかったのだが…
かなりモタつきながらも無事目的を達すると、ピサロはベッドヘッドに移動した。
もたれ掛かる彼の横に座ったソロが、腰を上げると手を添え彼自身に唇を寄せる。
ぺろり‥と尖端の蜜を舐めとると、そのまま子猫のように舌を這わせてきた。
「ん…ふ‥‥‥」
丹念に舐め上げると先端を軽く口に含む。既にそれでいっぱいいっぱいなのだが、何度か
教えられてる遣り方を思い出しながら、懸命に奉仕した。
躊躇いつつもせっせと拙い愛撫を進めるソロに目を細めるピサロ。
彼はソロの背に手を這わせると、尾骨へと滑らせた。ぞくん‥とその背が微かにしなる。
ピサロは反応を示した箇所に弧を描いて弄った後、更に奥にある秘所へ指を辿らせた。
「あっ…ん‥」
まだ湿り気が残る蕾は、容易に侵入者を許すと、強求るような甘い吐息がこぼれた。
「ピ‥サロぉ。」 強求る→ねだる
行為を休め、言外に邪魔するな‥と含んだ瞳で睨めつけるソロ。
「気にするな。続けろ‥。」
しれっと応えるピサロに、不服そうな顔をしたソロだったが、諦めたように再開した。
猛々しい塊が、ソロの手の中で更に熱を帯びてゆく。やがて…
「…出すぞ。」
そろそろ口が疲れてきた頃。ピサロはそう断った後弾けさせた。
「ん…っふ‥‥‥」
白露が口内に溢れる。広がる苦みを覚えながらも、ソロはそれを飲み下した。
「うは〜。やっぱ苦いや‥‥‥」
…なんでこんなモノ、いつもこいつは飲むかなあ?
顔を顰めさせながら、ふとピサロを上目遣いに見ると、紅の双眸が不思議そうにこちらを
見ていた。
「ソロ。」
促され、オレは胡座をかいた奴の膝に跨がる。
窄まりへと再び伸びた指は、緩んだ内壁へするりと入り込み、探春を再開する。
すぐに増やされた指ですらあっさり呑み込むと、広げられるよう蠢くソレに煽られて、
ぽろぽろと艶めいた吐息を溢れさせてしまった。
「あ‥ん…は‥。ふ‥ぅん‥‥」
仰け反ったオレの肩口にピサロが唇を這わせる。
鎖骨を滑った口唇がきつく吸いついてくると、じんわりと甘い疼きが広がった。
背を滑る指先と、胸の周囲を這い回る舌先と口唇。
それらが内壁を探る指と連動するよう、焦躁ったさばかりを募るよう蠢く。
「ピ‥サロぉ…も‥いいからっ。早く――!」 強請む→せがむ
解放を求めて渦巻く熱が躯を巡る。オレは強請むように奴の中心に手を伸ばした。
オレの背にあった手が頭を捉えると、ぐいと顎を上向かされ口づけられる。
「ん‥‥‥」
歯列を撫ぞった後侵入した舌先が口腔をねぶった。
あっと言う間に深まる接吻に応えながら、オレは奴の広い背に両腕を回してゆく。
甘い余韻を残して離れた唇からは、名残惜しむよう銀の糸が紡がれた。
ピサロは両腕でオレの腰を捉えると、窄まりに己の猛る塊を宛てがった。
先端を難無く呑み込ませると、一気に最奥まで穿つ。
「くっ…はあっ‥‥ふ‥ぁ‥んっ…」
解されていたとはいえ、やはり奴自身を受け入れる瞬間は、苦しさを伴った。
どっと滲み出た汗が頬を伝うと、ピサロが貼りつく髪をすくい上げ唇を重ねさせた。
啄むような口づけを幾度も繰り返しながら、口唇を舌先が撫ぞってゆく。
甘い疼きが高まると、オレは悪戯な舌を絡めながら口内へ導いた。
「あっ…はぁ‥っ。」
濃厚な接吻に酔いしれてたオレは、緩く回された腰が突き上げを開始してくると、うねる
ような熱い衝動に仰け反った。
深く浅く繰り返される抽挿は、狙ったようにある場所を擦り上げてくる。
「あっ…。そ‥んな、したら…達っちゃう‥よ…」
「…このまま達ってみるか?」
後ろだけで…そう付け足しながら、ピサロの手が双丘を滑った。
意地悪く言う奴をキッと睨みつけるが、内部で渦巻く熱がすぐ快楽を追いかけてしまう。
甘い吐息がぽろぽろ零れてゆく。
「あ…はあ――――っ!!」
…結局。奴の思惑通り、オレはしっかり昇り詰めさせられた。下芯に触れられないまま。
脱力するオレに構わずピサロは更に激しく抽挿を繰り返す。
ギリギリまで引き抜いた後、捩り込んで最奥を打ち付けてくると、熱い飛沫が叩きつけら
れた。
「あ…はぁ‥。ピ‥サロ‥‥」
迸りを最奥で受け止めると、不思議な充足感に満たされた。
「あ‥ん。も…これ以上は…なあ‥‥?」
ピサロはそのまま体勢を変えると、オレを組み敷いて次のラウンドに突入を始めた。
流石にこれ以上やったら、明日に差し支えちゃうのに。
そう思い、限界を訴えて見るオレだったが、ピサロは含んだ微笑を返してきた。
「‥こっちは、すっかりソノ気みたいだがな?」
揶揄するように瞳を眇がめさせる。
ふいに自己主張始めた中心を握り込まれると、びくんと躯が大きく跳ねた。
ゾクゾクっと電気が走り抜ける。内壁に燻る熱に引火するように、艶めいた声がこぼれた。
「ああ…ん‥」
ほら…とでも言いたげに口角を上げるピサロ。滴りの溢れる鈴口に、指の腹が弧を描けば、
もっと‥と強求るように腰が揺れた。
ベッドが軋む音が淫猥な水音と混ざり合う。
一旦火が点いた躯は、結局貪欲に奴を貪っていた。
最近にしては珍しく、限界以上まで付き合わされたオレは、いつしか意識を飛ばしていた。
――チチチ‥朝を告げる小鳥の囀り。
ふと目を覚ますと、空が微かに白み始めていた。
「え…? …もう朝? やばい…!!」
オレは微睡んでいた意識が浮上すると、がばっと起き上がった。
「ピサロ。どうして起こしてくれないんだよ? オレ帰らないと!」
隣で横たわったまま様子を窺っている奴に恨めしげに言うと、
「…一応声はかけたぞ。貴様が寝付き良過ぎるのだ。」
とても冷ややかに返された。
…う゛。だって‥寝心地良かったんだもん。…疲れてたし。
「そう急かずとも、まだ夜は明けぬ。」
結局。オレはもう一度湯を借りて、ススだらけで埃っぽい服を着込んだ。
「ピサロ…。」
オレが寝こけている間に、既に情事の名残を流していた奴が待つ応接間に戻ると、
ソファに腰掛けていた奴に声を掛けた。
「…戻るぞ。」
「あ‥うん。…あのさ。出来れば町の外に送ってくれる?
…多分、今夜オレが町に居なかったのバレてると思うから‥さ。」
ピサロは無言のままオレを抱き寄せると移動呪文を唱えた。
取り巻いていた風が止むと、そこはコナンベリーの町から少し外れた丘だった。
「‥ありがとう。…あの。‥‥おやすみなさい…。」
彼から離れると、物言いたげな瞳を伏せる。
結局‥伝える言葉が見つからないまま、オレは踵を返した。
「ソロ。」
2・3歩足が進んだ所で背後から声がかかる。
振り返ると、ピサロがさっきのオレと同じように、何故か困惑顔を浮かべていた。
オレは小さく微笑むと、少し明るく話しかけた。
「ピサロ。…またな。」
「‥‥また来る。」
僅かな逡巡の後、ピサロも小さく返した。
オレはしっかり頷いて返すと、そのまま丘を下り町へと向かった。
――行為の意味など‥ずっと考えたこともなかった。けど‥‥
薄明に包まれた町は、まだひっそりと静まりかえっている。
オレは青みがかった町並みをほとほと歩きながら、ずっと考え込んでいた。
――でも。気づいてしまった。
――嫌じゃ‥ないんだ。あいつに触れられるのも。あいつが…訪ねてくるのも…
あの大男達に触れられるのは、あんなに嫌だったのに…。なのに‥
オレは‥‥‥
「…ソロ!」
宿の扉をくぐると、カウンターホールに置かれてあったソファから、弾かれたように立ち
上がったマーニャが、オレに声をかけてきた。
「…マーニャ。ミネア‥ホフマンも…。」
心配と安堵が入り交じったような表情に、オレがどれだけ心配かけていたかが伝わる。
「大丈夫? 怪我はない?」
真っ先に駆け寄ったマーニャが、あちこちに焦げた跡を残す服を見て、頭と肩にそっと手
を乗せ案じるよう訊ねた。
「…大丈夫。怪我は‥治癒したから。…心配かけてごめんなさい。」
シュンと項垂れるオレの肩に、ミネアが手を置く。
「無事でよかったわ。どこを探しても見つからなくて、心配したのよ?」
優しく声をかけてくるミネアに、小さく頷いて答える。
「漁師小屋の爆発、あれにあんたが巻き込まれたって聞いたわ。何があったの?」
心配そうに訊くマーニャ。オレは顔を上げると伏し目がちに言い淀ませる。
「…あとで。‥あとで話すから。‥‥少し休ませて?」
「…そうね。ソロも疲れてるでしょうし、私達も少し休みましょう?」
「そうですね。ここで騒いでいては宿の方にも迷惑ですし。」
「…そうね。とにかく休みましょう。」
部屋に戻ると寝着に着替え、さっさとベッドに潜り込んだ。
同室のホフマンがマーニャとの話を終え、戻って来る頃には、どんよりした眠気に既に包
まれていた。
「…ソロ。出立を遅めるそうなので、今夜はゆっくり休んで下さい。おやすみなさい。」
「…おやすみなさい。ありがとう…ごめんね‥」
ホフマンが隣のベッドに入り込むのを感じながら、オレは眠りに落ちていった。
――なんだかたくさんあったけど。今はただ眠らせて。
少しだけ知った自分の気持ちと、いつの間にか得ていたオレの居場所。
その暖かな想いを抱きしめながら、いつしか、優しい夢の中をたゆたっていた。
2004/2/17
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