アッテムトの坑道は、以前訪れたというマーニャ達が知るよりも、ずっと深く掘り進めら

れていた。

やがて坑道は元々あった地下空間にぶち当たり、そこからより強力な魔物が出現したのだ

と、わずかに息のあった坑夫が遺していったのだが‥

洞窟を更に進んだソロ達が目にしたのは、巨大な地下遺跡だった。



広い空間にどっしり構えた歴史を感じさせる城。その大きさは魔城の数倍もあった。

不思議な事に、その城のすぐ側に結界に護られた小さな建物があり、ソロ達はそこを拠点

にこの地下空間にそびえ立つ城を探索する事にした。

一同が集まった所で今後の事を話し合い、結果、一晩身体を休めてから4人パーティを組

んでの探索へ向かう事と決まった。

念の為2人ずつ入り口付近で見張りをする‥という事で。

他のメンバーが部屋の奥で休んでいる中、2番目に見張り担当となったソロとクリフトが、

その任に当たっていた。



「‥なんか、静かだね。」

膝を抱えたソロがぽつんと呟いた。

結界が張られたこの建物内は、中央に描かれた不思議な魔法陣から発せられる淡い光に満

たされ、そこだけまるで別の空間となってるようだった。

あちこちから届く獣に似た魔物の咆哮も、ガラガラと何かが崩れるような物音も届かない。

静かで穏やかな場所。

「ええ。ここの結界は町等に使われているものとは種が違うのでしょうね。

 エスタークを封じたという天空の神の力なのでしょうか?」

「…どうなんだろう? やっぱり関係あるのかな‥。」

ソロはふう‥と吐息をつくと、ふと後方へ視線を向けた。寝静まった気配を確認すると、

今度は隣に座るクリフトを覗うように首を傾ける。

「どうかしましたか?」

「うん…」

ソロはじりじりとお尻で移動し、クリフトに寄り添った。

「エスタークの封印が解けかかっても‥天空の神はなんにもしてくれないんだな‥って

 思って。それって‥その封じたって神様が、もう居ないってコトなのかな?」

こつん‥と彼の肩に頭を預け、ソロが小さくこぼした。

「どうなんでしょうね‥。

 人間が破ってしまった封印だから、関知しないのかも知れませんし‥。」

「自分たちでなんとかしろ‥って?」

くす‥とソロが小さく微苦笑った。

「そうですね。もしかしたら‥‥」

言いかけて、クリフトはほんの少し瞳を眇め、口を閉ざした。



――もしかしたら。だからこそ、2つの血を引いたソロが伝説の勇者なのでは?



天空の神が最後に差し伸べた唯一の希望――それが彼なのかも知れない。



「‥どうしたの?」

難しい顔で黙りこんでしまったクリフトを、ソロが心配そうにみつめた。

「あ‥いえ。…少し疲れているのかも知れません。」          
梳る→くしけずる

ふわりと微笑みかけ、ソロの髪を梳るよう手を滑らせる。彼はそのままソロの肩を抱くと

そっと引き寄せた。



――けれど。それならば‥



天空の神はすべてを予見し、今もどこからかこの事態を見ている‥と考えられないか。

人間を試しているのか。それとも…



天空の神の思惑を計り兼ねながら、クリフトは更に顔を険しくする。

どちらにせよ、その為に『勇者』を用意したのだとしたら…



『オレは‥地獄の帝王を倒す剣でしかないのかな?』



ふと、寂しそうに微苦笑ったソロが蘇る。          
微苦笑った→わらった

仲間の誰も‥そう自分も、ソロをそんな風に扱った覚えなどない。

だが…ソロはそう評価したのだ。自身の存在意義を。



「‥大丈夫? 本当、疲れてるみたいだね。…あ、そーだ。」

沈黙したままの彼を気遣い声をかけたソロは、思いついたよう身を起こし、ごそごそ腰の

ポーチを探った。

「クリフト、これ食べる?」

小さな包みを解いて、ソロが中身をみせる。

「‥これは、金平糖‥ですか?」

「うんそう。ハバリアでね、見かけたから買っといたの。甘いのって疲れた時にいいでしょ

 ? 女の子には町を発つ前に分けたんだけどさ。クリフトも少しならさ、どお?」

「そうですね。それでは少しだけ…」

今隣に座るソロのふわりとした微笑みに、思考を中断させたクリフトがほうっと息を吐い

た。眉間に刻んだ皺を解き、柔らかく応えると、彼は数粒トゲトゲした塊を手に取った。

それを見届けたソロもニコニコとそれを口に運ぶ。

「なんだか懐かしい味ですね‥。」

口中で優しく広がる甘味に、クリフトがそんな感想をもらした。

「そうなんだ? オレ旅に出てから初めて知ったから、珍しいお菓子かと思ってた。」

パクパクとほおばりながら、ソロがこつん‥と彼の肩に寄りかかった。

「そうですね‥どこでも見かけるお菓子でもないと思いますよ。ソロこそよく見つけまし

 たね。流石というか…」

「‥‥‥」

「ソロ‥?」

瞼を伏せてしまった彼の様子を覗うよう、クリフトが首を傾けた。

「‥‥あいつが前に‥くれたんだ。

 ‥ちょっといろいろあった時に、あいつが‥オレに‥って。」

「ソロ…」

「あ。でも、これはその時のじゃないよ!?」

複雑そうな表情のクリフトに、ソロが焦ったよう弁明する。

彼は微笑を浮かべると、くしゃり‥とソロの頭に手を乗せた。そのままこつんと額を合わ

せ、そっと耳元で囁きかける。

「‥キス、してもいいですか?」

「‥え? …でも‥」

頬に朱を走らせながら、ソロが気にする仕草でチラリと仲間が眠る方へ目線を移す。

「…見られちゃうかもよ?」

こそっとソロはクリフトへ耳打ちした。

「大丈夫ですよ。‥まあ見られても、別に困りませんし。」

「そう‥?」

「ソロは‥厭ですか?」

ソロの両頬をふわりと掌に包み込み、クリフトが穏やかに問いかけた。

彼が小さく首を左右に振る。

了承を得たクリフトは、ゆっくり顔を近づけ彼に口づけた。

しっとり重なった唇は、幾度か啄むよう触れた後、少し名残惜しげに離れた。

コン‥と再びクリフトの肩に身を預けたソロが、甘えるよう彼の腕に自らの手を回す。

「ちょっと‥意外だったかも…。」

「‥もしかして、気を悪くしました?」

「え‥? ううん‥反対。甘えたかったのオレだもん。‥でも、どーして?」

不思議そうに訊ねるソロに、クリフトが苦笑して返す。

「うーん‥ちょっとしたジェラシーって奴でしょうか。

 今まであなたから彼の話を聞いても平静でいられたんですけどね…

だんだん独占欲が強くなってきているようで‥」

「クリフト…。‥‥オレも。‥側に居たいって‥思ってもいい‥の?」

怖々訊ねるソロに、クリフトが優しく笑んだ。

「ええ。嬉しい事を言ってくれますね、ソロは。」

「オレも‥嬉しい。」

安堵の表情を浮かべるソロの頬をクリフトが包み込む。その温もりを愛おしむよう自らの

手を重ねさせたソロが、そっと瞳を閉じた。

ふわり舞い降りた唇は、その形を確かめるようゆっくり触れた後、静かに離れた。

「この続きはエスタークとの決着の後‥ですね。」

内緒話みたいに、クリフトはこっそり耳打ちした。

耳をくすぐる甘やかな声音に、ソロが声を顰めて笑う。



決戦を前に緊張した場所での、和らいだ穏やかなひとときだった。







城の奥深くに建つ神殿の最奥に、エスタークは封印されていた。

ようやく辿り着いた決戦の場。

そこへ至るまでの道程は、予想外に遠いものだった。

その分準備を入念に済ませ、彼らは挑んだのだが…



完全に封印が解けていなかったのか、まだ半分眠っているような状態だったエスターク

だったが、戦いは熾烈を極めた。

強烈な全体攻撃が幾度も彼らを襲い、その度にソロとクリフトが回復魔法で仲間を全快さ

せる。おかげでソロは、ブライの攻撃補助呪文の助けを借りながらも、肝心の攻撃を仕掛

ける間を持てず、戦闘はとにかく長引いた。

エスタークとの戦闘に参加しているのは、ソロを含めたサントハイム一行。

残りのメンバーはその戦闘への干渉を防ぐため、集まってくる魔物の相手を任されていた。

その甲斐あってか、エスタークとの戦いに邪魔が入るコトもなく、遂に一行は、不死身と

思えたエスタークを倒した。

満身創痍の彼らは、巨体がずうーんと沈むのを見届けると、そのまま地面へ跪いた。

誰もがただ気力だけで立ち続けていたのだ。

だから、倒れて動かぬ巨体を確認し、糸の切れた人形のように体の力が抜けてしまった。

「…やった‥わね。」

どうにか声を振り絞り、ぽつんとアリーナが呟いた。

「‥ああ。…ほんと‥やった‥んだな‥オレ達‥‥‥」

エスタークが最後の咆哮を上げた時振り回した腕に切り裂かれた肩を押さえ、ソロも呆然

と呟く。アリーナを庇い受けた傷からは、どくどくと鮮血が流れ落ちていた。

「姫様、ソロ‥大丈夫ですか?」

巨体の向こうから2人の安否を気遣う声が届く。

「ええクリフト。私は平気よ。ソロは‥ ‥‥!! ソロ! 大丈夫‥!?」

彼へと振り返ったアリーナが、ハッと息を飲み、まろびながらも駆け寄った。

「大‥丈夫だよ。」

「だって血が‥! 魔力残ってないの?」

「残ってた魔力で最低限の治癒はしたから…。平‥気‥‥ ‥‥!!!」

言いかけて、ソロは不意に場に現れた気配を凝視した。

切り立った岩棚に立つ2つの影。それは揺らりと動いたかと思うと、次の瞬間倒れている

エスタークの首の隣へ移っていた。白銀の髪の魔王デスピサロとその従者らしき魔族が、

動かぬ巨体を窺う。

「な‥なんという事だ! エスターク帝王が倒されてしまうとは!」

「人間の侵入者がいるらしいとの報告はありましたが、まさかこんな事に…」

屍と確認したデスピサロに、重い口調で従者が答えた。



「‥あれ、デスピサロよね?」

緊張した面持ちで、アリーナが側に居るソロへ話しかけた。

「‥どうする? もうみんな戦えないわ…」

「ああ…解ってる。アリーナ、クリフト・ブライと合流して、どうにか脱出を‥」

「なっ‥ソロはどうするのよ!?」

「奴はオレが引き受ける。どうにか時間、稼ぐから…」

「でも…!」

納得出来ないと言い募る彼女をやって来たクリフトへ託し、ソロはどうにか立ち上がった。

足を踏ん張り、剣を構え直すソロが更に促す。

「行って。さあ…!」

「駄目! クリフト、ソロはもう魔力も残ってないのよ。」

「ええ‥。ブライ様、姫と後退して、ミネアさん達と合流して下さい。」

クリフトはすでにゼロに等しい魔力をどうにか集中させつつ、彼女の背を押した。

ゆっくりとこちらへ近づいて来るデスピサロを、緊張しながら注意深く観察する。

余裕なのか、まるで庭園を歩いているような足取りの彼からは、殺気すら窺えない。

「…クリフトも行ってよかったのに。」

隣へ立つクリフトに、ソロが正面を見据えたまま声をかけた。

「あなたが退いて下さるならね‥。」

「…見逃してくれるなら、そうしたいけど。」

無理だろう‥? そうこぼしながら、ソロが苦く笑んだ。

「‥ですね。」

同じように笑んで返したクリフトが、負傷したソロの肩口へ手を翳す。

淡い光が傷口を包み、そのダメージをゆっくりとだが治癒させてゆく。クリフトに残され

た魔力も、微々たるものでしかないのだと、ソロは最悪の状況での再会に、大きく吐息を

吐いた。



――どうせ戦う運命なら。せめて、全力で戦いたかったな。



ぽつんと思いながら。ソロは改めて剣を構え直す。

ゆっくり距離を詰めて来たピサロの表情はいつにもまして読めなくて、ソロはドクリと荒

く脈打つ拍動を、やけに煩く聴いていた。



緊張が最高潮へ達した刹那、それを壊す形で突然ミニデーモンが現れた!

「大変です、デスピサロ様! エルフのロザリー様が人間達の手に!」

ミニデーモンは、周囲の状況すら入らない様子で、慌ててピサロに報告する。

「なにっ!?」

ピサロは思いがけない報告に、驚き、やがてその整った顔を歪めさせた。

憤りがこちらまで伝わって来るようで、ソロとクリフトはビリビリした殺気に息を呑む。

戦いの予感に、全身の血が逆流しそうだった。

だが。それは杞憂に終わる。

彼はほんの一瞬前方に立つ2人を睨んだだけで、仲間を連れ早々に場を引き上げてしまった。



慌しく去った難に、残されたソロとクリフトが深く嘆息し、膝を折る。

「…なんだかよく解りませんが、とりあえず窮地を逃れたみたいですね。」

「…ああ。なんか‥ロザリーがどうとかって‥話してたみたいだけど‥」

緊張しきっていた2人には、細かなやり取りまで届いてなかった。

ただやって来た魔物が『ロザリー』と発してたコトは判ったのだが…

「ええ…。彼女になにかあったのでしょうか‥?」

「クリフト! ソロ! 大丈夫!?」

後方を守っていたパーティと合流したアリーナ・ブライが、再びこの場に戻って来た。

先頭を走るアリーナが、心配そうに大きな声をかけてくる。

「姫様。皆さんも‥!」

ほうっと息を吐いたクリフトが、安堵の笑みを浮かべる。どうやら後方に居たメンバーも

全員無事なようだ。

「はあ‥はあ‥。デスピサロは?」

真っ先に駆けつけたアリーナが、肩で息をしながら訊ねた。

「それが…なにかあったらしく、引き上げてしまいました。」

「え‥? そう‥なの? なんだかよく解らないけど。2人とも無事なのね、よかった。」

「ええ‥どうにか。」

「一体何があったんじゃい?」

「ブライ様‥それが…」

後からやって来た彼にクリフトが答えていると、すぐ隣にいるソロの身体が傾いだ。

「…ソロ!?」

「ソロ! どうしたの!?」

地面に伏したソロをクリフトが抱き上げる。

そんな彼の様子を窺いしゃがみこんだアリーナが、心配そうにみつめた。

「‥体力も気力も限界でしたから。緊張の糸が切れてしまったのでしょう。」

…大分失血もしたみたいだし。青ざめた顔色で失神したソロの頬に、そっとクリフトは手

を添えた。呼吸の乱れは見られない。必要なのは休息だろう。

「とにかく、結界の場所まで戻りましょう。あそこに着けば、最低限の回復は適います。」

そう言うと、クリフトはソロを抱いたまま立ち上がった。

「クリフトも激戦を終えたばかりで疲れているだろう。拙者が引き受けよう。」

側へやって来たライアンが、ソロを抱えて行く役目を負おうと手を差し出した。

クリフトは笑んで返すと、きっぱり告げる。

「ライアンさんは前線の要をお願いします。

 ソロはこの状態ですし、姫様も大分消耗なさっておられるはずですから。」

「そうね‥ブライだって大分疲れているみたいだし。うん。あたし達が戦闘引き受けるか

 ら、後方から着いて来て。ミネア、トルネコも大丈夫よね?」

「ええ。」

「はい、もちろんですとも!」



エスタークが倒された事で動揺が走ったのか。帰路を邪魔する者もなく、一行は無事結界

のある建物へと戻る事が出来た。

それぞれが建物の中央にある魔法陣に立ち、体力・気力を回復させる。

筋肉の疲れと魔力はそれで回復したが、精神的な疲労感は解消されないようで、彼らは

そのまま崩れるように横になり休んだ。



「クリフト‥ちょっといいかの?」

一眠りから目覚めたブライが、同じように目を覚ましていた彼の元へとやって来た。

建物の奥まった壁際。あれからずっと眠ったままのソロを見守るよう隣に座るクリフトの

隣に、ブライは腰掛けた。

「‥ソロはまだ意識が戻らぬようじゃな。」

「ええ‥。相当消耗していたようですから。」

「そうじゃな。…あの時聞きそびれてしまったが。一体何があったのだ?」

「それが‥‥」



クリフトはブライ達が離れてからのあの場であった事を細かに語り伝えた。

「…そうか。そんな事が。」

話を聞き終えたブライが嘆息する。

「デスピサロと言えど、愛する娘は何より優先される‥という事かの。」

「そうみたいですね。」

(‥‥‥‥。)

ブライがやって来た時に目を覚ましていたソロが、寝たふり装った顔を、僅かに顰めさせ

た。



――結局、そうなんだよな。



[勇者]が優先されてしまった自分は、[魔王]の彼と対峙しなければならない。

その現実を改めて思い知らされてしまった事に、ソロは失望を新たにしていた。

あのデスパレスでの別れで決別したつもりの想いに引きずられながら‥



「…ソロ、どこか痛むんですか?」

ブライが去った後、クリフトは寝たふりしたままの彼へ声をかけた。

「‥別に。どこも悪くないよ…」

ややあって。そっと目を開いたソロが、ぽそりと答えた。

「‥起きてたの、知ってたの‥?」

「ええ。ブライ様がいらした時から気づいてましたよね?」

「うん…。」

ソロは言いながら上体を起こした。

「まだ疲れが残っているなら、休んでいても大丈夫ですよ?」

どこか陰った様子に、案じるようクリフトが勧める。

「うん‥何か口に入れたら、もう少し休ませて貰う。」

「ああ。そういえば、ソロは戦いの後何も召し上がってませんでしたね。」



「‥ごちそうさま。」

用意されていた食事を黙々と食べ終えると、ソロはひっそり嘆息した。

「本当に‥大丈夫ですか? 顔色よくないみたいですよ‥?」

空の包みとカップを横に退け、クリフトが彼の頬へそっと手を伸ばす。

瞬間、それを拒むようソロが身動いだ。

「あ‥。ごめん…」

その動きに手を止めてしまったクリフトへ、気不味さを覚えたソロが俯く。

「‥ちょっと。まだ気が立ってるのかも…」

「激しい戦いでしたからね‥。その後も、あんなハプニングがありましたし…」

微笑したクリフトが、くしゃりと頭を撫ぜた。

子供にするような仕草に、安堵の笑みを浮かべたソロが彼へと寄りかかる。

「…あの時は、本当にもうダメかと思った。最悪の対面だ‥って‥‥」

「ええ‥。消耗しきってる時に現れましたからね。

 戦闘にならず済んで、ほっとしました。」

「うん‥。エスタークとあいつと‥どっちが強いのか判らないけど。

 あの場で戦って勝てる程甘い相手じゃないもんね。」

「そんな相手に独りで向かうつもりだったんですね、ソロは。」

ため息交じりにクリフトがこぼした。

「だって…。みんなで向かったら、最悪全滅だろ?

 …犠牲は最小限に留めなきゃ‥って。」

「その気持ちは理解出来ますが。それでも‥誰もそんな犠牲など、望んでませんよ?」

ぎゅっと肩を抱き寄せられたソロが、苦しそうに顔を歪めた。

「けど…。オレはもう、仲間の誰も失いたくないんだ…!」

押し殺した声で悲痛な叫びを上げ、ソロは身体を悸わせた。

怖かった――

心底怖かった。

あのままデスピサロと対峙していれば、間違いなく、全滅していたかも知れない。

自分の死なら、受け入れられる。本懐を遂げたのだから‥

けれど。

仲間は違う。もう誰も失いたくないのだ。

大切に思う身近な者を――

それでも‥‥

ソロはそっと顔を上げ、しっかり自分を抱きしめている青年を覗った。

あの時…一緒に残る事を選んだ彼の存在に、頼もしさを思ったのも確かだった。

「…オレ独りならさ、あいつに殺されてもいいかと思ったんだ。」

「ソロ‥」

「けどさ‥。クリフトも残ってくれて‥気づいたら、どうにか退却する方法、考えてた。」

「よかった。そんなに簡単に諦めてしまわないで下さい。」

きゅっと背に回された腕に力がこもる。その腕の暖かさに、ソロはふわりと微笑んだ。

「‥そうだね。本当に‥みんな無事でよかった‥‥」

温もりと心音に誘われて、瞳を閉じたソロはそのままスウッと寝入ってしまった。

クリフトは圧しかかってくる重さを感じながら、労るように翠の髪を梳いた。

静かな寝息を立てて眠るソロをそっと床に寝かしつける。

そのまま身体を起こそうとした彼だったが、袖口をしっかり握り込んだソロの手を振り解

くのも躊躇らわれて、クリフトも隣へ横になった。

静まり返った建物内は、他のメンバーもまだ体を休めている証拠。    
証拠→あかし

実際彼も横になると、疲れが残る身体が休息を求めて来た。

重くなってきた瞼を閉ざしたクリフトの脳裏に、先程のソロの言葉が過る。



『…オレ独りならさ、あいつに殺されてもいいかと思ったんだ。』



あの時――

エスターク戦の後、あの場に現れたデスピサロと対峙したソロは、確かに緊張していたが、

どこか落ち着いた様子も滲ませていた。その理由があの台詞にあるのだとしたら‥

(…まだ、駄目なんですね‥)

クリフトはひっそりと深く嘆息する。



孤独――という闇が、あの一件以来ソロに纏わり付いてしまった。

それを払拭出来ずにいる己の無力さが疎ましくさえ思えて、クリフトはもう一度大きく息

を吐いた。

不安定さに揺らぐ彼をどうすれば支える事が出来るのか‥

思考の迷宮に入り込みながら、クリフトも深い眠りに落ちていった。



2005/9/20








あとがき

一応、まだ「ソロとクリフト」です(^^;  なんかベタ甘だけど★

んでも多分、次回は「クリフト×ソロ」になってるかもxxxx
(予定より大分早いんだけどね・・(++;)

地下遺跡を描く前に、実はイムルの夢ver.2の後のソロの話が出来あがってしまいました。
なので。早くそれを活字に書きとめたいんですが…
ソロの話は順番に描いていかないと、彼の気持ちを追えないので(@@;
まだ辿り着けずにいます(しくしく…)
もう2ヶ月は過ぎたな(−−;    
覚えているのだろうか、ちゃんと。(ハラハラ)

一応せっかくのネタを忘れたら嫌なので、度々同じ場面の再生してるんですが。
一番面白かったのは、最初に完成したときのやり取りなんですよねえ・・(==;

とにかくなんとかあの場所まで辿り着きたい!

―――とゆー訳で。

ここんとこ気を抜いてる瞬間(?)は、ソロのコトばかり考えてます。

甘ったれな彼。甘えん坊なのは、まあ問題ないとして。
落ち込むと甘い物食べたくなる心理を私に伝染すのはヤメテホシイ・・(@@;

食欲の秋になりそうで、とっても怖い月の虹でした。
ここまでお付き合い下さった方、ありがとうございますvv”







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