『蔦〜ツタ〜』 ヘマをした――そう思った所で、オレの意識は途絶えた。 目を覚ました時…最悪の状況は回避出来たのかと、ふと思った。が… 「う‥ん‥‥‥。オレ…?」 暗がりにぼんやりとした明かり。水音。 ゴツゴツした黒い岩に囲まれた空間で、オレは意識を取り戻した。 野営地近くの森で、水を汲みに出た…ただそれだけだったのに。 背後から忍び寄って来た何かに攻撃され、不覚にも気を失ってしまったのだ。 だが…どうやら命は取られずに済んだらしい。 オレはうっすら目を開くと、周囲を窺った。 洞窟…? 黒く濡れた岩肌に囲まれた空間。 うっすら明るいのは、光り苔‥? あちこちから水が染み出てるのか、水音が静かに響く湿った場所。 「なんで…こんな所に‥‥‥」 とにかく脱出を‥と身動ぐと、四肢に絡んでる蔦のように思えたソレが、ヌルんと動いた。 「な‥? え‥‥?!」 「…ニンゲン、メ‥サめタ‥」 背後からくぐもった声が届く。どうにか後ろを確認すると、でかい目と口が間近にあった。 ソレはオレと目が合うと、ニタリ‥といった感じにそのでかい目を細めた。 それと同時に蔦かと思った触手が躰を這い出す。 「やっ‥ち‥ちょ‥っと。や‥やめっ‥‥‥!」 プニプニ柔らかな、ぬめった触手が服の裾から直接肌に触れて来て、その気持ち悪さに身 を捩った。 暗がりに目が慣れてくると、オレにまとわり付いてる奴の姿も少しずつ解ってくる。 ホイミスライムによく似た魔物。けれど…今まで出遭ったソレより遥にでかい。 「い‥いい加減、離せ‥っよ。」 全身を確かめているかのように這って来る感触に総気立ちながらも、オレは語気を強めた。 どうにか逃れようと、さっきから力を込めてるんだけど、ヌルヌルした粘膜に滑ってか、 何の意味も為していない。それなら魔法を‥と、魔力を込めようと集中しても、すぐに散 じてしまって、メラすら放てない有り様。 そうこうもがいていると、そいつは素肌に巻き付いた触手で、衣服を内側から引き裂いて しまった。 まさか…食べる気なんじゃ‥? そんな不安がふと過る。 「オ‥オレを、食べるのか…?」 全身に緊張を走らせ、オレは恐る恐る口を開いた。 …まだ普通に殺される方がマシだったかも‥そんな事思いながら。 「…モウ、タベテる‥‥」 「え‥? なん‥」 もう食べてる――? 「‥オマエ‥おイシイ‥‥‥」 瞳を眇めながら、うっとりした様子で吐くと、四肢を拘束してるのとは別の触手がねっと り絡みついてきた。 「やっ‥。なに‥する‥っ‥‥‥」 「モット…たベル…」 そう言って背後からニュッと回された細い触手が胸元を辿った。 「あっ‥なに‥‥‥?」 触れた途端、ビリっと電気が走ったかと思うと、脱力感に見舞われる。 こいつ…まさか―― オレの力‥魔力を、喰ってる――? 「なんだと!?」 その頃。野営地では、ソロの姿が見えない事に気づいたメンバーが、青い顔で集っていた。 水を汲みに行ったきり戻らないので、心配したライアンが様子を見に向かった時、ソロの 姿はどこにもなかった。 周辺を見回った所、少し離れた川の上流で転がってる桶を発見。その周囲になんの気配も 残って居ない事から、急ぎメンバーに知らせるべく野営地へと戻った。 報告を聞き、ピサロが厳しい貌で声を荒げる。 「とにかく、皆で捜しましょう! 暗くならないうちに!」 アリーナはそう呼びかけると、ライアンを促した。 「‥ここに、桶は落ちてたのね?」 「ああ。」 「じゃ‥この周辺から捜索始めましょう! 2人ずつ組んでね!」 手強い魔物が潜んでいるかも知れない‥と、アリーナが指示を出した。 この辺りに棲息する魔物は小物ばかり‥との油断が招いた結果なのだろうか? そんな焦りを覚えつつ、一行は彼の行方を追った。 「あっ…。やだ‥、やめ‥ろ‥っ‥てば‥‥」 全身なんの力も入らなくなる程気力を奪われ尽くすと、そいつは幾つもある触手を別の意 図で這わせて来た。 敏感に反応する箇所を執拗に弄ってくるのだ。 ねっとり這うソレが、情動を煽るかのように絡みつく。 そんなつもりないのに‥欲望を煽るよう中心を弄ばれて、不覚にも息が弾んでしまう。 「やっ…駄目‥っ、やだぁ〜〜…」 眦に涙を浮かべ、オレはイヤイヤするよう首を振った。 助けを呼べれば…そう思ったけど。 こんな状況じゃ、それも躊躇われて。混乱がより深まる。 中心へと絡まったソレが描いた螺旋がゆっくり回って、細い蔦が尖端を確かめるよう弾い てくると、躰が大きく震えた。 にたり‥笑みを深めたそいつが、トロトロ溢れる蜜口へ再び触れる。 「やあっ…、駄‥目っ、もう‥やだぁ‥‥‥」 ひくり‥しゃくり上げてると、別の触手が顔を這い回った。 涙を掬い上げ頬を巡ったソレが、口内へと侵入してくる。 「ふ‥ぁ。は‥‥‥ふっ‥‥」 粘膜に覆われたソレは無遠慮に口腔をかき回し、離れていった。 「はあ…はあ…。あっ‥ん‥‥‥」 不愉快な粘り気から解放され、ホッとしたのも束の間。胴体を巻いていた触手の先端が胸 の突起を弾き、ビクっと躰が撓る。しまった‥と思った時は後の祭りで、左右の脇から這 い登ってきたそれらが試すよう触れてきた。 「や‥だぁ…、も‥やだ‥‥‥よぉ‥」 反応示すから触れてくる…解っているけど。もうやり過ごしていられる余裕なんか残って なくて。オレは奴の動きに導かれるまま、蟠る熱を吐き出していた。 ソロの兜と剣が相次いで発見され、一行は滝壺の近くにぽっかり空いた洞窟の前にやって 来ていた。 「…すごく怪しいわよね。」 マーニャが慎重な面持ちで呟いた。 既に辺りはすっかり夜の帳が降りて居る。 カンテラをそっと巌屋へ向けると、闇がどこまでも続いているよう光が融けた。 「パーティ組んで、行ってみましょう。」 アリーナがそう話すと、洞窟の入口へ立ち耳を立てていたピサロが振り返った。 「貴様らは野営地へ戻れ。‥私独りで行く。」 「何言ってるのよ!? 厄介な敵かも知れないのよ!?」 マーニャが冗談じゃないと眉を上げた。 「そうですよ。独りでなんて、いくらピサロさんでも危険過ぎます!」 トルネコも尤もだと言い立てた。 「…では。神官を連れて行く。ならば文句あるまい?」 これ以上の譲歩はせぬ‥との意志を込め、ピサロがアリーナを窺った。 「…解ったわ。クリフト、頼むわね?」 「はい。お任せ下さい姫様。」 マーニャが持って居たカンテラをクリフトに手渡す。不安気に見守る一同に頷いて返すと、 後ろ髪引かれるようにしながらも、彼らは野営地へと戻って行った。 「‥ピサロさん。ソロが‥居るのですか?」 彼らの姿が見えなくなると、クリフトが慎重に訊ねた。 「…ああ。」 「じゃあ‥無事で‥‥」 ホッと安堵の表情を浮かべたクリフトだったが、険しい貌で内部を凝視める魔王に息を飲 んだ。 「魔物の気配も共に在る。どうやらここは巣らしいな…」 「魔物の巣…。ソロは、無事なんですか‥!?」 魔王は苦い顔で彼を見た後、ゆっくりと洞窟へ足を向けた。クリフトがカンテラで足元を 照らしながら追いかける。 「…気配が弱い。奴を捕らえた魔物の仕業であるなら‥精気を喰らう種なのだろう。 よいな、敵には触れるな。二の舞いになるからな。」 「ふ‥あ‥‥‥。ああっ‥も、やぁ‥‥っ‥」 いやらしく弄ってくる触手に散々喘がされて、掠れた声で何度目かの吐精を放った。 トロトロ滴る花芯に絡みついてくる細い管がビリビリと熱を奪ってゆく。 それが離れてゆくと、一旦離れた触手がスルスル伸びてきた。 双丘を割るよう伸びてきたソレが、秘所を通り過ぎたと思うと、不意に動きを止めた。 ギクン‥と躰が強ばる。 こいつが興味を示すのは、表面に限った部分だけだった。 だから、そこは無関心で居てくれたんだけど… 不安な眸で振り返ると、探るような目線がこちらに向けられた。 オレは慌てて目を反らし、逸る鼓動を懸命に嗜めた。 (気づきませんように。気づきませんように――) 祈る気持ちは、あっさり打ち破られた。 「やっ‥! いやだぁ〜〜っ!!」 スッと辿った窄まりに、グッとソレが入り込んでくる。 オレは必死で躰を捩った。 「…サロ。ピ‥サロっ…ピサロぉ〜!!」 堪え切れず助けを乞うよう、オレは声を張り上げていた。 「やだぁ―――!!」 悲鳴染みたソロの声が洞窟奥から届いた。 入り組んだ内部を進んでいたピサロとクリフトの足がはたと止まる。 ピサロは逸速く声が運ばれて来た方角を見定めると、足早に暗がりを進んだ。 水気を含んだ起伏ある足元を、クリフトも急ぎ走る。 ぼんやり光った壁が見えて来ると、奥まった場所に揺らりと何かが動いた。 蔦に絡められ捕られたソロが、必死に声を張り上げる。 「…ピサロぉ〜!!」 その瞬間、ピサロは前方に手を翳し、呪文を放っていた。 強制睡眠呪文。 スルスルと絡まっていた蔦――触手が解かれ、ソロの躰が傾いでゆく。 「神官。」 追いついた彼にそれだけ声をかけると、魔王は抱きとめたソロを彼へと送った。 意識のないソロを受け取ったクリフトが、怪我の有無を確認するよう彼を窺う。 その僅かな刻の間に、もう1つ呪文の光に空間が一瞬満たされた。 ズン‥と重たく沈んだ物体は、それ以上動く事はなかった。 冷えきった躰のソロを、洞窟に入ってすぐに見えた水溜まりを沸かして浸からせると、 ピサロは彼をクリフトに任せ、一旦場を離れた。 きれいに彼の躰を清めてやりながら、クリフトはひっそり嘆息する。 ピサロは恐らく洞窟の入口に立った時から、事態を把握してたのだろう。 だから、他のメンバーをこの場から遠ざけたのだ。 すっかり憔悴しきったソロの濡れた翠の髪を労るよう梳り、もう1つ吐息を落とした。 疲労の度合いも心配だが、それ以上に気掛かりなのは心の方。 未だ魔界での一件を引きずってる彼に、これ以上重荷は背負わせたくなかった。 カツ… 靴音が静かに響く。 視線を上げると、魔王がバスローブを片手に戻って来た。 「ソロは‥?」 「…まだ眠ってます。」 「そうか‥」 クリフトは彼を湯から上げ、バスローブに包めるようピサロへと委ねた。 洞窟を出ると、サア‥っと夜風が抜けていく。 滝壺に落ちる水音が、より鮮明になったせいか、ソロがふ‥と目を覚ました。 「…ピ‥サロ‥?」 自分を抱く人物をぼんやり見つめ、ソロが呟く。 心配そうに細められた紅の双眸を不思議そうに見た後、ビクっと躰を緊張させた。 慌てた様子で周囲を見遣るソロ。 「…大丈夫ですよ、ソロ。」 そっと彼の頬へ触れ、クリフトが柔らかく声をかけた。 「クリフト…。ピサロ…。オレ‥‥‥っ。」 2人の顔をじっと覗ったソロが、ぽろぽろと涙をこぼす。 きゅ‥っと自分を抱く彼の服を握り締め、縋りながら泣きじゃくった。 「…ソロ。あなたが無事でなによりでした。‥今は、ゆっくり休んで下さい。」 頭を撫ぜながら、クリフトが優しく話しかける。それから魔王へと目線を移すと続けた。 「先に街へ戻ってますか?」 「‥いや。先日の館の方がよかろう。煩わしくないからな。」 ソロが顔を上げ、ピサロを見つめた。 「ソロは、それでいいのですか?」 クリフトが確認するよう問いかける。ソロは視線を移すと、コクンと頷いた。 「貴様らはエンドールへ戻っていろ。回復次第合流すると伝えればよかろう。」 「解りました。皆さんには巧く伝えて置きましょう。」 にっこりとクリフトが微笑んだ。 「‥貴様には、別に連絡つける。」 「ええ。必要なものは揃えて置きますよ。あの街なら大丈夫でしょう。」 ソロが失った服の代替え品を手配しなければと、クリフトが応える。 「クリフト…」 「大丈夫。なにも心配しないで、ゆっくり休んで下さい、ソロ。」 暖かく微笑まれ額が寄せられる。ソロはほうと吐息をつくと、「うん」と小さく答えた。 「では‥行くぞ。」 ピサロがソロへ声を掛ける。ソロはきゅっとしがみつくよう躰を寄せた。 一瞬だけ前方のクリフトへ目を向けたピサロが移動呪文を唱える。 ふわり巻き起こった風の後、一筋の光が弧を描きかき消えた。 2006/4/10 |
あとがき とうとうやってしまいましたよ。禁断ネタ(苦笑) 某所で見た絵が想像膨らませて、つい(?)書いてしまいました★ もうお嫁に行けません(^^; ←行く気もないけど★ ある意味、怖いもんなくなったか?(苦笑) 一応これは「番外編」とゆーコトで。捉えて頂きたいと思います。 (じゃないと、ソロヤられてばっかりだ…★) 本編で上手くぴーちゃんと仲良くなれれば問題なし…とゆーコトで。 微妙なタイミングで現場に駆けつけたピサロとクリフト。 あれって、間に合ったのか、遅かったのか…う〜ん(++; またソロを大泣きさせてしまいました。 エピソードの背景としては、「光の庭」の後、もう1つ入る予定の裏話 の後くらいかなあ・・・と見当つけてます。 大分ピサロとの蟠りが薄れてきてる頃合でしょうか。 この番外編は、私の妄想を後押しして下さった<npng>のサキさんに 捧げちゃいます♪”←おしつけてみたり(^^; 追記:結局本編へ組み込みました! 続きは表の「ソロのいない日」です。 同じく表の「天の兆し」との間の話になります。 2006/5/14 |