正義の味方、しばしの休憩‥の巻


「わあ〜い、やった!5つ目だ!!」

緑のミニうさソロが、バンザイと手を上げた。

5つ目のハートを手に入れれば、一旦元の姿に戻れると言う。

ピサロもやれやれと肩を撫で下ろした。

一時でも、ふざけた姿から解放されるのは、やはりありがたい。

「ではな…早速呪文唱えるかの?」

ポシェりんがおもむろに口を開いた。

そうだね‥と頷くソロに、うさみみ魔王が待ったを掛ける。

「その呪文の効果は、どれくらい持続するのだ?」

「ん‥? そうさのう‥10分‥5分‥そんなもんかの。」

呑気に答えるポシェットに、魔王がズンと頭を落とす。

「‥たったそれだけなのか?」

「う〜ん‥なんせ久方ぶりの魔法じゃからな。勘が戻るまでは、致し方ないのう‥」

髭でもあったら撫でながら話してそうな、他人事めいた語りに、魔王は盛大な溜め息

を落とす。

「まあまあ。きっと石になってた時間が永すぎだったんだよ。

 レベル1からやり直し‥ってコトじゃない?」

肩がすっかり定位置の、ミニうさソロが、慰めるよう首をぽむと叩く。

目が合うと、にっこり微笑んでくる彼に、ピサロはもう1つ吐息を落とした。

「‥仕方ない。ならば‥準備が整うまで待て。」

そう制して、ピサロは移動呪文を唱えた。



果たして。

やって来たのはデスパレス。ピサロの私室。

そこへ繋がるベランダに着地した一行は、そのままひっそり部屋へと入った。

辺りはすっかり夜の気配が広がっている。

「‥ねぇ。夜を待つなら、コレはいらなかったんじゃないの?」

頭からすっぽり被った黒のフード付きマントをパサリと脱ぎ捨てた彼に、窮屈さから

解放されたソロがぼやく。

「夜目の利く者もあるからな。それより、まだ準備がある。

 しばらくおとなしくして居ろよ。」

ソロとポシェット両方へと言い聞かせて。ピサロが机へと向かった。



何やら認め終えると、ピサロはそれを手に立ち上がった。

振り返ると、広い寝台の上で神妙に待っていたソロ達は、くーくーと眠っていた。

ミニうさぎ姿のソロを、ピサロがそっと撫でる。

それから起こさぬよう気遣って、彼が肩から斜め掛けしているスライムポシェットを

取り上げた。

こちらもぐっすり寝こけてるポシェットの肩紐を手に、自分の目の高さに引き上げる。

「おい‥起きろ。」

ソロを起こさぬように潜められた声音は、地を這うごとく低かった。

「‥む。にゃ‥?」

「貴様の出番だ。きっちり働け。」

冷たい声音にブルリと震える。目線を落とすと寝台の端に眠るソロが映って、ひっそり

ポシェりんが嘆息した。ソロと言うクッションがないと悪の親玉にしか見えない。

―――その通り(魔王)なんだが‥

「‥お主、黒いのう‥」

見かけを裏切るうさみみ姿に、ポツンとこぼして。目を閉ざすと呪文の詠唱を始めた。

ポワンと光がポシェットを包んで、2者の間に光球が完成すると、パンと弾けた。

光の粉がサラサラ室内に降り注ぐ。

それを浴びたピサロが光に包まれると、白い靄の中から、銀髪美丈夫魔王さまが姿を

現した。

「おおっ…!? お前さんはまさか‥?」

ポシェりんが目を丸くして、本来の姿に戻ったピサロを見つめる。

「…魔界の王家がどうしてこちらに在るのだ?」

「知らんな、そんなコト。」

ポシェットの言葉に一瞬怪訝な顔を浮かべたピサロだったが、なんの躊躇いなく、

ポイッと放って、同じく元の姿に戻ったソロの元へと向かう。

スッと膝を着いて、間近に顔を覗き込んだピサロが、額にかかる翠髪を払うように手を

当てる。

小さく髪を撫でると、微かに瞳が柔らいだ。それから静かに立ち上がって踵を返す。

「すぐ戻る。」

それだけ告げて、ピサロは書類を手に出て行った。




「陛下。どちらにいらっしゃったのですか?」

執務室に書類を置いたピサロが部屋を出ると、アドンが廊下をツカツカやって来た。

‥面倒な奴に遭ったな。

内心で嘆息した魔王がいつも通りの無愛想を浮かべる。

「しばらく城を空ける。留守は任せたぞ。」

それだけ告げて、ピサロは自室に向かって歩き始めた。

「陛下‥!」

背中に掛かる声も無視して、スタスタスタ。だから小さく届いた溜め息が、微笑を含んで

いたのも、魔王さまは知らなかった。


―――頑張って下さいね。

心の中でひっそりとエールを送るアドン。



次回は魔王さまの知らない、うさみみ魔王さま誕生秘話‥かも?




2008/9/4
          




          



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