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「見て‥! あれが例の島じゃない!?」

ミントスを発ってから1週間。魔物の城があると噂される岩に囲まれたその島影がはっき

り浮かび、マストの上から降りて来たアリーナが、嬉しそうに話した。

「そうだね‥きっと、あれだよね。」

隣にやって来た彼女に答えながら、ソロがふっと嘆息する。

「でも‥上陸出来るのかしら? 随分切り立った崖ばっかりじゃない。」

迫って来るような圧迫感ある岩壁に、マーニャがさらに溜め息を重ねた。

「島の周囲を回っていれば、そのうち見つかるじゃろうて。」



結局。陽のあるうちに上陸ポイントが見つからなかった為、その晩も一行は船で過ごす事

となった。岩影に船を停めてしまうと、夜間は船員が交替で見張りに立つため、ソロ達に

は束の間の休息時間が訪れる。

「…ぼんやりしてると、海に落ちてしまいますよ?」

夕食後、トルネコとブライに捕まってしまっていたクリフトが、船尾のデッキで独り佇ん

でいたソロに声をかけた。

「クリフト…。」

「どうしたんです? 浮かない顔ですね。」

彼の隣に立ったクリフトが、気遣うよう訊ねた。

「‥魔物の城って…本当かな? この島に…地獄の帝王がいたら、すべての決着がつくの

 かな‥。そしたら…オレ達の旅ももうすぐ終われるけど‥」

「そうですね。…ソロ?」

俯いたソロの肩が微かに震えているのに気づいたクリフトが、訝しむよう彼を覗った。

「…勝てる‥かな?」

「ソロ…」

「ごめん。オレがそんな事言ったら、みんな不安になるだけだよね。‥なんか。ちょっと

緊張してんのかな…?」

「大丈夫ですよ。これまでだって強敵相手に戦って来られたんですから。みんなで力を合

 わせてがんばりましょう。…忘れないで下さい。あなたは独りじゃない‥って事を。」

心細げなソロを励ましたクリフトが、フッと彼を抱きしめた。

「…うん。そうだね‥‥」

こつん‥と頭を寄せると、ソロはそのまま彼に身を預ける。とくんとくんと繰り返される

鼓動を聴いてると、不安や寂しさが和らぐようで、クリフトの腕の中は心地よかった。



リバーサイドという、島にある河を溯った場所に位置する町へ着いたのは、太陽が真上に

昇った頃だった。

河の両岸に点在する建物が見えた時、魔物の村かと緊張が走ったが、すぐにそれが人間の

町である事が判明した。噂は所詮噂だったのか‥と、少々がっかりしながらも、一行は宿

を取り情報収集を開始した。

結果。魔物の城があるという噂は、島の奥に人を寄せ付けない不気味な城がある‥という

昔からの言い伝えによるものだと判明した。

2〜3日情報収集をしながら体力を蓄え、島の奥を目指す事が決まると、その日は散会と

なった。



「まさかこの島に人が住んでいるとは思いませんでしたね。」

部屋の窓を開け放ち暗い森を見やるソロに、クリフトが声をかけた。

「…そうだね。‥実際この島って、結構な数の魔物‥いるよね? 大変じゃないのかな?」

「確かに‥。結界の境界がくっきり見えそうな、そんな町ですよね、ここは。」

「うん‥。」

ソロは窓を閉めると、自分のベッドへぽすんと腰掛けた。

「ここが‥本当に魔物の城のある島ならさ、なんで‥この町は大丈夫なんだろう?

 …人間を滅ぼしてやりたいくらい嫌ってたらさ、まず身近なとこから手をつけない?」

「そうですねえ‥。言い伝えにある古城が今は無人なのか。その城の主が好戦的でない‥

 という事なのか。魔物ではなく、人が住んでる可能性だってありますし…」

「よく‥分かんないよね。」

「そうですね。ただ‥変化の杖の情報をくれたスライムの指す怪物の城というのが、この

 島の事だとしたら‥デスピサロの居城とも考えられますから、油断は出来ません。」

「…そう‥だね。」

ソロは精一杯平静を保ち、答えた。



―――デスピサロの居城。



それはソロもずっと考えていた。魔族の王だという彼の城が、この島にあるのではないか

‥と。暗い森の向こうに、その居城があるのではないかと‥‥

あれ以来顔を出さなくなったデスピサロの近くに、とうとう自分は辿り着いてしまったの

かも知れない。そう思うと、ざわざわと胸が騒ぐソロだった。





「う‥ん。はあ‥っ‥‥‥」

リバーサイドに着いて2日目の晩。いつもより早目に床に就いたソロは、ねっとりとした

闇に追い立てられ、追い詰められた所で目を覚ました。

夢の内容は定かでないが、なんとも言えない不穏な闇が纏わり付いてきた感触がまだ残っ

ているようで。ソロは冷や汗を拭うと、気持ちを落ち着ける為深呼吸を繰り返した。

喉の乾きを覚えたソロが、そっと部屋を出ると冷たい水を求め、宿の井戸へ向かう。

建物を出ると、城があるという森をじっと凝視めた。昼も暗いその森は、薄い靄にいつで

も覆われているのだと聞いた。まるで姿を現す事を拒んでいるかのように‥

(きっと居る‥! あいつは‥この霧の向こうに…!)         
凝視め→みつめ

きゅっと唇を引き締め、ソロは闇の彼方をただ凝視めた。…戦う事を受け入れられている

のか、まだ引きずっているのか‥それを見極めるのは、まだ躊躇われたが、受け止める心

積もりだけは、どうにか持てそうだ。ソロは静かに息を吐くと、井戸へ歩み寄り、水を

汲んだ。ゴクゴクと柄杓一杯の水を飲み干し、桶に残った水でぱしゃぱしゃ顔を洗う。

ぷるぷる顔を震わせ水気を飛ばすと、ソロは宿の部屋へゆっくりした足取りで帰った。



かちゃり‥。極力音を忍ばせてはいたが、軽い金属音を響かせてしまった為、同室のクリ

フトが目を覚ました。

「…ソロ。どこか‥出てたんですか?」

そっと部屋へ戻って来たソロに、半身起こしたクリフトが話しかけた。

「あ‥うん。ちょっと水を飲みに。ごめん‥起こしちゃったね。」

答えるソロをクリフトが手で招く。ソロは首を傾げながらも、彼のベッドに腰掛けた。

「前髪‥濡れてますね。サイドも‥。」

「うん。ついでに顔も洗ったから‥。」

「…それだけ、ですか?」

心配そうな瞳で訊ねられ、ソロが小さく頷いた。

「大丈夫‥だよ。ちゃんと泣きたい時はクリフト頼るから…」

彼の胸に寄りかかるよう背を預け、ソロがふっと微笑んだ。

「オレ、甘ったれだから‥優しい腕は忘れないんだ。」

緩くクリフトの腕に自分の両腕を絡ませたソロが、穏やかに続けた。

「いくらでも甘えて下さい。ただ…」

湿った彼の髪を梳きながら、クリフトは一旦言葉を切った。

続く言葉を待つソロが、顔を上げ、クリフトを仰ぎ見る。

「多少貞操の危機も、覚悟なさった方がいいかも知れませんよ?」

「え…。‥本気…?」

いつもと変わらぬ柔らかな微笑のクリフトに、ほんのり耳を染め、ソロが訊ねた。

「本気です。」

「‥‥‥。…いいよ。それでも‥。」

薄く笑って返す彼をじっと見つめたソロは、瞳を伏せるとぽつんと答えた。

彼の腕に回されていた両腕に、ほんの少し力がこもる。

「オレ…クリフトなら‥多分‥‥‥」

「構えずとも、突然襲いかかったりはしませんよ。」

俄に緊張を走らせたソロの様子に、ふわり笑ったクリフトが安心するよう声をかけた。

「今はこれだけ…」

そう告げると、クリフトはソロの額に口づけた。

「クリフト‥。」

微笑みかけられ、ソロも微笑んで返す。すっと力を抜くソロの肩に、クリフトが手を乗せ

た。

「さ‥そろそろ眠りましょう。ソロ、このまま一緒に眠りますか?」

「え…。んっと‥自分のベッドに戻るよ…。」

逡巡しながらも、ソロはそう答えると、静かに身体を起こし移動した。

なんだか飲んでもいないのに、身体がふわふわする。ぽやんとする思考のまま、ベッドへ

戻ると、すぐに横になった。

こてんと横向けになると、隣のベッドで同じように横になっていたクリフトと視線が重な

る。

「おやすみなさい、ソロ。」

「お‥おやすみなさい‥。」

細められた瞳に朱を走らせながら、ソロがあたふた応え、布団に顔を埋めた。

ドキドキドキ…

頬が熱い。

本当は‥もう少し温もりを感じていたかったけど…

軽く触れただけの額を意識して、早鐘を打つ鼓動が収まらない。

スキンシップ好きなマーニャだって時々してくるし、ミネアにもされた事はある。シンシ

アなど日常的に親愛のキスを贈ってくれていた。

でも、それとは違う。

ピサロのように全身の熱が一気に上がるのとも、違う。

ソロはそっと顔を布団から覗かせ、既に寝に入ってるクリフトの横顔を眺めた。



側に居てくれる―――そう、クリフトは約束してくれた。



多分‥一番欲しかったコト。

だから‥嬉しくて。

オレは―――



ソロはひっそり吐息をつくと、瞳をゆっくり閉ざした。



―――忘れさせて‥くれるかな…



どこかでぼんやり思いながら、彼は再び夢の中へ落ちていった。





2005/3/7


あとがき

なんだかどっぷり甘えてます、ソロくん(^^;
私的には、まだ2人の間に恋愛感情がないので、こんだけべったりしてても、
健全・・の部類に入ってしまうんですが。・・・ズレてますか?(^^;

次回は恐らく5章最後の逢瀬編・・・だと思われます。
ここんとこ健全な内容できてたので、ピサロサマとの話はその分熱くしたいな
・・とか企んでますが。どうなることやら・・・

でわでわ。ここまでお付き合い下さった方、ありがとうございました!!(^^/

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