Labyrinth〜想いのなまえ2〜より抜粋


「クリフト。行って来ていいぞ。」

「…え。」

鷹耶の言葉に途惑うようにクリフトが立ちすくんだ。



ゴッドサイド。

 ミネア・アリーナの部屋へと顔を出した鷹耶とクリフトは、アリーナが一人街へと出て

行った事を聞いた。部屋を早々に後にした鷹耶を追ったクリフトは、すぐ外で彼を待って

いたように立つ鷹耶に声をかけられた。

「アリーナの所。ほおっておけないだろ?」

それだけ言うと彼は自室に向かって歩き出した。

「ま‥待って下さい、鷹耶さん。」

クリフトがそんな彼を追いかけた。

「オレなら大丈夫だよ。」

「…全然。…全然大丈夫じゃなかったじゃないですかっ!?」

歩みを止めたクリフトが小さく言った後、絞り出すように吐いた。

「クリフト…。‥お前‥‥‥‥」

瞳から伝い落ちる滴に面食らったように、彼を見つめる鷹耶。

「…今のあなたを独りになんて‥出来ません…。だから…」

「…判ったよ。泣くなよ…。」

「な‥泣いてなんか‥。」

言いながら赤い瞳をごしごしと擦る。

「オレも付き合うからさ。一緒に行こうぜ?」

「え…?」

「アリーナんとこ。あいつの事だって、ほおっておけないんだろう?」

「そう‥ですけど。鷹耶さん、身体の方は‥?」

「別になんともねーよ。戦いに行く訳でもねーんだしさ。」



「…で。何一人で黄昏てたんだ?」

 無事にアリーナと会う事が出来た鷹耶とクリフト。三人は並んで近くのベンチに腰掛け

ると、鷹耶がアリーナに話しかけた。

「別にそんなんじゃ‥。」

「サントハイムの事‥聞いたんだろう?」

鷹耶の問いにアリーナが小さく頷いた。

「…なんか。いろいろ聞いたから、グルグルしちゃった…。」

「アリーナ様‥。」

「でも‥それは…マーニャ達と話しながら整理出来たの。‥いろいろと、解らない事も

  あるけどさ…。ただね‥。」

心配そうに声をかけるクリフトに、彼女はぽつぽつと答えると、ふと顔を上げ隣に座るク

リフトを見つめた。

「‥‥‥‥。」

鷹耶はそんな彼女の様子を黙ったままうかがった。

「‥ただ…ううん。なんでもない。」

 結局。アリーナはそれ以上その視線に込められた想いには踏み込まなかった。

話題は今日のミーティングで出たサントハイムの件に移り、そのまま今日の戦いの話へ

と移って行った。

「…鷹耶も、大丈夫なの?」

 途中から黙ったままになってしまった彼に、アリーナが話しかけた。

「あ‥ああ。まあ…なんとかなるだろ?」

ピサロが仲間に加わる事に、真っ先に賛成した自分が一番彼の存在に途惑いを覚えてる

かも知れない…彼の話題にどうしても凍てつく感情が呼び起こされてしまう。彼は無意識

に大きく嘆息した。

「…そう。今日は本当にお疲れさま。二人とも洞窟行って疲れてるのよね。そろそろ戻

  りましょうか。」

 彼女が立ち上がると、それに倣うように二人も立ち上がった。



「じゃ‥また明日。ゆっくり休んでね。」

 宿の部屋がある三階へ着くと、アリーナが笑顔を残し自室へと向かった。

「オレ達も戻るか‥。」

「あ‥ええ。」

ぼんやりと彼女を見送っていたクリフトに声をかけると、二人も部屋へと向かった。



「はあ‥。やっぱりちょっと疲れたかな…。」

 クリフトと共に自室に戻った鷹耶は、先程自分が使っていた一番はじのベッドに倒れ込

んだ。

「大丈夫ですか‥?」

「ん…まあな。」

「本当に…?」

クリフトはベッドの脇に立つとそのまま膝をつき、仰向けになった鷹耶の様子を窺った。

「あなたの[大丈夫]はあてになりませんから。」

「…ふ。かも知れねーな。」

「鷹耶さん!?」

「けど…そう思おうとしてるのは本当だぜ? そうやって‥これまで来たんだしな‥。」

「鷹耶さん‥。」

苦笑って言う彼をクリフトが愁そうに見つめる。

「僕は‥僕には‥なにも出来ませんか‥?」

「クリフト‥。」

「あなたの支えには‥なれないのですか?」

「…んな事‥ねーよ。お前は十分支えになってるよ。」

「けれど…!」

「本当だ‥。お前が居るから‥オレはオレで居られるんだー。」

鷹耶がそっと彼を抱きしめた。

「…それでも。あなたは私と距離を置きたがる…。どうしてですか? …アリーナ様の事

があるからですか‥?

  私はずっと‥あの方を見つめていて…お側に仕える事が出来て…本当に幸せでした。

  譬え想いが届かなくとも‥お側に居られるだけで、よかったのです。けれど‥。」

 クリフトがじっと鷹耶を見つめる。

「…あなたと触れ合ってしまった。心が触れ合う喜びも安寧も‥知ってしまった。

解りませんか? 僕にもあなたが必要なんです!」

「‥クリフト…。」

「あなたを‥愛しています‥。」

「クリフト…お前‥」

彼が向ける真剣な眼差し、思いがけない言葉…鷹耶は一瞬言葉を失ってしまった。

「‥いいのか? …本当に…?」

「いつもは‥こちらが途惑うくらい強引なのに…。」

クリフトが小さく笑った。

そっと伸ばした彼の手が頬を優しく包む。鷹耶は導かれるように、彼に口づけた。

「オレも…気づいたら‥惚れちまってた。…愛してるよ。」

「鷹耶さん…。」

想いを確かめ合うように、深く口づける。

 ただの情ではなく。そこに確かに存在していた愛情。いつのまにか育まれていた想いは

確かな絆となっていた。



「…ん‥鷹耶‥さん…」

組み敷かれ降り積もる愛撫に身を震わせながら、クリフトは彼の髪を漉くよう頭を抱い

た。

「もう‥いいですから…早く‥‥」

「‥すげ‥。積極的だな‥クリフト…。」

愛おしげに鷹耶が笑んだ。

「ん…だって‥‥‥」

元々彼を抱く時に力づくで来る事は滅多にない鷹耶だったが。今日はいつもの三倍は優し

いのでは?…と感じられる程、細やかに優しく触れてきていた。それが身体を芯から熱く

させて、もどかしさを煽っていた。

「ここ‥慣らさねーとキツいだろ…?」

「んっ‥でも‥もう‥‥はぁ…」

「…仕方ねーな。ちょっと待ってろ。」

 小さく笑うと、鷹耶は荷物から小瓶を取り出して戻って来た。

「オレも‥早くお前の中に入りたいからな。」

甘く囁きながら、潤滑用の油を入り口にあてがう。

「ん‥はあ…ふ‥うっ‥‥‥んあっ‥」

しっかりと塗り込めながら指を深く差し入れてくと、小さく彼が退け反った。

圧迫感が甘い疼きに変わる中、差し入れる指が増やされていく。

「‥クリフト、いいか‥?」

切なげに訊ねる鷹耶に頷きながら、クリフトは彼の背中に腕を回した。

「んっ‥やっぱキツいな‥。」

「は‥あ…。…鷹耶‥さん‥‥」

キスをねだるように、回した腕を引き寄せると、彼が応えた。

甘く深い口づけを交わしながら、ゆっくりと繋がりを深めていく鷹耶。

「すげ…いいよ‥クリフト…。」

「鷹耶さん…」

「‥一緒にイこうぜ‥」

「んっ‥ああっ!」

ずっとほおっておかれた筈の中心は、すっかり熱を帯びていて敏感に反応してしまう。

「あ‥はあ…はあ‥。ふっ‥ん…ぁ‥ああっ! はあ‥ふう‥‥」

「…くっ‥はあ‥はぁ‥‥」

甘い疲労感が二人を包む。
 確かめられた想いが齎す充足感は、日々の戦いすらも遠く思えた。



「…あの。鷹耶さん…。」

 しばらく余韻に浸っていたが。ふと思い出したようにクリフトが言い出した。

「…すっかり失念してましたが。ここ‥三人部屋だったんです。」

「そういや‥そうだな。」

思わず二人が顔を見合わせた。

「一晩中こうしてたいけど。いきなりは不味いよな、やっぱ。」

「‥いきなり‥じゃなくてもです。鷹耶さんは本当に…」

ブツブツ呟きながらクリフトは身なりを整え出した。

「鷹耶。」

「え‥?」

「さん‥はいらねえって。鷹耶でいいよ。」

「は‥? で‥でも…いきなり言われても…」

「呼んでくれねーの?」

「う‥。じ‥じゃあ、二人だけの時なら…。」

甘えるように見つめられ、赤く俯いてしまったクリフトが答えた。

「んじゃ‥早速呼んで見てv」

「着替えるのが先です。陽も暮れてしまったようですし、今戻って来られたら言い訳立

  ちませんよ?」

「オレは別に構わないけどな。」

「僕は構うんです! さ‥早く。」

「切り替えが早いな‥お前。」

追い立てられた鷹耶が渋々彼に従った。



辺りはすっかり夜の気配が広がっている。もう一人の部屋の主ピサロがまだ戻らずに居

てくれたのは、本当に幸いだった‥とクリフトは大きく嘆息する。

窓を開放するとサアーっと少し冷んやりとした夜風が舞い込んだ。

「本当に、すっかり暮れちまったな‥。」

 窓辺に佇むクリフトの元へやって来た鷹耶が、夜の街へ視線を向けながら話しかけた。

「ええ‥。」

「クリフト。」

鷹耶がにこにこと自分を指す。そのあからさまな様子に、反って緊張を走らせながら、ク

リフトが応えた。

「た‥鷹耶…。」

途端。鷹耶が心底嬉しそうに甘い瞳を返した。

「…鷹耶‥」

「クリフト…愛してるよ。」

そっと頬に触れながら唇をなぞると、啄むようなキスを落とした。

「…約束‥して下さいね。独りで抱え込まないと…。」

「ああ…。」

「もう‥今日みたいな思いは‥したくありませんから…。」

「クリフト…。」



認めてしまった想い。

 それは。

 今はただ静かに深く二人を満たしていた‥‥‥










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