てのひらの幻―――緋龍


あんなに側に居たのに。気づけなかった。
いままで一度だって、どんな姿に身を変えた彼女をみつけられないコトなどなかったのに。
ずっと気づけなかった‥‥‥

触れられる距離にあったのに。
それでも‥‥‥オレは見つけられなかった。

どうして?

ようやく見つけたのに。
彼女はするりとオレから離れて行ってしまう。

護れなかったから‥?
『勇者』の使命をまだ、果たし終えてないから‥‥?

ロザリーの元で姿を封じられ、平和に暮らしていたシンシアは‥‥
彼女亡き後、その行方を眩ませてしまった。

短い手紙をオレに残して――――

向ったのは、デスピサロの元?
なんのために? 彼のため‥? それとも‥‥ロザリーのため?
‥‥シンシア自身がそう望んだから‥?
オレを護るために、迷いもなく魔物の前に飛び出し、その身を犠牲にしたシンシア。
そんな彼女だったから‥
ほおっておけなかった?   彼らを――――?

それとも‥‥

進化の秘法でその身を変えてしまったデスピサロを倒した後。
元の姿を取り戻し、倒れる彼の元へ駆け寄ったシンシア。

彼女はオレ達と地上に戻るコトを拒否し、その場に留まってしまった。
納得出来ないオレを察してたのか、てのひらから光の粉が舞う。
身体がマヒしてしまったオレを、仲間が無理に馬車へ乗り込ませた。

掴めそうで、掴めない。
それは‥彼女にとって、オレは幼なじみでしかないから?

でもオレは――――!!

遠ざかってゆく景色の中、オレは精一杯彼女に語りかけた。
オレの想いを。
‥‥‥ずっと、伝えたかった言葉を。

もう幻だけにしたくなかったから。




2004/6/18

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