夕闇まで、あと少し―――クリフト(鷹耶編)



その笑顔にふと高鳴る鼓動を覚えてしまってから。

まっすぐな眼差しを寄せられると、心を見透かされてるようで。

落ち着かなくなってしまった。

火照った頬を感じると、いたたまれなくて、つい目を逸らしてしまう。

鷹耶さんはともかく。他のメンバーに気取られたくなくて‥

彼を受け入れてしまった自分に、後悔はない。


けれど…


それでもこの関係を、不自然だと思う自分が確かに在るのだ。


鷹耶さんには想う女性が在る―――


そして彼は‥僕が未だアリーナ様を忘れてない…そう思っている。

寄せていた想いは、そう簡単になくなりはしないけれど。

でも僕は―――


あの時、落ち込んでた僕を心から心配してくれていた鷹耶さんの気持ちが本当に嬉しくて。

側に在る体温に安らぐ自分を見つけたから…

だから、その思いの先を知りたいと…受け入れたんだ。




「お帰りなさい!早かったわね。」

「おう。ちと手間取りそうなダンジョンだからな。適当に切り上げたんだ。」

笑顔で迎えたマーニャさんに、疲労の様子を窺わせない鷹耶さんが応えた。

「あらあ…そうなの。じゃ、今夜はこのまま船泊まり?」

がっかり零す彼女に、同じくダンジョンから戻ったばかりの姫様が、クスリと笑う。

「ふふ…安心して、マーニャ。今夜は島に戻るから。」

「え…本当!?」

「なんか手強い魔物の多いダンジョンだったからな。

 今夜しっかり休んで、明日早朝出直しだ。」

視線を集めた鷹耶さんが、苦笑混じりに話す。

マーニャさんのルーラで、一同は移動を果たした。

船を停泊させて、馬車ごと島へ降り立ち、ゆっくり宿への道を歩く。

西に傾いた太陽が、空を茜色に染め上げて。島を照らし出す。

すべてを曖昧に映す誰そ彼刻―――

この複雑な思いを包み込むひととき。

やがて夜の帳が、昼とは別の欲を呼び覚ますまでのこの時間。

心は揺らぐものの、不思議な心地よさも覚えて。

隣を歩く彼の横顔をひっそりと眺め見た。


夕闇まであと少し。

誰にも内緒で彼を覗えるひとときの風は、密かな甘さを孕んで解けた―――




2007/8/12
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