嘆かわしきは―――マスタードラゴン(ソロ編)



ソロをずっと見守ってらしたのでしょう?

ならなぜ―――!?



確かに…

あの日不穏な気配が封じられし村から流れ、公務もそこそこに、村へと気を集中させた。

破られた封印。

暴かれた村へ、続々押し寄せる魔物達。

勇者――ソロを真っ先に避難させた村人達は、勇敢に魔物と戦った。


だが…

ただ独り遺されたソロが、茫然と瓦礫の山と化した村を見つめる。

そこへ此度の元凶とも云える男が舞い戻っている事も知らずに…

ソロの生命が危機に晒されたなら‥

協定に多少抵触しようが、救うつもりはあった。


だが奴は―――

恐るるに値せず…そう判断したのか、予測せぬ行動に出た。

無垢な体を暴き蹂躙してゆくさまを、どれだけの思いで見守ったか。

神とて私心はあるのだ。

問いを投げかけて来た青年は、黙り込む私に言い過ぎたとばかり口を噤んだ。



不思議な男だ。

誰もが恐れ、敬意を払う存在。

だから仕方ないのだと諦めていたものを思い出させてくれる。

決して万能ではない此の身を、ヒトはそうと信じ、理想の姿ばかり追い崇め奉る。

天空の民とてそうなのだ。それが…

無力さに嘆く我が心を見透かしたように、罰の悪い顔を浮かべてくる。



「…1つ訊ねたいのだがね?」

「なんですか?」

小さな咳払いの後、切り替えるように口を開く。少しホッとした様子で、彼は私を見つめた。

「正直な所、ソロと魔王の関係をどう見る?」

「…どう‥とは?」

「ふふ…なかなか堅いな。本音は簡単に明かさぬか。他意はない。

 ただ‥言葉通りの問いだ。」

こちらの意図を探るように返して来た彼に、笑んで答える。

「‥驚きましたよ? 最初はね。ですが‥どういう形にしろ、支えとなったのも確かですしね。

 …まあ、ソロには必要だった‥と理解してます。」

「‥必要とな。…だが、現状では?」

フッ‥と口角を上げて、更に問いを重ねる。

「ふふ…なかなか意地悪な事仰っしゃいますね、貴方も。」

青年がクスリ‥と微笑う。ほんの少し砕けた様子で、彼が更に続けた。

「‥まあ、厄介だと思います。彼の存在はね。‥とはいえ、このままなのも問題でしょう。

 忘れたまま対峙させては後々ソロが傷つくだけですから。」

「なかなか辛い立場だな‥君も。」

「‥竜の神は、私とソロについては、どう思っていらっしゃるのですか?」

「それこそ口を挟むべき問題ではなかろう。‥まあ、少々申す事があるとすれば‥」

続く言葉を待つように、青年がコクリと喉を湿らせる。

「…曾孫は望めそうもないな‥とな。」

青年が目を丸くして、それからクスクス笑い出した。

「それは確かに‥難しいでしょうね。」

互いに頷き合った後、笑いがこぼれ出した。



そう 嘆かわしきはただ―――



天空城へ訪れた時の会話‥ですね。

2007/7/14

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