平和になった世界――デスパレスに、ある日空から何かが落ちて来た。
とすん…と屋上に舞い降りたリボンのかかった大きな箱。
報告を受けた城の主ピサロが部下と共に赴いた。
警戒する部下達を余所に、ピサロがツカツカ箱へと近寄る。
リボンを解くと、ひらり‥とカードが舞った。
――可愛がってねv
丸っこい文字で書かれた短いメッセージ。
ピサロは取り敢えず、箱の中身を確かめるべく開いた。
果たして。
中から出て来たのは‥‥‥
猫のような耳としっぽのある、緑の髪の少年。首輪の先には鎖まで垂れて、支柱らしきも
のに繋がれていた。服もつけていない。
「ピサロ様‥これは‥‥‥」
一の側近であるアドンが目を丸くし息を飲んだ。
ピサロもかなり意外だったのか、しばし呆然とその場に佇む。
ふと…数日前のソロの言葉を憶い出した。
『ピサロってさ、可愛い動物好きなんだって? 今度いいもの届けてあげるね!』
いいもの…とは、これの事なのだろうか?
どこかソロに似た雰囲気を纏った少年に、ピサロはそう思い近づいた。
「…お前の名は?」
言葉が通じるのだろうか?…と疑問抱きつつも、膝を折り、静かにピサロが問いかけた。
「…レイエル。」
「良い名だ。」
言いながら。少々緊張気味の少年の頭をピサロは撫ぜる。獣のような三角の耳を指で
そっと挟んでみると、ぴくんとそれが跳ねた。…どうやら本物らしい。
アドン以外の部下は、中身が確認出来た時点で場を去っている。
この場に残るのは念のため控えているアドンとピサロ、そしてこのレイエルと名乗った少
年のみ。ピサロが柔らかな髪の感触を楽しむよう撫ぜていると、レイエルも落ち着いたよ
う和らいだ吐息を落とした。
ピサロは徐に少年を鎖から解き放つと、ふわりとその身体を抱き上げた。
「…どこいくの?」
少年が不安そうにピサロを窺う。
「私の部屋だ。いつまでもここに居る訳にも行くまい?」
すっと優しく瞳が眇められ、少し安心したよう少年も微笑んだ。
なにも身につけていない少年に手近にあったシャツを与え。
念のため少年にいろいろ訊ねて解ったのは。
名前だけ‥だった。
「…あの‥ね。オレ、どうすればいいかなあ…?」
迷子の自分を扱い兼ねた様子の魔王に、しょんぼりと少年が訊ねた。
「帰る場所が解らないのなら、いつまでも居るといい。」
「いて‥いいの?」
「ああ‥歓迎する。」
少年はぱっと明るい顔を見せると、寝台に腰掛けていた躰を跳ねさせ、飛びついた。
ぎゅっと柔らかな躰を寄せフリフリ左右に長いしっぽを揺らす。
ピサロは機嫌よく揺らぐそのしっぽを興味深げに手に取った。
「ひゃう‥!」
途端少年が妙に艶めいた声で啼いた。
「ん…どうした?」
ひっそりと訊ね覗うと、頬に朱を走らせた少年が、瞳を潤ませ困った様子で見つめてくる。
「‥あのね。しっぽぎゅうってされるとね‥じゅってね、もじもじするの。」
「ほう…。ここが弱いのか。」
言いながら。ピサロが掴んだ手を滑らせた。
「やあ‥ん。ダメ‥だよぉ…」
更に艶やかに啼く少年に、ふわりと微笑んで見せたピサロが、耳元に甘い声を落とす。
「可愛いな‥お前は。」
真っ赤になった耳たぶを食み、顎を上向かせると、上気した表情の彼に口接けた。
「ふ…う‥っ‥‥‥ん…」
緩やかに口腔を巡った後、唇を解放する。
すっかり蕩けた瞳が、ぼんやりとピサロへ注がれた。
「レイエル…だったな。そう煽られると、止まらんぞ‥?」
含んだよう微笑うピサロの言葉の意味が理解らなくて。レイエルがきょとんと見返す。
「解らぬか‥?」
こくん‥とレイエルが頷いた。
緑の髪をさらりと掻き上げ梳る。つぶらな眸が愛しい者の遠い日の姿と重なって、ピサロ
はふっと口元を緩めた。
「折角着せてやったが…」
徐に少年の着たシャツを左右に開くと、露になったピンクの粒を指の腹で撫ぜ上げた。
びくん‥と躰が跳ね、甘やかな吐息がこぼれ落ちる。
ゆっくりと捏ね回すよう弄くっていると、粒の硬度が増していった。
「やん…。なんか‥へん‥だよぉ‥‥‥」
「どう変なのだ‥?」
クス‥と吐息交じりにピサロが揶揄う。
自らの膝の上に脚を広げ座らせると、柔らかな股へと手を這わせた。
つう‥と内股を辿らせた指先が脚の付け根で折り返す。
レイエルは焦れたよう、その長いしっぽをピンと張り詰めさせた。
敏感と知るしっぽを遠慮なく掴み、揉むようにきゅむきゅむ感触を味わう。
「やあ…っ。ダ‥メ、だよぉ‥‥‥」
白い肌が桜色に染まり、しなやかに反った躰から甘い嬌声がこぼれた。
「では‥止めようか。」
ぴんと中心で物欲しげに揺れるぴんくのソレをつま弾いて、ピサロが口角を上げる。
そのまま彼を寝台へと移動させると、立ち上がるべく腰を浮かせた。
「…いっちゃう‥の?」
不安げな眸で銀色の髪の麗人を見上げる。縋るような眼差しが心地よくて。ピサロは紅の
双眸を細めさせた。
「‥このまま居ると、本当に頂いてしまうぞ?」
「…いたいの?」
よく理解出来ずに居たレイエルだったが、食べられそうな台詞に、そう返した。
「…いや。そうだな‥もじもじの正体を教えてやれるぞ?」
「そうなの…?」
「知りたいか‥?」
スッ‥と頬を手のひらに包み込むと、ひっそり訊ねた。
「‥うん。」
かくして。
ピサロの中のほんの僅かな天使と、長く居座る悪魔の闘争は、分の良い悪魔が勝ち…
数日後。
「やっほ〜ピサロ。今日はね…」
魔王の私室の扉を勢いよく開け、翠の髪の青年がズカズカ室内に足を踏み入れた。
冒険をしていた頃より身長が伸び、少し大人っぽくなっているが、中性的なイメージは変
わらず。以前よりも長い髪のせいか、女性に間違われる事の方が多くなった勇者ソロ。
その背には伸ばすと二の腕程になる白い翼があった。
「ソロさん‥、陛下はあの‥‥‥!」
その後を追うように、側近アドンがついて来る。が。どうやら既に手遅れらしい。
ソロは天蓋の向こうの光景に、ピシリ‥と固まってしまった。
「…アドン。この子、ちょっと預かってくれる? それから‥席外していいよ。」
両手で大事そうに抱えていた真っ白な子猫を、控えるよう佇む彼に手渡し微笑む。
…ちょっと、危険な香りを漂わせる笑顔だ。
「はい、畏まりました。」
障らぬ神‥天使になんとやら…と、アドンは早々に退出した。
‥ぱたん。
扉が静かに閉ざされる。
部屋にはふるふる肩を震わせるソロと、寝台に居る2人が残された。
ツカツカと寝台へ歩み寄る彼を、部屋の主ピサロと少年が見守る。
着衣の乱れたピサロと何も身につけていない少年。なのに猫耳・しっぽのオプション付き。
桜色に染まった白い肌は明らかな情交を示唆させてて…
「…その子、なに? …ってか。なにやってんのさ?」
冷ややかに睨めつけられて、少年が怯えるよう背中に隠れ、魔王は肩を竦めさせた。
「‥見ての通りだ。この者は、お前が寄越したのだろう?」
「は‥?」
「違うのか…?」
点目になったソロに、魔王が確認する。
「なんでオレがそんなコト! それよりっ。子供に何やってんだ、あんた?」
「…無理強いはして居らぬぞ?」
険のある顔で睨まれ、しれっとピサロが答えた。「なあ?」と背中に隠れる少年に確認
とると、コクンと頷く。少年はびくびくとソロを見上げた。
「‥ああごめん。キミに怒ってるんじゃないんだ。この馬鹿魔王を叱ってただけ。」
怖がらせてると理解したソロが、少年に柔らかく微笑みかけた。
おいで‥と招くよう手を出すと、おずおず少年が顔を出す。
寝台の縁に腰掛けたソロの前まで移動すると、ちょこんと膝を揃え座った。
「‥えっと。名前は‥?」
「レイエル…」
「どこから来たの?」
「…わかんない。」
「覚えているのは名前だけ‥だそうだ。突然空から送り届けられた。…裸でな。」
困ったよう眉を下げるレイエルに、魔王が続けて説明した。
「‥お前が何か届けるような事言ってたから、てっきりな。」
「なんでオレが人間届けなきゃならないんだ? …って。この子‥これ本物だね…」
耳としっぽがなければ、幼い頃の自分と似てるかも知れない…そんな事を思いつつ、ソロ
はぴょこぴょこ動く耳を触った。
「しっぽもなの‥?」
言いながら。左右に揺れるしっぽをソロが掴む。
「ひゃうっ。」
艶やかに少年が啼いた。
「…本物なんだ。この子‥何?」
不思議そうにソロが魔王を窺う。魔王は肩を竦めて見せただけだった。
「解らん。‥だが。お前に‥似てる。」
「…うん。オレもそう思う。」
珍しいはずの翠の髪。つぶらな眸がじっとこちらに向けられ、ソロがふわりと微笑んだ。
「‥お兄ちゃんも、えっちする?」
優しく頬に伸ばされた手のひらに擦り寄ったレイエルが、上目遣いに訊ねる。
可愛らしい口調と内容のギャップに、ソロはきょんと瞳を大きくし、魔王を睨みつけた。
「ピサロっ! お前、こんな子供に何してたんだよ!?」
怒りの原点に還り、ソロが柳眉を逆立てる。
「お兄ちゃん…レイレイきらい?」
ぐすっと瞳に涙をいっぱい溜めて、レイエルがソロの服の裾を引っ張った。
「ああ違うんだよ。こいつがキミに酷いコトしてるみたいだからね…」
「…あのね。ピサロはね、きもちいいコトいっぱいおしえてくれたんだよ?」
だからひどくされてない…とレイエルが必死に言い募った。
先ほどのしっぽの反応を考えても、見た目ほど幼い訳でもないのかも知れない。
「…本当に。嫌なコト‥されてない?」
「うん。いっぱいあそんでくれてるんだよ。」
にっこりとレイエルが笑う。すっかり彼に懐いてる様子が見て取れて、ソロも微笑した。
「そっか…」
「お兄ちゃんも‥あそぶ?」
「ソロでいいよ。…レイエルだっけ?」
「うん。ソロのはね、まっしろだね。さわってもいい?」
興味深そうに彼の背を眺めていたレイエルが、そう訊ねた。
「いいよ。」
「…私が触れると怒る癖に‥。」
レイエルに迷いなく応えるソロに、ピサロがぼそっと不満気にこぼす。
「お前はしつこいから厭なの。絶対最後まで縺れ込むし。」
「…しつこいってなに?」
ソロの首に抱き着くよう腕を回し、翼に手を伸ばしていたレイエルがぽつっと聞いてきた。
「うん‥? あのね…う〜ん。レイエルのさ、しっぽ。ピサロよく触るでしょ?」
ふりふりと揺れる長いしっぽを見ながらソロが話す。こくっとレイエルが頷いた。
「やっぱりね。」
「しっぽぎゅってされるとね、どきどきするの。感じてるんだって。」
ぽうっと頬を染め、レイエルが内緒話のように打ち明ける。
「お前の時と一緒だ。発情期なのだろう‥?」
「発情期言うな! オレのコトはどーでもいいの。
要するにあんたは、それに乗じてやりたい放題してたんだね? この子に。」
しれっと口を挟むピサロに、真っ赤になったソロが一呼吸置いて、ジト目を注いだ。
「ソロはね…レイエルとしないの?」
居心地がいいのか、ずっとソロに抱き着いたままのレイエルが、不思議顔で窺った。
「…レイエルは、したいの?」
「うん。」
「そっか…」そう答え、ふわりと微笑んだ後、彼の頬を手のひらで包み込み口接けた。
ピサロが微かに眉を上げ、口を曲げる。ソロはそれを横目で確認し、不敵に笑んだ。
どうやら当てつけも含まれているらしい。
「可愛いね…」囁きながら、うっとり顔のレイエルにあちこちキスを施してゆく。
「…なんだか奇妙な事になってるようですね。」
突然。間近から声が届いた。よく知った穏やかな口調が。
「クリフト。うわあ‥久しぶりだね! 元気だった?」
ソロとレイエルに気を取られ、部屋の扉が開いた事に気づかずに居た魔王が憮然となる。
反対にソロは背負っていた黒雲を一気に晴らし、嬉しげに突然の来訪者を迎えた。
「ええ。この通りですよ。ソロも元気そうですね。」
「まあね。なんとかやってるよ。」
ゆっくりと歩み寄って来る彼に、ソロが微笑する。
「今日はどうしたの?」
「あ‥ええ。その子の事で竜の神から言付かって来たんですよ。」
「レイエル?」
「レイエルと言うのですか? …本当に、ソロに似てますね。」
きょんと訪問者を見つめる少年にクリフトが微笑みかけ、そっと頭を撫ぜた。
「どうやらこの子、我々の住む世界とは別の次元から迷い込んだらしいですよ。
その世界の勇者‥になる子供だと、竜の神が仰ってました。」
「所謂平行世界‥というやつか。」
納得‥とばかりに、魔王が嘆息した。
「なにそれ?」
「…要するに、ここは本来この子が住む世界ではない‥という事です。」
「レイエル、いちゃいけないの?」
不安そうにレイエルがソロを見上げた。
「ううん。レイエルの帰りを待ってる人が、遠くに居るってお話だよ。
でもさ。迷い込んだって‥どうしてか解らないんでしょ? どうしたら帰れるの?」
レイエルに優しく声をかけた後、ソロはクリフトへ問いかけた。
「う〜ん。あの方もその手段までは見通せずにいるようでして…。」
「そっか…。まあ、帰る方法が解るまででも、ここに居ればいいよ。
ピサロにも懐いてるしね‥責任取らせなきゃ。オレもちゃんと面倒見るしさ。」
きゅっと少年を抱き締めて、ソロがぽんぽんとあやすようその背を柔らかく叩いた。
ほっと吐息を落としたレイエルが、ピサロの方へ行きたがったので解放する。
今度はピサロにぎゅっと抱き着いて、少年は3人の大人の様子を窺った。
「そうですね。帰し方が解らぬままほおり出す訳には行きませんしね。竜の神も調べて見
ると仰っしゃってましたから。また何か判明れば、伝えに参りますよ。」
「そうだね…って。クリフト、もう帰るの? 来たばかりなのに。」
「いろいろ取り込み中だったようですので。」
くすっと話す彼に、ソロが頬を染める。
「…今度はゆっくり来てね? こっちじゃなくてさ。」
「ふふ‥後ろで魔王さんが睨んでますよ?」
「いいんだもん。オレの愚痴ちゃんと聞いてくれるの、クリフトだけだし…」
「ではそのうちに。」
「うん。待ってるからね‥?」
そう言って腕を伸ばしたソロが、クリフトを引き寄せ頬へキスを落とした。
名残惜しそうに、扉が閉まるのを見届けて。ソロは再び2人に向き直った。
「‥レイエルも、勇者‥だったんだね。」
そっと彼に手を伸ばし、ソロが嘆息する。
「多分‥まだ村しか知らない時なんだろうな。…どうして迷い込んだんだろう?」
「さあな。」
「あのねえ…」
遠慮がちにレイエルが口を開いた。
「レイレイ‥あそびたい。」
ぽつん…とこぼすともじもじ躯を揺する。ピサロとソロが顔を見合わせた。
「ああ‥すまなかったな。ずっとほおってしまって。」
チュッ‥とレイエルの頬へ唇を寄せた魔王が、そのまま強求られた形で口接ける。
甘い吐息がすぐに柔らかそうな唇から漏れ出すと、ソロは彼の頭を撫ぜ立ち上がった。
「オレも当分泊まり込むから。アドンに話してくる。お土産も預けたままだしな。
レイエルも落ち着いたら、会わせてあげるね。可愛い子猫と遊ぼう?」
にこっと笑いかけ、ソロは朧げに頷く彼の髪を混ぜた。
「…あ、そうそう。ピサロはオレも子猫も当分お預けだから。」
そう付け足して。ソロも部屋を退出した。
どうやら相当お冠らしい…ピサロは重い吐息を落とすと、不思議そうに彼を覗うレイエル
に目を細めさせた。
昔のソロはもっと可愛げあったのに…そんな事を思いつつ、目の前の可愛い少年に手を伸
ばす魔王。目の前の誘惑には勝てぬらしい。すっかり焦れた様子で擦り寄って来る体温は
どこまでも心地よかった。
2006/5/6
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