「静馬、今度の水曜日にお前の車貸してくれよ」 
同僚の池田に頼まれた。コイツとはこの会社に入ってからの仲だ。 
もう8年の仲になる、オレの数少ない友達だ。 
「なんに使うんだよ、またナンパか?」 
オレ達の会社は水曜日が定休日だ。一応週休二日だがもう一日は皆バラケて休みを取る。 
オレは土曜日で池田は木曜日だ。ちなみに池田にも彼女はいない。おお!心の友よ! 
「実はな…かなえとドライブに行こうかと思ってな」 
ふ〜んかなえちゃんと…ん、今コイツ『かなえ』って呼捨てにしてなかったか?まさかコイツ… 
「お、お前、まさか…」
動揺が隠せないオレに勝ち誇った顔でヤツは 
「おや、言ってなかったっけ?かなえとはこの間カラオケに行った日から付き合うことになった
んだよ」 
前言撤回、コイツは敵だ。なにが心の友だ!裏切りモン! 
「誰が貸すか!オレの車は幸せなやつ乗車禁止なんだよ!」 
「そうか残念だな。かなえの大学の後輩が彼氏欲しがってるから紹介してやろうかと…」
「ガソリン満タンにしとくから楽しんで来いよ!」 
オレは親指を立てて爽やかな笑顔で池田に言う。 
「いや、無理に借りる訳にはいかないからな」 
「いやいや何をおっしゃる池田さん。存分に楽しんでくださいよ」 
「そうか?なんか悪いな」 
「めっそうもございません!ところで女を紹介してくれるって話は…」 
両手をモミモミしながら池田に尋ねる。情けないぞ、オレ。 
「まかせとけ、この写真の子だ」 

池田はかなえちゃんから預かったであろう写真を見せてくれた。 
写真にはテニスウェアを着たかなえちゃん達が写っている。太ももがまぶしい。 
(くそ〜、このふとももを好きにしてるのか…コイツ許せんな) 
そんな事を考えてるのがばれたのか 
「なに人の女の足ばっかり見てんだよ!この子だよ」 
池田が指差した子はショートカットで背が低い、カワイイ感じの子だった。結構タイプだ。 
オレが写真に釘付けになってたらいつの間にかかなえちゃんも来ていた。 
「静馬先輩の写真見せたらいい反応してましたよ〜」 
ヤバイ!オレにも春が来た!人生初のモテ期到来か? 
「この子の名前は森永ますみ。20才なんですけど今まで男の子と付き合ったこと無いんです
よ。先輩なら優しいし大丈夫かなって思ってるんです。カワイイ子ですよ〜」 
マジか!こりゃ7年ぶりの彼女ゲットとなるか? 
「かなえちゃん、ワックスも掛けとくからドライブ楽しんで来いよ!」 
持つべきものは友達だ。オレは池田に感謝した。 
「じゃあ遠慮なく借りるぞ。ますみちゃんとは水曜日にセッティングしとくよ。どこ行くか考えとけ
よ」 
水曜か…彩が遊びに来るかも知れないがあらかじめ仕事が入ったとか適当に言っときゃ大丈
夫だろ?
「おう!よろしく頼むな!」 

この時はあんな目に合うとは露知らず、テンション上がって楽しかった。
短い夢だったなぁ… 


「はぁ?水曜日に仕事が入ったから遊びに来るな?あのねぇ拓にぃ、アタシだって予定ってモ
ンがあるんだよ?拓にぃばっかりにかまってあげれないの。
そう毎回毎回遊びには行けません!……土曜は大丈夫、なんだよね?
……大丈夫?じゃ、金曜の夜行くから。それまで寂いからって泣かないでよ」 
文句を言ってる拓にぃを無視して笑いながら電話を切る。切った後にため息が出る。 
(はぁ…仕事じゃしょうがないか。拓にぃ貧乏だしね) 
そんなアタシの様子を見ていたますみがこっちを見てニヤニヤしてる。しまった!この子いたん
だった! 
「…なによ、アタシの顔になんか付いてんの!」 
「うふふふ…確か水曜は隣のおばさんから頼まれていやいや息子さんのところに食べ物持って
行くと言ってなかったかしら?そう言って親友の頼みを断ったと思うけど?」 
もう!ニヤケ顔でチクリと言わないでよ! 
「うっ…分ったわよ、水曜アンタに付き合うわ。けどアンタが男の子紹介してもらうなんてねぇ。
変な物食べた?」 
「そりゃこの2年間、一途な彩を見てたら恋の一つぐらいしたくなるわよ」 
「ア、アタシのせいにしないでよ!」 

この子は森永ますみ。大学に入ってから出来たアタシの少ない友人の1人で親友…かな? 
身長はアタシより10センチ程低い150センチぐらい。ショートカットでかわいい子。 
それでいてアタシより胸がある。その身長でDカップって…なに食べてんの? 
アタシのBカップの胸が嘆いてるわ……ってほっといてよ! 

ますみとの出会いは大学に入ってすぐの頃。
彼女がしつこいナンパに困ってるのを助けてあげた時からね。 
その後妙に馬が合ったアタシ達はよくつるんでる。 
ますみは大学の男共の人気が高い。
150センチであの胸、おまけにカワイイと来たら無理ないか。 
けど一度でも一緒に食事に行けばますみの恐ろしさを知ると思う。
ますみはお酒を飲む量が半端じゃない。 
前に同じサークルの男三人と食事に行くと言ってたので心配になり一緒について行った。 
男共はアタシも来た事で大喜びだったけど3時間後には誰一人起きていなかった。 
アタシは拓にぃの言いつけを守りお酒を飲まなかったけどますみは飲んだ。ガンガン飲んだ。 
飲む前は「普段全然飲まないんです」とか言ってたくせにいざ飲みだしたら止まらない。 
それでいて飲ませ上手だから男共もますみのペースで飲む。 
時間が経つにつれ1人、また1人と酔い潰れていく。 
3時間後に意識があったのはお酒をまったく飲んでないアタシと、中ジョッキに焼酎?
ってお酒を入れてレモンをかじりながら飲んでるますみだけになってた。
拓にぃも酔ってるとこ見た事ないけど、ますみと拓にぃどっちがお酒強いのかな? 
「くぅ〜!やっぱりロックにかぎるわね!」 
お酒を飲みながらますみがそう言ってた。ますみ、ロックファンだったんだ。 
次の日saiのアルバムをあげようとしたら要らないって言われた。なんで? 

「普段飲まないって言ってなかった?」 
アタシ達は男共を置いて店を出た。あきれ顔のアタシの質問にますみは 
「普段はお金が掛かるから飲まないの。今日みたいに奢りなら朝までだって飲むわよ。 
普段飲まないって…嘘じゃないでしょ?」 
ニッコリと微笑むますみ。
あれだけ飲んでも顔は普通なんて…その胸の中身はきっとアルコールね。 
「奢りって…どう見てもアンタが酔い潰して無理やり奢らせたんじゃない」
ふふっと笑うアタシ。 
「そうとも言うね」
ますみもクスッっと笑う。 
こんな事をますみは繰り返してたみたい。
そのうち男共はよって来なくなり、いつしかますみもアタシ同様に 『不沈艦』と呼ばれるようにな
った。 
最近、大学の男共はアタシ達2人を『無敵艦隊』って呼んでるみたい。
誰よ、こんなセンス無いあだ名つけたの! どうせなら『殺人魚雷コンビ』にしてよね! 

ますみの話によると今度の水曜日、サークルの先輩が働いてる会社の人と会う事になってる
みたい。その先輩曰く
 「26才でマンション持ってるし車も持ってる。なかなかカッコいいし、なにより優しいの!」
なんだって。 
「なんでそんな人に彼女いないの?なんかあるんじゃない?怪しいなぁ〜」 
心配になってアタシが聞いたらますみも同じ事聞いたんだって。
その答えが「ちょっと変わった趣味してるの。別に怪しいものじゃないわ」だって。 
「なんか余計に怪しいね。だからアタシについて来てほしいんだ」 
「そうなの。ホントは止めようかと思ってたんだ。けどねその人……お酒すっごく強いみたいな
の!」 
ああ、そうだったわ。ますみが彼氏を作らない理由…『彼氏は私よりお酒が強い人』があった
せいだったわね。 
けどね、ますみ…それって女の子が目を輝かせて言うセリフなの? 
「アンタもどっかで間違ってるよね〜」 
呆れ顔のアタシ。 
「人生間違いだらけの彩には言われたくありませ〜ん」 
即答して逃げてくますみ。 

ちょっとますみ!間違いだらけじゃないわ。時々よ、時々間違うだけよ!訂正しなさい! 


そんなこんなで水曜日、アタシはますみ達の待ち合わせ場所から少し離れた場所に待機して
いる。 
なにか異変があればますみと合流して用事が出来たと言って2人で帰るつもり。 
今日は晩御飯を食べるだけみたいだけど、ますみはホントにお酒が強いか見極めるって言っ
てた。 
強そうだったら次に合う時勝負を掛けるって意気込んでた。 
ますみってやっぱりなにか間違ってるよね? 
待ち合わせの時間は午後6時。今は5時40分。 
相手が来ない。女の子を待たせるってどーゆうことよ! 
ますみも時計をチラチラ見てる。もしかして…ドタキャン?ますみの噂聞いたのかな?なら仕方
ないよね。 

5時50分、結構背の高い男がますみに話しかけてきた。ますみに頭を下げてる。 
ますみも頭下げて挨拶してる、コイツだ。 
服のセンスは…結構いい感じね。あの服ってアタシが拓にぃの誕生日にプレゼントしたのと同
じだ。 
背の高さは…拓にぃぐらいかな?170の後半から180前半ってとこか。 
顔はどうなのかな?確かなかなかの男前らしいけど…う〜んここからじゃ見えない、残念。 
ますみは…お、嬉しそうな顔してんじゃん。ということは噂どおり男前なのかな? 

ますみ達はオシャレな居酒屋に入っていった。ここは…創作和食料理を食べれるところね、お
いしそう。 
あたしはますみ達の後を追って店に入る。こーゆうとこって1人で入りづらいんだね、知らなか
ったよ。 
今度拓にぃに連れて来てもらおう。拓にぃってば近くの安い居酒屋しか連れてってくれないんだ
から… 
アタシはますみ達の後ろの席について様子を伺う。少しだけど声も聞こえる、会話は弾んでる
みたい。 
楽しげに話してるますみと目が合ったら小さくピースサインを出してきた。 
おっ、もしかしてその男、ありなの?どんな男なんだろ?んん?けどこの声って…どっかで聞い
た事があるような? 

その時男が席を立ったんでますみの席に行き箸で料理をつまみながら「どう?どうなのよ?」と
聞いたの。 
「あの人、明るくて楽しい人ね。先輩に『変わった趣味してる』って聞きましたよ?って言ったら
ね…」 
「なになに、どんな趣味?切手でも集めてるの?それとも電車?」 
アタシは興味津々、ますみはニコッと微笑み 
「趣味はプロレス観戦だって。彩と同じね」 
予想外の答えにガッカリ。 
「なんだ、そんなの普通じゃないの。どこが変わってるのよ?」 
「プロレス見に行くために有給休暇とるんだって。
東京ドームで試合あったらしいんだけどチケット取ってたのに知り合いに騙されて行けなかった
って怒ってたわよ。ねぇ彩、プロレスってそこまで面白いの?」 
アタシはますみの問いかけに返事をせず頭の中でジグソーパズルを組み立てていた。 
(アタシがプレゼントしたのと同じ服。似たような背格好に声。プロレスファン。ドーム大会に騙さ
れて行けなかった… 
まさか?けど今日は仕事って言ってたし…マンションからここまで電車でも1時間はかかるし…
他人の空似よね?うん、きっとそうよ…そのはずよ) 
「どうしたの、彩?…あっ、彼が来た!早く席に戻って!」 
あわてて席に戻ったアタシはトイレからますみのいる席に向かって歩いてくる男の顔を見た。 

その瞬間、アタシの右手に握ってた箸が真っ二つに折れた。 


オレはトイレで鏡を見て気合を入れ直した。これは男と女の戦争だ!やるからには勝つ!勝っ
てあの胸を…… 
ハッ、いかんいかん。今日は大事な初戦だ。慌てず焦らず次へと繋ぐ戦いをしなければ… 
再度気合を入れなおしたオレは戦場へと戻っていく。 
途中で(不沈艦と飲むなんて…)とか(今夜のエジキはあいつか…)とか他の客の囁きが聞こえて
きた。 
なんだ?ハンセンでも来てるのか?いや、そりゃないか。ま、いいや。 

席に戻るとますみちゃんがメニュー片手に聞いてくる。 
「実はこの店、前に来た事あるんですよ。おいしいお酒置いてますから静馬さん、いかがです
か?」 
微笑みながらメニューを渡してくれる。いい子だ、ちょっと感動した。彩はこんな事してくれない
もんな。 
メニューを渡してもらっただけで舞い上がってしまったオレは冗談のつもりで 
「日本酒メニューの上から全部頼もうか?」
と言ったら 
「全部ですね?」
店員はさも当たり前のように聞き返してきた。冗談だっつーの。 
「冗談だよ。ビックリした?」 
そう言ってますみちゃんを見たら、目が輝いてる…っていうか、目がらんらんとしててちょっと怖
い。 
「全部でいいですよ。私も今日は飲みたい気分ですし…ポッ」 
店員は「いつも通りですね、分りました」そういって厨房へと消えていった。 
…いつも通り?なんだそりゃ?いや、問題はそこじゃない! 
問題はますみちゃんが『私も今日は飲みたい気分ですし…ポッ』と言った事だ! 
これは…まさか…もしかするのか? 
そんなオレの耳に「フシュー、フシュー!」と荒い鼻息が聞こえてきた。 
(ヤバイ!興奮しすぎたか?) 
オレは自分の鼻息かと焦ったがどうやら後ろの席から聞こえてくるみたいだ。 
後ろを見てみると帽子を深くかぶった長髪で黒髪の女性がいた。肩が震えている。 
何かあったんだな…ま、オレには関係ないけどな。 

しばらくすると店員が15種類の日本酒15杯を持って来て、ますみちゃんの前に置いた。 
なんで?頼んだの俺じゃなかったっけ? 
「静馬さんどうぞ」ニコっと微笑みオレにグラスを手渡ししてくれた。
感動した。彩はしてくれなもんなぁ。 
オレは受け取り「乾杯!」とグラスを合わせ口に含む。
うん、美味い!久しぶりの日本酒だ。
今日は日々コツコツと貯めたヘソクリを持ってきたので思う存分飲めるぞ! 
……はっ、いかんいかん、目的を忘れるところだった。
もしかしたら今日中に本丸を落とせるかもしれないんだ、 
油断は禁物だ、気を引き締めろ、オレ! 
オレが妄想してる間にますみちゃんは3杯目を飲み終えていた。ペース早いな。 
30分もしたら15杯の日本酒は全部飲み干していた。オレが6杯ますみちゃんが9杯。 
顔に似合わず結構お酒強いんだな、ますみちゃん。 

日本酒が無くなったのでますみちゃんはメニューを手に取り 
「ここは焼酎も美味しいんですよ」
と微笑んでくれた。どれどれ…オレはメニューを見る。
おっ、日本料理が売りの癖にオレの好きな洋酒のターキーが置いてあるじゃないか! 
しかも期間限定サービスとやらで安い!よしっ、これにしよう。 
「ますみちゃん、オレ焼酎やめとくよ」 
オレの言葉になぜかため息を付くますみちゃん。酔いが回ってきたのか? 
「で、ますみちゃんはどれ飲むの?」
尋ねるオレに 
「では…いいちこのハーフボトルを…」
と恥ずかしそうに答えるますみちゃん。いい!カワイイ! 
……ん?ハーフボトルぅ?ここでオレは全てを悟った…つもりだ。 
ますみちゃんは飲み比べという戦争を仕掛けてきてる。 
…面白い、生中一気飲み15人抜きのこのオレに戦いを挑むとは…返り討ちにしてくれる! 
そして…本丸を落として蹂躙するのじゃぁ! 
「じゃあオレはタ−キーの700mlボトルで」 
注文を受けに来た店員は唖然としてる。そりゃそうだろうな。周りもざわついて来た。 
なに言ってるか聞き耳立てて聞いてみると 
(すげえ!不沈艦と渡り合ってるぞ)(ついに沈む時が来るのか?)(いや、不沈艦はこれからが
凄いんだ) 
なに言ってんだこいつら? 
後ろの席からはまだ「フシュー、フシュー!」と鼻息が聞こえてくるし…
時折バキッと箸の折れる音も聞こえる。 
ますみちゃんも気にしだしたな。これを飲んだら店変えるか…気味悪いしな。 


(焼酎を断った時はガッカリしたけど、先輩の言う通りこの人やるわね。 
日本酒を難なく飲み干しただけじゃなくターキーをボトルでなんて…けど勝つのは私よ!) 
そんな事考えてたら隣の席の彩の様子が変な事に気づいた。 
なぜか鼻息荒く手元には折れた箸が山になってる。 
(どうしたの、彩?まさか…お酒飲んだのかしら?) 
テーブルを軽く覗き見すると最初に頼んでた焼きそばにウーロン茶が置いてある。
あまり減ってない。 
(飲んではなさそうね…なら大丈夫か。彩には悪いけど今は目の前の敵を倒すのに集中よね) 


オレ達は当たり障りのない会話を続けながら酒を飲む。腹の探りあいだ。 
そうこうしてる間に2人とも飲み干した。 
メニューを取ろうとするますみちゃんの手を止める。あ、手を握ってしまった。ラッキー! 
「これ以上ここじゃなんだから店変えない?」 
突然の俺の提案にますみちゃんは 
「いいわよ。私の知ってる店に行く?」と承諾してくれた。 
オレは会計を済ませる為に席を立つ。もちろんオレのおごりだ。
会計を済ませ店を出たらますみちゃんが忘れ物と言って店に戻っていった。 
忘れ物をするとは…酔ってきたな。ハッハッハッ、この勝負もらったな。 
チャック半開きで勝ち誇るオレ、かっこ悪いぞ。まぁすぐ気が付いたけどね。 


「彩、どうしたの?体調悪いの?大丈夫?」 
私は店に戻り鼻息荒い彩に話しかける。 
「…大丈夫だよ。ますみ、飲み比べぜっったいに負けないでね!あんな奴破産さしちゃえ!」 
鬼気迫る顔で私の肩をつかんでくる彩。こんな彩を見たの初めてね。 
「わ、分った。勝てばいいのね」「ぜったいに!」「ええ、絶対に!ね」 
彩に次に入る店を教えて静馬さんと合流するために外に出る。 
ほんとに彩、大丈夫かなぁ… 


アタシは2人の後をばれない様に少し離れてついて行く。 
(なによ…なによ拓にぃ!アタシは安い居酒屋、なんでますみはオシャレな店なわけ?どういう
ことよ!) 
怒りで肩が震えてるのが分る。アタシって嫉妬深かったんだと今更ながら再確認した。 

2人が入っていったのはショットバーという種類の店みたい。 
ますみがよく1人で行くって言ってたなぁ。あんだけ飲んでまだ飲むんだ…やっぱりあの胸はア
ルコールね。 
お酒飲んだら大きくなるのかな?…明日から家でビールを飲むことにしよう。 
アタシも店に入り2人が見える席に座る。
拓にぃ楽しそう……フザケンナ!怒りがこみ上げてきた。 
(こんな店連れてきてくれないのになんでますみとは来るわけ?ど・う・い・う・こ・と・よ!) 
アタシという者がありながら…ブツブツ言ってると店員さんが恐る恐る注文を取りに来た。 
ハッ、いけないいけない、冷静にならなきゃ。
メニューを見たけど何が何やらさっぱり分かんない。 
どうしよう?ま、拓にぃと同じでいいかな?
「あそこの人と同じもので…」 
「ハーパーのロックですね?」 
さすが拓にぃ、飲む物までロックなんて…やるじゃない! 

店に入るとオレ達はハーパーのロックを頼み再度乾杯をした。 
「静馬さんってお酒強いんですね」 
グラスを傾け話しかけてくるますみちゃん。少し顔が赤くなってきている。 
「そうなんだけど普段は1人で飲まないんだよ。皆と飲む雰囲気が好きなんだ」 
そう、家でも彩がいる時しか飲まない。彩と飲んでると話が弾み楽しいんだ。 
「あら、そうなんですか。実は私もなんですよ、気が合いますね」 
ニッコリ微笑むますみちゃん。グラスを落とすバーテンダー。酒を噴出す隣の客。 
ナイスリアクション!……ますみちゃん、嘘はいけないよ、嘘は。 
オレ達は杯を重ねていった。取り留めのない話をしながらお互い7杯目を飲んだ。 
ますみちゃんの顔は結構赤い。時間もないし…一か八か勝負だ! 
「ますみちゃん…そろそろ出ようか。飲み足りないんならオレの家で飲むかい?」 
そう切り出したオレの背後で誰かが叫ぶ。 
「なんで…なんでますみばっかりなのよ〜!」 
驚き後ろを見るオレとますみちゃん。そこにはなぜか酔っ払った彩がいて床に帽子を叩き付け
ていた。 

「「あ、彩!」」
おもわず席を立ちハモるオレとますみちゃん。彩は目に涙をためてオレを睨み 
「仕事って言ってたのになんでますみとデートなのよ!
アタシはこんなオシャレなバーには連れてってくれないのになんでますみとは来るのよ!
…なんでアタシがプレゼントした服で他の女と会ってんのよ〜〜!!」 
彩は叫びながらオレに近づいてくる。こ、怖えぇ〜よ、彩。 
「拓にぃの…ばっっかやろ〜〜!!!」 
そう叫んだ瞬間、彩の右ミドルキックが火を噴く。オレは左手でガードをした…つもりだった。 
(よしっ、押さえた!)
そう思った瞬間、彩の右足は軌道を変えオレのアゴを打ち抜いた。 
(こ、これは…ブラジリアンキック?) 
腰が砕け右ひざを突くオレ。
助走をつけた彩は右足でオレの左ひざを踏み台にして体を浮かせて 
「死んじまえぇぇぇ〜〜!」
気合一閃!左ひざでオレの顔を打ち抜いた! 
プロレスの天才、元三銃士の1人、現全日本プロレス社長。
天才レスラー武藤敬司の必殺技『シャイニングウイザード』だ!

オレは薄れいく意識の中で駆け寄ってきて「拓にぃ、死んじゃやだ〜」と泣き崩れる彩を見て思
う… 

 (……彩……お前に…やられた…んだ…よ……どこで…練習…してん…だ……ガクッ) 


金曜日、池田とかなえちゃんはオレが貸した車で会社に来た。 
「で、ますみちゃんとはどうだった?」 
ニヤケ顔で聞いてくる池田。 
「ますみに聞いても『秘密です』とか言っちゃって教えないんですよ〜。どうでした先輩?」 
かなえちゃんも聞いてくる。 
オレは一言「……第三者乱入によるKO負けだ……」そう言い仕事に励む。 
2人は「よくわからんが…フラレたんだろうな」「先輩ならいけると思ったんだけどなぁ」などと話し
てる。 
ちなみにあの日以来あの近辺では『不沈艦には用心棒がついている』と噂され、ますみちゃん
に声を掛けてくる奴はいなくなったそうだ。 
  
あの日以来、毎月第3土曜日に彩とますみちゃんに晩御飯を奢る事がオレには義務付けられ
た。 
「アタシに嘘ついたあげく、友達を口説こうとしたんだから当然よ!ねぇ、ますみ?」 
嬉しそうな彩。あの時泣いてたのは幻覚か? 
「静馬さん、ご馳走になりますね」 
ほほえむますみちゃん……お酒はダメだよ。

オレは楽しかった火曜日までを思い出し思わず呟いた…。

「オレが…悪いのか?」





トップへ
トップへ
戻る
戻る