悪夢の飲み会から二週間が過ぎた。
ますみちゃんは彩と連れ立ってよくオレの家に来るようになった。
最初は彩の友達と知らずにますみちゃんを口説こうとしたのが恥ずかしくまともに話せなかっ
たが、ますみちゃん自身は気にしてないみたいだ。
「静馬さんの話は彩からよく聞いていますよ」
ますみちゃんはそう言ってきたのでどんな話か聞いてみたが教えてくれない。
「彩に聞いてみたらどうですか?」
にこりとほほ笑みながらますみちゃんは言ったけど…そんな事できる訳がないじゃないか!
ことあるごとに「ますみを口説こうとした」と言ってくる。二週間が過ぎた今でも、だ。
「彩、メシ作ってくれよ」「ますみを口説こうとした居酒屋で食べてくれば?」
「ビール飲むか?」「お酒を使ってますみを口説こうとしたくせに…」
こんな具合にだ。けどちゃんとメシは作ってくれるし、ビールも一緒に飲む。
どうもますみちゃんとオシャレな居酒屋に行った事にすねてるみたいだ、可愛いやつめ。
そういえば最近彩はビールを飲む量が増えた。
なんでもある目的の為に家でもおばさん相手にお酒を飲むようになったそうだ。
この間おばさんにこう言われた。
「彩をプロレス好きやカリスマ、破産寸前にした挙げ句今度は酒飲みに……
拓ちゃんはいったい彩をどうしたいのかしら?」
おばさん、すみません。彩が一体どこに向かってるのかオレにもよく分かりません。
「拓にぃ、ゴメン。アタシしばらく会えなくなるの…」
食器を洗いながらアタシは断腸の思いで切り出したの。
それなのにあの男はテレビを見ながら「おお、そうか」って…ナニよ!
しばらくアタシと会えないんだよ?「そんなの淋しいよ」とか
「せめて毎日声だけは聞きかせてくれ」とか何かないの!普通あるでしょ!
せめて理由ぐらい聞いてよ……
淋しくなって拓にぃを見たらテレビを見て笑ってる……
……アッタマきた!何も言わずに背後に回り首筋にモンゴリアンチョップ落とす。
…ハァ、スッキリした。
「ねぇ彩、あなた達っていつもこんななの?」
一緒に来てたますみが聞いてきた。今日はますみも泊まってくんだって。
「ん?まぁ大体こんな感じかな、普通でしょ?ところで…拓にぃ!なにドタバタしてるの!
うるさいよ!ほんと落ち着きのない大人ね。ますみもそう思うでしょ?」
ますみは「ハハハ…」と乾いた笑いをした。どしたの?
私は彩に誘われて静馬さんの家に遊びに来ている。今日は泊まる予定。
その彩は静馬さんに顔を鷲掴みにされてもがいてる。あれって痛そう…まぁ自業自得ね。
それにしても…今の彩と普段の彩とのギャップは何?
百人がみたら九十九人が間違いなく彩が静馬さんに惚れてるって答えるわね。
彩の不幸は残りの一人が静馬さんだってことね。
…確かに静馬さんって優しいし、なかなかのいい男だわ。…お酒も強いしね。
正直この間、家に誘われた時(この人とならいいかな) って思ったもの。
あの時彩が暴れなかったら……ポッ。
…ダメよ!静馬さんは親友の想い人なんだからダメ!……ダメ…なんだよね……
「で、なんで首にモンゴリアンチョップなんてしたんだ?ん?怒らないから言ってみな?」
オレは彩をやさしく諭す。もちろんアイアンクローははずさない。
「ギブッギブッ!言う!言うから離して〜!」
手足をバタバタしながらもがく彩。反省したようなので手を離してやる。
「いつか婦女暴行で捕まるよ…」
オレを涙目で睨みつけ文句を言ってきやがった。
「で、何でなんだ?」
問いただすオレ。
「えっと……」
赤い顔でうつむいたまま黙る彩。なんなんだ?
「彩はしばらく来れないって言ったのに何も言ってくれないから怒ったんですよ」
代わりにますみちゃんが答えてくれた。
「ま、ますみ!な、ナニ言ってんの!」
真っ赤な顔でますみちゃんに抗議する彩。
しばらく来れないってレコーディングだよな。確か集中するためにホテルに泊まり込みで
テレビも見ないラジオも聴かないって前に言ってたな……そうか、そうだったのか。
「やっと分かったよ。気付いてやれなくてゴメンな、彩」
真っ赤な顔でオレを見る彩。両手は口に当て目は潤んでる。
「お前が来れない間しっかり録画しとくよ、ノア中継に新日本中継。まかせとけ!」
親指を突き出し胸を張るオレ。何故か二人は盛大なため息をはいた。
「静馬さんっていつもこうなの?ある意味奇跡ね」
「ますみ……アタシの苦労、分かってくれる?」
違うのか?あっ、そうか分かった!東スポを捨てないでほしいんだ!
女の子が買うの恥ずかしいからな、赤面する訳だ。プロレス面だけ取っておくことにしよう。
その日はますみちゃんが持ってきた日本酒の一升ビンを三人で飲み干した。
彩はコップ三杯飲んだところでダウンした。しかし途中から
「飲んで…飲んで大きくするんだ…」
ってうわごとのように言ってたけど何だったんだ?
ますみちゃんも首傾げてたしなぁ…今度聞いて見るか。
月曜日から彩はレコーディングのためしばらく来れなくなるらしい。
やっと歌いたい歌が出来たみたいだ。今回のはミニアルバムになると言っていた。
ますみちゃんには父親の方の祖母の世話と嘘をついたみたいだ。
そんな人いるかどうかも知らないのにな。
ますみちゃんにはいつかは自分がsaiだと打ち明けたいらしい。
彩は別れ際に
「拓にぃ一人で暇だろうから携帯はつながるようにしとくよ。電話してきていいよ」
と強がってた。
ホテルに缶詰でさみしいからだろう。素直じゃないな、彩は。
オレは彩達を車で送った帰りに立ち寄ったスーパーで偶然あの人と再会した。
7年前何も言わずにオレの前から消えた初めての恋人…
オレが初めて抱いた女…守屋麗菜だ…
守屋麗菜……オレが会社に入ってすぐに出会った女性。
オレと池田が偶然入ったパチンコ屋の店員。
その店では飛び抜けてかわいくて、愛想がよかった。
オレ達は競って声をかけ、しばらく店に通ったおかげで一緒に遊べるまでになった。
遊ぶようになって初めて知ったのが彼女の年齢。二十五才、オレ達より七つも年上だった。
オレ達は麗ねえさんと呼び、競って恋人になろうとした。
当時の彼女は二十五才には見えず同年代にしか見えなかった。
オレ達は彼女に夢中になった。彼女がオレを選んでくれた時は号泣した。
そのおかげでしばらくの間池田とは疎遠になったりもした。
しかし付き合いだして一年、オレが二十歳になる前日に彼女は消えた。
後日、送られてきた手紙には
「お誕生日おめでとう」
とだけ書いてあり銀細工のネックレスが入れてあった。
そのネックレスは加工して今も車の鍵につけている。
当時のオレは彼女を必死で探した。
池田には「麗ねえさんに何をしたんだ」と殴られたが一緒に探してくれた。
しかし見つかるはずもない。パチンコ屋に聞いても急に理由も言わずに辞めていったので行き
先は分からないと言われた。
半年もしたらオレ達は諦めた。
しかし足は彼女がいたパチンコ屋に向く。仕事帰りに、休みの日にと毎日通った。
オレにはパチンコの才能があったみたいだった。毎月三十万は勝っていた。
仕事かパチンコ、時々プロレス。
そんな生活は彩が高校に入りオレの家に遊びにくるようになるまで続いた。
その時貯めていたお金で車を買いマンションの頭金を払った。
そんな彼女を見つけたオレは…その場から逃げ出した…
次の日の日曜日、オレは池田に守屋麗菜を見つけたことを話した。
「守屋麗菜って…麗ねえさんか?見つけたのか!」
池田の声にかなえちゃんが来て「麗菜って誰?」と尋ねる。恋人としては当たり前か。
「オレと池田が二人で口説きあった人だよ。美人だったよ」
聞いた瞬間かなえちゃんの顔が鬼のようになる。
しまった!池田は気付いてない。気付け、池田よ!地雷踏むなよ!
「麗ねえさんか…会いたいな。どこで見つけたんだ?教えてくれよ」
ああ…地雷踏んだな、池田。
「ちょっとこっちに来てくれない?」
スマン池田。かなえちゃん、仕事前だから跡が残らない程度にしてあげてね。
首根っ子を捕まれて連行される池田。自分の失言に気付いたみたいだ。
助けを求めるように周りを見るが誰も目を合わさない。オレも目をそらす。
そんな体を張った池田のおかげですこし気が楽になった。
今日は酒奢るから許してくれ、池田よ。
仕事帰りにオレ達三人は昨日麗菜さんを見つけたスーパーに向かう。
「先輩がそんな大恋愛をしてたなんて知らなかったです!」
目をキラキラさせて話し掛けてくるかなえちゃん。女の子はこの手の話が好きだからな。
「すまんな、静馬。かなえがどうしても見たいって聞かないんだよ」
「気にするな。オレはもう吹っ切れてるから大丈夫だよ」
そう、吹っ切れたはずだ…彼女にはもう何の感情も感じてないはず。
しいて言うなら懐かしい思い出か?
なら…なんで昨日逃げたんだ?べつに今更あの人と会ったところでどうなる訳でもないだろ?
やっぱりまだ吹っ切れてないのか?…まあいい。今日あの人に会ったらわかるはずだ。
けど間が悪いのか今日は店に来なかった。まぁ毎日買い物にくるとは限らないもんな。
オレ達は居酒屋で晩飯を食べることにした。
「しかしなんで何も言わずどっか行っちまったんだろな」
手羽先を頬張りながら池田が誰に聞くともなく呟く。
コイツも麗菜さんには恋心抱いてたもんな、気になるよな。
「確か先輩の七つ年上なんですね?じゃ当時は…25ですか。なるほどねぇ」
何かに納得したのかうなずいてるかなえちゃん。
「なんだ?かなえ、なんか気付いたのか?」
焼そばを頬張りながらしゃべる池田。行儀わるいぞ。
「女心ってヤツだと思いますよ。多分麗菜さんは若かった先輩に自分が年をとって老け込んで
いくのを見られたくなかったんじゃないのかな?小説とかでよくある話じゃないですか」
「でもなんで何も言わずに消えたんだ?」
ほっけの塩焼きを食べながらしゃべる池田。うまそうだな、オレの分残しとけよ。
「先輩のことホントに好きだったからじゃないのかなぁ?」
かなえちゃんの言葉にオレは
「……納得いかねぇ!そんな自己満足の為にオレは捨てられたのか?オレは真剣だったんだ
ぞ!」
オレは怒りに任せ、ビールを一気に飲み干す。
「麗菜の話はもういい!それより今日は飲むぞ!飲まなきゃやってらんねぇ!
…お前等付き合えよ」
二人の顔は青ざめた。
なにが吹っ切れてるから、だ。全然じゃねぇか。吹っ切るためにも一度麗菜に会って話そう。
それでこの話は終わりだ…
そう心に誓いビールを一気に飲み干した…
麗菜に会えたのは水曜日だった。
麗菜は少しふっくらとして、当時と比べたら太ったみたいだ。
「お久しぶりです」
オレの声に麗菜は最初誰だか分からなかったみたいだ。
「もしかして…静馬くん?」
この懐かしい声、やはり麗菜だ。オレは少し感動してしまった。
「この間偶然ここで見かけたものですから…お元気そうでなによりです」
「ほんと、久しぶりね。やっぱりいい男になったわね…お姉さんうれしいわ」
ああ…そうだった。いつもオレ達をガキ扱いしてたんだ…懐かしさが込み上げる。
けど懐かしがってもいられない。オレは本題を切り出した。
「今日来たのは今更よりを戻しに来たんじゃないんです。なぜ突然いなくなったかを…
ずっと聞きたかったからです」
真剣なオレを見て麗菜は一度ため息をはき、語りだした。
「…実はね、あなたのこと……そんなに好きじゃなかったの。
最初あなた達の相手をしたのはただの暇つぶし。
付き合うのもあなたと池田君…どっちでもよかったの」
彼女の言葉に唖然とする。
(暇つぶし?どっちでもいい?なんだ?なんなんだ!)
「けどね…真面目にアタシを愛してくれるあなたを見てたら本気になりそうで恐かった…
だから逃げたのよ。それに…」
麗菜は財布から一枚の写真を取出してオレに見せる。
写真には今より若い麗菜とスーツ姿の男。それに小さい子供が写っていた。
「この子達もいたからね」
この子達もいた?オレは麗菜の告白に愕然とした。
「ま、まさか…」
動揺して口がうまく回らない。
「そう、あなたと恋人ごっこしてる時にはすでに結婚してたんだ。子供もいたしね。
あなたとは旦那がいない間の暇つぶしのつもりだったの」
なんだ?何を言われてるんだ?頭が働かない…
「ごめんなさいね。いつも言おうと考えてたんだけどあなたが全然気付かないから…
つい恋人ごっこしちゃった」
それ以降何を聞いたかしゃべったか覚えていない。気が付いたら駅前をふらついていた。
オレは池田を呼び出し事の顛末を話した。
池田も呆然とし、かなえちゃんは怒りに狂っていた。
その日の晩、オレと池田は飲んだ。やけ酒だ。
今日ばかりはオレ達は飲まなきゃやってられなかった。
青春の思い出が粉々に砕けたんだ。なにが懐かしい思い出だ…
次の日いつもの目覚ましで目が覚めた。
いつ帰ってきたんだ?記憶がないのに帰ってこれるなんて……
人間ってすげぇな、少し感動した。
ふと横を見ると隣に寝てたますみちゃんと目が合った。
「お、おはようございます、静馬さん…」
ますみちゃん少し顔が赤い、寝起きだもんな。
「ああ、おはよう、ますみちゃん」
オレは挨拶してベットを出る。なぜか裸だった。
慌てて落ちてたパンツを履き、裸を見られて恥ずかしいので顔を洗いに逃げた。
(うわぁ〜、裸見られたよ…彩にばれたらなに言われるか。
…ん?なんでますみちゃんがいるんだ?)
オレはやっとこの異常事態に気づいた。
(待て待て待て、落ち着け落ち着け……確か昨日は池田達とやけ酒飲んでてそれで…
いかん、途中から記憶が…ない。で、起きたら裸のオレの横でなぜかますみちゃんが…)
寝室の様子を覗くオレ。
ますみちゃんは床に落ちてた下着を着けてる。動きが鈍い、辛そうだ。
(これって誰がどう見ても…やっちゃったんだよな、オレ。……記憶にないぞ?)
青ざめるオレにますみちゃんは言った。
「静馬さん、朝食の用意と昨日の後始末しますのでシャワーでも浴びててください」
(昨日の後始末って、やっぱり……オレ、酔った勢いで……最低だ)
とりあえず落ち着くためにシャワーを浴びることにした。
「ねぇますみ、信じられる?電話一回もないんだよ?…なに考えてんの、拓にぃは!」
水曜日の夕方、彩から愚痴の電話が来たわ。
静馬さんから電話がないから随分ご立腹みたい。
「静馬さんにも用事があるのよ。それにまだ3日目じゃない、そう怒る事ないんじゃないの?」
電話の向こうでため息が聞こえるわ。
「どうせパチンコにでも行ってるのよ、あの男は!
拓にぃってアタシが遊びに行くようになるまでパチンコ漬けだったんだから…
それをアタシが更生させたのよ!」
へぇ以外ね…静馬さんの知らない過去に驚いたと同時に、
私の知らない静馬さんを知ってる彩を羨ましく思う…
「そんなに声を聞きたいなら彩から掛けてみたら?」
私の提案を彩は断ったわ。理由は
「ダメよ。こういうのは掛けて貰った方がうれしさ倍増なの」
ハイハイ、ご馳走様。
「私からそれとなく言っておくからしっかり介護するのよ」
そう言って電話を切る私、やってらんないわ。
彩ってば静馬さんに関しては…やっぱりかわいいわね。他の男共にも見せたいわ。
彩と電話で話した後、夕御飯何にしようか考えてたら携帯が鳴った。
ディスプレイにはかなえ先輩の文字。また男紹介してくれるのかしら?今度はどんなのかな?
静馬さんみたいな人だったら…いいな。
「ハイ、森永です」
「ますみ?今すぐ助けに来て!あなたじゃないと太刀打ちできないわ!」
切羽詰った声で助けを求める先輩。何があったの?
私は場所を聞き急いで先輩の下に走る。
なんでも大酒飲みがあばれて相手に出来ないみたい。先輩の彼氏も潰されたって。
……面白いわ、血が騒ぐのが分るわ。静馬さんと飲んだとき以来ね。
店に着いた私が見たのは泣きながらお酒を煽る静馬さん。私は愕然としたわ。
「かなえ先輩、何なんですかこれ?」
状況が把握できない私に先輩が訳を話してくれた。
「静馬さん…そんな事があったんですか……」
その麗菜って女に殺意が芽生えたわ。だからこんなに乱れてるんだ、静馬さん……
「ますみ、ごめんだけど先輩の世話お願いできる?アタシはこいつをどうにかするから」
そういって足元に転がってる男を蹴飛ばす。
「この人……かなえ先輩の彼氏、ですよね?」
やっぱり先輩怖いなぁ〜。小中高と体育会系で育ったって言ってただけあるわね。
結婚したら今流行の鬼嫁ってやつになるの確実ね。かわいそうな彼氏さん。
「ますみ、聞いてんの?とりあえずアタシはこいつを持って帰るわ。先輩をよろしくね」
そういって彼氏の財布からお金を取り出し私にくれた。いいのかな?
かなえ先輩は帰りぎわに一声かけていったわ。
「お釣りは取っといていいよ。そのお釣りでラブホでも行ってきなさい」
「せ、先輩!な、なに言ってるんです!」
「分ってんのよ、ますみが先輩気に入ってるの。先輩優しいからエッチしたら絶対責任取ってく
れるよ」
顔が真っ赤に染まった私にVサインを出して先輩は彼氏を肩に担ぎ帰っていった。
かなえ先輩って力あるなぁ。
静馬さんと2人きりでのお酒。
普通なら嬉しいんだけど今の静馬さんはただの泣き上戸の酔っ払い。
ここは無理やり連れて帰ったほうがいいと判断した私は、
夕御飯だけを頂き何も飲まずに静馬さんの部屋にタクシーを走らせる。
(先輩に貰ったお金、結構余っちゃうな。…迷惑料でもらっとこう。これで飲みに行けるわ)
どこで飲もうか考えていたら静馬さんのマンションに着いたわ。
何度か彩と来ているけど一人で来るのは初めてね。緊張しちゃうな。
静馬さんの肩を支えて部屋に入る。
「お邪魔します」
返事はない。当たり前よね。部屋の主を連れてきてお邪魔しますもないわよね。
とりあえず静馬さんを寝かせようと寝室へと運ぶ。静馬さんはまだブツブツ言ってるわ。
よっぽどショックだったのね。とりあえず静馬さんをベットに寝かせる。
こんな時彩ならどうするんだろ?電話しようかなと悩んでたら急に後ろから抱きしめられた。
「し、静馬さん!」
私は裏返った声で叫んだ。そりゃそうよね。気になってる人に抱きしめられたんだもん。
「……麗菜……オレはお前と子供作ってもいいとまで考えてたのに…
それを遊びだっただとぉ!」
痛いほど私を抱きしめる静馬さん。私を麗菜って女と思ってるみたい。
「し、静馬さん?私です!ますみです!」
私の言葉を無視して叫ぶ静馬さん。酔ってるものね、無理ないか…
「なんでだ麗菜!なんで消えた!オレのSEXが下手だったのか?
旦那の方が上手かったからか!」
し、静馬さん、な、なんて大胆な事を……今の私の顔はきっと真っ赤ね。
けど、その時私は赤い顔しながらなぜか先輩の言葉を思い出したの。
『先輩優しいからエッチしたら絶対責任取ってくれるよ』
責任って…付き合ってくれるってことかな?
けど…静馬さんには彩が。彩は私の大事な友達…裏切るわけには…
次の瞬間、私の口から震えながら言葉が出てきた…
「そう、あなたが下手だったからよ。しばらく合わないうちに上手くなったのかしら?
試してあげるわ」
……言い終わると同時に私はキスをされ、ベットに押し倒された……
静馬さんは私の服を無理やり剥ぎ取る。その間にもキスは続く。
静馬さんの舌が私の口の中を蹂躙する。歯茎を一本づつ舐められ舌も吸われる。
口の中には静馬さんの唾液が流れ込んできて飲まされる。
けど嫌な気はしない…むしろ嬉しい。
気づいた時には私も静馬さんの舌を吸い唾液を流し込む。
ペチャ…クチュ…ング…チュ…チュパ…
私の耳にはイヤらしい音が響いてる…
私たちが出してる音かと思うと興奮してきて頭がボーっとしてきた…
何も考えられない…気持ちいい…もう静馬さんの舌を吸うことしか考えられない…
けど急に舌を離された。
「イヤッ…もっと…」
私は静馬さんの頭を抱え無理やりキスを続ける…
「んふっ!ひゃう!」
胸に衝撃が走る。いつの間にか私は下着姿になっていて…
ブラの中に静馬さんの手が入ってきてる…揉まれてる。
ん、胸揉まれるって…んん!気持ちいいんだ。
「あ、あ、や、んん、ふぁ」
いやらしい声が勝手に出てくる…首筋を…耳を…鎖骨を…
静馬さんの舌で舐められ声が出る。喘ぎ声って勝手に出てくるんだ…
手は私のお腹を…太ももを…お尻を…背中を撫でてくれる。
きもちいい…なにかふわふわするかんじ…
「いっ、ひゃあ!ダ、メ…ああ!」
胸の突起を口に含まれる…吸われて…舐められて…噛まれて…
右左両方愛してくれる。私は静馬さんの頭を抱き抱え、快楽に耐えている。
右胸を噛まれ左胸をつねられて、右手はショーツの中をうごめいてる。
右手が小さな突起を触った瞬間、白い波が私の理性を押し流す……
「あ、あ、ソコ、ソコいいの!ああ、静馬さん好き!好きなのぉ!
…も…いっちゃ…ひゃぁん!!」
初めての絶頂を迎えた私の体は少し痙攣してる…ちょっと休みたい…
そう思ったけど休ませてくれない…
静馬さんは最後に残ったショーツを脱がせ足を開かせる…
恥ずかしいけど力が入らない…大事なところを見られてる…
こんなこと彩もまだしてもらってないだろうなと優越感に浸ってたらあそこをザラザラした物が撫
でる…見ると静馬さんが私を舐めてる。
恥ずかしい!お風呂にも入ってないのに…
「イヤ!だめ!なめちゃやだぁ…」
ピチャピチャピチャ…寝室にはまるで子猫がミルクを舐めているような音が響いている。
ああ、舐められてる…私のいやらしい所舐められてる…あそこから出てるの飲まれてる…
舌が触るたび、舐められるたびに体がはねる…声が止まらない…
…私はまた白い波にさらわれた…
肩で息してる私にキスしてくれた…嬉しい、私も必死にキスする。
…次の瞬間、体中に痛みが走った。
「ぎぃっ!んぐぅ、ふぐぅ!」
体を引き裂かれたような痛みにキスを振りほどく。
「いっ、痛ぁ、う、動かないでぇ…痛い、痛いのぉ」
けど、静馬さんは私の言う事なんて聞いてくれない。
痛さのあまり静馬さんを振りほどこうとした。でも力で抑えられていて抵抗できない。
私は痛さを紛らわすために静馬さんの背中を爪がめり込むほど強く抱きしめる。
……グチャグチャグチャ……パンパンパンパン……グチュグチュグチュ……
部屋にいやらしい音が響く。静馬さんが動くたびに響き、動きは徐々に早くなる…
私の中の静馬さん、私の奥を激しく叩くように動いてくる。その動き一つ一つに声が出る。
「ひっ、くぅ!し、静馬さ…い、痛!…お、お願い、優しく…んん!」
私の言う事なんて聞いてくれず、私の胸を吸いながら激しく動く静馬さん。
…おかしいわ。私、初めてなのに…痛いのに…乱暴にされてるのに…気持ちいい。
(私、SEXしてるんだ…静馬さんとしてるんだ。痛いけど…嬉しい)
そっか…好きな人に抱いてもらえたから嬉しいんだ。…気持ちいいんだ。
一段と激しく動く静馬さん。
「し、静馬さぁん…すきぃ、好きなの…あ…あああ!」
私の一番奥で静馬さんの動きが止まった瞬間、
小さなうめき声と共に私の中に暖かいものが広がった。
(あ…私で…イッてくれたんだ。静馬さん、好き。…好きです静馬さん…)
足を腰に絡めて強く抱きしめる。あぁ…静馬さぁん…静馬さん…
私に覆いかぶさり動かなくなった静馬さん。しばらくしたら寝息が聞こえてきた。
私は静馬さんを私から抜き取りシーツを見る。血で汚れてる…けど嬉しい。
初めてを静馬さんにあげれたことに満足した私は、静馬さんにキスをして隣で目を瞑る。
私の中で広がる静馬さんを感じながら眠りにつく…夢でない事を祈って。
私は血で汚れたシーツを見ながら昨日の事を思い出し、夢じゃなかったんだ、と満足した。
(けど…彩になんて言おう…だまし討ちみたいなものだもんね…
静馬さんにも正直に言わなきゃ…)
こんな卑怯なやり方で2人の仲を引き裂くわけにはいかない…
謝ろう、そしてなかったことにしてもらおう…
それでもダメならここから消えよう…私はそう決心をした。
(けど、彩より早く静馬さんに出会いたかったな…)
……私の涙でシーツが吸い込んだ血が少し滲んだ……
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