「じゃあ元気でね、ユウ君。しっかり勉強するのよ」
2年前の春、そう言い残して、ますみ姉さんは家を出ていった。
大学入学で一人暮らしをする為だ。
僕はその日の夜…泣いた。
初恋の人に告白する勇気もなく、ただ見送るしか出来なかったから…

隣の家のやさしいお姉さんに恋をする…よくあるシチュエーション。
けど自分が恋してみると…つらい。
昔から弟扱いされて、異性の男性として見られないから。
けどこの関係を僕は変える…変えてみせる!
その為に必死で勉強してますみさんと同じ大学に合格した。
空手で体も鍛えて初段にもなれた。
僕は2年前の臆病な僕じゃない!ますみ姉さんに僕の気持ちを伝えるんだ!
そして…お付き合いしてもらうんだ!
そう地元を離れる電車の中で誓った……んだけどなぁ。


僕の名前は綾崎湧一(あやさき ゆういち)。
大学に合格して初めて親元を離れて一人暮しをする18才。
初めての一人暮らし…少し不安もあるけど、初恋のあの人と同じ大学で過ごすためなら頑張
れる…と思う。
僕の初恋の女性で憧れの人…名前は森永ますみ(もりなが ますみ)。
僕より二つ年上。
一人っ子だった僕を、弟のように世話してくれた隣のやさしいお姉さん。
身長は僕より小さいけど…スタイルは抜群!
一緒にプールに行った時は目のやり場に困ったりもした。
……あの身長であの胸は反則だと思うよ。
そんなますみ姉さんに会える…2年ぶりに会える!
僕の心臓は電車が目的の駅に近づくにつれ早くなる。
駅に着いたのは夕方、改札を出た僕はますみ姉さんを探す。
前もってますみ姉さんには連絡してあるんだ。

「えっ?私と同じ大学に合格したの?凄いじゃない!おめでとう、ユウ君!よく頑張ったわね。
ところで住む場所は決まったの?私の隣に空き部屋あるからここにしたらどう?」
僕の報告に驚いたますみ姉さんは、こんなうれしいことを言ってくれたんだ!
もちろん僕はますみ姉さんの隣に部屋を借りることにしたんだ。
これを機会にもっと仲良くなっていつかは恋人に……夢が広がるなぁ。一人暮らしバンザイ!
入居の手続きまでますみ姉さんがしてくれた。僕がした事といえば引っ越しの準備ぐらいだ。
入学手続きの時はタイミングが悪くて会えなかったから…2年ぶりに会えるんだ!


急いで改札を出た僕はますみ姉さんを探す。
どこだろう…きょろきょろと探してると懐かしい声が僕を呼んだ。
「ユウ君!こっちよ!」
声がした方向を見ると……ますみ姉さんだ。
2年前より綺麗になったショートカットのますみ姉さんがそこにいた。
「久しぶりね、ユウ君。ちょっと背も伸びたみたいね。体つきも男の子らしくなったじゃない。
……元気そうで嬉しいわ」
ますみ姉さん……僕はこのセリフを聞いただけで2年間の努力が報われた気がした。
「ますみ姉さんこそ背が……ごめん、伸びてないね。けど胸はまた大きくなったんじゃない?」
……し、しまった!久しぶりに会えたのに浮かれて、つい思ったことを口に出しちゃった!
…ど、どうしよう?ますみ姉さん胸のこと気にしてたから、気分悪くなったんじゃ…
「…言うようになったわね、ユウ君。そうよ、背は伸びてないし胸は大きく……なったわよ!」
そう言って僕の頭をつかんで、む、胸に抱きかかえたんだ!…あぁ、夢なら覚めないで。
久しぶりだなぁ…抱きかかえられるのって。僕が小学校時はよくしてくれたんだ。
けど大きくなったって…前までDカップってお母さんが言ってたから今は…E、なのかな?
「こんなとこで遊んでる場合じゃないわね、とりあえず部屋に行きましょうか」
頭を離し、そう言って僕の荷物を一つ持って歩き出すますみ姉さん。あぁ、名残惜しい…
あれ?ますみ姉さんバス停じゃないの?タクシーで行くのかな?
後をついていくと国産のスポーツタイプの車の前で止った。
まさかこれ、ますみ姉さんの車なの?
ドアをノックするますみ姉さん。
「彩、ユウ君来たから家までお願いね」
車のドアが開き出てきたのは……すっごい美人!
僕より少し背は低いけど165pはあるんじゃないかな?
黒い髪も綺麗で腰まである。まるでモデルみたいだ…思わず見とれてしまった。
「ねぇますみ、この子があんたの弟分なの?聞いてた話だとひょろっとしたごぼう君と思ってた
んだけど…結構いい肉の付き方してるじゃないの。自分、なにかやってるんでしょ?」
そう言って腰のはいったパンチを打つ仕草をした。いい肉の付き方?な、なんだこの人?
「は、はい。一応空手をやってまして…ついこの間に初段をいただきました」
あっそう、とつれない返事…あなたが聞いてきたんじゃなの?
それはないんじゃないですか?
「初めまして、僕の名前は…」
とりあえずますみ姉さんの知り合いだろうから自己紹介しないとね。
「知ってるわ。自分の名前、綾崎湧一でしょ?ますみから聞いてるわよ。
ますみ、さっさと乗ってよ、車出すわよ!」
なに、この人…失礼な人だな。こんな人がますみ姉さんとなんで一緒にいるんだ?
「はいはい。さ、ユウ君は後ろの席ね。荷物はトランクにでも載せてね」
トランクに荷物を入れて後部座席に座る僕。…この人誰なんだ?


ますみ姉さんによると、この美人の名前は国生彩(こくしょうあや)、
大学に入ってからの親友だって言ってた。
いつも2人でいるんだって……意外だなぁ。性格が合わないと思うけど?
同い年って言ってたから今年で21才、この車は恋人のものを勝手に借りたんだって。
やっぱり我侭なんだ…
こんな気の強そうで我侭な人の恋人なんて大変なんだろうな…
僕はますみ姉さんが好きでよかったよ。
車の中では大学のことや一人暮らしの注意点などいろんな事を教えてもらった。
最初は一緒に大学まで行ってくれるんだって。
二人で通学なんて…夢が広がるキャンパスライフ!ビバ大学!
一気にやる気が出て来たぞ!
今日は近くのお店で僕の歓迎会をしてくれるみたいだ。とりあえず荷物を部屋に置く。
1Kだけど結構広い、掘り出し物の物件だな。ますみ姉さんに感謝しなくちゃ。
この隣にますみ姉さんが……さっきの胸の感触思い出したら興奮してきちゃった。
「ユウ君、どう?結構広いでしょ?」
うわっ!いつの間に入ってきたのますみ姉さん!ビックリしたぁ……
「ごめんだけど、彩がご飯食べたいってウルサイから、早くお店に行きましょ。今日はおごりよ」
そう言って僕の手を引くますみ姉さん。手、手を握ってもらえた…し、幸せだぁ〜。
「遅いよますみ!アタシを餓死させるつもり?」
アパートから出てきたらいきなり怒られた。なんだこの人、機嫌でも悪いのか?
「ゴメンゴメン、そう怒らないでよ。せっかくの綺麗な顔が台無しよ?」
「フン!あんたに褒められても嬉しくないわよ」
「あら、やっぱり静馬さんじゃないとダメなのかしら?静馬さん家の奥様には?」
あれ?この人、急に真っ赤になったぞ?
「も、もう、ますみったら…さっさと行くわよ!どうせいつものとこなんでしょ?」
赤い顔でブツクサ言ってる…この人って結構かわいいんだな。照れてるんだ。
「ふふっ、じゃ、ユウ君行こうか。ついて来てね」
あ、手、離されちゃった…ちょっと残念。けどいつかは堂々と握ってやるぞ。
そう心に誓いますみ姉さんの後を着いて行く。
ついた先はこじんまりとした……居酒屋だった。


(ますみ姉さんってこんな店に来てるんだ…大人だなぁ)
へんな関心をした僕はますみ姉さんの後について店に入る。
「いらっしゃい!お?魚雷コンビの来店か!いつもの席空いてるよ!」
威勢のいいお店の人が声をかける。魚雷コンビ?なんなんだろ?
席に着いたとたん、店員さんがビールの入ったすごく大きいジョッキ(ピッチャーっていうみたい)
と普通のジョッキ二つ、それにウーロン茶が入ったジョッキを持ってきた。
「はい、ユウ君どうぞ」
そういって空きジョッキにビールを入れて渡してくれる。ますみ姉さんやっぱりやさしいなぁ…
彩さんはウーロン茶を手に取る。車だから飲めないもんね。
あれ?てことはこの大きなジョッキのビールをますみ姉さんと僕で飲むの?
ど、どうしよう…僕お酒なんて飲んだこと無いよ。オドオドする僕。
「ん?自分、どうしたの?なにビビッてんのよ?」
僕の様子に気づいた彩さんが聞いてきた。
「じ、実は僕、こんな店初めてで…お酒も初めてなんです。ど、どうしたらいいんですかね?」
そんな僕に彩さんは、ははっと笑って
「ますみがいるから大丈夫よ」
「けどこんなにあるビール、僕とますみ姉さんで飲むなんて…無理ですよ」
僕の言葉にウーロン茶を吐き出す彩さん。なんで吐き出すんだろう?
「自分知らないの?……今日はちょっとしたファンタジー、見られるかもね」
そう言って不気味な笑いをした。な、なにが起こるんだ?
注文を終えたますみ姉さんがジョッキを持つ。
「彩!何に勝手に飲んでるの、乾杯がまだでしょ!」
怒るますみ姉さん、謝る彩さん。
「ゴメンゴメン、だって喉乾いてたんだもん。いいじゃないの」
こうやって見るといいコンビだ。親友というのもうなずけるな。
「さ、ユウ君ジョッキを持って…では、綾崎湧一君の大学合格を祝って…乾杯!」
「乾杯!」
そう言ってジョッキを合わせる二人。僕も真似して合わせる。なんだか嬉しくなってきた。
「僕のために…ありがとうございます!」
嬉しくて頭を下げる僕。頭を上げたらますみ姉さんのジョッキ空になってる。
…ええ!もう飲んだの!
「ん?ユウ君どうしたの?…もしかしてお酒初めて?」
ビールを注ぎながら聞いてくる、ますみ姉さん。頷く僕。
「そうなんだ。じゃ、今日はその一杯だけにしておきなさいね」
優しく微笑むますみ姉さん。はぁ〜かわいいなぁ〜。
次々運ばれてくる料理はどれも美味しかった。
けど初めてのビールは苦くてあまり美味しく感じなかった。
少し頭もクラクラして来たし…一杯飲めるかな?
コレが大人の味かぁ…みょうに納得してしまった。
ますみ姉さん、なんでこんなの飲めるんだろ?
…って、もうビールが全部無くなってる!一人で飲んだの?
唖然とする僕。だって僕はまだ一杯目の半分ぐらいしか飲んでない。
あの体のどこに入るんだ?
「ねっ、ファンタジーでしょ?けどこれからよ」
彩さんがそう言った。これから?えっ?何がこれからなんだ?
「姉さん、久しぶり!最近何で来てくれないのよ〜。俺たち寂しかったじゃないのぉ〜」
突然話しかけてくるスーツ姿のおじさん達。
だれ、この人達?右手にはお酒…日本酒の大きなビンを持ってる。
不審な顔をしてる僕に彩さんが話しかけてきた。
「あの人達…ますみのファンの人達よ。まぁファンというより、ますみを狙ってんだけどね」
な、なにぃ〜!ますみ姉さんを…狙ってるだとぉぉ〜!ゆ、許せん!
「ははは、何怒ってんのよ、まぁ見てなさいよ。ファンタジーの始まりよ」
そう言って笑う彩さん。ファンタジーって…なに?


開いた口がふさがらない…こういった時に使う言葉なんだ。みょうに納得してしまった。
なぜなら目の前で起きている現実に口がふさがらないからだ。
目の前には大きなお酒の空ビン(一升瓶というらしい)が6本とスーツ姿の親父が2人、
私服のおじさんが2人転がっている。
あっ、もう一人増えた。計5人と7本だ。
これは全部ますみ姉さんと飲み比べをした人達だ。この店の名物らしい。
周りには見物人もいる。
「自分、なに口あけてボ〜っとしてんのよ。あんたの歓迎会なんだから料理食べなさいよ」
彩さんの一言で我に返る僕。
「な、なんなんですかコレ!どういうことなんです!」
当然の質問をする僕。
「はぁ?見て分かんないの?飲み比べよ。ますみお酒強いからね」
そう言って出汁巻き卵を食べる彩さん。いやいや、そういう意味じゃなくてですね…
「ますみに勝ったらますみと付き合えるのよ。
っていうかますみ、自分よりお酒強い人としか付き合わないって決めてるの。
…だから正式には付き合った人いないわ」
………ええ!ま、ますみ姉さんと付き合うには、お酒強くないといけないんですか?
「まぁこの人達はますみのファン。一緒に飲みたいだけみたいね。
最初はそうじゃなかったみたいだけどね。何度も挑むうちにファンになったみたい。
最近はこういうのが増えてきたからますみ、酒代が浮くって喜んでるわ」
唖然とする僕……その時倒れていたおじさん一人が立ち上がり、
ますみ姉さんに抱きつこうとした。
コイツなにするんだ!僕が立ち上がる前に彩さんが立ち上がり見事な蹴りを食らわせる。
あ、あれは、ブラジリアンキック?……僕、あんな蹴りできないぞ?この人何者なんだ?
嬉しそうに倒れるオヤジ。周りからは拍手の嵐だ。
「さすが殺人魚雷コンビだ!」
「おお!やっぱり凄いキレのキックだな」
「次誰か行けよ。不沈艦が待ってるぞ」
拍手に答える2人、もうなにがなんだか分かりません。
「ごめんね、ユウ君。せっかくの歓迎会なのに騒がしくしちゃって…そろそろ出ようか?」
そう言って伝表を持ち立ち上がるますみ姉さん。
見物人から握手を求められてる…なんなんだ?
まだ口のふさがらない僕に彩さんが話しかけてきた。
「ね、ファンタジーでしょ?…ますみ、ここらじゃ沈まない船『不沈艦』って呼ばれてるのよ。
何人もの男がますみを物にしようと挑んできては返り討ちにあってるの。
で、ついたあだ名が不沈艦」
彩さんの説明に、みょうに納得してしまった。って、ダメじゃないか!
ますみ姉さんと付き合うには不沈艦を沈めなきゃいけないの?
落ち込んでふと横を見る僕。
カレンダーが張ってありその上には『不沈艦撃墜数累計80人』と書かれてる。
…そのうち僕も数に入るのかな?


「ん?どうしたの、ユウ君。少し酔ったの?」
暗い顔をしてる僕を見て、心配してくれるますみ姉さん。やさしいなぁ。
頷く僕。ますみ姉さんを見てるだけで酔いました。
「そう、お酒はほどほどにしときなさいね。あんまり飲んじゃダメよ?」
やさしく微笑むますみ姉さん。……説得力ゼロですよ。
「ごちそうさま、ますみ。じゃ、アタシ帰るわ。きっと拓にぃ、寂しがってるからね」
店を出たら彩さんがそう言った。
「あら、寂しいのはあなたでしょ?今日だって静馬さんが来れなくなったから機嫌悪かったじゃ
ないの?」
ふふっと笑うますみ姉さん。そうか、彩さん彼氏が来なかったから機嫌悪かったんだ。
「うるさいわね!じゃあ、ますみに綾崎君、またね」
そう言って帰っていった。いいなぁ、幸せそうだなぁ。
「じゃ、ユウ君、私達も帰りましょうか」
そう言って歩き出すますみ姉さん。あれだけ飲んだのに平気みたいだ。
ほんと、ファンタジーだ。
「あ、待ってよ、ますみ姉さん!」
……ま、しばらくはこのままでいっか。会えなかった2年間を考えたらなんてことは無い。
だってすぐそばにいるんだから…お酒もがんばって強くなったらいいんだ。
そうだ、努力しよう!
そしていつかは飲み勝って彼女になってもらうんだ!……う〜ん、何かが違う気がするなぁ。
僕は首を捻りながらもこれから始まる新しい生活に胸躍らせている。

だって隣には好きな人が…ますみ姉さんが住んでいるんだから。


今、僕の目の前を歩いてる女性、森永ますみは僕の隣の住人であり、憧れの人、初恋の人で
ある。
そして彼女はお酒が強い…そう、『彼女は酒豪』なんだ。

はぁ、僕の初恋どうなるんだろ……





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