「あれ?彩ちゃんめずらしいね、会社に来るなんて。
あっ!新しい曲でも書けたの?ちょっと見せてよ」
お世話になっているレコード会社にsai引退の報告に来た。
いくらインディーズで専属契約してないといっても話は通さないとね。
それにsai引退ライブのことも協力してほしいし…ちょっと虫が良すぎるかな?
「新田さん…実は話があるんです。saiについてなんです」
新田達夫さん…saiを担当してくれてる明るいおじさん。
以前は大手レコード会社に勤めてたけど嫌になって辞めたんだって。
なんでも売れそうな曲しか作らせてくれないのに嫌気がさしたんだって。
「なになに?春からの音楽活動のこと?
さすがにsaiだね、いろんな所からの問い合わせが凄いよ。いよいよsaiが動きだす!
って雑誌やテレビ局からの問い合わせが殺到してて、対応に忙しくて大変だよ。
前の会社の時に僕をゴミ扱いしてたヤツ等がペコペコ頭下げてきたのには笑っちゃったね」
ハハハと笑う新田さん。
どうしよ?辞めるなんて言いづらいなぁ…なんて言ったらいいんだろ?
「彩ちゃん…なんかすっきりした顔してるね?ついこの間まで暗い顔だったのに…
ま、大体分かるよ。今日来たのはアレだろ?…sai、辞めるんだろ?
辞めちゃうつもりなんだろ?」
いきなり言い当てられてビックリ!なんで分かったの?
「な、なんで分かったんです?」
「なんでって言われてもなぁ…しいて言うなら経験かな?
前の会社でさ、そんな顔の子…たくさん見てきたからね。
歌いたくもない歌を作らされて、売れる歌を作れって脅されて、
どんどん歌が嫌いになっていく。
辞めたくても契約で縛られてて辞められないって子達を見てきたからね。
ああいうのは辛いよ?
歌を作りたくないヤツに無理矢理作らせて、たいした歌じゃないのに過去の名前で売る。
売れなくなったらポイ捨て…悲しいね。歌で商売するもんじゃないね。
この間までの彩ちゃん…その子達みたいな顔してたからね」
ハハハと笑う新田さん。アタシ、そんな顔してたんだ…
「まぁ歌で商売してる僕が言うセリフじゃないか?ハハハハ!
…彩ちゃん、歌を嫌いになって辞めるんじゃないんだろ?
嫌いになって辞めるなんて悲しいからね、大好きだった歌が嫌いになるなんて…
寂しいからね」
寂しそうに呟く新田さん。
そんな悲しい辞め方した人を、いったい何人見てきたんだろ…
「新田さん…アタシ、歌は好きです。歌うのが大好きです!
…ただsaiとしての歌を作れなくなったんです。
アタシはもう満たされたんです…手に入れたんです、求めてたものを手に入れたんです!
心の飢えを歌ってたsaiにはもう戻れないんです。
もう、ファンの皆が求めてるsaiには戻れないんです…」
アタシの言葉をジッと聞いている新田さん。うんうん頷きだしたわ。
「…そっか。ま、歌を嫌いになって辞めるんじゃなかったら万事オッケーよ!
あとはおじさんに任せなさい!春からのことも『本格活動予定』って話で通してたから大丈夫!
予定は予定であって確定じゃないからね。ほらっ、予定は未定ってよく言うじゃん?
このアバウトさがインディーズのいいところだよね」
はははと笑う新田さん。そんないいかげんでいいのかな?
「ただね…sai本格活動開始記念の初ライブするつもりで会場押さえてんだよね。
…え?言ってなかったっけ?ははは、まぁいいじゃないの、気にしない気にしない!
でさぁ…そこのキャンセル料払ってくれる?
僕が払うとなると首くくっちゃわなきゃならなくてね」
やっぱりこの人マイペースだなぁ……ええ?ライブ会場押さえてるの?
渡りに船ってこの事ね!
「新田さん、アタシsaiの引退ライブやろうと考えてたんですよ!
そのライブハウス押さえててもらえますか?…で、いつ押さえてるんです?」
「おお!ライブするの?人前で歌うのって駅前で歌ってた時以来なんじゃないの?
よし!やっちゃおう、sai引退ライブ!最初で最後のライブだから派手に行こうよ!
いちおう3月の末に取ってるんだよ。
彩ちゃんが大学卒業してからなんだけど…卒業できるよね?」
「当たり前ですよ!こう見えても頭はいいんですよ」
「オッケー、燃えてきたぁ〜!よし!絶対成功させて伝説にしようよ、武道館ライブ!」
よかった〜、ライブハウス探さなくていいんだ。
新田さんも協力してくれるって………ぶ、ぶぶぶ武道館?
「新田さん?ぶ、武道館って…あの武道館ですか?」
アタシの…sai、初にして最後のライブが決まったのはいいけど…武道館!ど、どうしよう…
オレは今、猛烈に怒っている。
何をって?…気絶から目覚めたら夜中3時。
もう11月になろうかとするこの時期に、
冷たい床の上で毛布一枚だけで倒れてたらそりゃ怒りたくもなりますよ?
しかも掛けてくれたのが池田だって言うし…愛が足りないよな。
結局彩達は朝になっても帰ってこなかった。
なんでもカラオケの後、かなえちゃんの部屋に泊まったんだと。
気絶してた亭主をほったらかしでカラオケに行くかなえちゃんもどうかと思うよ?
池田も愛が足りないって嘆いてたし…おお!心の友よ!
…またオレ達の友情パワーが上がったような気がする。
で、今オレはリビングでムッとした顔で彩の帰りを待っている。
仕事から帰ってきて文句を言ってやろうとしたが出かけてるので帰りを待ってるという訳だ。
池田も今夜は凄い説教をしてやるって燃えてたし……ぐっふっふ。
早く帰って来い来い、彩さんよ。
オレは彩をどう攻めるか妄想しながら帰りを待つ。
……ヤベッ、立ってきた。マムシドリンク3本は飲みすぎたか?
「ただいま拓にぃ!拓にぃ、話があるんだけ…ど?」
玄関を開けたら拓にぃが凄い顔で睨んできた。…え?なんで?
「お帰り彩。地獄へようこそ…」
うっ…なんで邪悪な笑みを浮かべてるの?ど、どうしたの?
「た、拓にぃ、顔怖いよ?どうしたの?」
「…気絶したオレを捨ててのカラオケは楽しかったですか?
捨てられた恨み…晴らさずにおくべきかぁぁ〜!」
あっ、そういえばそうね。忘れてたわ。
「そ、そんなに怒んなくていいじゃないの…拓にぃ、心が狭いよ?
アントニオ猪木の良識より狭いよ?」
かわいく首をかしげて言ってみる。あれ?顔色が赤くなった、なんで?
「…テメェこのヤロウ!オレを猪木と一緒にすんな!
オレは猪木が大っ嫌いなんだよ!説教だ!」
し、しまったぁぁ!拓にぃ馬場派だった!
それに新日本に対しての猪木のやりたい放題に怒ってたんだった!
「ご、ごめん拓にぃ!謝るから…こ、来ないで!
……近寄るなって言ってんでしょーが!死ね!」
不気味な笑顔で手をにぎにぎしながら近づいてくる拓にぃ。
不気味だから近寄るな!
アタシは顔を目掛けてハイキックを繰り出した!
……んだけど、拓にぃ本気だ。
あっさりとかわされてタックルで倒され、床にうつ伏せに押さえつけられた。
「あやぁぁぁ〜…身も心も冷え切ったオレの恨み、体で分からせてやるぅぅ〜」
耳元で囁く拓にぃ。…拓にぃちょっとコワイよ?
「せ、せめてベットで…床じゃヤダ!」
アタシの言葉を無視して攻めてくる拓にぃ。
「オレを床に置いたままで遊びに行った奴がよくそんな事言えるなぁぁ〜〜」
た、拓…やん!耳舐めないで!
「こ、こらっ拓にぃ!いいかげん…に?」
な、なんか硬いものがお尻に当たってる。…これってアレだよね?
「今夜は小橋のマシンガンチョップ並に腰を振ってやる〜」
「こ、このヘンタ…あん!あ、ダメ、そんなに胸揉まないで…んん!」
うつ伏せに押さえつけられたまま拓にぃに触られてるアタシ。
拓にぃの手はブラやショーツの中に入って来て、好き放題に動いてる。
その手が動くたびにアタシの力が抜けていき、抵抗できなくなったきた。
「あやぁぁ〜覚悟しろぉぉ〜」
そう言って上着を脱がす拓にぃ。
力が入らず抵抗できないアタシにそれを見て不気味に笑う拓にぃ。
な、なんか凄い事されそう…
(ふっふっふ…もう抵抗できないようだな。ちょっと可哀想だけど…いい機会だからな)
そう、オレは前からしてみたかったSEXをしようと思う。
前に一度頼んだらローキックを喰らった。
まぁそんなにひどい事じゃないから大丈夫だろ?
我慢する彩の顔と声も聞きたいしな、ぐっふっふ……
「お、お願い…何されてもいいからベットでしよ?」
オレが何かを企んでると悟った彩が話しかけてきた。
「ダ〜メ!これは復讐なんだから…玄関でするの!」
「あん…げ、玄関?…あ、くぅ!なんで、んあ…そんなトコで…んん!」
指を動かすたびにクチュクチュと音がする。彩、感じてるんだな。
「何故って?さぁ何でだろうなぁ〜?」
服を脱がしてショーツだけになった彩を後ろから抱きかかえるように持ち上げて玄関先まで運
ぶ。
その間も指は止らない。
ドアを距てた向こうはマンションの廊下だ。
「なぁ彩。このドアの向こうはなんだろうな?」
「…はぁ、んん!あ、ああ…い、いきそ…拓に…」
「おいおい、あんまり声出すなよ?外に声が漏れて誰かに聞かれたらどうするんだ?
…静馬さんところの綺麗なお嬢さんはあんなエッチな声出すんだって噂になるぞ」
オレの言葉に彩は声を殺して我慢しだした。
「た、拓に…謝るからベットで…ひっ!ダ、ダメ…んん!」
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ…
両手をドアにつかせて後ろから彩のを指で攻める。う〜ん、いい眺めだ。
玄関には彩のアソコから愛液がポタポタとたれている。
んっふっふ…メチャクチャ感じてるな、彩。
「ここじゃ声を出したら外にまる聞こえだな。もしかしたらもう気づいてる人、いるかもな?」
ぐちゅぐちゅと指で攻めながら言葉でも攻める。
彩はさらに濡れてきて玄関を汚している。
「ん〜んん〜!…んんん…ふっく…んん!」
右手で口を押さえ必死に声を止めようとしてる彩。いい!凄く興奮するぞ!
膝はオレの執拗な攻めでガクガクと揺れている。もうイキそうだな。
「あ〜や?指とオレのとどっちでイキたい?」
オレの質問に答える事ができない彩。
そりゃそうか、容赦なく指で攻めまくってるんだからな。
「う〜ん、どっちか分かんないな。…じゃ、両方しようか?うん、そうしよう」
元からそうするつもりだったけどね。
オレの言葉に彩は顔を振り向かせ目を見開いた。
「た、拓にぃ…なんで…ひぃ!ダ、ダメェェ!」
右手を口から話した瞬間、彩の一番敏感な小さな突起を摘み上げる。
「ダメダメ!もうダメ、イッちゃうぅぅ!…ひぃ、くぅぅぅ〜!」
ビクン、ビクン、と痙攣する彩。おお、派手にイッたな。
オレの指でイッてしまった彩は、玄関に力なく座り込んだ。息は荒く、表情も虚ろだ。
(う〜ん、しばらく休憩さしてあげたいけどお仕置きだからな。…なによりオレが我慢できん!)
オレは下半身裸になりコンドームを着ける。
彩は余韻に浸っていて気付いていない。
オレは彩の腰に両手を回して持ち上げ無理矢理立たせる。
「…ふぇ?拓にぃなにする…ひぃ!くっ…あ…すご…ああ!」
パン!…パン!…パン!
オレは彩に何も言わずに後ろから入れる。
ギリギリ抜けそうになるまで腰を引き、深く強く打ち込む。
そのたびにパン!と腰とお尻がぶつかる音がして、彩は声を上げる。
「ひっ…ああ!た、拓…も、ダメ…また…アタシまた…」
あれ?彩、もうイッてしまいそうなのか?
こんなに感じさせるなんてオレって凄いな、感動した。
「彩、どうした?そんなエッチな声を出して。
玄関でするのがそんなに気持ちいいのか?
…ここだと彩の喘ぎ声、外に丸聞こえだろうな。
もしかしたらこのドアの向こうで誰かが聞いてるかもな」
そう言いながらも腰を強く打ち込む。
「くぅ!あ、あ、んん!…も、もう許し…んん〜!」
彩はヒザをガクガクと痙攣させながら必死に声を押し殺そうとしている。
実はこのマンション、防音がしっかりしてるから外に声が漏れることはないんだ。
そもそもマンションを買う時、彩がギターや歌を歌っても大丈夫なようにここにしたんだからな。
今の彩はそこまで頭が回らないみたいだ。
必死に声を出さないように我慢している。その様子がまたいい!
オレは彩の表情をじっくり見たくて一度抜き、体位を変える事にした。
正面に向き合い、彩がドアに背中で寄り掛かるようにする。
彩は少し抵抗したがキスで黙らせる。
その隙に片足を持ち上げて一気に突き入れた。
「かはぁ!…あ、く、あぁぁ…」
オレの首に両手で抱きついてきて喘ぐ彩。
彩は今、片足で立たされてドアとオレに挟まれる事でどうにかに立ってる。
そしてアソコはオレので貫かれている。
ぐちゅぐちゅと音を出しながら腰を使う。
彩は必死にオレに抱きつきながら声を殺している。
その我慢してる顔がいい!
玄関でのSEX…オレの夢がまた一つ叶った!感動した!
「彩、くっ…いい表情してるぞ。はぁはぁ…とてもいやらしくて…いい表情だ」
ぐちゅ!ぐちゅ!ぐちゅ!
下から突き上げるように腰を振る。
そのたびに結合部からはいやらしい水音が聞こえる。
愛液は彩の太ももを伝って玄関の床まで達している。
もっとじっくりと楽しみたいところだがオレがもう限界だ。
一気にスパートをかけることにした。
「彩、はぁはぁ…声出すなよ?…くぅ!外に聞こえるからな。…絶対に出すなよ!」
ぐちゅ!ぐちゅ!ぐちゅ!ぐちゅ!
彩の体が持ち上がるんじゃないかというくらいに深く、激しく突き上げる。
「イケ、イケよ!彩、イッてしまえ!ぐっ…あ、あやぁ〜!」
「ん、ん、んん〜!んん!んん!…いっ…きゃぁぁぁ〜!」
ドピュ!ドピュドピュ!…ドクン!ドク…ピュ…
オレの最後の力を振り絞っての一突きで彩は声を上げ、体全体を震わせ絶頂に達した。
それと同時にオレもゴムの中に大量に射精した。
玄関でのSEX…最高だ!こりゃクセになりそうだな。
全てを出し終えたオレは彩から抜き取る。
すると彩はオレに倒れかかってきた。ん?失神したのか?
「なんでこんなとこで…ヒッ、拓にぃ以外に…グス、声聞かれちゃったよ。
…ヒック…もう外歩けないよ…グスッ」
あちゃ〜、いじめ過ぎたか。けど泣いてる彩もかわいくていいな。
「大丈夫だよ、安心しろ彩。このマンションは防音がしっかりしてるから声は漏れてないよ」
やさしく頬を撫でる。額にキスをしてからギュッと抱き締める。
「ゴメンな、一度こういうことしてみたかったんだよ。
けど彩もヒドイ事したんだからこれでおあいこだろ?」
オレの言葉に泣きやんだ彩。自分がヒドイ事をしたと自覚があったのかな?
しばらくして落ち着いたのか、彩がおねだりをしてきた。
「……ここじゃ寒いからベットに行きたい。…拓にぃおんぶで連れてって」
おんぶ?めずらしいな。いつもはお姫さま抱っこなのにな。
「ああ、分かった。おんぶだな?」
彩に背中を向けて屈み、乗るように促す。オレの首に両手を回す彩。
「拓にぃ……一度死んでこい!このヘンタイがぁ〜!」
ぐえぇぇ!は、謀ったな彩!彩の細い両手が首を締め上げる。
チョ、チョークスリーパーか!
「このヘンタイ!ヘンタイ!ヘンタイ!」
彩がヘンタイと連呼しながら首をグイグイと締め上げてくる。
目の前がぼやけてきて力が入らない。
意識が暗闇に落ちていくのが分かる。
(落ち込んで…おとなしい彩はイヤだが……もうちょっと…しおらしく…なって…く……れ……)
「ゴメンね、拓にぃ。…まだ怒ってる?」
俺の腕の中で謝る彩。
あの後オレは彩のスリーパーで絞め落とされて、気がついたらベットの中だった。
その時はどうしてやろうかと考えたけど、彩から仲直りのお風呂に入ろうと提案されたので許す
事にした。
「ん?べつに怒ってないよ、あれが彩だからな。…あれこそがオレが好きになった彩だからな」
ベットの中で抱きしめて囁く。
「ん、好きよ拓にぃ…」
オレの言葉に涙目になりながらキスをしてきた彩。
普段ならここでSEXへとなだれ込むところだが今日はもういい。
玄関・お風呂・ベットと3回もしたからな。これ以上はちょっとキツイ。
回数をしてみて分かったけど…池田ってスゲエな。アイツこれを毎日か…ちょっと尊敬した。
「彩、新田さんに引退の事話したんだろ?すんなり引退できそうか?」
そう、すんなり引退できるか、それが不安なんだ。
一時期よりは人気が落ちたといってもあのsaiだからな。
普通ならそう簡単に引退はさせてくれない。
もしかしたら引き止められたかもしれないな。
「新田さん?……ああ!そうだ!た、大変なのよ!拓にぃ大変なの!」
うがぁ!み、耳元で急に叫ぶな!こ、鼓膜が…
「ぶ、武道館なの!…神聖な武道館のリングなのよ!」
…なんだ?武道館がどうしたんだ?…なにか大きい大会あったっけ?
武道館武道館と慌てる彩。なにかのタイトル戦でも決まったのか?
「ア、アタシが武道館のリングに立っちゃうの!拓にぃどうしよ〜?…どうしたらいい?
神聖なリングに素人のアタシが立つなんて…そんなの出来ないよ」
慌ててる彩を落ち着かせて話を聞いてみたらこう言われた。…なんだとぉ!
「当たり前だろうが!素人が神聖なる戦いのリングに立とうなんて…絶対に許さん!
断って来い!」
まったく何考えてるんだ!リングはレスラーが命を掛けて戦う場所だ!
それを素人が立つなんて……あれ?
「そうだよね、アタシがリングに立とうなんてありえないよね。
…明日にでも新田さんに断りの電話入れるわ」
「なぁ彩、なんでお前がリングに立つなんて話しになったんだ?訳が分からんぞ?」
そうだよ、なんでいきなり武道館でリングに立つなんて話になったんだ?
確か今日は新田さんに引退の報告とライブのことを相談しに行ったんだよな?
「だって新田さんが3月に武道館押さえてるって言ったんだもん。
派手にライブしようって…ありえないでしょ?」
「……どこがありえないんだ?武道館でのライブだろ?
…彩、武道館ってのはな、ライブでも使うんだよ。
お前なに勘違いしてるんだ?」
なんだよ、よく話を聞いてみたら彩の勘違いかよ。
てっきり彩が女子プロデビューでもするのかと…ぶ、武道館ライブ?
「あ、そっか、そうだよね。アタシ、武道館って聞いたらプロレスしか頭に浮かばなくて…
勘違いしちゃった。そうだよ、ライブのことだよね。
ああ〜よかった、てっきりプロレスデビューしなきゃいけないのかと思っちゃったわ」
自分の勘違いに気づきホッとする彩。
え?ホッとできるの?あの武道館だぞ?
「お、おい彩、武道館でのライブはいいのか?あの武道館だぞ?」
動揺するオレ。歌を歌うものなら一度は夢見る武道館でのライブ。
それを駅前でしか歌ったことのない彩がいきなりするってのは…ちょっとキツクないか?
「え?アタシはべつにいいよ。だって一度きりのライブだからね!
最後だからたくさんの人に歌聞いてほしいし…」
凛々しい顔で語る彩。さっきまでプロレスデビューかと騒いでいたとは思えない。
「新田さんアタシが引退するって言ったら笑って許してくれたんだよ。
…新田さんのためにも絶対に成功させるわ!」
ああ…なんて綺麗な顔なんだ。これが…これこそがオレの好きな彩だよ、惚れ直したぞ。
「拓にぃ?なにジッと見てるの?…アタシ、顔に何かついてる?」
オレの視線に気づいて慌てて顔をさわる彩。
ははは、こういうかわいい彩も好きだぞ。
「彩、好きだぞ。愛してる」
抱きしめてキスをする。
…ヤバイ、頭の中で4ラウンド開始のゴングが鳴ってしまった。
「…ん、ちゅっ、アタシも好きよ…愛してる。
…んん!え?ま、まだするの?…あん!ちょっ、あ、ダメ…」
……結局その日は第五ラウンドで彩が失神、オレのKO勝ちだった。
ライブについてはほとんど新田さんが手配してくれる事になった。
まぁあの人はそういうことの専門だからな。
そこでオレは新田さんにちょっとしたことを頼む事にした。
プロレスではこれっていうものだ。
彩にとっては最初で最後のライブだから思い出に残るものにしてやりたい。
彩がプオタだと知っていた新田さんは、オレの提案に快くOKを出してくれた。
彩、驚くだろうな。
sai引退ライブは発表されると瞬く間に広まり、チケットはプラチナチケットになった。
彩はライブのリハーサルや歌の練習などで忙しく走り回っていた。
生き生きした表情の彩、惚れ直した。
そんな慌しい日々を過ごしていると、saiの最初で最後のライブの日はもうそこまで迫っていた。
そう、オレにとっても人生で一番緊張するであろう日が、すぐそこまで迫っていた。
|