「では…可愛い女子大生、森永ますみちゃんを在学中に孕ませた綾崎君の男気溢れる鬼畜さ
と、これから始まるであろう…いや、始まってほしい地獄の結婚生活に、カンパイ!」
池田の乾杯の音頭でグラスをあわせるオレ達、そして照れながら頭を下げる綾崎君。
いつまでたっても純な子だな。
オレと池田は綾崎君の結婚祝いの飲み会を開いてあげた。
もちろん男だけの集まりだ。
女子は女子で集まるみたいだし…男だけのほうが楽しい事もあるしな。
今日は綾崎君の独身最後の日。そうなんだ、二人は明日籍を入れるらしい。
前からますみちゃんが卒業したら籍を入れて夫婦になるって言ってたもんな。
ますみちゃんと彩、二人は無事にこの春に大学を卒業した。
大学生活ではかなりお腹が目立ってきたますみちゃんを彩がキチンとフォローしてたみたい
だ。
はた目から見たら彩がますみちゃんを妊娠させたんじゃないかってぐらいに世話してたらしい。
そのせいで二人はレズで、ますみちゃんは綾崎君とレズをカモフラージュするために付き合っ
ているって噂が広まったぐらいだ。
子供だけを作って綾崎君は捨てられたと噂されているらしい。
しかしそれはない!なぜなら彩には昨日の夜、卒業式での袴姿になってもらい…ぐふふ。
おっといかんいかん、思い出したら顔がにやけてきた。
まぁとにかく彩がレズじゃないってのは体で確かめているからな。
…袴は時々着てもらうとしよう。
「ついに綾崎も結婚か…予定では来月だっけ?
かなえが出産には立ち合いたいって言ってたぞ。
そういや男か女、もうどっちか分かってるのか?
名前は決めたのか?なんなら俺が名前をつけて…」
「直樹先輩、それはお断わりします。
性別はこの間調べてもらったんですが女の子らしいんですよ。
ますみさんと二人で話し合って名前はもう決めました。まだ秘密ですけどね」
ほぉ〜、女の子か。この二人の子供ならかなりカワイイ子になりそうだな。
「ま、これからが大変だろうけど頑張れよ、綾崎君。オレ達も協力するしな」
「静馬さん、ありがとうございます!
いつも彩さんにはお世話になってますし…これからもよろしくお願いします!」
オレに頭を下げる綾崎君。ホントに今時珍しい好青年だな。
「まっ今日は堅い話は無しだ!独身最後の祝いで2次会は美味しい店に連れてってやるぞ!
なぁ静馬!」
「おお、もちろんだとも!…なぁに金の心配はするな!オレ達が奢ってやるからな」
妖しい笑みを浮かべるオレと池田。それを見て焦る綾崎君。
「ど、どこに連れて行くつもりなんですか?…ふ、風俗ですね?
イヤです!ぜったいに行きませんから!」
大声で叫ぶ綾崎君。おいおい、そんな大声で叫ぶなよ。
まったくここが個室でよかったよ。
「はっはっは、お前が行きたくないとかは関係ないんだよ。なぁ静馬よ」
「おうとも池田よ。綾崎君、君がいることに意味があるんだ。君の意思は全く関係ない!」
逃げ場を探しキョロキョロしてる綾崎君。
はっはっは、出口はオレの後ろだから逃がさんよ!
「どこにする?オレ、久しぶりにセクキャバがいいんだがな。お前はどこがいい?」
鞄から風俗雑誌を取り出して池田に渡す。
「俺はイメクラがいいな。…でも綾崎はいつも母乳プレイしてるだろうから今日は辞めとくか。
よし!まずはセクキャバに行ってからヘルスに行くか!」
「おう、そうだな!セクキャバでたぎった欲望をヘルスで収めるとするか!」
オレ達の会話を青い顔して聞いている綾崎君。
はっはっは、いいかげんに覚悟を決めろよ。
「ふ〜ん、やっぱりそうなるんだ。…ほら見なさい彩、やっぱりあたしの言った通りでしょ?」
突然オレの後ろの扉が開き聞き覚えのある声がした。
……で、出口はどこだ!逃げ道はどこだ!
キョロキョロと見逃げ道を探すオレと池田。
「湧一さん…私、信じてたわ!やっぱり私の湧一さんね!」
こ、怖い…怖くて後ろを見れない。池田もうつむいている。
「……ナニ考えてるのよ……1回死んでくる?」
地獄の底から聞こえたような声の持ち主が後ろから手を伸ばし、
テーブルの上に置かれていた空ビール瓶を手に取る。
「…この浮気もんがぁぁぁ〜!…ゴスンッ!」
頭に走る衝撃!あ、彩…なにもビンで殴る事ないだろ?
倒れるオレ、そこにボディーへの追い討ちのキックが……ドスンッ!
ゆ、許して…も、もう蹴らないで…


「なぁ、もう怒らないでくれよ…オレが悪かったから。彩、もうしないから許してくれ!」
あの後、皆でますみちゃんと綾崎君をお祝いして解散となった。
池田はかなえちゃんに手を引かれて連れていかれ、
ますみちゃんと綾崎君は仲良く肩を抱き合い帰っていった。
で、今オレは家に帰ってきて彩に土下座している。
よっぽど怒っているのか目も合わせてくれない。
確かに風俗に行こうとしたがお祝いなんだからいいんじゃないかと思うんだがな。
「……アタシじゃダメなの?アタシじゃ満足出来ないの?
…ヒック、アタシの、グスッ、何がいけないの?」
えっ?…彩、泣いているのか?
「最近ライブの準備が忙しくて、そういう事あまり出来なかったから…
拓にぃ、アタシを嫌いになった?」
「ば、バカ言うなよ?オレがお前を嫌いになる事なんてないよ。オレにはお前だけだよ。
ゴメンな、綾崎君の独身最後の記念にって軽い気持ちだったんだよ…もう二度としないよ。
オレの女はお前だけだ、愛してるぞ…」
彩を後ろからギュッと抱き締める。
…オレはバカだ。なんでこんなにバカなんだ!
彩はオレだけを見てくれてる。なのにオレは…
「拓にぃ…ホントに?もうエッチな店に行こうとしない?」
俯きながら呟くように言う彩。
「ああ、約束する。オレはお前以外の女とはもう一生しないよ。約束だ」
オレの手にそっと手を重ねて「うれしい…」と呟く彩。
その仕草に思わず抱き締める力を強くする。
こんなオレをここまで愛してくれるなんて…彩、愛してるぞ!


(こんな拓にぃは初めてね。う〜ん凄い効き目…ますみの言う通りね)
ますみから教えてもらったウソ泣きの仕方をしてみたら…大成功!
ウソ泣きはちょっと卑怯な気もするけど…効果は絶大ね!
でもますみってやっぱり策士よね。
きっとあの手この手を使って綾崎を虜にしてるんだ。
…きっと妊娠もますみの策略ね。
でもそんなことしなくても綾崎はますみ一筋だと思うんだけど…
きっと不安なんだろうなぁ、アタシも不安だもん。
拓にぃがアタシを好きでいてくれるか…今でも時々不安になる。
あ〜あ、早く安心させてほしいなぁ…
「彩…ため息ばかりつかせてゴメンな。…オレ、情けない男だよな。
好きな女を悲しませてばかりで…オレ、最低だよな」
えっ?アタシため息なんてしたんだ。
アタシのため息を聞いた拓にぃが凹んでしまった。
「そ、そんな事ないよ!拓にぃがいてくれたから…
拓にぃがそばにいてくれるからアタシ頑張れるんだよ。
…頑張ってこれたんだよ」
アタシの言葉に強く抱き締めてくれる拓にぃ。
ちょっと痛いけど…うれしいな。
「拓にぃ…ヒドイ事してゴメンね?だから…仲直りのお風呂に入ろうよ」
アタシの提案に息荒く、アタシの胸を揉みながら同意する拓にぃ。
…さっきまでのはなんだったの?


ますみ達の結婚祝いの飲み会から3日が過ぎ、先輩の一声で女3人で集合することになった。
渡したい物あるからちょうどよかったわ。けど先輩なんの用なのかな?
「先輩、ますみ、はいチケット。
自分で言うのもなんだけど、プラチナチケットだからなくさないでね」
二人にアタシの…sai最後のライブチケットを渡す。
…あれ?先輩珍しく元気ないなぁ。どうしたんだろ?
(ねぇますみ、なんで先輩元気ないの?まるで凹んでるみたいね。なんか知ってる?)
先輩に聞こえないように小声で話す。
(それがね、子供ができたんだって)
ふ〜ん、子供ができたのかぁ。
それで凹んで…ええ!先輩妊娠したの?
「先輩おめでとうございます!妊娠したんですね!黙ってるなんて水臭いですよ〜」
「ちょっ、彩!人の話は最後まで聞きなさい!」
アタシが先輩にお祝いの言葉をかけたらますみに止められた。なんで?
あれ?辺りが急に寒くなったような気がする。……な、何で先輩から殺気が?
殺気に気付いたますみが震えだした。
気が付いたらアタシは鳥肌がたっていた。
「フ、フフフフ…彩、有難うね。そうなのよ、直樹に兄弟が出来るのよ。
お義母さまが妊娠したんだって…フフフフ…」
な、なに?なんなの?お義母さま?いったいなんなの?
(彩、実はね…池田さんのお父さまが恋人を妊娠させたのよ。
それで先輩と池田さん、ショックを受けてるの)
えええ〜!池田さんのお父さんって池田館長でしょ?
60近い歳じゃなかったっけ?そ、それはショックよね。
あれ?確か恋人って……ま、まさか!
「お義母さまにも…いづみにもお祝い言ってあげてね。…フフフフ」
やっぱり佐藤いづみなのね。
ますみの天敵の女で今は池田館長と付き合って…お義母さま?
「驚いたでしょ?あたしと直樹も昨日の夜に聞かされたのよ。
後輩がお義母さまになるって…しかも先に妊娠されたなんて……ウフフフフ」
なんか物凄く複雑な家族構成ね。
…失敗したなぁ、アタシ触れてはいけないものに触れたのね。
「彩、チケットありがとうね、楽しみにしてるわ。さ、貰うもの貰ったし二人とも行くわよ。
今夜は付き合いなさいよ、たまには飲まないとね」
うわぁ…やけ酒につき合わされるのやだなぁ。
でもますみがいるから大丈夫かな?
「先輩すみません。私このお腹だから…今日は遠慮しますね」
お腹を撫でながら断るますみ。そうよね、妊婦だもんね、当たり前よね。
「先輩、アタシはライブが4日後にあるんで…」
「じゃあ前祝いしなくちゃね。ますみは残念だけど仕方ないわね。彩、今日は朝までいくわよ!」
はぁ〜問答無用なんだ。拓にぃに電話しないと…ええ!朝まで飲むの?
先輩命令に逆らえず凹んでるアタシにますみが小声で話し掛けてきた。
(彩、ビールをストローで飲まされたら酔いが回るの早いから気を付けなさいよ)
………アタシどうなるんだろ?家に帰れるのかな?


「…ええ、やるなら最初ですね。saiの名前をコールして彩がステージに立った時にやりたいんで
す。出来そうですかね?」
今日彩はかなえちゃんに呼び出されての飲み会らしい。
オレも池田から聞いたけど…スゲエな館長!感動した。
『う〜ん、出来ることは出来るけど…前の方の席しかステージに届かないよ?
…まぁ一人三つぐらい投げてもらえば数はいけるかな?色は赤でいいんだよね?』
で、今オレは電話で新田さんとsaiのライブ演出について話している。
「ええ、赤でお願いします、彩もビックリすると思いますよ。新田さん有難うございます!」
新田さんが話の分かる人でよかった。
普通なら部外者のオレの意見なんて聞いてくれないからな。
『ははは、そんな照れること言わないでよ。お礼はそうだね…君たちの結婚式に招待してよ』
「当たり前ですよ。祝儀、はずんでもらいますからね?覚悟してて下さいよ」
『うわ〜、僕、薄給なのにこりゃ大変だ!…てことは近々結婚申し込むの?』
しまった!誘導尋問か?…見事にやられたな。
「彩には黙ってて下さいよ?長いこと待たせたんだからビシッと決めたいんですよ」
『どう決めるの?ちょっと教えてよ?…じゃないと口が滑るかもね?』
前言撤回、この人面白い事が好きなだけだ。
「絶対に言わないで下さいよ?ライブの後に言うつもりなんですけど…
『これからの人生、オレと同じコーナーに立ってくれ。
一緒にベストタッグを目指そうじゃないか。彩、この調印書にサインしてくれ』
と言って婚姻届を渡すつもりなんですよ。どうです?完璧でしょ?」
ふっふっふ、どうだこの完璧なプロポーズの言葉!どんな女もイチコロだろ?
『…静馬君。君、頭イッてるね〜。そんなこと言ったらフラレるよ〜。
君に彩ちゃんを任せるの不安になってきたよ』
「そ、そんな馬鹿な?三ヶ月もかけて考えたんですよ?」
ウソだろ?これのどこがダメなんだ?三ヶ月も考え抜いたんだぞ?
『まぁ君達がプロレス好きなのは知ってるけど、それとは離して考えた方がいいよ。
じゃ、頑張ってね』
電話を切られた。マ、マジかよ?もうライブまで4日だぞ?どうする?先にのばすか?
…いや、今までずっと待たせたんだ、それは出来ない。
それに彩が大学を卒業したら結婚を申し込む、ずっと前から決めていたことじゃないか。
そうだ、一度かなえちゃんにも聞いてもらおう。
そうだよな、きっと新田さんがズレてるだけだよな。

次の日、二日酔いのかなえちゃんに聞いてもらったら容赦のないダメだしをされた。
ど、どうしよう?


「…でね、この間の飲み会で先輩ってばストローで無理やり飲ませるんだよ?
…死ぬかと思ったわ」
ライブ前日の夜、彩との取りとめもない会話を楽しむ。
「オレはストローで中ジョッキ3杯連続で飲んだぞ?
まぁ確かに酔いが回るのが早かったけどな」
「さ、3杯も飲んだの?凄い!拓にぃ凄いよ!…そうだ、凄いと言えば池田館長だよ!
あの人なに考えてんの?あの年で子供作るって…とんでもない親父よね〜」
今日の彩はよく喋るな。…ライブ前だからテンション上がってるのか?
「しかも結婚するんだよ?自分の子供より年下と!…ホント、ビックリするよね〜」
「彩、もう寝ようか。夜更かししたら明日に響くぞ」
いつの間にか時計の針は1時を過ぎていた。さすがにもう寝ないとな。
「え?…そっか、そうだよね。ライブ、今日だもんね。身体休めないとね」
そう言ってため息をつく彩。
表情が暗い、なぜか沈んでるように見える。
「彩…不安なのか?…大丈夫だ、お前なら出来るよ。オレが保障する、絶対に成功する!」
オレの言葉に抱きついてきた彩。
「…大丈夫かな?みんな楽しんでくれるかな?…ブーイングされたりしたらどうしよう…」
「彩…ブーイングなんてしたい奴にはやらしておけばいいさ。
お前は自分自身を貫き通したらいい。他人の目なんて気にするな!
それにな、武道館でのブーイング…悪役レスラーみたいでカッコいいじゃないか!」
「……ぷっ、そうだね、ブーイングされたらポーズでも決めるよ」
そう言って蝶野正洋ばりのポーズを決める彩。なんか似合ってるな。
「…アリガト。おかげで何とかなりそうな気がしてきたよ。じゃ、寝ようよ拓にぃ!」
そう言ってベットに座っているオレを押し倒してきた。
「うを!彩、お前なに…むぐ!」
オレを押し倒した彩はキスで口を塞いで舌を入れてきた。せ、積極的だな。
「ん、んん!んちゅ…ちゅる、ちゅ…ん、ちゅっ……ん、えへへ。
エネルギー補充完了!拓にぃおやすみ!」
そう言ってベットに潜り込む彩。
彩…お前のせいで火のついたオレのこの煮えたぎる欲望はどうしてくれるんだ?
…さすがに今日するのは無理だよなぁ…はぁ、オレも寝よ。

「チケット買うよ〜。兄さん余ってない?あったら買うよ〜」
ダフ屋ってのはどこにでもいるんだな。ちょっと感動した。
ついに彩のライブ…sai最初で最後のライブの日を迎えた。
彩を除いたオレ達全員が一緒に武道館に来ている。
九段下の駅を降りた瞬間から凄い人だ。これは超満員になりそうだな。
こんな中で彩、大丈夫か?
「ますみ、あなたやっぱり止めたほうがいいんじゃないの?お腹に悪いと思うわよ?」
かなえちゃんがますみちゃんを気遣う。
そうだよな、臨月を迎えようとしてる妊婦なんだからな。
お腹に悪いからと彩も止めたんだけど絶対に行くって聞かなかったんだ。
「いくら先輩の言うことでもイヤです!この子にも彩の歌声を聞かせたいんです。
きっと元気な子になってくれると思いますからね」
お腹を撫でるますみちゃん。
元気な子にはなるだろうけど…彩そっくりになったら大変だよ?
「で、どうするんだ?楽屋に励ましにでも行くのか?お前なら楽屋まで通れるんだろ?」
搾りかすみたいな池田が聞いてきた。おいおい、お前大丈夫か?
なんでも昨日の夜、ライブ前日でテンションの上がったかなえちゃんに捕食されたらしい。
弱肉強食ってすげえな!…自然の摂理に感動した!
「いや、彩はライブに集中したいから来ないでほしいんだと。
それよりさっき話したことしっかり頼むな?」
「静馬先輩、それって席に置いてあるんですよね?」
「ああそうだよ。saiのコールで彩がステージに立つからそのときに頼むよ。
説明文も一緒に置いてる筈だから」
上手くいくだろうか?一応新田さんがネットでも情報を流してくれてたけど…上手くいってくれ!
神に祈るオレ。ライブに来る皆さん協力してくれ!


「武道館に入るのって初めてです!すごく広いんですね!」
「ははは、今度一緒に武道館でのプロレスでも見に行くかい?
ますみちゃんも一緒に行こうよ、彩も喜ぶよ」
初めて武道館に入った綾崎君が目を輝かせて喜んでいる。
今度プロレスを見に連れてきてやろう。
で、彩とオレとで徐々に洗脳してプオタにしてやる!
手始めにオレ編集の小橋建太ベストバウト集を見せてやろう。
全日時代からノア絶対王者時代まで揃ってるからな。
で、次は初代タイガーマスクのビデオを見せれば完璧だろ?逃がさないぞ〜、綾崎君!
オレの企みを察知したのか、ますみちゃんが綾崎君にストップをかける。
「ダメよ湧一さん、静馬さん達と来たらプロレスオタクに洗脳されちゃうわよ?
彩と出会った頃に彩からプロレスについて熱く語られて、もの凄く大変だったのよ」
昔を思い出したのか、ため息をつくますみちゃん。
…さすがだな、オレ達の行動を読んでやがる。
「で、ライブってお酒の売り子とかいつ来るんだ?」
池田はライブを野球と同じように考えてるな?
「あなた…あまり恥ずかしい事言わないの!黙って歌を聞いてなさい!」
かなえちゃんに怒られ、背筋を伸ばして座る池田。う〜ん、尻に敷かれてるな。
「あ、そろそろ始まるみたいね。…緊張してきたわ。彩、大丈夫かしら…」
照明が落ち、場内が暗くなる。
バンドのメンバーがそれぞれの配置に付いた。
オレ達の席はアリーナ最前列。だから暗くてもステージ上の動きが見える。
彩はまだステージに立っていない。
……いよいよだ。ついに彩の…sai最初で最後のライブが始まるんだ!


『皆さん、本日はアタシ…saiのラストライブに来てくれて本当にありがとう。
…saiは今日をもって歌うのを辞めます。
今まで応援してくれた皆には感謝の気持ちで一杯です。
せめてもの恩返しのつもりで、今日は…燃え尽きるまで歌います!
みんな!アタシのライブ、楽しんでね!』

前もって録音しておいたテープが流れた。いよいよだ、ついに最初で最後のライブだ…
今、ステージではバンドメンバーの紹介が始まっている。
普通はメンバー紹介の前に何曲か歌うんだけどね。
だけどアタシが皆に挨拶をしてから歌いたいって我が侭言ったの。
最後だからね、キチンと挨拶してから歌いたいの。
『最後はボーカル!…皆のカリスマ!皆の気持ちを歌い続けた伝説のアーティスト…sai!』
(……よし!行くわよ!)
頬を両手で叩いて気合を入れてステージに飛び出したその瞬間、
客席からステージに赤い架け橋が架かったの。
…ううん、違うわ。これは……赤い紙テープ?
皆が私の為に…応援するために投げてくれたの?
……こんなに綺麗なんだ。アタシはいつもリングに向かって投げてばかり。
投げてもらうのってこんなに嬉しいんだ。
……皆と赤い橋でつながった様な気がするわ。
「みんな…ありがとう!そして始めまして!アタシがsaiです!
我が侭言って引退するアタシにこんな嬉しい事…みんな、アリガト〜!」
頭を下げて周りを見渡す。…武道館が一杯だ。
みんなアタシに会いに来てくれたんだ!
アタシなんかの為に…みんな、本当にありがとう!


「おお〜、綺麗なもんだな。静馬、大成功じゃないか!」
よかった!みんな協力してくれた!…彩も嬉しそうだし…大成功だな!
「静馬先輩、どこでこんなアイディア思いついたんです?凄くいいじゃないですか!」
かなえちゃんに褒められた。なんかうれしいぞ。
「かなえ、調子に乗るからあんまり褒めるな。
紙テープを投げるなんて…どうせプロレスからのパクリだろ?
…まぁそれがお前等らしくていいけどな」
「二人とも黙って!彩がなにか喋るわ、邪魔するなら出て行ってください!」
……ますみちゃん、ちょっと怖いよ?かなえちゃんもビックリしてるぞ。
…後でどうなっても知らないからな。
周りを見渡していた彩が口を開く。
その様子を見ていた観客達は口を閉じ彩の言葉に集中する。


『…アタシ、引退を決めてからロックってなんなのかってずっと考えてたの。
ロック歌手として歌ってきたけど、ロックってなんなのか考えた事なかったんだ…
だから考えてみたの。アタシのロックってなんだろうってね。
なかなか答えは見つからなくて…でもね、昨日ある人にこう言われたの。
『自分自身を貫いたらいい』って。それを聞いて分かったの。
アタシのロックとは…自分自身の考えを貫くこと。
そう、例えどんな事でもいいの。
家族の為に一生懸命に頑張って働く事…それもロックだと思うの。
夢に向かって頑張るのも、好きな人の為に頑張って料理したりするのも、
自分自身の考えなら…それはロックだと思う。
人に流されたりしないで自分の考えでしっかり歩いていけたら…それこそがロックだと思うの!
そんな考えはロックと違う!って人はもちろんいると思う。
でも100人いたら100通りのロックがあると思うの!
…アタシはこれからもアタシのロックを続けていくつもり。
皆も自分自身のロックを見つけて下さい。
…長々と話してゴメンね?…みんな今日はおもいっきり楽しんでいってね!』


彩の話が終わり、デビュー曲の前奏部分が流れ出す。ああ、そうだ。この曲だ。
この曲を一緒にあーだこーだ言いながらオレのマンションで作ったんだ。
そんなことを考えていたら彩と出会ってからの事が頭に浮かんできた。
隣に引っ越してきた引っ込み思案のかわいい女の子。
おばさんに頼まれて嫌々遊び相手になったのが始まりだったな。
そのうちオレと同じくプロレス好きになって活発な子になっていったんだった。
オレが就職する時は泣きじゃくってなかなか離してくれなかったよな。
彩が高校に行くようになったらオレの部屋に遊びに来るようになって…
ははは、おかげで何度引っ越ししたか。
大学生になったらよく泊まっていくようになったんだよな。
saiとしてデビューしたのもこの頃だったな。
そして今はその大学も卒業して…saiも卒業しようとしている。
オレは目の前で熱唱している彩の歌声を聞きながら腹を決めた。
彩が話していたロック…自分自身の考えを貫くこと…オレのロックは彩への気持ちだ。
この気持ちを貫こう、一生ロックで生きていこう!
彩、愛してるぞ!


ライブは3度のアンコールもあり、大盛況で幕を下ろしたわ。
ライブの後、武道館に来てくれた皆は口々に「俺もロックするぞ!」と盛り上がってたみたい。
アタシの言葉が他人の生き方にまで影響するなんて…
ちょっと責任感じちゃうけど、うれしいな。
で、今はライブ後の打ち上げも終わって拓にぃと家に帰り着いたところ。
もう夜中2時を回ってるのね。
「はぁぁ〜、つっかれたぁ!」
ソファーに倒れこんで伸びをするアタシ。ホントに疲れたわ。
「お疲れさん、マッサージでもしましょうか?」
そう言って手をわきわきさせてる拓にぃ。…このヘンタイ!
「彩、ライブ凄かったな。かなえちゃんとますみちゃん、二人とも泣いてたぞ」
「ん〜?二人だけ?おっかしいな〜?
ますみからは号泣していたのが1人いたって聞いてるんだけどな〜?」
「…すみません、私も泣いてしまいました。感動いたしました」
そう言って頭を下げる拓にぃ。うん、正直で大変よろしい。
「じゃ、泣き虫君はアタシの肩でも揉んでくれる?…もちろんエッチな事は無しよ」
素直に従う拓にぃ。あれ?珍しい、いつもなら絶対に何かしてくるのに…
なんかあったのかな?…ま、いっか。
優しく肩を揉んでくれる拓にぃ。あぁ〜、気持ちいいわ。
ライブを乗り切った達成感と肩もみの気持ちよさで気が緩み、
思わずこれからの不安を口に出してしまう。
「あ〜あ、これでsaiも卒業かぁ…大学も卒業したし、することなくなっちゃったな。
これからなにしようかな…」
ため息が出るアタシ。だってなんにも決まってないからね。
「おいおい、なに言ってんだよ。まだ卒業しなきゃならないのあるだろうが。
ほらっ、卒業証書に記念品」
封筒と何かが入った小さいケースを渡してきた拓にぃ。
「は?拓にぃ何これ?」
「なにこれって…国生彩の卒業証書と記念品の指輪だよ。もちろん給料三ヶ月分だ」
え?まさか…震える手で渡された封筒を開けてみる。
中には婚姻届が入っていた。拓にぃの名前は記入済みだ。
「彩、国生彩を卒業して静馬彩になってくれないか?愛してる。結婚してくれ、彩」
夢…じゃないよね?これホントだよね?
ケースを開けてみるとそこにはダイヤの指輪が入っていた。
「た、たく…ひっく、拓にぃ!愛してる!愛してる愛してる愛してる!
…うれしいよぉ〜、やっと拓にぃと…ぐすっ」
拓にぃに抱きついて泣きじゃくるアタシ。
夢なんてオチだったら許さないんだから!


次の日の朝、いつもの目覚ましで目が覚めた。
ふと横を見ると隣に寝てた彩と目が合った。
「お、おはよう拓にぃ…」
ん?顔が赤いな、どうしたんだ?
「あ、朝ごはん作るね?ちょっと待っててね」
そう言ってあわててベットから起きて台所へと向かう彩。なんだ?よく分からんな。
ふと枕元に置かれた封筒が目に入ったので中を覗いてみた。
そこにはオレと…彩の名前が書かれた婚姻届が入っていた。
(そうか、これに名前を記入したから照れてたんだな。まったくカワイイ奴め)
納得したオレは顔を洗いに洗面所へと向かう。
鏡を見るとそこには顔から首にかけてキスマークだらけのオレが映っていた。
「…あやぁぁぁ〜!オレが寝てる間にお前なにしてんだ!仕事に行けないだろうがぁぁぁ!!」
オレのあまりの剣幕に驚き、逃げ惑う彩。
「ご、ゴメンってば、そんなに怒こらないでよ。
…我慢できなかったんだからしょうがないじゃないの」
こ、この…チクショウ、カワイイじゃないか!
「ダメだ、許さん!…お返しで俺もつけてやる!」
「ええ?ちょっ、ダメだって!拓にぃ仕事が…あん、だ、ダメ…んん!」
押し倒すオレにイヤだといいながらも抵抗をしない彩。
「彩、今日は仕事休むよ。一緒に市役所に行こうな」
耳元で囁くオレ。真っ赤な顔で頷く彩。
「……うん。でも拓にぃ、その顔じゃ無理だとおもうけど…」
「あ、そうだよな。誰かさんが付けたキスマークが消えるまでは外に出れないよな」
そう言いながら彩の首筋にキスマークをつける。
「…もう!アタシまで外に出れなくなるじゃないの!」
嬉しそうに言いながらほほ笑む彩。
「彩…愛してる。オレにとってのロックはお前だよ。お前と一緒に幸せになる事だ」
「あら、アタシと同じじゃないの。…幸せにしてよね。好きよ、愛してるわ」


今、オレの腕に抱かれている女性、国生彩はプロレスオタクであり、元ロックシンガーのsaiでもあ
る。

そしてオレの最愛の妻になる女性…『彼女は静馬彩』になるんだ。どうだい、最高だろう?


彼女は○○○2nd 終






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